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75.限界突破の代償と、借り物の最強



 クズポンの放つ一撃は、まさに災害だった。

 先ほどまでは「衝撃硬化」特性を持つミスリル・スーツで防げていたが、今やその剣圧だけで大地が割れ、コノワたちが吹き飛ばされている。


「ハハハハ! 見たか! これが俺様のチートスキル【限界突破リミットブレイク】だ!」


 クズポンが哄笑する。


 ドゴォォォォンッ!!


 再び振るわれた剣が、衝撃波の嵐を生む。

 コノワたちが悲鳴を上げ、地面を転がる。

 スーツは無事だが、中の人間が衝撃を殺しきれずにダメージを受けていた。


 わたしは冷静に戦場を見渡しながら、右手をかざした。

 あのデタラメな強さの正体を、数字で暴いてやる。


「スキル発動――【市場調査リサーチ】」


 ピロンッ♪


 わたしの視界に、クズポンと聖剣のステータスウィンドウがポップアップした。


【対象:聖剣エクスカリバー(模造品・改)】

【状態:限界突破オーバーロード中】

【性能倍率:2000%(強制)】

【耐久値:計測不能(※内部崩壊進行中)】


「……うわぁ」


 わたしは顔をしかめた。

 酷いなんてもんじゃない。

 「不滅」というのは表面的な形状維持機能だけで、内部の魔力回路や分子構造はズタズタに引き裂かれている。

 まるで、自転車にジェットエンジンを積んで無理やり走らせているようなものだ。

 剣が泣いている。悲鳴を上げている。


 物を大事にしない。わたしは、こういうやつが……絶対許せない。


「君の種は割れた。君の能力は、触れたものの性能を一時的に『二千倍』に引き上げる。その代償として、対象となった武器は急速に劣化し、普通なら一振りで塵になってしまう」


 だが、彼の手にあるのは「聖剣」だ。


「はん! 見破ったところでなんだ! 俺の聖剣は『不滅』属性が付与されている! 絶対に壊れねぇ! つまり、ノーリスクで二千倍の火力を撃ち放題ってわけだァァァッ!!」



「キリカ」

「御意」


 わたしの呼びかけに、傍らに控えていた剣士――キリカが音もなく一歩踏み出した。


「彼の剣筋は、ただの『暴れ』だ。力任せに二千倍の出力を垂れ流しているだけで、技術もへったくれもない」

「……理解した。つまり、当たらなければどうということはない」

「正解」


 キリカが姿を消した。

 次の瞬間、彼女はクズポンの懐に潜り込んでいた。


「消えろぉぉぉッ!」


 クズポンが反応し、横薙ぎに聖剣を振るう。

 その速度は音速を超え、当たれば山をも砕く威力だ。

 だが。


 ヒュンッ。


 キリカは紙一重で、その斬撃を「回避」した。

 二千倍の威力も、空を斬れば意味がない。

 彼女は最小限の動きで剣圧をやり過ごし、無防備になったクズポンの胴へと、刀のつかを叩き込んだ。


 ドスッ!!


「ぐあぁッ!?」


 クズポンがくの字に折れ曲がり、たたらを踏んで後退する。


「な、なぜだ!? 俺の剣速は二千倍だぞ!? 見切れるはずが……!」

「速いだけだ」


 キリカは冷ややかに言い放ち、刀を構え直した。


「貴様の剣には『芯』がない。ただ道具に振り回されているだけの、子供の癇癪かんしゃくだ。……本物の剣士の足元にも及ばん」

「き、貴様ぁぁぁッ!!」


 顔を真っ赤にして激昂するクズポン。

 だが、その焦りこそが最大の隙だ。

 わたしはゆっくりと前へ進み出た。


「図星を突かれて怒ったかい? クズポン君」

「あぁん!? なんだテメェは!?」

「ただの社長だよ」


 わたしは彼を見下ろした。


「君は、自分の強さを勘違いしている」


 わたしは指を一本立てた。


「君の強さは、スキルの『倍率』と、聖剣の『頑丈さ』に依存しているだけだ。君自身の技量は、そこらのゴロツキと変わらない。いや、道具への感謝がない分、それ以下だね」

「黙れッ! 結果が全てだ! この力があれば、俺様は最強なんだよ!」

「そうかな? ……その聖剣、泣いてるよ」


 わたしは彼の剣を指差した。


「『不滅』だから壊れない? そんなわけないだろう。……限界突破の負荷で、内部構造はもう限界だ。ただ『形を保っている』だけで、もう剣としての寿命は尽きかけている」


 わたしの耳、聖剣から悲鳴のようなノイズが聞こえていた。

 メンテナンスもされず、無理やり出力を上げられ、酷使され続けた道具の末路。


「道具の命を燃やして、仮初めの強者を演じているだけ。……それが君の正体だ」

「ふざけるなぁぁぁッ!! 死ねぇぇぇッ!!」


 クズポンが逆上し、捨て身の特攻を仕掛けてくる。

 だが、もう遅い。

 リオン・カンパニーの反撃準備は整っていた。


「さあ、総員反撃開始だ。……ウチの社員をナメた代償、きっちり払ってもらおうか」

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