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64.豚骨の輝きと、啜る文化の夜明け

 


 魔鉄猪アイアン・ボアの群れを返り討ちにし、極上の「チャーシュー」と「豚骨」を手に入れたわたし達。

 拠点のキッチン(野外)に戻ったわたしは、さっそく調理の準備に取り掛かった。


「兄貴たち、魔物調理しようとしてるらしいぞ……」

「魔物ってクソ不味いんじゃ?」

「ああ。しかも廃棄都市の魔物はゴミ食ってるからな、食って体調崩す連中もいるんだが……」


 コノワたちや、新しく領民に加わった現地人たちが不安がっている。

 こっちの世界では、魔物を食べることを「魔食い」といって、禁忌に指定されているらしい。


 無理もないのだ。魔物の体内には、魔素と呼ばれる毒性物質が含まれている。それを食べると、耐性のない人間は体調を崩すどころか、多量摂取で死んでしまうこともあるという。


 みんなが不安になる気持ちはわかる。

 だからこそ、大丈夫だってことを、この一皿で証明してみせるんだ。


「まずは道具からだね。トール、お願いできる?」

「うむ、任せよ」


 わたしが作りたい物のイメージを伝えると、トールが頷き、回収した魔鉄猪の装甲板(鉄くず)を持っていく。


 残ったわたしは、みんなと共に小麦を回収する。

 そして【仕様変更リメイク】を使って、脱穀した小麦を一瞬で「小麦粉」へと変化させる。


「すごいですわ、リオン様。こんな質のいい小麦粉を一瞬で作ってしまうなんて」


 現地人のアナから見ても、わたしのスキルで作った小麦粉は高品質らしい。

 それはそうだ。こっちは現実の向こうの世界(日本)とは違って、製粉作業が機械化されていない。

 手作業では、どうしても抽出段階で殻などの不純物が混じってしまうのだろう。

 わたしのスキルなら、それを完全に分離できる。


「なんじゃ、まだ小麦つくっとったのか? わしのはもうとっくに完成させたぞ?」


 いつの間にか戻ってきたトールが、ドヤ顔で指差す。

 そこに完成していたのは、大人が三人くらい入れそうな「巨大寸胴鍋」と、どんな肉もスパッと切れそうな鋭利な「包丁」だ。


「完璧だね。さすがトール」

「なんのこれしき。……で、本当にこれであの硬い肉を食うのか?」

「うん。見ててよ」


 わたしはまず、小麦粉の入ったボウルに向き合う。

 ただ小麦粉を練るだけでは、ラーメンの麺にはならない。それではうどんやパスタになってしまう。

 ラーメンに必要なのは「コシ」と「風味」、そしてあの独特の黄色みだ。


「必要なのは『かんすい』だね」


 わたしは辺りの草木灰や、特定の鉱物を【仕様変更リメイク】し、アルカリ性の液体――「かんすい」を精製した。

 これを小麦粉と塩、水に混ぜて、力いっぱい練り上げる。


「ガラ、こねるの手伝って!」

「あいよっ! オラァッ!」


 ガラの怪力で練り上げられた生地は、黄色く艶やかな玉になった。

 それを、トールが即席で作った「製麺機(ハンドル式)」に投入する。


 グルグルグル……。


 ハンドルを回すと、波打つような「縮れ麺」が次々と吐き出されていく。


「すげぇ……紐みてぇなのが出てきたぞ!」

「これが『麺』だよ。……次はスープだ」


 わたしは巨大寸胴鍋に水を張り、砕いた魔鉄猪の骨と、香味野菜(野草)を大量に投入する。

 そして、下から魔導コンロで加熱する。

 グツグツと沸騰し始めるが、ここで重要なのは火加減だ。


「ただ煮るだけじゃダメなんだ。脂と水を混ぜ合わせる……『乳化』させるんだよ」


 わたしは【仕様変更リメイク】で鍋の中の圧力と対流を調整し、強制的に脂と水を融合させていく。

 本来なら何時間もかかる工程を、魔力で圧縮する。


 ゴボッ、ゴボボボッ……!


 透明だったお湯が、骨の髄と脂が溶け出すことで、みるみるうちに白濁していく。

 辺りに漂うのは、濃厚でクリーミーな獣の香り。

 いわゆる「飯テロ」の匂いだ。


「な、なんだこの匂いは!? すげぇ脂っこくて、でも美味そうな……!」

「脳が痺れる匂いだぁ……!」


 見守っていたコノワたちが、ゴクリと喉を鳴らす。

 仕上げに、醤油もどきベースのタレと合わせれば、スープは完成だ。


「よし、出来たよ」


 わたしは丼(これも瓦礫からリメイク)に茹でた麺を入れ、熱々の白濁スープを注ぐ。

 その上に、特製ダレで煮込んだ分厚いチャーシューと、刻んだネギを乗せる。


「へいお待ち。『特製・廃棄都市とんこつラーメン』だ」


 ズラリと並んだ丼からは、食欲を刺激する湯気が立ち上っている。


「これが……らーめん……」

「宝石みてぇに輝いてやがる……」


 コノワたちが震える手で丼を受け取る。

 どうやって食べるのか戸惑っている彼らに、わたしはお手本を見せた。


「食べ方にはコツがあるんだ。こうやって、息を吸い込みながら……音を立ててすする!」


 ズズズッ!!


 わたしは豪快に麺を啜り込んだ。

 スープを絡め取った麺が、口の中で暴れ、喉を駆け抜ける。


「んん~っ! これこれ! このジャンクな味がたまらないんだよ!」

「お、音を立てていいんすか!?」

「ラーメンは、それがマナーなんだ。さあ、やってみて」


 コノワたちが顔を見合わせ、意を決して箸を動かす。


 ズズッ……ズゾゾゾッ!!


 あちこちで、不慣れながらも麺を啜る音が響く。

 その直後。


「――ッ!!?」


 全員の動きが止まった。カッ、と目が見開かれる。


「う、うめぇぇぇぇぇッ!!」


 絶叫が、夜の廃棄都市に木霊した。


「なんだこの濃い汁は!? ドロドロなのに、飲み込むとスッキリしてやがる!」

「麺だ! この縮れた麺が、スープを吸って口の中で踊りやがる!!」

「肉ぅぅ! あの硬かった魔鉄猪が、口の中でトロけて消えたぁぁ!!」


 もはや理性など吹き飛んでいた。

 彼らは一心不乱に丼に顔を埋め、ズズズ、ズズズと音を立てて貪り食う。

 「脂」と「炭水化物」と「塩分」。

 生存本能に直結する味の暴力に、彼らは完全に屈服していた。


「兄貴……おかわり! おかわりくだせぇ!!」

「俺たち、この味を知っちまったら、もう元の生活には戻れねぇっす……一生ついていきやす!!」


 涙と鼻水を流しながら懇願する部下たち。

 どうやら、胃袋の掌握は完了したようだ。


「ふふふ。おかわりはあるよ。ジャンジャン食べて」


 わたしは鍋をかき混ぜながら、満足げに微笑んだ。

 衣食住が整い、美味しい食事もある。

 これで、この拠点は盤石だ。


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― 新着の感想 ―
豚骨の白濁系ということは汁は博多拉麺系で、麺は草木灰の鹹水だから沖縄系なのかな。 豚骨の澄んだ白湯系は久留米拉麺だから。
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