42.漂流者と転生者
ドガガガガガァンッ!
頭上からの榴弾直撃を受け、鋼鉄の怪物が内部から破裂した。
砲塔が吹き飛び、分厚い装甲が飴細工のようにひしゃげる。
もはやそれは最強の兵器ではない。ただの燃え上がる巨大な鉄屑だ。
「げほっ……ごほっ……!」
黒煙を上げて燃える残骸から、一人の男が這い出てきた。
イキリ太郎だ。
煤で真っ黒になり、自慢の迷彩服もボロボロ。
さっきまでの傲慢な態度は見る影もない。
「よくあれの直撃を受けて、生きてますね……」
と、アナが呟く。
「現代科学技術が優秀ってことだよ」
彼を守ったのは戦車の複合装甲だろう。
現代は、言うてやっぱりこっちよりも技術力は上なのだ。
魔法のような奇跡を持たざる者の住む世界。
持たざるからこそ、必死に努力し、知恵を絞り、良い物を作り上げる。
装甲板も、人が傷つかないようにするためにはどうすればいいかを、数多の人間が突き詰めていった結果できたものだ。
その長い年月の研鑽が、彼を守ってくれたんだろう。
装甲板だけじゃない。彼がKAmizonで購入し、使い捨てていたもの全てがそうだ。
それらを、ちゃんと運用すれば、わたしたちは負けていただろう。
……彼らの敗因はただ一つ。自分の力(金と通販)を過信しすぎたってことだね。
「あ、あぁ……俺様の戦車が……最強の力が……」
彼は震える手で虚空を操作し始めた。
「このまま……やられてたまるかぁ! か、回復……! 最高級ポーションだ! いやエリクサーだ! 購入ぅぅぅ!!」
ブブーッ!
軽快な決済音ではなく、無情なエラー音が響き渡る。
彼の前に表示された赤いウィンドウ。
そこには、残酷な現実が記されていた。
『エラー:残高が不足しています』
「な……!? 残高不足だとぉお!」
イキリ太郎の目が点になる。
「う、嘘だろ……!? 俺様の数億ゴールドが……! この世界で貯め込んだ全財産が……さっきの無駄撃ちで全部消えたのか!?」
「そうだよ」
わたしは冷たく告げる。
「君は、君自身の身を守るために、弾を買いすぎた。わたしが全部防ぐから、君はムキになって浪費し続けたんだ」
それが、わたしの狙いだった。
「金」という燃料で動くKAmizonの弱点は、金が尽きればただの箱になること。
戦車を呼び出した時点で、彼の財布は限界だったのだ。
「お見事です、リオン様。敵の力を見抜いていらっしゃったとは」
「まあ、強すぎる力には制約があるもんだからね」
わたしのリサイクルショップだってそうだ。
ゼロから、無限に物は作れない。
ゴミを買取し、ポイントを稼ぐという制約がある。
このKAmizon男も、絶対に何か制約があると思った。
そこで、わたしは考えたのだ。
現実の通販ショップでは、お金を払って物を買うと。
だからこいつの制約は、「取り寄せるためには金が必要」ってものだと推測したのだ。
だから、バカみたいに撃たせまくったのである。
「さっさと片を付ければいいんだったら、キリカやグーラに暴れさせればよかっただけだし」
そうしなかったのは、相手の資金源を奪うためだったのだ。
まあ……狙いは他にもあったけども。
「あ……あぁ……」
武器もない。金もない。
今の彼は、ただの無力な、この世界に流れ着いてきた……本当の意味での漂流者だ。
「ちくしょぉおおお! ふざけんなぁぁぁ!!」
絶望が、彼を狂気へと駆り立てた。
彼は折れたナイフを握りしめ、涎を垂らしながらわたしへ突っ込んでくる。
「殺してやる! 殺してやるぞガキぃぃぃ! 俺は選ばれし勇者だぞぉぉぉ!」
最後の悪あがき。
でも、わたしは指一本動かさない。
動かす必要がない。
「アナ、お願い」
「はい、リオン様」
スッ、と。
わたしの前に、メイド服の少女が立ちはだかる。
いつもは優しいアナの瞳が、今は絶対零度のように冷え切っていた。
「――【跪きなさい】」
彼女の唇から紡がれたのは、絶対の強制力を持った「言霊」。
ズンッ!!
空気が歪むほどの重圧が、イキリ太郎を襲った。
「ぐ、ぎゃっ……!?」
見えない巨人の手で押し潰されたように、イキリ太郎が地面に叩きつけられる。
顔面が砂にめり込み、指一本動かせない。
「か、体が……動かねえ……!?」
「リオン様に牙を剥く愚か者が。身の程を知りなさい、下等生物」
アナが冷徹に見下ろす。怖い。でも頼もしい。
完全に動きを封じられた彼の元へ、もう一人の家臣が歩み寄る。
「終わりだ」
キリカだ。
彼女は感情のない瞳で、愛剣の柄を振り上げた。
「がッ……」
ドゴォッ!
硬質な音が響き、イキリ太郎が白目を剥いて気絶する。
完全なる沈黙。
わたしたちの勝利だ。
「さすがキリカ。ちゃんと殺さなかったね」
「ふふん、主ならそうするだろうって思ったからなっ。以心伝心ってやつだ……!」
ああ、ほんと、わたしは素晴らしい家臣を持った。
わたしは、ラッキーだったなぁ。
「さてと」
わたしは、まだくすぶっている戦車の残骸に近づく。
「これ、放置しておくと邪魔だしね」
わたしが触れると、巨大な鉄屑の山が光となって消滅する。
ついでに、海岸に乗り上げていたクルーザーも【買取】。
『大量の鉄資源、レアメタル、内燃機関パーツを獲得しました』
『RPが上限突破しました』
すごい量の資源だ。
これなら、新しい施設も作り放題だね。
そう、これが彼にKAmizonを使わせまくっていた理由。
彼らはわたしたちを、攻撃してきた。
わたしたちから奪おうとしてきたのだ。
あのアニメでも言っていたでしょ?
「奪って良いのは、奪われる覚悟のある奴だけだ」ってね。
そっちが先に奪おうとしてきたんだから、奪われても文句は言えないよ。
「リオン様~! こいつらも捕まえたよ~!」
海の方から真魚美の声がする。
見れば、海に落ちた他の漂流者たちが、海藻でぐるぐる巻きにされて水揚げされていた。
全員、海水を飲んでグッタリしている。
◇
その後、わたしはイキリ太郎を縛り上げ、尋問を行った。
意識を取り戻した彼は、地面に額を擦り付けて泣き叫んだ。
「ま、待ってくれ! 頼む、助けてくれよぉ!」
その姿に、さっきまでの威勢の良さは微塵もない。
「お、俺たち、同郷だろぉ? 同じ日本人じゃねえか! こんな異世界で、日本人同士で争ってる場合じゃねえだろ!?」
彼は必死に「同胞意識」に訴えかけてくる。
言葉が通じる。文化を知っている。
確かに、この広い異世界で、唯一「日本」という共通点を持つ相手だ。
普通なら、情が湧くのかもしれない。
手を取り合って、協力しようと思うのかもしれない。
――でも。
「……それが、どうしたの?」
わたしの声は、自分でも驚くほど冷えていた。
「まさか仲間にしてくれって?」
「あ、ああ! そうだ!」
「ごめん、お断りだよ」
「なっ……冷たいこと言うなよぉ! 俺が持ってるKAmizonの知識とか、役立つだろ!? な!? 仲間に入れてくれよぉ!」
彼はまだ分かっていない。
わたしが彼を拒絶する理由は、メリットやデメリットの話じゃない。
もっと根本的な、「生き方」の違いだ。
「君はさ」
わたしは屈み込み、彼の目を見る。
「この世界のことを、どう思ってる?」
「は? どうって……そりゃあ、剣と魔法のファンタジー世界だろ? 俺らが楽しむためのステージじゃねえか」
悪びれもせず、彼は言った。
それが、決定打だった。
「だからだよ」
「あ?」
「君は、この世界を『ゲーム』だと思ってる。現地の人たちを『NPC』だと思って、命を使い捨てにした」
わたしは背後にいるアナやキリカ、そして元奴隷のクルーたちを見る。
彼らは、わたしの大切な家族だ。守るべき領民だ。
プログラムされたデータなんかじゃない。温かい血が通った人間だ。
「わたしは違う。わたしはここで生まれ、ここで育った。アナも、キリカも、トールも、みんなわたしの大切な家族だ」
わたしは胸に手を当てる。
前世の記憶はあるけれど、今、わたしが生きているのは「ここ」だ。
「君は、ただの『お客さん(転移者)』として遊びに来て、勝手に暴れただけ。でも、わたしはこの世界の『住人(転生者)』なんだ」
リオン・サイハーデンとして生きると決めたあの日から。
わたしの魂は、この世界に根を張っている。
「わたしの家族を奴隷にしようとした君を、同郷だからって許すわけないだろ?」
「ひっ……!」
わたしの言葉に、イキリ太郎が顔を引きつらせる。
「こ、殺すのか……? 日本人を……殺すのかよぉ!」
「殺さないよ」
わたしは首を横に振る。
殺すのは簡単だ。でも、それは「リサイクルショップ」の流儀じゃない。
ゴミだって、使い道はある。
「君たちを騎士団に引き渡す。君がやったのは立派な犯罪だ。捕まって、多分君たちは労働奴隷となるだろうね」
「ど、奴隷! そんな……!」
「そして君たちは、この世界で働いてもらう。この世界の人たちがどれだけ必死に生きているか、その身で味わってもらうよ」
「い、いやだぁ! 俺は勇者だぞ! なんで俺が働かなきゃなんねえんだよぉ!」
「働かざる者、食うべからず。日本のことわざ、知ってるでしょ?」
わたしは冷ややかに言う。
「ああ、それと君たちがKAmizonで買った物は、全部有効活用させてもらうよ」
「あ……あぁ……」
イキリ太郎がガックリと項垂れる。
こうして、異世界からの身勝手な侵略者は、この世界の「備品(労働力)」として再利用されることになったのだった。
【お知らせ】
※1/12(月)
好評につき、連載版、投稿しました!
『【連載版】辺境の【魔法杖職人】が、自分の作る杖は世界最高だと気付くまで ~「魔力ゼロ、愛想もない」と婚約破棄された私が、帝都でひっそり店を開いたら、いつの間にか国中の英雄が並ぶ行列店になっていました~』
https://ncode.syosetu.com/n9623lp/
広告下↓のリンクから飛べます。




