65.キエリュウと再戦
翌朝。
わたし達の拠点は、昨日完成した「廃棄都市とんこつラーメン」の香りに包まれていた。
「ズズッ……うめぇぇぇ!」
「朝からこんな美味いもん食えるなんて、夢じゃねぇよな……」
元キエリュウの部下たちが、涙を流しながら麺を啜っている。
どうやら、他のチンピラたちも続々と合流し、リオン・カンパニーの社員(領民)はどんどん膨れ上がっていた。
「みんな、いい食べっぷりだね」
「主よ、おかわりだ。チャーシュー多めで頼む」
「はいはい」
キリカもすっかりラーメンの虜だ。
彼女は代謝が良いのか、いくら食べても太らない(というか、全部筋肉に行っている気がする)。
そんな平和な朝の朝食タイムを、不粋な轟音が切り裂いた。
ドォォォォンッ!!
拠点の入り口にあったバリケード(瓦礫)が、何者かの衝撃波で吹き飛ばされたのだ。
「な、なんだ!?」
「敵襲か!?」
土煙の中から現れたのは、血走った目で肩で息をする男――。
廃棄都市の元締め、廃棄族のキエリュウだった。
「おのれぇぇ……! 俺の部下を……俺の食い扶持を……よくもたぶらかしやがったなァァァ!!」
キエリュウが吠える。
どうやら朝起きたら部下が誰もいなくて、空腹と怒りでカチ込んで来たらしい。
自業自得とはいえ、凄まじい殺気だ。
「ヒッ……! キ、キエリュウの旦那だ!?」
「殺される! 裏切り者は皆殺しにされるぞ!」
コノワたちが丼を取り落とし、ガタガタと震え出す。
長年染み付いた恐怖は、そう簡単には拭えないらしい。
「裏切り者は死刑だ……! そして、その白いドロドロした美味そうな飯をよこせぇぇ!」
「(結局、飯目当てなんじゃ……)」
キエリュウが地面を蹴り、わたしに向かって一直線に突っ込んでくる。
速い。
以前、わたし達を苦しめた【縮地】のような高速移動スキルだ。
だが。
「主の食事を邪魔するとは……無粋極まりない」
カキンッ――!!
鋭い金属音が響き、キエリュウの突進が止まった。
彼の目の前に、ラーメン丼を置いたキリカが立ちはだかっていたのだ。
「……また貴様か。前回殺し損ねた雑魚が!」
「雑魚、か。……今の私を、以前と同じと思うなよ」
キリカが魔剣『グーラ』を構える。
「いくぞ、グーラ。最初から全開だ」
『わかっておる』
その瞳は、静かに燃えていた。
「死ねェッ!!」
キエリュウの姿がブレて消える。
目にも止まらぬ速さで背後に回り込み、錆びた大剣を振り下ろす――はずだった。
「――遅い」
ガギィィィンッ!!
何もない空間で火花が散る。
キエリュウの背後に、いつの間にかキリカが回り込んでおり、その斬撃を完全に受け止めていたのだ。
「な、なんだと……!? 俺のスピードについて来た!?」
「見切った。……お前の動き、単純だ」
キリカが冷ややかに告げる。
彼女の戦闘センスは天才的だ。一度見た動きなら、その理屈を解析し、自分の動きに取り入れることができる。
いわば『技巧再現』。
彼女は、敵の最強の武器である「速さ」を、技巧再現により、完全に自分のものにしていた。
「バカな……! だが、パワーなら俺が上だぁぁッ!!」
キエリュウが腕に青筋を浮かべ、力任せに攻撃を放ってくる。
しかし、キリカは涼しい顔でそれを受け流す。
空中でぶつかる二人。だが、キリカの魔剣が、キエリュウを吹き飛ばす。
ドゴォン!
キエリュウは這いつくばって、動けない様子。うん、事前にちゃんとわたしの言いつけ通り、殺さなかった(見返りとしてセクハラされたけど)。
「ぐぬぬ……な、なぜだ!? 女の細腕で、なぜ俺の剛力に押し負けない!?」
「食生活の違いだ」
キリカは事も無げに言った。
「主の作る『栄養満点の飯』を食べているからな。毎日腐ったゴミを漁っている貴様とは、基礎代謝も筋密度も違うのだよ!」
「ぐっ……!!」
キリカが手首を返す。
流れるような剣技が一閃。
「あ……」
呆然とするキエリュウの喉元に、切っ先が突きつけられる。
「……詰み(チェックメイト)だ」
勝負あり。
スタミナも切れ、技も完封されたキエリュウは、ガクリと膝をついた。
彼は悔しげに顔を歪め、呻くように言った。
「くっ……殺せ……!」
「うわぁ」
わたしは思わず声を上げた。
まさか、リアルでそのテンプレ台詞を聞くことになるとは。
「君がそれを言うんだね」
わたしは二人の間に割って入った。
キリカが視線で問いかけてくるが、わたしは首を横に振る。
「殺しはしないよ」
「な、なんだと……? 情けのつもりか?」
「違うよ。君もまた、この過酷な廃棄都市で生き抜いてきた『仲間』だからね」
わたしは貯蔵庫から、新しい丼を取り出した。
湯気を立てる、熱々のとんこつラーメンだ。
「腹が減ってるからイライラするんだよ。……とりあえず、これ食って落ち着きなよ」
わたしは丼を差し出す。
漂う豚骨と醤油の香りが、キエリュウの鼻腔を直撃する。
「う……」
彼はゴクリと喉を鳴らした。
プライドと食欲の葛藤。
だが、数日まともに食べていない彼の胃袋は、限界を迎えていた。
「い、いただく……!」
彼は震える手で丼を受け取り、スープを一口啜った。
「――ッ!!? う、うめぇぇぇぇぇッ!!」
元暴君の絶叫が、朝の空に吸い込まれていった。
どうやら、彼との和解(?)も成立したようである。
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