59.廃棄都市のホワイト革命と、禁断のマヨネーズ
【おしらせ】
※20時に、もう一度、更新します。
圧倒的な力の差を見せつけ、わたし達はコノワたち廃棄族のグループを制圧した。
彼らは武器を捨て、ガタガタと震えながら地面に額を擦り付けている。
「ひぃぃ……命だけは! なんでもします! 奴隷にでもなんでもしてくだせぇ!」
奴隷にするつもりはない。
この人たちは、わたしの領民でもあるんだからね。
漂流者たちみたいに、外部から来て暴れ回っているわけでもないし。
でも、かといって何もしないと、この人達が心安らかに暮らせないだろう。
何もせず「さいならー」って帰ったところで、自分らにまた何もしないって保証はない、と疑われかねない。
彼らはまだ、わたしに心から忠誠を誓っているわけでもないし。
ということで……。
「じゃあ、わたしと契約(雇用)しよう」
「え……けいやく?」
「そう。わたしの部下として働くなら、衣食住は保証する。壊れた武器も直してあげるし、給料も払うよ」
コノワたちが呆気にとられた顔をする。
「なんでそんな顔を? キエリュウもそれくらいは提供してくれたでしょ?」
わたしが尋ねると、コノワたちはふるふると首を横に振った。
「おれらにとって、敗者とは『死』か『奴隷』の二択しかなかったんで……」
……なるほど、武力で無理矢理従わせてたんだ。
キエリュウのやつ……ネタキャラっぽい名前のわりに、やることエグいや。
なおのこと、優しくしてあげないとね。
「ところで、君たちはどこに住んでるの?」
「す、住む場所……というか、その辺の瓦礫の隙間にテント張って……」
コノワが恥ずかしそうに指差した先には、ボロボロの布を被せただけの、雨風もろくに凌げない惨めなテントがあった。
ホームレス同然だ。これでは疲れも取れないだろう。
「うわぁ……それじゃ健康管理もできないね。社員の健康を守るのも、社長の仕事だ」
「へ?」
わたしは彼らを、拠点の広い空き地へと案内した。
そして、周囲に転がっていた鉄骨や瓦礫を積み上げる。
「スキル発動――【仕様変更】!」
ズズズッ……!
瓦礫の山がひとりでに組み上がり、変形していく。
ものの数分で、そこにはシンプルだが頑丈な「二階建ての集合住宅(プレハブ社宅)」が完成していた。
「あ、ありえねぇ……一瞬で城が建ちやがった……」
呆然とする彼らに、わたしはさらに畳み掛ける。
「次は歓迎会だ。何か食べるものはある?」
「い、一応……今日の配給分の『芋』がありやすが……」
コノワがおずおずと差し出したのは、泥だらけでカチカチに冷え切った、石のような芋だった。
彼らはこれを、生のままガリガリとかじっていたようだ。
「……硬いし、冷たいね」
「そ、そうなんす。でも、これしか食うもんがなくて」
あまりに劣悪な食環境。
わたしはため息をつくと、その芋を受け取った。
「貸して。美味しくしてあげるから」
わたしはトールに、作りたい物の概要を話す。
彼女は必要なものを手早くそろえ、図面を描き、わたしにイメージを与える。
わたしはそのイメージに従い、手近な鉄板とパイプを組み合わせて【仕様変更】スキルを発動した。
「魔道具、即席の『蒸し器』じゃ」
トールが胸を張る。
下に水を入れ、魔石で加熱する仕組みだ。
「芋はね、蒸すのが一番なんだ」
シュゥゥゥゥ……!
蒸し器から白い湯気が立ち上る。
数分後。蓋を開けると、そこにはふっくらと蒸し上がり、黄金色に割れたホクホクの芋が並んでいた。
甘い香りが、あたり一面に漂う。
「うおっ!? あの石みてぇな芋が、柔らかくなってやがる!?」
「まだだ。仕上げはこいつさ」
わたしは、とっておきの調味料を作ることにした。
貯蔵していた調理器具を取り出す。
以前、森で回収した魔物の卵(鶏卵に近い)と、酢(自前)を用意する。
そして油だが、これは『漂流者』のバイクなどから回収した燃料を、【仕様変更】で食用油へと精製したものだ。
それらを容器に入れ、高速で撹拌する。
シャカシャカシャカシャカ……!
乳化し、とろりとしたクリーム状のソースが出来上がる。
黄金色に輝く、禁断の調味料――『マヨネーズ』だ。
「さあ、これをたっぷりつけて食べてみて」
「い、いただきやす……!」
コノワたちは、熱々の蒸かし芋にマヨネーズを乗せ、大きく頬張った。
「――ッ!!?」
全員の動きが止まった。
次の瞬間。
「う、うめぇぇぇぇぇッ!!」
絶叫が響いた。
「なんだこれ!? 芋が甘くてホクホクで……それにこの白いソース! 酸味とコクが爆発してやがる!!」
「悪魔的な味だ! こんな美味いもん、食ったことねぇよぉぉ!!」
大の大人たちが、涙と鼻水を流しながら芋を貪り食っている。
マヨネーズの濃厚な味が、彼らの飢えた脳髄を直撃したようだ。
「うぅっ……キエリュウの野郎は、俺たちをゴミ扱いしかしなかった……。『弱い者はそれだけで罪だ』って、腐った残飯しかよこさなかったのに……」
コノワが泣きながら語る。
キエリュウの支配は、恐怖と飢餓によるものだったらしい。
それに比べて、負けた相手に家を与え、こんな温かい食事まで振る舞うわたし。
そのギャップが、彼らの心を完全に溶かしたようだ。
「これだけじゃないよ」
わたしは彼らに語りかける。
「人手が増えれば、もっといろんな素材が集まる。そうすれば、もっと美味しい料理だって作れるんだ」
「も、もっと美味い料理っすか!?」
「そう。小麦粉があれば、『お好み焼き』や『たこ焼き』だって作れる。マヨネーズとも相性抜群だよ」
「おこの……たこ……!? わかんねぇけど、絶対美味いヤツだ!」
彼らの目に、希望の光が宿る。
それは、ただ生き延びるためではなく、未来への期待に満ちた目だった。
「だから、力を貸してほしい。君たちの手で、この生活をもっと豊かにしていくんだ」
わたしの言葉に、コノワたちは顔を見合わせた。
そして、一斉に地面に頭をつけた。
「はいぃぃッ!! 一生ついていきます、リオンの兄貴ぃッ!!」
「兄貴ぃぃッ!!」
……兄貴?
まあいいか。
恐怖ではなく、胃袋と恩義で、彼らは完全にわたしの信奉者となったようだ。
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