第11話:帰り道
「ちょっと、離してよ! 痛いよ!」
50メートルくらい引っ張られただろうか・・・。
『ここなんだけど、ビーフシチュー凄く旨いんだ!』
「私、帰る。さよなら。」
『なんで? 食べて行こうよ、俺おごるからさー。』
「私、相手の気持ち考えないで、自分のしたいようにする人は嫌なの。」
『それは、青山の方じゃないのか?』
「どうして?」
『面接の時、俺が割って入って、助かったんじゃないの?
そのあとだって、40分も待たせたから、
みんな帰るっていうのを、なだめて、引き止めてたし。。。
カラオケだって、俺がかまってやんなかったら、
女一人だったし、黙り込んでつまんなかったんじゃないの?』
「なによ・・・大きなお世話よ! 私のこと好きでもないのに、ほっといてよ!」
『俺、お前のこと好きだよ。初めて見たときから。』
「なに言ってるの? 適当なこと言わないでよ!
あなたが好きなのは、歌手の早園麻紀でしょ。私が、ちょっと似てるからって、迷惑よ!
それに、私のこと本当に好きになってくれる人なんかいないわよ。」
『待てよ! なんだよそれ、どういう意味だよ・・・。』
私は、小走りで改札へ向かった。
止まっていた電車に乗り込むと、ドアのすぐ脇の席が空いていたので、
腰掛けると目を閉じて、さっきの事を思い出していました。
「どーして私って、あんな事を言ちゃうんだろう?
きっと、2人だけになるのが怖いんだろうな。
『みんなで・・・』が、口癖になってる私。
こんなこと、いつまで続くんだろう・・・。」
『よっ! 青山さん! 何悩んでんだよ。』
横を見ると、中根君が、座っていました。
「あっ、中根君! どうして居るの?」
『どうしてって、青山さんが隣に座ってきたんじゃないの。』
「そっか! ・・・丸山さんと一緒じゃないんだ。」
『奴は、バンドの仲間が車で迎えに来てたから、多分練習だな。』
「そーなんだ。青春してるんだね。」
『青山さんって、彼氏とかいるんだろ?』
「何よ、突然! そんなのいないわよ。」
『うそっ! どーして? 理想高けーんだろう。』
「そんなことない、本当に好きになってくれる人がいないだけ。」
『えっ? おかしいなー? 体に欠陥でもあるんじゃないの?』
私の表情を見て・・・
『あー、冗談、冗談!』
(このー! 冗談になってないんだよー!!)
彼は、先に電車から降りて行きました。
なんか、勘付いちゃったかな〜?
変な噂が立たないといいんだけど・・・
私は、いやおうなしに、彼を気にするようになってしまいました。