表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/74

38.分からされた捨てられ女ドワーフは、今晩、最高傑作《あかちゃん》作ろうとする【Side:トール】

【Side:トール】


 わしはトール・クラフト。女ドワーフだ。

 場所は、つい先ほど完成したばかりのドック。

 その食堂で、ドック完成、および新しい仲間が加わったということで、祝いの宴が開かれていた。


 新鮮な魚の料理に、リオンがどこからか調達してきた酒。

 元奴隷のクルーたちは、涙を流して飲み食いし、どんちゃん騒ぎをしている。

 リオンが連れてきた家臣も加わり、盛大な、それでいて楽しい宴が繰り広げられていた。


「……ふん。騒がしい奴らじゃ」


 わしは喧噪から少し離れたテーブルで、一人、盃を傾けていた。

 口に入れた瞬間、高級果実のようなフルーティな香りが広がる。

 しかし、舌にベタベタとした甘さを感じさせない。

 するり……と酒が喉を通っていく。

 えぐみも、苦みもない。

 さりとて、飲むと体が芯から、かぁ……と熱くなる。


 ……なんと美味い酒だろう。


 こんな上物があるとは。廃棄都市ではお目にかかれないものだ。

 ……おそらく、リオンがごみの中から見つけて、そして奴の持つ力で、再生したのだろう。

 奴の言葉を借りるなら、リサイクル、したんだろうな。

 こんなスクラップ同然だった、わしと……同様に……。


「…………」


 わしは盃を置き、自分の右手を見つめた。

 5本の指。

 動く。握れる。熱を感じる。

 かつて失われ、二度と戻らないと諦めていた職人の命。


「……夢のようじゃな」


 酔いが回ったせいか。

 わしは、忌まわしい過去を思い出していた。


     ◇


 かつて、わしには「神」と崇める師がいた。

 帝国宮廷筆頭鍛冶師、ゴルドガンツ。

 国一番の腕を持ち、わしにとっては親であり、目標であり、世界の全てじゃった。


 孤児のわしを拾い、食べさせてくれただけでなく、生きていくための術として、鍛冶の技術をたたき込んでくれた。


『トール。お前は天才だ!』


 師匠はいつもそう言って、わしの頭を撫でてくれた。

 わしは嬉しかった。わしは、孤児だった。でもそれは、別に親が死んだとかではない。

 わしは、帝国のスラムに捨てられておった。

 それはつまり、親に要らない子扱いされたということだ。


 ……そんな不要なわしを、拾って育ててくれた、師への恩を、少しでも返したかった。


 だから、わしは師匠の役に立ちたくて、師匠に認められたくて、来る日も来る日も鉄を打った。

 不要だと捨てられたわしに、価値を見いだし、褒めてくれた、師匠のために。

 寝る間も惜しみ、血を吐くような努力をして……わしは、ある一つの剣を完成させた。


 それは、王家に献上するための剣だ。

 師匠との競作だった。

 わしと師、それぞれ剣を作り、出来の良い物が王の剣として納められる。


 師匠と競い合うことに、抵抗がないわけではなかった。

 だが、わしは確信していた。

 師匠ならば、たとえ万一勝ったとしても、きっと、「よくやった」と褒めてくれる。

 そう信じていた。


 それに、わしは示したかった。

 超えたかった、師匠を。

 それこそが、最高の親孝行になると。

 あなたが育てたことで、自分が立派に成長できたと。

 その姿を見せられたら、親である師匠は、きっと……誰より喜んでくれると。


 そう思っていた。

 そう、勝手に……思っていただけだった。


 審査の日、王の前に差し出されたわしの剣は――触れただけで折れる、ボロボロの駄作ナクラにすり替わっていた。


「な……!?」


 混乱するわしの横で、師匠が……ゴルドガンツが、見たこともない冷酷な笑みを浮かべていた。


『陛下。これはいけませんな。神聖なる儀式を愚弄するとは』

『師匠……!? なにを……これは、わしの剣では……!』

『黙れ! 未熟者が! 才能に溺れ、手を抜くからこうなるのだ!』


 師匠がわしを殴り飛ばした。

 違う。


 ……どうして、こうなった。

 わしは困惑した。

 わしは最高の剣を作ったはずだった。

 こんななまくらになるわけがない……。


 困惑するわしに、師匠が耳打ちする。


『トールよ。お前は優秀すぎた』


 師匠は、わしの耳元で小さく囁いた。


『お前がいると、私が霞むんだよ。……神の座に、二人は要らんのだ』


 ……その瞬間、わしは理解した。すり替えたのは、師匠だ。

 わしが……師匠の剣を超えるほどの傑作を作ってしまったから。

 自分の地位が脅かされるのを恐れた師匠が、わしを嵌めたのだ。


 わしは捕らえられ、断罪の場に引きずり出された。

 刑を執行するのは、師匠だった。


 振り下ろされた鉈が、わしの右手を砕いた。

 指と共に、わしの心も、誇りも、師匠への信仰も、すべてが泥にまみれて消えた。


 神の職人なんて、いなかった。

 いたのは、才能ある若芽を摘み取る、醜い老人が一人だけ。

 それが、わしの絶望じゃった。


     ◇


「……あいつは、違った」


 わしは顔を上げ、輪の中心で笑っている子供を見る。

 リオン・サイハーデン。


 あやつは、わしが描いた図面を見た時、なんと言った?

 『生意気だ』と怒ったか?

 『俺より目立つな』と嫉妬したか?


 ――ううん、すごいよ! ありがとうっ!


 あやつは、笑ったのだ。

 わしの才能を、技術を、手放しで称賛し、受け入れた。

 そして。

 あろうことか、わしの図面を遥かに超える精度で、一瞬にしてこの巨大ドックを具現化して見せた。


 嫉妬どころか。

 あやつの力は、わしのような矮小な職人が嫉妬する対象ですらない。

 理外の力。

 ゼロから有を生み出す、創造の御業。


「……本物の、神じゃ」


 わしが追い求めていた「神の職人」は、王宮になどいなかった。

 こんな世界の吹き溜まりに、いたのだ。


 ドクン、と。

 わしの腹の底で、熱いものが疼いた。

 それは職人としてのごうであり、同時に……一匹の雌としての本能じゃった。


 今のわしでは、逆立ちしてもリオンの「創造」には勝てない。

 ハンマーを振るっても、あやつのスキルには及ばない。

 だが……わしには一つだけ、あやつが持っていない「機能」がある。


 わしは自分の体を抱きしめる。

 【商品修繕リペア】によって若返り、完全に復元された、女の肉体。


 計算式が、脳内で火花を散らす。


 『創造神の遺伝子リオン』×『天才職人の遺伝子トール』。

 この二つを掛け合わせ、わしというこきゅうでじっくりと育て上げれば……?


「……できる」


 最強の、最高傑作が。

 それは剣でも盾でもない。

 わしらの血を引く、最強の「生命」じゃ。


「トール? どうしたの、顔が赤いよ」


 不意に、目の前にリオンの顔があった。

 心配そうに覗き込んでくる、無防備な瞳。

 ああ……なんて美しい素材なんじゃ。


 わしはガシッ! とリオンの手を掴んだ。


「うわっ!?」

「旦那様。わしは決めたぞ」


 ギラギラとした瞳で、わしは宣言する。


「え、なにを?」

「わしらの『最高傑作』を作るのじゃ。……今晩、さっそく設計図(DNA)の配合実験をするぞ」

「え? なんの話?」


 リオンがキョトンとしている。

 鈍感な神様じゃ。

 だが、逃がさん。

 わしはこの人の手足となり、頭脳となり……そして、伴侶となる。

 それが、絶望の淵から救い上げてくれた神への、わしなりの「信仰」じゃからな。


「さあ、部屋に行くぞ旦那様! 夜はこれからじゃ!」

「ちょ、トール!? 力が強い! アナ、助け……」


「……リオン様?」


 ズゾゾゾゾ……。

 背後から、氷点下の殺気が湧き上がった。

 ふん、邪魔者が来たか。

 だが、職人は諦めが悪いんじゃよ?


 わしはリオンの腕に、豊満になった胸をむぎゅりと押し付け、ニヤリと笑った。

【お知らせ】

※1/12(月)


好評につき、連載版、投稿しました!



『【連載版】辺境の【魔法杖職人】が、自分の作る杖は世界最高だと気付くまで ~「魔力ゼロ、愛想もない」と婚約破棄された私が、帝都でひっそり店を開いたら、いつの間にか国中の英雄が並ぶ行列店になっていました~』


https://ncode.syosetu.com/n9623lp/


広告下↓のリンクから飛べます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
作者的な話だと八宝菜は敵キャラにつくイメージだから不思議だったがそういうことか
やっぱり!こうなるのか。ま~、ほかの取り巻き達が黙ってないだろうけどね。どさくさに紛れてチューくらいされるかも にっしっし(・´з`・)♪
こきゅう????
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ