40.漂流者との邂逅
「なんだあれ!?」「あれは船か?」「しかし、帆がないのに動いてるぞ!?」
元奴隷クルーたちが、海岸に集まって騒いでいる。
天才鍛冶師トールですら、腰を抜かして震えていた。
「魔導船ですらない……魔力を使って船を動かしてるわけでもない! なんじゃ、あれは一体!?」
驚愕、そして困惑する領民たち。
そんな中でわたしだけは、奴らの乗っているものの正体を知っていた。
あれは、クルーザーだ。
こちらの世界には存在しない、内燃機関で動く鉄の船。
「がはははは! おもれーおもれーなぁー!」
船の先端に、一人の男が立っていた。
そいつは、黒い髪に、黒い目をした男だった。
「黒髪に黒目……漂流者じゃ!」
……なるほどね。
あれが噂の「漂流者」か。
わたしは全ての合点がいった。
昔からいるという、漂流者。
そして、彼の乗っている船。
漂流者、それは紛れもなく「異世界転移者」だ。
「やっぱ最高だぜぇ、現実のチートアイテムで、原始人相手を驚かすのはよぉ~! なぁてめえらぁ!」
男の周りには、迷彩服を着た男たちが集まっている。
彼らも同じく黒髪に黒目をしていた。
全員、まとめてこっちの世界に召喚されたのか……あるいは、流れてきたのか。
彼らの事情については分からないし、今はどうでもいい。
問題なのは、漂流者が明らかにこっちを威嚇してきていることだ。
でも、まだだ。
まだ、敵と断定はできない。
「ねえ! おじさん!」
「ああん? なんだてめえ……ガキ?」
男はわたしを見下ろしている。
少し、不愉快そうだ。
そりゃそうだ、現実の船を見せても、わたしが驚いている素振りを見せないのだから。
驚くわけない。わたしは日本で見たことあるんだから。
「初めまして、わたしはリオン・サイハーデン。領主です。あなたの名前を聞かせてください」
すると男がニマリと笑う。
「俺は【イキリ・タロー】だ。てめえらの世界で言うなら、タロー・イキリってところかなぁ」
イキリ・タローさんね。
すごい名前だ。本名なのかな。
「イキリ・タローさんは、一体この領地に何しに来たんですか?」
「名前じゃねえよ、イキリ・タローは通り名だよ!」
男が顔を赤くして怒鳴る。なんだ、違うのか。
「で、何しに来たの?」
「チッ。決まってんだろ、俺様がこのクルーザーで船上パーティナイしてたらよぉ、ちょーどいい感じのドックがあるじゃあねえかって見つけてさ」
彼はわたしたちが苦労して作ったドックを指差す。
「そいつをちょろっと、頂戴しようかなーってよ」
彼は下卑た笑みを浮かべながら、ドックだけでなく、後ろにいる真魚美やトールたちをねっとりと見回した。
明らかに、こちらを舐めている。
自分たちの方が文明レベルが上であり、現地の人間など蹂躙できる対象だと信じて疑っていない目だ。
彼らにとって、この世界の物はすべて「拾ったアイテム」程度の認識なのだろう。
……許せない。
わたしたちが、頑張ってリサイクルし、積み上げてきた物を。
この人らは、横から出てきて、奪おうとしてる。
「……それ、強奪ですよね? 犯罪ですよ?」
「は! 知るかよ、てめえらの世界の法律なんてよぉ。俺様は、泣く子も黙る漂流者! どうだ、恐れ入ったろう!?」
「って、言われてもね……」
まだ別に何かした訳じゃあないしね、この人ら。
タローがニヤリと笑い、仲間たちに合図を送る。
武装した男たちが立ち上がり、手に持った黒い筒――サブマシンガンをぶっ放す。
ダダダダダダダダ……!
乾いた破裂音と共に、海岸の砂浜に無数の弾丸が撃ち込まれた。
漂着したゴミや岩が砕け散り、砂煙が舞う。
「ひぃっ!」「なんだあの音は!?」「見えない魔法か!?」
元奴隷たちが蒼白になり、カタカタと震えている。
「あれが漂流者……」「とんでもない力を持った、異世界から流れ着いた連中だって聞くぜ」「そんな……」「恐ろしい……」
今の……サブマシンガンだ。
こちらの世界には存在しない、火薬と鉛の暴力。
現地人が驚き、脅威に感じるのも無理はない。
タローは、そんな彼らの反応を見て、口元を歪めた。
怯える人々を見て興奮する、サディスティックな笑み。
「大人しくドックを渡すってんなら、ま、攻撃は当てないでやんよ。そん代わり、お前ら奴隷な」
「「「そんな! 理不尽な!」」」
クルーたちが声を張り上げる。
そうだよね、ついこの間まで奴隷として酷使されていて、やっと解放されたのに……。
また理不尽な暴力で奴隷にさせられるなんて、嫌だもんね。
タローは、ニマァっと笑う。
「こいつを見ても、同じ反応ができるかなぁ。【KAmizon】!」
……KAmizon?
すると、虚空が歪み、空中から大きな箱が出現し、奴の足元にドサッと落ちる。
段ボールだ。
そして、側面には、黒い矢印のロゴマーク。
「虚空から何かを取り出したぞ!?」「アイテムボックスか!?」「あんな箱見たことないぞ!」
未知の魔法に怯える奴隷たち。
「ぎゃはははは! いやぁさいっこぉ」
タローは、そんな彼らの反応を見てご満悦だ。
「やっぱ異世界転移の醍醐味だよなぁ。チート能力で、現地の原始人ども相手に、イキリ散らかすのはよぉ!」
……さて。
ここまでで分かったこと。
一つ、漂流者は異世界転移者ってこと。
二つ、彼らは何らかのチート能力を持っているってこと。
三つ、彼らは現地人を見下し、自分たちの欲望のためなら人の命など路傍の石ころ程度にしか思っていないクズだということ。
「どうする、ガキぃ~……?」
「どうする? 決まってるよ」
漂流者は確かに強い。
けど不思議と、怖くはなかった。
「君たちには、何も渡さない。この人たちも、ドックも、領主であるわたしのものだ。君たちに何一つとして、あげるものなんてない」
「「「リオン様……」」」
みんなを、わたしは守るんだ。
「大人しく帰って」
「へんっ! 偉そうにしやがって……。教えてやるよ、異世界チート無双ってやつをなぁ! てめえらやっちまえ!」
仲間の漂流者たちは、KAmizonで購入した段ボールから、何かを取り出す。
予備のマガジンだ。
ガチャガチャ、と彼らは慣れた手つきで弾を装填していく。
騒ぎを聞きつけて、SSR家臣たちもやってきた。
「みんなは、クルーたちを領主の館まで避難させて!」
「しかし! リオン様は!?」
「ここはわたしに任せて」
アナが青い顔をする。
彼女は、漂流者たちの異様な装備を見て、本能的に危険を察知しているのだろう。
本当は……わたしの側にいたい。盾になりたいのかもしれない。
でも、主であるわたしの命令は「民を守れ」だ。
アナは唇を噛み締め、ぐっと堪えて頷いた。
「……承知いたしました。皆を無事送り届けたらすぐに、戻って参ります」
「うん、お願いね」
アナと桜香、真魚美が、クルーたちを誘導して下がっていく。
残ったのは、キリカとガラ、トール、そしてグーラ。
武闘派の家臣たちだ。
「みんな、わたしが命令するまで、攻撃はしないで。敵はおそらくチート能力を持ってる」
重火器、そしてクルーザー。
それらはこっちの世界にないものだ。
おそらく、何らかの、この世界の法則から外れた力……チート能力を使って、作る、ないし取り寄せてる。
どっちかというと、後者に近いかもしれない。
でも、それ以上の力をまだ隠し持ってる可能性はある。
「分かった……主よ」
キリカが頷き、他の人たちも頷く。
「さぁ、来なよ、漂流者」
「イキってんじゃあねえぞ原始人がよぉ! 撃てぇええ!」
タローの号令と共に、甲板に並んだ男たちが一斉にトリガーを引く。
ダダダダダダダダ……!
数十発、数百発の鉛玉が、暴風のようにわたしへと殺到する。
もうもう……と砂煙が立ち、わたしの姿を覆い隠す。
「がははは! 俺様に逆らうから蜂の巣になっちまうんだよぉ!」
「誰が、蜂の巣になるって?」
「あぁ……!?」
砂煙が晴れる。
わたしは……サブマシンガンの集中砲火を受けても、しかし無傷だった。
「な、て、てめえ……なんで無事なんだ……。こっちは特殊部隊の訓練を受けてる、プロなんだぞ? ……てめえ、何者だ!」
「プロだかなんだか知らないけど……」
わたしは、驚愕に目を見開くタローに言う。
「わたしは、リオン・リサイクルショップの店主だよ」
敵の攻撃は、わたしのリサイクルショップスキルの効果の一つ、【買取】を使って防いだ。
銃口から放たれた弾丸は、所有者の手から離れた時点で……所有権放棄された「ゴミ」と見なせる。
わたしの、ゴミを買取する能力があれば、銃弾がわたしに届く直前に、【買取回収】を行えるのだ。
物理的な防御じゃない。概念的な没収だ。
「さ、君たちの手札、もっと見せてよ」
「き、気色の悪い能力を使いやがってぇ……!」
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