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50.爆速の到着と、鉄屑の守護神(ガーディアン)



 キキーッ!!

 乾いたブレーキ音と共に、ブラックリオン号が停車する。

 屋敷を出てから、まだ15分ほどしか経っていない。


「と、到着ー。お疲れ様でした」


 運転席のトールがサイドブレーキを引くと、後部座席のガラが呆けた声を上げた。


「は……? もう着いたのか?」

「うん。ここが廃棄都市の入り口だよ」

「嘘だろおい……。いつもなら、泥道を半日かけて歩いてたんだぞ? まだアタイ、尻も痛くなってねぇぞ!?」


 ガラが信じられないといった顔で窓の外を見る。

 そこには紛れもなく、見慣れた絶望の景色――廃棄都市デッドエンドが広がっていた。


文明の利器(ごしゅじんさま)、すげぇ……。これなら朝起きて、都市でひと暴れして、昼飯は屋敷で食うなんてこともできるじゃないか」


 感動で震えるガラ。

 移動革命は大成功だ。これで通勤ストレスはゼロになった。


「さて、と。……改めて見ると、すごい場所だね」


 わたしは車を降り、目の前の都市を見上げる。


 そこにあるのは「混沌」そのものだった。

 中世風の石造りの城壁が崩れ落ちているかと思えば、その隣には、前世で見覚えのある鉄筋コンクリートのビルが、墓標のように傾いて突き刺さっている。

 錆びついた鉄塔、朽ちた看板、そして積み上げられたガラクタの山。


 異世界の魔法文明と、捨てられた召喚者たちの現代知識。

 それらが無秩序に混ざり合い、腐敗したのがこの都市だ。

 鼻を突くのは、鉄錆と汚水の混じった独特の臭気。


「……視線を感じますね」


 アナが小さく呟く。

 崩れた壁の隙間、割れた窓の奥。

 無数の薄汚い視線が、新参者であるわたしたちを値踏みしているのが分かる。

 獲物か、強者か。殺れるか、奪えるか。

 そんな殺伐とした気配だ。


 わたしは前にもここへ来たことがあるけれど、頻繁に来ていたわけじゃないから、新参者扱いされているのだろう。

 それはつまり、ここの住人たちに、わたしが領主として全く認知されていないということだ。

 まあ、これだけ無法地帯なら当たり前か。


「とりあえず、ここに『拠点』を作ろうか。落ち着いて作戦会議をする場所が必要だし」

「うむ。魔導車の中じゃ、面と向かって会議もできんしのう」


 トールの言う通りだ。

 それに、今後はここでの作業も多くなるわけだから、腰を据えて落ち着ける場所が必要だった。


 わたしは手頃な場所――半分崩れかけた石造りの廃墟を見つけると、その場へ歩み寄る。

 屋根はなく、壁も穴だらけだが、素材としては十分だ。


「【買取】! からの……【商品修繕リペア】!」


 わたしはまず、周囲に散乱していた瓦礫やゴミを買い取り、RPリサイクルポイントに変える。

 そしてそのポイントを使い、目の前の廃墟を修復する。


 バラバラだった石材がひとりでに動き出し、パズルのように組み合わさっていく。

 隙間を埋め、壁を補強し、屋根を架ける。

 あっという間に、頑丈でシンプルな「石造りの家」が完成した。


「相変わらず、リオン様はさすがですわ。今ある物を有効活用する……そのリサイクル術に、感服いたしました」


 アナはいつも通り褒めてくれる。

 一方で、キリカが不思議そうに首をかしげた。


「なんで最初、ゴミを買取したのだ? 掃除か?」

『使い手キリカよ。主リオンの能力発動には、ポイントが必要なのじゃ。ゆえに、ゴミをポイントに変える作業が必要じゃったのじゃ。ここへ来るまでにも、道路舗装やらなんやらでかなり使っておったしの』


 魔剣グーラがキリカに解説を入れる。


「あ、なるほど。で、掃除も兼ねてってわけか。さすがボクの主は頭が良いなぁ!」


 わたしは満足げにうなずく。

 しかし、ガラの反応は冷ややかだった。


「やめときな大将。ここは廃棄都市だぞ?」

「え? 何か問題でも?」

「大有りだよ! こんな綺麗で頑丈そうな家、ハイエナどもの格好の餌食だ。アタイたちがちょっと目を離した隙に、ドアや窓はもちろん、屋根の建材まで一枚残らず剥がされて盗まれるのがオチさ」


 ガラが呆れたように肩をすくめる。


「ここには『解体』が得意な連中も多いんだ。鍵をかけたって無駄さ。壁ごと持っていかれるんだからな」

「あー……なるほど」


 世紀末すぎる。

 普通の街なら「戸締まり」で済むけど、ここでは家そのものが「素材の山」に見えてしまうわけか。

 かといって、わたし達が24時間交代で見張りをするのも非効率だ。


「ふむ……。要は、泥棒が入ろうとした時に、追い払ってくれればいいんじゃな?」


 顎をさすりながら、トールが口を開く。


「トール、何かいい案があるの?」

「うむ。文句も言わず、24時間不眠不休で家を守る『番犬』を作ればいいのじゃ」


 トールがニヤリと笑い、懐から羊皮紙とペンを取り出す。

 サラサラと描かれたのは、人型の図面。

 以前作ったような精密機械(車)ではない。もっと単純で、力強い構造。


「『自動防衛人形ガード・ゴーレム』じゃ。ここの周りには、材料となる鉄くずが腐るほどある。これを使って、最強の番人を作るのじゃ!」

「なるほど! ゴーレムね! それならいけるかも!」


 わたしはトールの設計図を受け取る。

 構造はシンプルだ。魔石を核にして、周囲の金属をボディとして動かす。


「よし……素材はそこら中に落ちてるね」


 わたしは周囲に散乱している、錆びた鉄骨や壊れた荷車の車輪、鉄板などを一箇所に集める。

 本来ならただのゴミだが、リメイク素材としては一級品だ。


「魔石は、魔導車用に加工した余りがあるのじゃ。これならすぐ作れるじゃろう」

「いくよ……【仕様変更リメイク】!」


 魔力を流し込むと、鉄くずの山が渦を巻くように集結する。

 錆びた鉄骨が骨格となり、鉄板が装甲となり、歯車が関節となる。

 トールの設計図通りに組み上がったのは、全長3メートルを超える、鋼鉄の巨人だ。


 ズゥゥゥン……!


 完成したゴーレムが、重厚な音を立てて大地を踏みしめる。

 全身が赤錆と黒鉄で構成された、無骨で凶悪なフォルム。

 頭部のスリットからは、魔石の赤い光が不気味に漏れ出している。


「おお……! 迫力がすごい……!」

「名付けて『スクラップ・ガーディアン』じゃ! 特定の魔力を持つ者以外が拠点に近づけば、容赦なく排除するよう設定してあるぞ」


 トールが胸を張る。

 これなら、どんな命知らずの泥棒でも、近づこうとは思わないだろう。


 実際、遠巻きにこちらの様子を伺っていたハイエナたちが、「ひっ、なんだあの化け物は!?」「逃げろ!」と青ざめて逃げていくのが見えた。

 一応領民(まだ認められてないけど)を驚かせちゃったな。ごめんね……。


「完璧だね。これで安心して拠点が使えるよ」

「へぇ、やるじゃないか。ゴミを使って番犬を作るなんて、大将らしいや」


 ガラも感心したようにゴーレムの足を叩く。

 こうして、わたしたちは廃棄都市の中に、誰にも手出しできない鉄壁の拠点を築き上げたのだった。

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※1/22(木)


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