『2(全6話)』
「あ、自己紹介がまだだったね。実はね、私は……」
「サンタさん」
「まぁ、そうなんだけど」
なんてやり取りが終わって、サンタさんはぼくの部屋にいる。
サンタさんが入ってくるまで開けっぱなしだった窓は、そのサンタさんが「なんで窓なんかあけてるの? 寒いじゃない」って言ってすぐに閉めちゃった。風が止んだ。
「で、まぁ、私はサンタで、世界中の子供たちにプレゼントを配ってるってわけなのよ」
「嘘つき。一人で世界中の子どもにプレゼントを配るなんて、できるわけないじゃん」
すぐにぼくが言い返すと、サンタさんはむっとした顔になった。
「最近の子供はませてるなぁ、夢がないぞ。わかった、わかったわよ。本当は、世界中にサンタはいるの。私が任されてるのは、日本のこの町だけ」
「え? サンタさんってたくさんいるの?」
「一人で世界中の子供にプレゼントを配るのは無理って言ったのはキミの方なんだけど」
「でも……へぇ、うわぁ、初めて知った」
ぼくは本当に驚いた。ってことは、サンタさんってどれくらいいるんだろう。何百人じゃないよね。えっと、世界中の町に一人ずついるんだったら……やっぱりわかんない。けど、わかんないほどたくさんいるのは本当だ。
「あれ? サンタさんは、本当にサンタさんなんだよね?」
「なによ。いきなり」
「でもサンタさん、サンタさんは、トナカイもそりも、それにプレゼントの入った袋も持ってないよ」
それがぼくは不思議だった。目の前のサンタさんは、本当にサンタさんだけなんだ。それに、そもそもどうやってここに来たんだろう。ぼくの部屋は二階だ。まさか、忍者みたいに屋根をつたってきたんだろうか。それだったらちょっとカッコイイ。
でも、目の前のサンタさんはもっとカッコイイことを口にした。
「そんなことはみんな心配いらないの。私たちサンタはね、クリスマスイブからクリスマスの日にかけて、魔法が使えるようになるの」
「え? 魔法って……?」ぼくが次に「うっそだぁ」って言う前に、サンタさんは真っ赤な手袋をつけた右手を、手のひらを上にしてぼくの方に差し出して「よーく見ててね」って言った。
すると突然、その手のひらの上にぽわん、と野球ボールくらいの光の玉ができた。ぼくが目を丸くしてそれを見ていると、サンタさんは何もしていないのにその光の玉はふわふわと上がっていって、ちょうど天井に当たるか当たらないかのところで、急にぴかって強く光って、そして消えたんだ。
「どう? すごいでしょ?」
してやったり、みたいな顔をしてサンタさんが笑う。ぼくはただただ目を丸くして驚くばかりだ。
「すごいすごい。ね、もっとやってよ」
「だーめ。魔法は、あまり無駄遣いしちゃいけないって決まりがあるの」
「ふーん」
「とにかく、私たちサンタは魔法が使えるの。家をまわるのだって、地面を歩いていたら見つかっちゃうじゃない。だから当然、空を飛んできたのよ」
「空を飛べるの?」
「そ。だから、トナカイもそりもいらないのよ。だって自分で飛べるんだから」
ますますすごい。ホント、サンタさんって何でもありだ。
「あ、だから袋もいらないんだね。魔法でプレゼントを出しちゃうから」そこでぼくはピンとひらめいて言ってみた。だって、ほら、そういうことなら話がつながるじゃない。
ところが、サンタさんは急に困ったような顔になった。
「え? もしかして、間違ってる?」ぼくは急に不安になって訊いてみた。
「いや、まぁ、間違ってはいないわよ。私たちサンタは、確かに魔法でプレゼントを子供たちに渡すの。だから、袋も持ってない。そう、そうなんだけど……」
そこまで言って、急にサンタさんはぼくの方をキッと睨んでいきなり言ったんだ。
「どうしてキミはまだ起きてるのよっ!」
「え……? あ、あの……」
「私たちサンタはね、確かに魔法を使ってプレゼントをあげてるわよ。でもね、それにはね、眠ってる子の夢からその子が本当に欲しいものを見つけて、それでプレゼントをあげるって決まりがあるのよ。眠っていてくれないとプレゼントはあげられないし、プレゼントがあげられないと次の家に行っちゃいけないの。なのにどうしてキミはまだ起きてるのよ。あり得ないじゃない。まだプレゼントを配らなきゃいけない家はたくさんあるのに、キミが起きてちゃいつまでたっても次の家に行けないじゃないっ!」
「ちょ、ちょっとちょっと落ち着いてよ」
サンタさんも涙目だけど、ぼくだっていきなり思いっきり怒鳴られて涙目だった。
しばらくして、サンタさんはやっと落ち着いてくれた。
「あーあ、大人げないとこ見せちゃったなぁ。ごめんね。キミに怒鳴っても仕方がないのにね」
「本当に、眠ってる子にしかプレゼントを渡せないの?」
「ええ。そうなってるの。そりゃあ、いっつも長い間起きてる子だっていないわけじゃないから、そういう子は事前にしっかり調べておくのよ。それで、回る順番を工夫したりして、ちゃんとみんなの家を回れるようにするの。あーあ、キミは毎年寝るの早かったから、この時間に来ても大丈夫だと思ったのになぁ」
そっか。たしかにぼくはいつものクリスマスならもうとっくに寝てる時間だ。だから、サンタさんも早い時間にぼくの家を回っても大丈夫だと思っていたみたいだ。
でも、今年は……。
「とにかく!」
サンタさんが急に声を上げたので、ぼくはびっくりして思わずサンタさんの方を見た。
「キミには今すぐにでも寝て貰わないといけないの。他の子供たちにプレゼントを配るためにも。さ、頑張って早く寝て」
寝るのって頑張ってできるものなのかな、なんてぼくはこっそり思ったりしたんだけど。