『1(全6話)』
今回の作品から、少しでも読みやすくするために段落ごとにスペースをつくってみました。
本当はパソコンで縦書きにして読んでもらいたく、しかし縦書きにするとスペース空いたこの状態はまた違和感あるだろうなとジレンマを味わっていたりします。
カーテンをどけて窓を開けると、おおきな三日月が見えた。
ぼくは三日月よりも半月、半月よりも満月のほうが好きなんだけど、それでもこの日の三日月は文句ないくらいにキレイだった。今夜は結構雲が出ていて星はほとんど見えなかったけど、だからこそ、ぴんと張った弓みたいな形で黄色く光っているお月さまが、ぼくにはとてもキレイに見えたんだ。
今日は十二月二十四日。クリスマスイブ。友達みんなでやったクリスマスパーティもとっくに終わって、ぼくは自分の部屋の窓から一人でお月さまを眺めていた。十二月の夜に窓なんかあけるもんだから、冷たい風がどんどん部屋に入ってきて、時々思わずブルッときちゃうくらいに寒かったんだけど、だからと言ってぼくは窓を閉めようとは思わなかった。なんて言えばいいのかな、少しでもいいから、あのお月さまに近づきたかったんだ。部屋の中でマフラーを巻いて、厚着をして、じっとぼくは夜空を見上げていた。
今年のクリスマスパーティは、全然楽しくなかった。ケンちゃんのかくし芸マジックは失敗して仕掛けがばれちゃった。ヤスはお菓子を取ろうとしてジュースをひっくり返した。カズオからは急に今日は行けなくなったって電話がかかってきた。もうホントにサイテーのサイテーのクリスマスパーティだった。だからだと思う。いつもならパーティが終わった後は遊び疲れてくたくただから、ベッドに入ったらすぐ眠れるのに、今日は全然眠くならなかったんだ。窓を開けてみたのだって、ホント、暇つぶしっていうのか、とにかく、何気なしにやっただけだった。
どうしてクリスマスパーティが楽しくなかったのかはぼくが一番わかってる。このパーティの言い出しっぺの、カッちゃんが来なかったからだ。
カッちゃんは、ぼくの一番の友達だ。小学校に入ってからずっと同じクラスで、学校の休み時間はいつも一緒に遊んでいる。カッちゃんは勉強もスポーツもできてみんなの人気者だから、何もしなくたって遊び相手なんかかってに集まってくるんだけど、カッちゃんはいつもぼくをメンバーに入れてくれるんだ。ぼくは自分から遊び仲間に入っていくのが何となく苦手で、だからカッちゃんがいつもぼくを誘ってくれるのはとてもうれしい。学校が休みの日はぼくがカッちゃんの家に遊びに行くか、カッちゃんがぼくの家に遊びに来るかのどっちかだ。クリスマスパーティだって、いつもカッちゃんがクラスのみんなに呼びかけてくれるおかげで人が集まって楽しくなるんだ。
そのカっちゃんと、ケンカした。ケンカっていっても、ぼくとカッちゃんが悪口を言い合ったとか、殴り合ったとかそんなんじゃなくて、カッちゃんがぼくのことを無視するようになったことなんだ。先週の日曜日、今日のクリスマスパーティのプレゼント交換に使うプレゼントを二人で買いに行こう、という予定だったんだけど、ぼくはその日曜日、プレゼントを買いに行くことなんてすっかり忘れていたんだ。それどころか、ぼくはちょうどその日お父さんとお母さんに連れられて、ちょっと遠くの遊園地に遊びに行ってしまった。その遊園地はこの間できたばっかりで、ぼくも行きたい気持ちでいっぱいだったから、何も考えられなかったんだと思う。
そのことをカッちゃんが知った、その知り方もサイテーだった。あの日のぼくはなんてバカだったんだろう、とぼくはいっつも後悔してる。次の学校の日、ついぼくは遊園地に行った自慢話をカッちゃんにしちゃったんだ。いつもはうんうんうなずいて話を聞いてくれるカッちゃんが、ぼくが話し出した途端に怖い顔になって、さすがにぼくもこれはおかしいぞ、って思ったんだけど、もう遅い。カッちゃんはぼくが全部言いきらないうちに急に席を立って、どこかに行っちゃったんだ。
それから、ぼくはカッちゃんと話をしていない。けっきょく、今日のクリスマスパーティだってカッちゃんは来なかった。せっかく、カッちゃんにあげようと思って選んだプレゼント交換用のプレゼントも、肝心のカッちゃんが来なかったから別の子のところにいってしまった。サッカーの得意なカッちゃんのために、一生懸命選んだサッカーボール。
ぼくだってわかってる。悪いのは全部ぼくで、ぼくがカッちゃんに「ごめんなさい」ってひとこと言えばそれでいい話なんだってことくらい。けど、あの日その場で謝れればよかったのに変に時間がたっちゃったせいで、その、なんか間が悪いっていうか、とにかく言い出しにくくって。それに、ぼくが謝ったところでカッちゃんが許してくれるかどうかもわからないし。もし、許してくれなかったら――? そのことが怖くて、ぼくはまだカッちゃんに「ごめんなさい」を言っていないんだった。
「カッちゃん、ごめんなさい」
呟いてみた。ほら、一人の時なら簡単なのに。何度目かわからない予行練習は、いくら成功しても全然うれしくない。それどころかよけい暗い気持ちになる気がする。
強くて冷たい風が窓から入ってきて、あまりの寒さにぼくは目をつぶった。チキュウオンダンカ、とかよく聞くけど、今年の冬は一段と寒い。
風は、まるでぼく一人をいじめようとしてるみたいに、びゅうびゅうびゅうびゅう入ってきた。ぼくは、風がおさまるまでじっと目をつぶっていた。本当はあのキレイな三日月を見ていたいのに、とても寒くて目を開けられなかった。窓を閉めてしまえば風が入ってこないのは自分でもわかっているんだけど、ぼくは窓を閉めてしまうことだけはしたくなかった。ここで窓を閉めてしまうのは、お月さまからはなれてしまうっていうか、もっと言えば、なんか負けてしまうような気がしたんだ。
そのまま、しばらくそうしていたんだけど。
「……あれ?」
あんなに強かった風がピタリと止んだ。本当に、ぼくの前に壁でもできたんじゃないかってくらい、急に止んだ。不思議に思って、ぼくがゆっくりと目を開けると、そこにはもっと不思議なものがあった。
「……あれ?」
夜空が、なかった。
さっきまで夜空だった窓枠。そこに、なにかがあった。
まず、目に入ったのは真っ赤な服。裾のあたりに、真っ白なふわふわがついていた。真っ黒なくつをはいて、真っ赤な手袋をして、とどめに赤い帽子までかぶってた。
え……? この服って……。
窓枠を持って足をかけて、今まさにぼくの部屋に突入しようとしているかっこうで、そのなにかはぼくのほうを向いて目をぱちくりさせて固まっている。もちろん、ぼくだって同じような顔をしていると思う。
ほほをつねってみる。痛い。夢じゃ、ない。夢じゃないってことは……。
「「え……? えええええええええーーっ!」」
次の瞬間、ぼくとそのなにかは同時に驚いた声をあげていた。
サンタさんが、やってきたんだ。
ぼくの家にやってきたサンタさんは、フカフカのお髭をもったおじいさんじゃなくて、さっきまで見ていた三日月みたいにキレイなお姉さんだったけど。




