第1話:乳がんの残した傷跡
「うっ! まぶしい。もう朝か。今日はどうしよう?」
大学を卒業して、やっと入った有名会社を辞めて、早、1ヶ月。
「今日は日曜日・・・そうだ!」
ベットから飛び起き、集合ポスト目指して、まっしぐら。
そう、ここは、2階建てアパートの203号室。
私、青山遥は24歳独身、彼氏なし1人暮らし。
玄関のドアを開けて、ダダダーッ!
階段を下りかけ、見えた!集合ポスト。
「おっと! あぶないっ!」
階段を危うく踏み外しそうになっちゃった。
思わず手摺に掴まり中腰状態。
すると突然、後ろから男の声が。
『おはようございます。大丈夫ですか?』
うっ、そのアナウンサーのような声の響きは?
201号室のスーツ姿のニヒルなサラリーマン。
まずい!
私は、パジャマ姿、それも寝起きのままのスッピンで、髪はボサボサ。
むっむっ、胸に視線を感じる。
あっ、ボタンが・・・上から2個外れている!
一番上は、いつもしてないけど、二番目が外れていたとは・・・。
中腰状態の私に、201号室サラリーマンの目は横斜め上にあった。
もち、ノーブラ。
見られたか!?
「おはようございます。はい、大丈夫です。いってらしゃい~。」
と、平静を装い普通にご挨拶。
このくらいの胸の開き具合であの角度からなら、見えるはずは・・・。
いやいや、あのニヤケ顔は・・・?
あーもう、起きた事は仕方ない。
実は私、胸に問題があります。
「こうしている場合じゃなかったー!」
私は、新聞を取ると、ルパンのような素早さで、ベッドへカムバック。
目標発見! 求人の折り込み広告!
仕事しなくちゃと思って、何度か職安へも行ってみたけれど、退職する理由となった出来事のショックから未だに癒されていないのと、何がしたいのか自分でも良く分からないのとで、求人情報のウインドウショッピング状態。
ただ、今日はなんとなく気分が違っていた。
昨日、退職した会社の同期だったさゆりから、電話があったのだ。
「噂を信じて、ひどい事を言ってごめんなさい。」と。
だから、今朝は求人折り込みを広げて、仕事を探す気分になっていた。
「うーん、なんかいいの無いなー。」
貯金も減ってきたし、とりあえず収入を得ねば!
うむっ!?
「派遣、工場内軽作業。8時~17時。月収25万円以上。土日休み。残業休出有り。」
う~ん・・・気分を変えて、少し身体でも動かして、働いてみっか!
あっ? もしかして男だけかな?
まっ、それなら、それで、とりあえず、電話、電話。
あっ! 「受付は月曜9時から。担当、森川 柳田」
まだ、日曜日でした。
とりあえず顔でも洗おうっと・・・。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)