67.廃棄竜の改名と、衝撃の美少女進化
とんこつラーメンで心身ともに満たされ、わたしの配下となった元・廃棄都市の暴君、キエリュウ。
彼は真剣な表情で、深く頭を下げてきた。
「主よ。……折り入って頼みがある」
「ん? どうしたの? おかわり?」
「違う。……俺に、新しい名をくれないか」
彼は恥ずかしそうに視線を逸らし、頬を掻いた。
「『キエリュウ』……消える竜、なんてのは、廃棄族として虚勢を張っていた頃の、いわば『イキった名前』だ。今となっては、呼ばれるたびに古傷が痛むというか……正直、恥ずかしい」
「あー……黒歴史ってやつだね」
中二病ネームを背負い続けるのは辛いらしい。
「俺は生まれ変わりたいんだ。あんたの家臣として、相応しい名前が欲しい」
「なるほどね。わかったよ」
わたしは腕を組み、うーんと唸って考えた。
「じゃあ……『エリー』なんてどう?」
キエリュウから取った。消えるって要素を取ってのネーミングだ。
「エリー……?」
「うん。響きが軽やかで、風みたいでしょ? 君の自慢の『速さ』にぴったりだと思うんだ」
「エリー……。エリー……」
彼は何度かその名を口の中で転がし、パッと少年のように顔を輝かせた。
「……いい。悪くない響きだ。気に入った!」
「よかった。じゃあ、今日から君は『エリー』だね」
わたしがそう告げた、その瞬間だった。
ピロンッ♪
わたしの脳内に、無機質なシステム音声が響き渡る。
それはいつもリサイクルショップのスキルを使う時に聞こえる「あの声」だ。
『――条件を達成しました。対象個体の名称変更を確認しました』
「え?」
『これより存在進化プロセスを実行します』
「ちょ、待って!? 勝手に動かないで!?」
わたしの制止も虚しく、キエリュウの体が激しい光に包まれる。
「ぐおぉぉ!? な、なんだ!? 体が……熱い!? 力が溢れてくるぞ!?」
バヂヂヂヂッ!!
熱を帯びた光が弾け、周囲に凄まじい衝撃波が走った。
あまりの眩しさに、わたし達は思わず腕で目を覆う。
「な、なんだぁ!?」
「ボスが……光った!?」
やがて光が収まり、土煙が晴れていく。
そこには、無骨な大男の姿はなかった。
代わりに立っていたのは――。
「……軽い」
透き通るような銀髪をなびかせた、一人の「美少女」だった。
年齢は十代後半くらいだろうか。
陶器のように白い肌に、宝石のような紅い瞳。
そして何より、極限まで空気抵抗を削ぎ落とした、流線型のスレンダーな肢体を持っていた。
元の体が大きかったせいで、ボロボロのコートがブカブカになり、華奢な肩からずり落ちそうになっている。
「えええええええっ!?」
コノワたちが目玉を飛び出させて、腰を抜かしながら絶叫した。
「ボ、ボスが……女になったぁぁぁ!?」
「すげぇ美人だぞおい!?」
わたしはガックリと頭を抱えた。
「え、なに? 何がどうなったの……? 仕様変更されたってこと……? 名前が変わったことで……?」
わ、わからないっ。どうなってるのっ!
しかも、なんで性別まで変わるのっ?
「(もしかして……『エリー』って名前に引っ張られて、システムが勝手に中身を合わせちゃったんだ……)」
商品名が「エリー(女性名)」なのに、中身が「おっさん」では、リサイクルショップの品質管理基準(?)に反するということらしい。
なんてお節介な機能だ。
しかし、当の本人は自分の体をペタペタと触り、目を輝かせて驚愕していた。
「凄い……。体が羽のように軽い。空気の抵抗をまるで感じない……!」
彼女(元彼)がその場で、つま先を弾ませて軽くステップを踏む。
その瞬間。
ヒュンッ!
姿が掻き消え、一瞬で数十メートル先へと移動していた。
音すらない。
完全な無音移動だ。
「ははっ! 素晴らしい! これぞ、私が求めていた『速さ』の最終形態……!」
エリーは歓喜の声を上げ、わたしの前に戻ってくると、シュタッとその場に跪いた。
見た目は可憐な美少女だが、中身はあの武骨な武人のままだ。
「ありがとうございます、主よ!! この新しい体……最高です!!」
「あ、うん……気に入ったならよかったよ」
性別が変わったことへの違和感よりも、「速くなったこと」への喜びが勝っているらしい。
さすが戦闘狂。
「へへっ、元がおっさんでも、可愛けりゃなんでもいいぜ!」
「主よ……貴様の性癖、底が知れないな」
ガラが鼻の下を伸ばし、キリカが呆れたようなジト目を向けてくる。
違う、わたしの趣味じゃないんだ。事故なんだ。わたしは盛大にのけぞりそうになった。
ともあれ。
こうして最強(最速)の美少女運び屋『エリー』が爆誕したのだった。
【おしらせ】
※2/11(水)
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