55.日本刀つくろう!
翌朝。
雨はすっかり上がり、突き抜けるような青空が広がっていた。
わたし達は拠点の前の広場で、キリカの新しい力のテストを行っていた。
「いくぞ!」
キリカが鋭く叫び、腰を落とす。
その対面には、トールが徹夜で修理し、装甲をさらに厚くした実験用ゴーレム「スクラップ・ガーディアンMk-Ⅱ」が立っている。
キリカの右手の甲、黄金の刻印が一瞬だけ輝く。
「――【技巧再現】ッ!」
シュンッ!!
風を切る音すらしなかった。
キリカの姿がブレたかと思うと、次の瞬間にはゴーレムの背後に移動していた。
遅れて、ズズン、と重い音が響く。
厚さ数センチの鉄板で補強されたゴーレムの右腕が、滑らかに切断されて地面に落ちた音だった。
「すげぇ……昨日の今日で、完全にモノにしてやがる」
ガラが口をあんぐりと開けて驚く。
わたしも同感だ。
あのキエリュウとかいう竜人の「神速」。
それを完璧にトレースし、再現して見せたのだ。
これなら、幹部クラスが相手でも互角以上に渡り合えるだろう。
あくまで、キリカは、だが。
「リオン様。なんだか浮かないお顔ですわ。どうしたのです?」
アナがわたしの表情変化に気づいて、尋ねてくる。
「……キリカは強くなって、廃棄族と互角に渡り合えるようになった。でも、これだけじゃ足りないね」
「確かに。個として強くとも、組織としてはまだまだですわ。ガラたち餓狼団は、キエリュウと比べると戦力的に見劣りします」
キリカは強い。最強だ。
だが、戦えるのがキリカ一人だけというのは、組織としてあまりにも脆弱すぎる。
相手は「廃棄族」。
その名の通り、徒党を組む集団だ。
もし、キリカがキエリュウのような強敵に足止めされている間に、他の雑魚敵が大挙して押し寄せてきたら?
わたしやガラ、トールを守りきれる保証はない。
「しかし大将、あたいらはキリカと違って特別な力はねーぜ?」
ガラが困ったように頭をかく。
アナの魔法、キリカの技能といった、そういう才能に依存した力を、ガラたちは持っていない。
数の暴力に対抗するには、こちらも「数」と「質」で対抗するしかない。
強力な武器が必要だ。
それも、才能に関係なく誰でも扱えて、かつ決定打になり得るような武器が。
「ちょっと、宝探しに行ってくるよ」
わたしは皆にそう告げると、広大なゴミ山の方へと向かった。
◇
廃棄都市のゴミ山。
ここには、世界中からあらゆる「不要なもの」が捨てられている。
中には、異世界や別次元から流れ着いた「漂流物」も混ざっているという。
わたしは山のように積まれたガラクタの前に立ち、スキルを発動した。
「スキル発動――【市場調査】」
わたしの視界に、無数の情報ウィンドウが走る。
『鉄屑』『壊れた椅子』『プラスチック片』……。
大半は価値のないゴミだ。
だが、わたしが探しているのは、そんなありふれたゴミじゃない。
もっと鋭く、もっと危険で、この状況を打破できる「掘り出し物」。
(……反応あり。座標特定)
数ある反応の中で、一つだけ異質な輝きを放つ反応を見つけた。
わたしは瓦礫の山を登り、その場所へと手を伸ばす。
「よいしょ、っと」
引き抜いたのは、一本の鉄の棒だった。
赤茶色に錆びつき、泥にまみれ、見る影もないほど朽ち果てている。
「なんだい大将、そのボロい鉄くずは?」
後ろをついてきていたガラが、不思議そうな顔をする。
「ただのゴミに見えるけどねぇ。そんなもん拾ってどうすんだい?」
「ううん、これはゴミじゃないよ。……磨けば光る、最高の原石なんだ」
わたしはニヤリと笑うと、その鉄塊に手をかざした。
「スキル発動――【商品修繕】」
わたしの手から温かな光が溢れ、鉄塊を包み込む。
表面を覆っていた分厚い錆が、ボロボロと剥がれ落ちていく。
歪んでいた刀身が真っ直ぐに矯正され、欠けていた刃が修復される。
そして、光が収まった時。
わたしの手には、一振りの美しい剣が握られていた。
「なっ……!?」
ガラが息を呑む。
緩やかな曲線を描く、片刃の剣。
刀身には波のような美しい紋様――刃文が浮かび、青白い冷徹な輝きを放っている。
「これは……『日本刀』だね」
おそらく、異世界(わたしの故郷のような場所)から流れ着いた漂流物だろう。
長い時を経てここで朽ちかけていた名刀を、わたしが呼び覚ましたのだ。
「トール、ちょっとこれを見てくれないかな?」
わたしは拠点に戻り、鍛冶師であるトールに刀を見せた。
「なんじゃその美しい鉄は……!?」
トールが目を丸くして飛びついてくる。
彼女は震える手で刀を受け取ると、食い入るように刀身を見つめた。
「薄い、軽い、なのに異常に硬い……! こちらの世界の剣とは、根本的に作りが違うぞ」
「うん。こっちの剣は、型に流し込む『鋳造』か、叩いて伸ばすだけのものが主流だよね?」
わたしが尋ねると、トールは頷く。
この世界の製鉄技術は、まだ発展途上だ。
不純物が多く、どうしても剣は「分厚く」「重く」なる。
切れ味よりも、重さで叩き潰すような武器が一般的なのだ。
「でも、この刀は違う。鉄を折り返し、何万回も叩いて鍛えることで、徹底的に不純物を取り除いているんだ。だから、信じられないほど硬くて、鋭いんだよ」
技術レベルの格差。
それが、この圧倒的な切れ味の正体だ。
「見てて」
わたしは刀を受け取ると、近くにあった実験用の鉄パイプに向き直った。
力を入れず、ただ重力に任せて刃を落とす。
カアンッ……
澄んだ音が響いた。
次の瞬間、鉄パイプは何の抵抗もなく、斜めに滑り落ちた。
切断面は鏡のように滑らかだ。
「ヒッ……!」
ガラが小さな悲鳴を上げる。
魔法による強化もなしに、ただの鉄を豆腐のように切り裂いたのだ。
「すごい切れ味だよね? これを量産したいんだ」
わたしはトールに向き直る。
この切れ味を持つ武器を、キリカだけでなく、量産したゴーレム部隊全員に持たせることができれば。
それは廃棄族の脅威に対抗しうる、強力な軍隊になるはずだ。
「トール、これと同じもの、作れる?」
「むぅ……」
トールは刀を光にかざし、真剣な表情で唸る。
「構造は複雑怪奇。異なる鉄を組み合わせるなど、狂気じみた技術じゃ。普通の鍛冶屋なら一生かかっても無理じゃな」
「トールでも無理?」
わたしが挑発するように尋ねると、トールはカッと目を見開いた。
「誰に向かって口を利いておる! わしは天才トール様じゃぞ!」
彼女は鼻息荒く、刀を掲げた。
「ゼロから作れと言われれば難しいが、こうして最高の手本があるんじゃ。解析して模倣するくらい、朝飯前じゃわい!」
「よし、決まりだね」
頼もしい答えに、わたしは満足げに頷く。
「じゃあ、この『日本刀』の量産ラインを作ろう。素材なら、このゴミ山にいくらでもあるから」
最強の個であるキリカと、日本刀で武装したゴーレム軍団。
反撃の準備は、着々と整いつつあった。
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