63.黄金の収穫と、向こうから来た『チャーシュー』
翌朝。
わたし達が畑に向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「う、うおおおおっ!? なんじゃこりゃあ!?」
コノワとコノアが目を剥いて絶叫する。
無理もない。
昨日植えたばかりの種もみが、たった一晩で成長し、見渡す限りの「黄金色の麦畑」に変わっていたのだから。
「すげぇ……! 兄貴の魔法、マジでハンパねぇっす!」
「これ全部、食える麦なのか!?」
部下たちが感動に震えながら、黄金の穂に触れる。
品種改良による『超成長』と、肥沃な大地による『成長促進』の相乗効果だ。
これなら食料問題は一気に解決する。
「さあ、みんな。収穫を始めようか」
「へいッ!!」
わたし達が鎌を手に、収穫作業に入ろうとした、その時だった。
ズズズ……!
地響きと共に、地面が大きく揺れた。
麦畑の向こう、瓦礫の山の影から、土煙を上げて「それ」は現れた。
「ブモォォォォッ!!」
巨大な影。
全身が黒鉄の鱗と筋肉で覆われた、戦車のような猪の群れだ。
その数、十頭以上。
「ひ、ひぃぃッ!? 『魔鉄猪』だぁ!?」
コノワが悲鳴を上げる。
アナがそれらを見て、冷静に告げる。
「魔鉄猪。廃棄都市の鉄くずを食べて育つ、獰猛な魔獣です。その突進は鉄骨すらへし折り、皮膚は銃弾すら弾くといいます」
さすが有能秘書、よく勉強してる。
「あいつら、麦の魔力と匂いに釣られて来やがったんだ!」
「逃げろ! あんなのに勝てるわけねぇ!」
コノアたち、数人の部下が恐怖で後ずさる。
いつもなら、彼らは我先にと逃げ出していただろう。
だが。
「――逃げるんじゃねぇ!!」
コノワが叫んだ。
彼は震える足で踏みとどまり、錆びた鉄パイプを構えて猪の群れに立ちはだかったのだ。
「ここは……俺たちの畑だぞ! 兄貴がくれた、俺たちの『明日』なんだ! 渡してたまるかぁぁッ!!」
その叫びに応えるように、他の男たちも足を止める。
恐怖で顔を引きつらせながらも、彼らは逃げることをやめ、武器を構えた。
守るべき「家」と「食料」ができたことで、彼らの中に覚悟が芽生えたのだ。
「……いい目をするようになったね」
わたしは彼らの背中を見て、感心した。
その心意気は合格だ。
だからこそ――死なせるわけにはいかない。
「みんな、下がっていて」
わたしは静かに告げる。
「ウチの『主力』が挨拶するから」
「え……?」
わたしの言葉と同時に、二つの影が飛び出した。
キリカと、ガラだ。
「フン……。せっかくの実りを荒らすとは、風流の解せぬ豚どもだ」
キリカが腰の魔剣に手をかけ、冷ややかな視線を向ける。
「は! ちょうど運動不足だったんだよぉ! 鉄くずにしてやるぜぇ!」
ガラが愛用の銃をジャキッと装填し、日本刀を構える。
「ブモォォォッ!!」
先頭の巨大な猪が、蒸気機関車のような勢いで突っ込んでくる。
コノワたちが悲鳴を上げるほどの速度。
だが、キリカは動じない。
「遅い」
すれ違いざま。
銀閃が奔った。
ザンッ――!!
硬質な音が響く。
次の瞬間、鋼鉄の皮膚を持つはずの猪の首が、音もなく宙を舞っていた。
キリカの作る断面は鏡のように滑らかだ。
「な……!?」
コノワたちが絶句する間もなく、今度はガラが動く。
「オラオラオラァッ!!」
ドォン! ドォン!
至近距離からの射撃。
魔力を帯びた弾丸が、猪の顔面を粉砕し、巨体を後方へと吹き飛ばす。
さらにガラは、横合いから来た別の猪の眉間に日本刀をぶっ刺し、その角を素手で掴むと、
「うりゃあぁぁぁッ!!」
豪快な一本背負いで、地面に叩きつけた。
ズガァァァンッ! と地面が陥没し、その衝撃で日本刀が眉間を貫いていた。
「強すぎる……」
「兄貴の側近……化け物揃いじゃねぇか……」
部下たちがポカンと口を開けて見守る中、一方的な蹂躙劇は数分で終了した。
遠距離攻撃部隊を使うまでもなかったね。
畑には、ピクリとも動かない猪の山が築かれている。
麦への被害はゼロだ。
「ご苦労さま、二人とも」
わたしは二人に労いの言葉をかけ、倒れた魔鉄猪に近づく。
そして、【鑑定】スキルを発動した。
「……うん、素晴らしい」
わたしは思わずニヤリと笑った。
丸々と太った魚体……いや、巨体。
鉄を食べて育った骨は、鉱物成分を含んで強靭だが、煮込めば極上の出汁が出る。
筋肉質な肉は、脂が乗っていて旨味が凝縮されている。
「じゃ、解体作業しようかな」
「え? こ、こいつを食うんですか? 鉄みたいに硬いっすよ?」
コノワが信じられないという顔をする。
確かに普通の包丁では刃が立たないだろう。
「それにゴミ食ってるから、体に毒あるだろうし」
と、コノア。
だが、わたしのリサイクルショップ(スキル)にかかれば関係ない。
「調理法次第だよ。……こいつは、最高の『チャーシュー』と『スープ』になる」
わたしはその場で解体を開始した。
「スキル発動――【資源回収】!」
リサイクルショップスキルのひとつ、資源回収。
皮と骨、肉を綺麗に分離させる。
また、体内の毒素と肉とを完全分離することも可能だ。
あっという間に、畑の横には「精肉」と「豚骨」の山が出来上がった。
目の前には、収穫したばかりの黄金の小麦。
そして、向こうから勝手にやってきた極上の肉と骨。
役者は揃った。
「よし。今夜は、この麦と肉を使って……最高に美味い『ラーメン』を作ろうか」
「らーめん? わかんねぇけど、兄貴が言うなら絶対美味い!」
勝利の興奮も冷めやらぬまま、わたし達は意気揚々と食材を抱えて拠点へと戻るのだった。
今夜、廃棄都市に新たな食文化の革命が起きる。
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