表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

09.SSR騎士の性能テスト、そして風呂工事



 廃棄都市へ行って、廃棄された呪い騎士、キリカを仲間にした。

 その翌朝。


「おはよー」


「「おはようございます、リオン様」」


 領主の館。朝日が差し込むリビングに降りると、そこには既に戦闘態勢に入っている二人の美女がいた。

 銀髪美女、アナスタシア。

 赤髪美少女、キリカ。

 現状、わたしの家臣はこの二人だけだ。


「さぁ、リオン様」

「朝食の準備ができてるらしいよ!」


「ちょっと、それはわたくしの、従者のセリフですわ!」


「む? ボクも従者だけども」


「あなたは護衛! 護衛は護衛らしくしなさい!」


 アナはわたしの手を引いて、強引に椅子に座らせる。


「はい、あーん」


 アナがスプーンに山盛りのシチュー(昨日の残り)を乗せ、聖母のような慈愛に満ちた笑顔で迫ってくる。

 湯気と共に、濃厚なクリームの香りが鼻をくすぐる。

 しかし、そのスプーンがわたしの口に届く直前、横から伸びてきたフォークがカチンと硬質な金属音を立ててそれを阻止した。


「何をやってるのですか、キリカ。あーんはわたくしの仕事タスクです」


「別に誰があーんしてもいいだろうがッ」


 キリカがアナを睨みながら言い放つ。

 彼女の手には、同じくシチューをすくったスプーンが、剣のように構えられていた。


「ボクが口まで運ぶのが最も効率的だ」


「詭弁ですわ! ただリオン様のお口にご飯を入れたいだけでしょう!?」


「悪いか! あの無防備に開かれた口、小動物のように動く喉仏……想像するだけでご飯三杯はいける!」


「むっつりスケベ!」


「まーまー、二人とも仲良くね~」


「「きゅん♡ 可愛い……♡」」


 結局、二人のスプーンを交互に受けることになり、倍のスピードで朝食を終えることになった。


     ◇


「じゃあ、食後の運動がてら……アナ。昨日聞いた情報をまとめてくれる?」


「聞いた情報……? どういうことだ?」


 キリカが首を傾げる。


「この『廃棄都市デッドエンド』のことだよ。わたし、ここのこと何も知らないからさ」


 昨日はゴミ拾いに夢中だったが、本来の目的は情報収集だった。

 その過程でキリカを見つけたわけだが、街の事情も把握しておきたい。

 アナは少し表情を曇らせ、窓の外に広がる灰色の街並みを見つめた。


「……ここは、『世界のごみ箱』です」


 彼女は静かに語り始めた。

 かつて、王家は異世界召喚を頻繁に行っていたらしい。

 召喚した者の中には、わたしのような「ハズレスキル」持ちだからという理由で、捨てられる者が大勢いた。

 そんな「ハズレ勇者」の不法投棄から始まったこの場所は、いつしか「何を捨ててもいい場所」として世界中から黙認されるようになったという。


「壊れた魔道具、使われなくなった武具……そして……国を追われた難民や、社会から弾き出された犯罪者たち。ここには『拒絶』がありません。どんな汚いものでも、どんな罪人でも、この街は無言ですべてを受け入れます」


「なるほど。来るものを拒まず、去るものを追わず、か」


 わたしは納得した。

 法律も倫理もない。あるのは「捨てられたもの同士」という奇妙な連帯感と、弱肉強食のルールだけ。

 ゴロツキの溜まり場になるのも当然だ。

 そして、ここの領主を誰もやりたがらない理由も、納得。アウトロー連中をまとめられないからだろう。


「そこで、ボクの出番というわけだね!」


 キリカがドン、と胸を叩いて身を乗り出した。


「無法地帯ということは、主を狙う輩も多いということだ。ボクは君のための盾となり、剣となり、君を守ろう。死が二人を分かつまで……いや、死んでも霊体となって守護り抜く!」


「お、重い重い……」


 わたしが苦笑いすると、横からアナがジトッとした視線を送った。

 頬を膨らませ、不満げにキリカを睨んでいる。


「威勢だけはいいですけれど……あなた、そもそも本当に強いんですか?」


「なんだと?」


「貴方が戦っているところを見たことがありませんもの。口だけなら誰でも言えますわ」


 アナの挑発に、キリカの眉がピクリと跳ねた。

 騎士としてのプライドを刺激されたらしい。彼女は鋭い眼光でアナを睨み返した。


「ふん、まあいいだろう。疑うなら証明するまでだ。ボクの強さを見せてあげるよ。食後の、軽い運動としてな」


     ◇


 わたし達は屋敷の裏手に広がる『白骨樹海』へと足を踏み入れた。

 ここは、骨のように白く硬化した樹木が密生する、天然の要塞だ。

 足元を踏みしめるたびに、パキパキと乾いた音が響く。


「街で聞き込んだ情報によると、ここには独自進化した凶暴な魔物がいるらしいけど……」


 ゴギャァァァァァッ!!


 噂をすれば影。

 木々の間から、巨大な白い影が飛び出した。

 体長3メートルはある巨狼――『白狼スケルトン・ウルフ』だ。

 全身の毛が針金のように硬質化し、その牙は鉄さえも噛み砕くというAランクの魔物である。


「ひぃっ!?」


 アナが悲鳴を上げてすくみ上がる。

 白狼は獲物を見つけると、凄まじい速度で突進してきた。

 バキバキバキッ!

 通り道にある巨木が、まるで爪楊枝のようにへし折られていく。


「主よ、下がっていろ」


 暴風のような殺気を前に、キリカが一歩前に出た。

 その背中は、微塵も震えていない。

 彼女は腰の剣に手をかけ、低く身を沈めた。


「ブボォォォォォッ!」


 白狼が目の前まで迫る。

 その巨大なあぎとが、キリカの頭を噛み砕こうと開かれた瞬間。


 ――フッ。


 キリカの姿がブレた。

 キンッ。

 涼やかな、鈴を鳴らすような納刀の音が響く。


「……え?」


 アナが声を漏らす。

 次の瞬間。


 ズンッ……!


 白狼の巨体が、鼻先から尻尾まで、綺麗に真っ二つにズレて地面に崩れ落ちた。

 断面は鏡のように滑らかで、血が出る暇さえなかったようだ。


「ま、ざっとこんなものだ」


 キリカは息一つ乱さず、冷ややかな目で骸を見下ろした。

 速すぎて見えなかった。

 これがあの錆びついていた鉄屑の中身……『剣聖』の実力か。


「す、すごい……」


 アナが腰を抜かして呟く。

 わたしは目を輝かせて、二つになった狼の死体に駆け寄った。


「大漁だー! まいどありッ!」


 ペタリと触れて【買取】を発動。

 白狼の素材は、武具の材料として需要が高い。


『買取完了:白狼の死骸×1 獲得:3500RP』


「高いッ!」


 昨日のゴミ拾いが馬鹿らしくなる高値だ。

 これならいける。わたしはキリカに指示を飛ばした。


「キリカ、あっちの狼もお願い! アナは索敵!」


「承知した!」


「は、はいっ!」


 そこからは一方的な狩りの時間だった。

 キリカが神速の剣技で白狼を瞬殺し、わたしが即座に駆け寄って換金する。

 見事な連携プレーにより、襲いかかってきた群れは全滅していた。


『買取完了:白狼の死骸×5 獲得:17500RP』


「おぉ……! 結構な稼ぎになったね!」


 わたしはホクホク顔でウィンドウを閉じた。

 昨日のゴミ拾いが霞むほどの高収入だ。これなら、当面の生活費には困らないだろう。


 ふと、周囲を見渡すと、硬そうな白い木々が密生しているのが目に入った。


(この『白骨樹』も、建材として売れそうだけど……)


 触ってみると、石のように硬い。

 今の装備じゃ切り倒すのに時間がかかりそうだ。これはまた、道具を揃えてから「次回のお楽しみ」にしておこう。


「ふぅ……。それにしても、いい運動になったな」


 わたしは額の汗を拭った。

 戦闘の緊張と、動き回った熱気で、服がじっとりと肌に張り付いている。


「ですわね。わたくしも、少し汗ばんでしまいました」


「ボクもだ。鎧の中が蒸れて、不快指数が上がっている」


 見れば、アナもキリカも、うっすらと肌に汗を浮かべている。

 銀髪が頬に張り付き、白い首筋を汗が伝う様子は、なんとも艶めかしい。


(そういえば……こっちに来てから、まともにお風呂に入ってないな)


 この屋敷は廃墟だったため、水回りは全滅している。

 昨日までは身体を拭くだけで誤魔化していたけれど、やっぱり日本人の魂がそれを許さない。

 汗をかいたら、広い湯船でさっぱりしたい。


「よし。稼いだポイントで、アレを作ろう」


 わたしは屋敷の方を振り返り、ニヤリと笑った。

 懐には、稼ぎたての17500ポイントがある。

 これだけあれば、ボロボロの水場を最高級のスパに作り変えることも可能はずだ。


 わたしは屋敷に戻ると、腐り落ちていた浴室の前でスキルを発動させた。


~~~~~~~~~~

【リフォーム確認】

 対象:領主の館・一階区画(浴室)

 内容:大浴場および脱衣所の修繕・拡張

 費用:10000RP


 実行しますか?

  ▶ YES

    NO

~~~~~~~~~~


 迷わずYESを選択。


「屋敷よ、快適になれ! ――【仕様変更リメイク】!」


 ドォォォォォン!!


 屋敷の西側が光に包まれ、形状が変わっていく。

 カビだらけだった壁が純白のタイルに変わり、壊れた配管が自動的に繋がり直る。

 そして、何もなかった空間に、広々とした石造りの浴槽が出現した。


 ザバァァァァァ……!


 完成と同時に、どこからともなく熱々の適温なお湯が満たされていく。

 あたり一面に、湯気と共にヒノキのような爽やかな香りが広がった。


「お、お風呂……ですの?」


「うん。汗もかいたし、やっぱり日本人はお風呂に入らないとね」


 わたしが満足げに頷くと、二人の美女が顔を見合わせ、頬を紅潮させた。


「ちょうど汗を流したいと思っておりましたの……! リオン様、一緒に入りましょう!」


「主の背中を流すのも、騎士の務めだ。遠慮はいらんぞ!」


 二人が服を脱ぎかけながら、ものすごい勢いで迫ってくる。

 湯気越しに見える白い肌と、獲物を狙うような目が怖い。


「えっ、ちょ、狭いから無理だって!!」


 こうして、ゴミ屋敷だった我が家には、ピカピカのお風呂と、賑やかな悲鳴が響き渡ることになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
流星街かな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ