第14話:ハンディキャップ
休みも終わり、月曜日の朝がやって来ました。
コーンフレークに牛乳をかけて、パクパク!
いや〜な満員電車に揺られて、コツコツ歩いて、工場にたどり着き、
ロッカーに行くと、イタ〜 山口さん!
「おはようございます。」
『おはようございます。疲れは取れた?』
「はい、何とか。」
『そう、中根君だっけ? あの子、仕事速いわよ!負けないように頑張りなさい!』
「はい、頑張ります。」
(も〜。何で、私と比べるかな〜。)
朝会が終わり、今日は違うことをやるようで、係長に北村さんに付くように言われた。
「おはようございます。よろしくお願いします。」
『・・・・・』
あ〜「おはようございます」を2度言ったから、いけないのかな〜?
『・・・・・』
あれ? そうじゃないみたい。
北村さんは、手を色々動かしている。
もしかして、手話?
そう、北村さんは、しゃべれませんでした。
「ごめんなさい。私、手話わからないの。」
北村さんは、笑顔で、そんなのいいの!いいの! という感じで手を振った。
北村さんは、50歳くらいで、中肉中背の綺麗な人です。
笑顔から察するに、優しそうな感じのいい人です。
その北村さんに仕事を教えてもらって、何とか出来る様になりました。
もしかして、話の出来る人に教えてもらうよりも、良く分かったかもしれません。
「人にとって、言葉が悲しいほど重要なものでない。」ことが、分かった気がします。
2人で、1時間くらいやっていたら、山口さんが現れました。
まるで暗い雲が、空を覆った様に、重たい雰囲気に包まれました。
山口さんは、怖い顔で声に出しながら、北村さんに手話で話し始めました。
『あなた、今日は、その品物じゃないでしょ! この品番でしょ!
昨日言われたでしょ! しっかりしなさいよ!』
北村さんは、「そんなこと、聞いてない。」という感じで、返していました。
『そうやって、あんたは、いつも知らない振りするんだから。
ちゃんとやりなさいよね!』 そう言うと、山口さんは、「ぷいっ」と、行ってしまった。
北村さんも不満げな顔をしていましたが、私を見ると笑顔を返してくれました。
北村さんの手振りを見ると、
(彼女は、いつもあんなだから、頭に来ちゃう。でも、気にしないの。)と、
言っているように思えました。
なんか凄いものを見たような感じを受けました。
小さな頃から、障害の人が居たら親切にしなければいけないと、
教わってきたような私は、山口さんの言動にショックを受けました。
でも、山口さんのように、北村さんを特別視しない方が正しい気もするし、
20年以上も一緒に働いて来たのだと聞くと、それが当たり前の事なのだと、
納得することにしました。
(キンコン、カンコーン♪)
そうこうしていると、昼休みのチャイムが鳴りました。
私は中根君と食堂に歩き出しました。
食堂に着くと、今日も池田君は、居ませんでした。
「池田君、まだ治らないの?」
私は、池田君と仲良しの小林君に聞いてみました。
『あ〜、あいつ、辞めるみたいだよ。』
「エー! うっそー!」
(もしかして、私が、あんな事言ったから?)
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)