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56.スキルの限界と、鉄を叩く意味

【☆★おしらせ★☆】


あとがきに、

とても大切なお知らせが書いてあります。


最後まで読んでくださると嬉しいです。


 日本刀の作成を決めたわたし達は、さっそく行動を開始した。

 場所は、拠点の裏にある空き地だ。


「まずは、鍛冶場が必要だね」


 わたしはゴミ山から集めてきた大量の耐火レンガと鉄骨の前に立つ。

 まずは、不要なゴミを【買取】スキルでポイント化して整理してから、本命のスキルを発動する。


「スキル発動――【仕様変更リメイク】!」


 ズズズズズ……ッ!


 地面が鳴動し、資材がひとりでに組み上がっていく。

 壁ができ、屋根が架かり、炉が設置される。

 ものの数分で、そこには立派な「鍛冶工房」が完成していた。


「相変わらず、大将の建築速度はイカれてるねぇ……」


 ガラが呆れたように呟く。

 まあ、普通の建築業者が見たら卒倒する速さだろう。


 ちなみに、この場所の設計はトールに任せたものだ。

 改めてトールは凄いと思う。

 わたしの「ここに炉が欲しい」「こんな道具が必要だ」というざっくりとした説明を聞いただけで、自身の鍛冶師としての知識と照らし合わせ、完璧な図面を作り上げてしまうのだから。


「うむ。だがあくまで『箱』じゃ。肝心なのは、中身(刀)じゃぞ」


 トールが腕組みをして工房の中を見回す。

 その通りだ。

 重要なのは、ここであの「日本刀」を再現できるかどうかだ。


「まずは実験だ。わたしのスキルで、この日本刀をコピーしてみるよ」


 わたしは工房の隅から適当な鉄塊を持ってくると、作業台の上に置いた。

 そして、見本となるオリジナルの日本刀を横に並べる。


「【仕様変更リメイク】!」


 わたしの手から光が溢れ、鉄塊を包み込む。

 鉄が飴細工のようにぐにゃりと変形し、オリジナルの形状を模倣していく。


 数秒後。

 光が収まると、そこにはオリジナルと瓜二つの日本刀が転がっていた。


「すげぇ! もう完成かい!? これなら一日に何千本でもいけるじゃん!」


 ガラが目を輝かせて飛びつく。

 確かに、見た目は完璧だ。

 刀身の反り、刃の厚み、そして美しい刃文まで、完全に再現されている。


「……いや、待って」


 だが、わたしは違和感を覚えた。

 手に持った時の「感触」が違うのだ。

 オリジナルにあるような、手に吸い付くような密度がないというか、どこか軽い。


「これじゃダメだ。見た目は同じでも、中身が『別物』だよ」

「え? どういうことだい?」


 不思議そうな顔をするガラに、わたしは実験して見せることにした。


「見てて」


 わたしはスキルで作ったコピー刀を構え、そこらに転がっていた鉄パイプに向かって振り下ろした。


 ガキンッ!!


 鈍い音が響いた。

 鉄パイプには浅い傷がついただけ。

 それどころか――。


「折れた……!?」


 わたしの手の中で、コピー刀は無残にも真ん中からへし折れていた。

 刃こぼれなんてレベルじゃない。

 まるでガラス細工のように脆い。


「なんでじゃ? 成分も形状も、完璧にコピーしたはずじゃろ?」


 トールも眉を寄せて首をかしげる。

 わたしは折れた刀の断面を見て、確信した。


「わたしのスキルは『形を変える』だけなんだよ」

「形?」


「うん。粘土を型に押し込むのと同じさ。でも、日本刀の凄さは『形』じゃなくて、その『工程』にあるんだ」


 わたしはトールに説明する。

 この世界の剣は、溶かした鉄を型に流し込む「鋳造」が一般的だ。

 だから、金属の組織がスカスカで、不純物も多い。


「でも日本刀は『鍛造』で作られている。熱して、叩いて、伸ばして、折り返す。これを何千回、何万回も繰り返すんだ」


 鉄を叩くことで、中の空気を抜き、不純物を外に追い出す。

 そして何層にも折り重ねることで、鉄の密度と強度を極限まで高めているのだ。


「スキルで形だけ真似ても、叩いてない鉄はスカスカのままだ。だから、衝撃に耐えられずに折れちゃうんだよ」


 形だけの模倣品コピーでは、本物には勝てない。

 やはり、手間を惜しんではいけないということか。


「なるほど! 形ではなく、叩くという『工程』そのものに意味があるわけか!」


 トールがポンと手を打つ。

 さすが天才鍛冶師、理解が早い。

 わたしはトールの目を見て、頼み込む。


「だからトール。君の力を貸してほしい」

「ふむ?」

「わたしのスキルじゃ、形は作れても『鍛える』ことはできない。……この日本刀を、君の手で作ってほしいんだ」


 わたしはオリジナルの刀をトールに差し出す。


「この切れ味を再現するには、君の技術が必要だ。……できるかな?」


 わたしの問いかけに、トールはニヤリと口角を上げた。

 その瞳が、職人の情熱でギラリと光る。


「愚問じゃな。鉄を打つのは鍛冶師の領分じゃ」


 トールは袖をまくり上げると、使い込まれた愛用のハンマーを手に取った。


「わしを誰じゃと思うておる。天才トール様じゃぞ? 主が求めるなら、伝説の剣だろうが神の武器だろうが、この腕一本で打ち上げて見せるわい!」


「頼もしいね。資材ならいくらでもあるよ」


 そこからのトールは凄まじかった。

 わたしがゴミ山から拾ってきた良質な鉄塊を炉にくべ、真っ赤になるまで熱する。

 そして、台座に乗せると、大きくハンマーを振りかぶった。


 カァンッ!!


 重く、鋭い音が響き渡る。

 トールの腕筋肉が隆起し、正確無比なリズムで鉄を叩き続ける。


 カァン! カァン! カァン!


 熱しては叩き、伸ばしては折り返し、また熱する。

 飛び散る火花。滴り落ちる汗。

 それはまさに、鉄と炎との格闘だった。


「ふんッ! せぇいッ!」


 気合の声と共に、鉄塊が徐々にその姿を変えていく。

 不純物が叩き出され、鋼の密度が極限まで高められていくのが、素人のわたしにも分かった。

 何千、何万回というハンマーの打撃。

 その一撃一撃に、トールの魂が込められているようだ。


 やがて、日が傾き始めた頃。

 ジュゥゥゥ……ッ!

 水で焼き入れを行う音が響き、白い蒸気が立ち上った。


「……できたぞ」


 蒸気の中から、トールが一本の刀を取り出す。

 わたしはそれを受け取り、仕上げの研磨を行った。

 そして、恐る恐る【市場調査リサーチ】スキルを発動する。


【鑑定結果:真打・日本刀(品質:最高)】

【説明:天才鍛冶師トールによって鍛え上げられた鋼の剣。オリジナルをも凌駕する強度と、凄まじい切れ味を誇る】


「……すごい。完璧だよ、トール」


 わたしは出来上がった刀を掲げる。

 刃文の美しさもさることながら、その強度は折り紙付きだ。

 試しに鉄パイプを斬ってみると、まるで空気でも斬ったかのように両断され、刀身には傷一つ付かなかった。


「ふっふっふ、わしにかかればこんなものよ!」


 トールが煤だらけの顔で、ニカっと笑う。

 その顔は、仕事をやり遂げた職人の誇りに満ちていた。


「ありがとう、トール。これなら、あの竜人とも戦える」


 わたしは新しく生まれ変わった日本刀を握りしめる。

 最強の武器は手に入った。

 あとは――これを振るうための「準備」を進めるだけだ。



【おしらせ】

※2/2(月)


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