43.エピローグ
イキリ太郎たちの襲撃から、数日が経過した頃。
わたしたちの領地に、王都から派遣された巡回騎士団が到着した。
やってきたのは、全身鎧に身を包んだ、熊みたいにゴツイおじさんだった。
この一団の長らしい。
騎士団長かと思って聞いてみたら、「いや、そんな偉くねーよ」と笑い飛ばされた。
熊おじさんは、わたしが捕まえたイキリ太郎たちを見て、目を丸くしていた。
「おお……まさか、各地の港を荒らし回っていた凶悪海賊団『黒い衝動』を一網打尽にするとは……!」
「『黒い衝動』……」
だ、ダサい……。なんてダサい名前なんだろう……。
聞いてるこっちが恥ずかしくなるネーミングセンスだ。
「海賊なんですね、この人たち」
「ああ。国中に手配書が回っている、立派な指名手配犯だ。……漂流者ってのは、こいつらだけじゃなくてな。他にも沢山いて、国も手を焼いているんだ」
他にもいるんかい……。
どうやらイキリ太郎たちは、ここに来る前にもあちこちで略奪を繰り返していたらしい。
まあ、あの性格なら納得だけど。
「フクロウ便で報告を受けたときは、にわかには信じられなかったが……マジだったんだな」
「ええ、マジです」
「ふむ……若いのに大したもんだ。リオン殿、貴公の武功に感謝する! これは国からの懸賞金だ。受け取ってくれ!」
ズシリ、と重たい革袋を渡される。
おっとっと。
あまりの重さに体勢が崩れかけたところを、桜香が後ろから支えてくれた。
「ありがと桜香……ぎゃー!」
「んっ……首筋なめなめ……♡」
「こらっ! ナチュラルにセクハラしないでよー!」
わたしの悲鳴を聞きつけ、SSR家臣団が桜香を羽交い締めにして引き剥がす。
「てめぇ抜け駆けすんなや!?」「主リオンをなめなめはぷはぷするのは暗くなってからじゃろうが!」「お、おぬしらあの子にセクハラするのはやめよ……まだ幼いんじゃぞ?」「だからいいんじゃあ……はあはあ……ないですか……はあはあ……」
……なんか背後で、教育に良くなさそうな会話が聞こえるけど。
聞かなかったことにしておこう。
「フクロウ便で見てましたけど……本当に報酬、出していただけるんですね」
イキリ太郎を捕まえて、その旨を報告したら、国からの返事にそう書いてあったのだ。
「ああ。国も困ってるからな、漂流者連中には」
イキリ太郎みたいな「自分が主役」だと思ってる連中が、他にも沢山いるんだろうなぁ。
まったく困ったもんだ。
郷に入っては郷に従え。最低限のマナーは守ってほしいよ。
「主ぃ~! すごいぞー!」
キリカがぶんぶんと手を振る。
彼女の手には、さっきわたしが貰った革袋がある。
中身を見せてくると、そこには眩いばかりの金貨がぎっしり詰まっていた。
「え、こんなに……?」
もらえるとは聞いていたけど、ここまで大金だとは思わなかった。
わたしの驚いた顔を見て、熊おじさんが不思議そうな顔をする。
「金のためにやったのではないのか?」
漂流者は強いし、危険だ。
普通なら関わり合いになりたくない。
それでも手を出したってことは、この高額な賞金目当てだと思っていたらしい。
わたしは首を横に振った。
「? はい。領民を守るために戦ったまでです」
正直、お金がもらえるって知ったのはその後だったしね。
熊おじさんは目を丸くした後、ニカっと豪快に笑った。
「そうか……偉いな!」
ガシガシガシ!
わたしの頭を、大きな手で力強く撫で回す。
いや、痛い痛い。子供扱いしないでほしい。
「リオン殿のような立派な領主がいれば、この辺境も安泰だな。……では、この罪人どもは我々が引き取ろう」
「はい、では」
ドナドナされていくイキリ太郎たちを見送り、わたしは手元の革袋を見つめる。
予期せぬ臨時収入だ。
このお金は重要だ。家族が60人も増えたんだから、いくらリサイクルで生活必需品を作れるとはいえ、現金が必要な場面は必ず来る。
「アナ、これで美味しいお肉とか、パンとか、買ってきて。今日はパーティだ!」
「かしこまりました。腕によりをかけて調理いたしますね」
◇
さて、邪魔なゴミ(人間)は片付いた。
次は、残されたゴミ(兵器)の処理だ。
海岸には、乗り上げたままのクルーザーが残されている。
戦車の方はもう買取してポイントになっちゃったけど、クルーザーの方はまだ残してある。
わたしの【商品修繕】を使えば、新品同様に戻すことも可能だ。
これを使えば、海上の移動は楽になるかもしれないけれど……。
「……これ、いらないなぁ」
わたしは即決した。
理由は単純。維持費(燃費)だ。
この船はガソリンや軽油で動く。
でも、この世界には化石燃料なんて売っていない。
動かすたびに、KAmizonのスキルを持っていた彼から燃料を奪うか、あるいはわたしがRPを使って【商品修繕】をする必要がある。
まあ、だから使えないことはないんだ。
でも、ちょっとさっき試そうとして分かったことなんだけど、この世界にない資源を修繕しようとすると……めっちゃポイントがかかる!
水源を直したときは、そもそもこの世界にあったものだから、そこまでポイントはかからなかった。
でも、現代文明が生んだ機械は、向こうの世界で精製されたガソリンでなきゃ動かない。
そういう「異世界の資源」をリペアで復元しようとすると、莫大なコストがかかるのだ。
コストパフォーマンスが悪すぎる。
それに、海にはもう真魚美がいるし、トールが作ってくれた「ガレオン船」がある。
風と魔力で動くあっちの方が、この世界には合っている。
というわけで。
「君たちは、『資源』になってもらうよ」
今回の戦いで大量のRPを獲得し、リサイクルショップのレベルが3に上がった。
そこで手に入れた新スキルが、火を噴くよー!
「――【資源分別】!」
シュンッ!
わたしがクルーザーに触れた瞬間、巨大な質量が光の粒子に分解された。
後に残ったのは、船ではない。
綺麗に積み上げられた、素材の山だ。
「おおっ! すごいぞリオン!」
見ていたトールが駆け寄ってくる。
「こりゃあ純度の高い鉄……いや、鋼鉄じゃな! それにこの黒いゴムのような素材、そして見たこともない精密な部品たち! これだけの素材があれば、ガレオン船の補強も、屋敷の改築もやり放題じゃ!」
そう、【資源分別】は、対象を解体し、再利用可能な「素材」へと変換するスキルだ。
ただRPに変えて消してしまうより、こうして素材として確保し、トールの手で新しいアイテムに【仕様変更】してもらう方が、何倍も価値がある。
「トール、任せたよ」
「応とも! 最高のリサイクルをしてやるわい!」
これで、素材問題も一気に解決だ。
そして、レベル3の恩恵はもう一つある。
【貯蔵】の拡張だ。
今まで「8畳」ほどだった亜空間倉庫が、倍の「16畳」に広がった。
天井も高くなり、ちょっとした体育館の倉庫くらいの広さがある。
これなら、大型の魔物素材や、今回手に入れた大量の資材も余裕を持って収納できる。
今回のレベルアップは、派手さはないけれど、リサイクルショップとしての「基礎力」が格段に上がった感じだね。
◇
その夜。
領主の館では、盛大な祝勝会が開かれた。
メニューは、アナが報奨金で買ってきた最高級の「骨付き肉」と、焼きたての「白パン」。それに新鮮な野菜のシチューだ。
「ん~っ! 美味しい!」
「肉だ! 久しぶりの肉だぁ!」
トールが骨付き肉にかぶりつき、元奴隷のクルーたちもパンを頬張って涙を流している。
わたしたちのリサイクル生活も豊かになってきたけど、やっぱりこうして「お金を出して買う贅沢」も大事だよね。
みんなの笑顔を見ていると、本当に頑張ってよかったなと思う。
食後の茶を飲みながら、わたしはバルコニーに出る。
そこからは、領地が一望できた。
海岸はみんなのおかげで、綺麗になりつつある。ドックも完成した。
森の魔物も、餓狼団たちが頑張ってくれているおかげで、数は減ってきている。
わたしの「ゴミ拾い」によって、この辺境領地は着実に復興しつつある。
だけど。
「……次は、あそこだね」
わたしの視線は、領地の中心部……廃棄都市デッドエンド。
そこには、未だ手付かずのゴミの山。
そして、その奥にはきっと、とんでもない「お宝」や「危険」が眠っているはずだ。
「生活基盤は固めたし、今回の件で資金とポイントも大量ゲットした。……次は、『本丸』の大掃除だ」
わたしのリサイクル活動は、まだ始まったばかりだ。
よし、明日からも忙しくなるぞ――と、気合を入れた時だった。
「リオン様♡」
「ん?」
背後から、甘い声がした。
振り返ると、そこには頬を赤らめたアナ、キリカ、桜香、真魚美、ガラ、グーラ……SSR家臣団が勢揃いしていた。
なんだろう、美味しいお肉を食べて精がついたのか、みんな目が据わっている気がする。
「良い食事は、良い身体を作ります。……そして」
「良い『世継ぎ』を作るための、活力にもなるな」
アナとキリカが、じりじりと距離を詰めてくる。
「いやいやいや……世継ぎって、わたし8歳! まだ子供だから!」
「だからこそです! 今のうちから英才教育(性教育)を施し、立派な種馬に育て上げるのが家臣の務め!」
「おねーさんが、手取り足取り教えてあげるからねぇ~♡」
真魚美が触手(?)を伸ばしてくる。
あ、これヤバい。
漂流者との戦いよりも、遥かに身の危険を感じる!
「わ、わあぁぁ! 誰か助けてぇぇ!」
わたしはバルコニーから飛び降り、夜の領地へと逃げ出した。
「あ、逃げた! 追えぇぇ!」
「今日こそは既成事実をぉぉ!」
追いかけてくる美女軍団。
まったく、わたしのスローライフはいつになったら訪れるのか。
ゴミ拾い領主の忙しい毎日は、まだまだ続きそうだ。
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