74.襲来、勇者の末裔と黒い鉄壁
リオン・カンパニーの朝は早い。
瓦礫の山を背に、ビシッと黒いスーツを着こなした男たちが整列している。
「総員、点呼!」
「「「オッス!!」」」
野太い声が廃棄都市に響く。
彼らは元・ゴロツキのコノワたちだが、今は違う。
髪を整え、ヒゲを剃り、リオン・カンパニーの社章が入った黒スーツ(ミスリル製)に身を包んだ姿は、どこぞの王宮騎士団か、あるいは超一流の警備会社のエージェントに見える。
「社長! 本日の業務、異常なしです!」
「うん、今日もご安全に」
わたしは満足げに頷いた。
衣食住が整い、組織としての規律も生まれた。
これで今日も、平和な一日が始まる――はずだった。
ドォォォォォォォンッ!!
突如、都市の入り口付近で爆音が轟いた。
積み上げていた瓦礫のバリケードが、強烈な閃光と共に吹き飛び、粉砕される。
「な、なんだ!?」
「敵襲か!?」
コノワたちがざわめく中、土煙の向こうから、一人の男が悠然と歩いてきた。
金ピカの全身鎧。
背中には真紅のマント。
そして手には、眩い光を放つ長剣――「聖剣」らしきものを携えている。
「フン……ここか。魔族の残党反応があったのは」
男は鼻で笑い、瓦礫を踏みつけながら進み出てきた。
整った顔立ちだが、その目には他者を完全に見下す傲慢な色が浮かんでいる。
「誰だ、あんたは」
コノワが前に出て、鋭く問いただす。
男はチラリとコノワを見下ろし、大仰に名乗りを上げた。
「よくぞ聞いた! 我が名はクズポン・キソガワ! かつて異界より召喚されし伝説の勇者、キソガワの正統なる末裔にして、次期勇者候補筆頭である!」
「……クズポン?」
コノワが思わず聞き返した。
わたしも心の中でツッコミを入れた。
名前が酷すぎる。親は何を考えてつけたんだ。
「黙れ下郎! 貴様らのような薄汚れたゴミ溜めの住人が、気安く我が名を呼ぶな!」
クズポンは激昂し、聖剣を突きつけた。
「我々の目的は一つ! この地に潜伏しているS級魔族――『キエリュウ』の討伐だ! さっさと差し出せば、貴様らゴミ屑ごときは見逃してやらんでもないぞ?」
どうやら彼は、キエリュウ(現・エリー)を狙ってやってきた「魔族狩り」らしい。
勇者の末裔ということは、その力は本物だろう。
体から溢れ出る魔力は、そこらの騎士団長クラスを遥かに凌駕している。
「断る!」
コノワが即答した。
「あぁん? 聞こえなかったのか? 俺様は勇者だぞ?」
「知るかよ。ウチの『社員』に手を出そうってんなら、誰だろうと敵だ」
コノワの言葉に、後ろに控える黒スーツの男たちも一斉に臨戦態勢をとる。
その結束力に、わたしは少し感動した。
彼らはもう、ただの烏合の衆じゃない。仲間を守るために戦える集団だ。
「ハッ! ゴミ風情が、生意気な口をきくな!」
「俺たちはゴミじゃねぇ。リオン・カンパニーの社員だ!」
「同じことだッ! ならば死ね!」
クズポンが聖剣を振り上げた。
刀身が黄金の光を帯びる。
それは、岩をも両断する必殺の一撃。
「勇者流剣術――【閃光断】ッ!!」
ヒュオッ!
光の刃が、コノワの脳天めがけて振り下ろされた。
速い。そして重い。
普通なら、防具ごと一刀両断される威力だ。
だが、コノワは逃げなかった。
ガキィィィィィィンッ!!!
甲高い金属音が、廃棄都市に響き渡った。
「な……!?」
クズポンの目が点になった。
聖剣は、コノワの肩口でピタリと止まっていたからだ。
いや、正確には「弾かれて」いた。
コノワが着ている黒いスーツの肩部分が、衝撃を受けた瞬間だけ金属のように硬質化し、聖剣の一撃を完全にシャットアウトしたのだ。
「う……嘘だろ!? 聖剣の一撃だぞ!? なぜ布切れ一枚で防げるんだ!?」
「布切れじゃねぇよ」
コノワはニヤリと笑い、肩についた埃を払った。
「こいつは社長がくれた、最強の戦闘服だ」
魔銀絹。
普段はシルクのように柔らかいが、衝撃を受けるとドラゴンの鱗以上の硬度を発揮する「衝撃硬化」特性を持つ。
勇者の剣だろうがなんだろうが、物理攻撃である以上、このスーツを貫くことはできない。
「ば、馬鹿な……! ありえん! そんなふざけた服があるか!」
「あるんだよ、ウチの会社にはな」
コノワは鉄パイプ(これもリメイク済みの魔銀製)を肩に担ぎ、一歩踏み出した。
「おい、勇者様よぉ。挨拶代わりの一発は受け止めてやったぜ? 次はこっちの番だ」
ザッ! ザッ! ザッ!
コノワに続き、数十人の黒スーツ集団が無言で圧をかけてくる。
その迫力は、完全にカタギのそれではない。
クズポンが初めて後ずさった。
ナメていたゴミ溜めの住人が、聖剣すら通さない「鉄壁の軍団」だと気づいた瞬間だった。
「(うんうん、いい性能テストになったね)」
わたしは後ろで腕を組み、彼らの勇姿を頼もしく見守るのだった。




