『3(全6話)』
「もう……お願いだから早く寝てよ」
サンタさんが思わずといった風に弱音を吐いた。すっかりしょげかえってしまって床に座り込んでいる。
いろいろやった。ただベッドにもぐっただけじゃ全然眠くならなかったから、サンタさんに子守歌を歌ってもらったり、それも無理っぽかったから、勉強してたら眠くなるんじゃないかってことで学校の教科書を読んだりもした。最後にはサンタさんが五円玉と糸を取り出して催眠術の真似までやってみたけど、全部効果がなかった。
「急に寝てって言われても無理だよ」
「そんなぁ」
がっくりと肩を落とすサンタさん。さっきすごい魔法を見せてもらってサンタさんはすごいんだって思ってたのに、こんなの見せられたら、なんか情けないなぁ、って思う。
「あれ? サンタさんは魔法が使えるんだよね。だったら、魔法を使ってぼくを眠らせればいいんじゃない?」
「それができればはじめからやってるわよ」どうやら、サンタさんの魔法も何でもありじゃないみたいだ。「ああもうどうしよう……そうだっ!」
急にサンタさんが立ち上がった。
「そうよ、やっぱり何もしないで無理やり眠らせようとしたのが悪かったんだ。やっぱり、しっかり運動して、いっぱい遊んで……そしたらすぐに眠れるに決まってる」
え? 運動? 確かに運動すれば疲れると思うし、疲れれば眠くなると思うけど……。
「でもこの部屋、運動なんてできるほど広くないよ」
ぼくのもっともな質問にもサンタさんは動じない。
「じゃあ、もっともっと広い所で体を動かせばいい話でしょ。うんとう~んと、広い場所だったら、いくらでも体を動かせるでしょ」
そりゃあそうだけど、そんなこと言われたってそんな所ぼくには思いつかない。
「うんとう~んと広い所って、どこかに出かけるの?」
「出かけるって言えば出かけるんだけど。つまりね」
サンタさんは自信満々にそう言って、今まで閉めたままだった窓を開けて言ったんだ。
「今から、夜空のフライトを楽しみましょう」