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49.廃棄都市の成り立ちと、動く要塞の強度実験



 ヒュォォォォ……。

 風切音だけを残し、黒い鉄の塊が荒野を疾走する。


 わたしたちを乗せた魔導装甲車「ブラックリオン号」は、完成したばかりのアスファルト道路を滑るように走っていた。

 時速は80キロを超えているが、車内は驚くほど静かだ。


「へぇ、こいつはほんとに大したもんだねぇ。揺れ一つしないなんてさ」


 後部座席でふんぞり返りながら、ガラが感心したように窓の外を眺める。

 彼女の視線の先には、近づいてくる巨大な黒い影――「廃棄都市デッドエンド」の威容があった。


「なぁ大将。これからあそこへ乗り込むんだ。ちっとは予備知識を持っておきな」


 ガラが真面目な顔(といっても、胸元は相変わらずはだけているが)で語りだす。


「そうだね。改めてお願い。廃棄都市について教えて、ガラ」

「あの都市はな、元々は『ゴミ捨て場』だったんだ。……それも、物だけじゃねぇ。『人間』のな」

「人間?」

「ああ。大昔、異世界から召喚された『勇者候補』たちがいたらしい。だが、スキルが弱かったり、性格に難があったりした連中は『役立たず』の烙印を押され、この森に捨てられたんだとさ」


 ……っ!

 その言葉に、わたしは息を呑む。

 異世界からの召喚者。それはつまり、わたしと同じ「日本」から来た人たちのことかもしれない。

 役立たずとして捨てられた彼らが、生きるために築いた場所。

 それが、廃棄都市デッドエンドの始まり……。


「その後も、国中の犯罪者やら、食い詰めた連中が流れ着いて、今じゃ巨大なスラム街になっちまってる。アタイの『餓狼団』なんて、あの中じゃ可愛いモンさ。中にはマジでヤバい連中が派閥を作って、日々殺し合いをしてる」


 ガラが脅すようにニヤリと笑う。

 確かに、無法地帯の危険な香りしかしない。

 でも。


「大丈夫だよ。わたしには、こんなに心強い仲間がいるからね」


 わたしは車内のみんなに微笑みかける。

 剣聖キリカ、魔剣グーラ、元餓狼団ボスのガラ、万能メイドのアナ、そして今ハンドルを握ってくれている天才鍛冶師トール。

 今回は武闘派のフルメンバーだ。

 このメンバーがいれば、どんな敵が来ても怖くない。


 そう、確信して言ったのだけど。


「……あら? リオン様、それはつまり……私たちに『身も心も預ける』というプロポーズですか?」

「主……。ボクが、守ってあげる……。だから……その代償に……」


 あれ?

 バックミラーに映るみんなの目が、とろんと濁り始めた。


「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。……なら、早速守ってやるよ。大将のその『貞操』をな!」


 ガバッ!

 狭い車内で、美女たちが身を乗り出してくる。

 あちこちから伸びてくる手、手、手!


「ぎゃああああ! やめて! トールが今運転中だから! やめてってばもー! パンツに手を突っ込んでるのだれー!?」


 敵よりも味方の方がよっぽど危険だ!

 車内がパニックになりかけた、その時だった。


 ドォォォォォォン!!


 前方で爆発音が響き、真っ黒な黒煙が上がった。

 道を塞ぐように、瓦礫のバリケードが築かれている。


「ああん? いつの間にあんなバリケードが……?」


 廃棄都市出身のガラが首をかしげる。

 ということは、つい最近……作られたものってこと……?

 わたしが作ったこの道を塞ぐってことは、もとは白骨樹海に入ってきた人たちを、通せんぼするために作られたバリケードってことか……。

 はた迷惑な話だ。


 そして、瓦礫の上にはモヒカン頭の男たちが待ち構えていた。


「ヒャッハァァァー! 見ろぉ! 上等な乗り物が来やがったぜぇ!」

「あー……廃棄都市の連中だねありゃ」


 ガラが呆れたように言う。


「と、いうか……彼らはこの道や、魔導車を見ても何とも思わないの……?」


 だって、いきなりこんな道や車が現れたら、普通びっくりしない?

 警戒したり、危険だと思ったりしない……?

 わたしが当然の疑問を口にすると、ガラが肩をすくめた。


「まあ、見るからにあいつら、頭がパーっぽいから、わっかんねーんだろ」


 うーん、ひどい言い草だけど……真理っぽいよね。


「停まれ停まれぇ! 命が惜しくば、その鉄の箱と女を置いていきなぁ!」


 典型的な世紀末スタイルの盗賊団だ。

 火炎魔法の杖や、ボウガンをこちらに向けている。


「チッ、ハイエナ共か。……大将、どうする? アタイが出て捻り潰してこようか?」


 ガラが不機嫌そうに舌打ちをする。

 せっかくのイチャイチャタイム(一方的)を邪魔されてお冠のようだ。


「ううん、いいよ。……ちょうどいい機会だ。トール、そのまま進んで。徐行でいいからね」

「む? いいのか?」

「うん。見せつけてあげよう」


 トールがニヤリと笑い、ハンドルを握り直す。

 このブラックリオン号の「強度実験」にはもってこいの相手だ。

 一応彼らもわたしの領民なんだけれども、敵意を持っているのは明らかだ。

 いくら可愛かろうと、飼い主に牙を剥く犬は、ただの狂犬である。


 トールが魔導エンジンを吹かす。


「なっ!? 停まる気配がねぇぞ!?」

「野郎、死にてぇのか!? 撃てぇぇぇ!」


 盗賊たちが一斉に攻撃を開始した。

 火球が飛び、鉄の矢が雨のように降り注ぐ。

 普通なら、馬車ごと木っ端微塵になる火力だ。


 だが。


 カカカカカカンッ!!


 硬質な音が響くだけ。

 火球はボディに当たって霧散し、矢は装甲に弾かれてへし折れた。

 ガラスに直撃したボウガンの矢も、傷一つ付けられない。


「は……? き、効かねぇ……!?」

「なんなんだあの硬さはぁぁ!?」


 驚愕に目を見開く盗賊たち。

 甘いな。こちとら戦車の装甲に、トールの防御魔法までコーティングしてあるんだ。

 そんな豆鉄砲が通じるものか。


「ふっはははは! どうじゃ、リオンとわしの愛の結晶(子供)は! 頑丈じゃろうっ!」


 トールがなんか興奮していた。

 愛の結晶って……いや、確かに二人の技術の結晶だけどさ!


「どいてな! 怪我がしたくなければのぅ!」

「え、ちょ、トール!?」


 トールは無慈悲に突っ込む。

 ドガァァァァァァン!!

 バリケードの瓦礫が、まるで発泡スチロールのように粉砕され、宙を舞う。


「ひ、ひいいいいい! ば、化け物だぁぁぁ!」

「逃げろぉぉぉ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う盗賊たちを尻目に、魔導車は傷一つ負わずに突破した。


「すごい……。今の衝撃、車内では小石を踏んだ程度にしか感じませんでした」


 アナが感嘆の声を漏らす。

 トールも「カッカッカ! 見たかゴミ虫共! わしの傑作に傷を付けようなんざ100年早いわ!」と高笑いだ。


 圧倒的な防御力と突破力。

 この「動く要塞」があれば、廃棄都市のどんな悪党も敵じゃない。


「穏便に済ませて欲しかったんだけど……」

「いいんだよ、ご主人様。ああいう手合いは、舐められたらおしまいさね」


 ガラがフォローしてくれる。

 うーん、郷に入っては郷に従え、ってことなのかな。


「さあ、見えてきたよ。……あれが、廃棄都市デッドエンドだ」


 黒煙と鉄錆の匂いが漂う、巨大なガラクタの街。

 わたしたちはついに、領地の最深部へと足を踏み入れた。

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※1/22(木)


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