37.天才建築士ドワーフの図面で、最強ドック完成した
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
ドワーフの八宝斎こと、トールに力を借りることにした。
彼女に製図してもらって、ガレオン船を入れるドックを作るぞ!
「しかしリオン様」
と、アナ。
場所はガレオン船の船長室だ。
中央にある執務用の大きなテーブルの前には、トールが座っている。
「製図用の道具はありませんよ」
「確かに。わたしよくわからないけど、定規とかいるんじゃあないの? あと、紙の下に敷く板みたいなの」
「製図台と直角定規か? ……ふん、そんなもの必要ないわい」
トールは鼻で笑う。
「紙すらも置いてないのに?」
「あったらいいが、なくとも、わしが天才職人・八宝斎であることには変わりない!」
トールはそう言うと、海に転がっていた流木を焼き、それを削って作った即席の木炭を手に取った。
焦げた木の匂いが、ふわりと漂う。
そして、テーブルの上に置かれた木の板(これも漂流物だ)に向かい合った。
「地形の歪みが東に3度……地盤沈下がここにあるから、基礎は深く……水流の負荷が……」
彼女の目は、さっきまでの少女のそれではない。
鋭く、険しい、職人の目だ。
親指を立てて風景を測量したかと思うと、猛烈な勢いで板に線を引いていく。
シュッ、シュッ!
ガリガリッ!
迷いのない音が響く。
定規もコンパスもないのに、彼女が引く線は定規で引いたように真っ直ぐで、描かれる円は真円だった。
すごい。これが、「本職」の技。
「建てる場所、この船を測量してもいないのに……みるみる設計図ができていく……信じられませんわ」
アナが感嘆のあまり、ほうっと熱い吐息を漏らす。
「がはは! ドワーフの目をなめるんじゃあないっ」
ドワーフは人間と違う体の造りをしているらしい。
空間把握能力や、水平・垂直を感じ取る感覚器が発達しているとか。
だから、わたしたちじゃ絶対に不可能なことも、フリーハンドでやってのけるのだろう。
「……できたぞ」
ものの数十分。
トールが突き出した木の板には、信じられないほど精巧な図面が描かれていた。
「す、すーごい……! なにこの凄い設計図! めっちゃ精巧じゃん!」
わたしは板を見下ろしながら、目を丸くする。
「美しい……まるで一枚の絵画のようです……」
アナも感心して覗き込む。
そこには、ただの「ドックの形」だけではなく、内部の構造がびっしりと描き込まれていた。
湾の形状を活かした円形のドックに、波を制御する可動式の水門。
船を固定するための盤木の配置。
さらには。
「ねえトール、この横にあるタンクみたいなの、なに?」
設計図には、建物以外の装置も描かれているように、素人目には見えた。
ドックの横に、巨大なタンクが設置されているのだ。
「ん? ああ、それは海水濾過循環装置じゃ」
「濾過?」
トールが得意げに胸を張る。
「海水を汲み上げて、魔石フィルターを通して真水に変えるんじゃ。ドック内の水を真水に入れ替えれば、船体にフジツボも付かんし、塩で腐ることもない。もちろん、生活用水としても使えるぞ」
「へぇぇ……! すごい! そんなことまで考えてるんだ!」
「船員がいるなら、そいつらの寝泊まりするとこも必要じゃと思ってな」
アナが小首をかしげる。
「この大がかりな濾過装置、魔道具では? ゴミから作れるのですか?」
「ああ。あそこの海岸には、壊れた魔道具も落ちておる。わしは毎日海岸に通い、落ちてるゴミを見てきておるからなっ」
「なるほど……。ゴミとなる魔道具を組み合わせて、別の魔道具を作るのですね」
「そういうことじゃ」
はぁー、すごーい。
わたしはゴミを適当に【仕様変更】するだけだったけど。
どんなゴミを、どうリメイクするかってのを、ちゃんと考えることで、こういった新たな価値を作り出せるんだっ。
「本職は、違うなぁ~」
「ふふん! あと、こっちは居住区の図面じゃ。ただの箱じゃつまらんからな。疲れの取れるベッドに、個人ごとの収納棚、それに厨房の換気ダクトや排水管の取り回しまで、完璧に設計しておいたぞ」
見れば、椅子のネジ一本、配管のつなぎ目一つに至るまで、執拗なまでに詳細に描かれている。
流されてきた家や船、廃棄された鉄クズなどから、まさかここまでのものを作れるようになるとは。うーむすごい。
「……でも、ここまで細かく描く必要あったの? 『ドック』と『家』だけでも良かったのに」
わたしが尋ねると、トールは少しバツが悪そうに視線を逸らした。
「……いや、お主のスキルなら『何でも作れる』と聞いたからな」
「うん」
「普通なら、こんな装置や家具、予算も工期も足りなくて却下じゃ。でも……もし本当に一瞬で作れるなら、と思ってな」
彼女はチラリとわたしを見る。
「半信半疑じゃったが……『あったらいいな』という理想を、全部詰め込んでみたんじゃ。ま、さすがに全部は無理じゃろ?」
なるほど。
建築士としての「夢」を、ダメ元で乗せてみたわけだ。
そんな期待をされたら……応えないわけにはいかないよね!
「ううん、できるよ! 見てて!」
わたしたちは船室を出て、甲板に立つ。
潮風が髪を揺らす。
わたしの頭の中には、超が百個付くくらいの、精巧な建物の設計図がある。
トールが作ってくれた、夢のような設計図。
こんな素敵なものに生まれ変われるなら、きっとこの海岸で寂しそうにしていたゴミ達も、喜んでくれるだろう。
確かにドックを作るのは、自分の領地のためだ。
でも、それ以外の。作ってくれたトールと、作る元となるゴミ達のために!
「【仕様変更】! いでよ、スーパードック!」
カッッッ!!!!
海岸一帯が、まばゆい光に包まれた。
消費RPは、驚愕の40万ポイント。
船一隻を直すのとは桁が違う。
でも、それに見合うだけの「価値」が、この図面にはある!
「な、なんじゃ!? 光が……ゴミどもが浮いて……!?」
トールの驚愕の声をよそに、世界が書き換わっていく。
難破船の木材が、朽ちた鉄骨が、光の粒子となって分解され、再構築される。
ただ壁ができるだけじゃない。
建物の中で、トールの図面通りに「ベッド」が組み上がり、「濾過装置」のパイプが繋がり、「蛇口」が形成されていく。
それは建築というより、世界の創造に近い光景だった。
ズズズズズズンッ……!
重厚な地響きが轟き、光が収まる。
もうもうと立ち込める砂煙が晴れたあと、そこに現れたのは――。
「……はは、なんてことじゃ……」
トールが呆然と呟く。
その場にペタリとへたり込んでしまった。
「まさか……ここまでとは……のぅ」
「作ったのは君じゃん、トール」
「驚いておるのは……この設計図のものを、一瞬で作ってしまった、リオンのスキルにじゃよ……こんなの、神の奇跡としか言いようがないのじゃ……」
改めて、できたものを見やる。
天然の岩場と人工の石壁が融合した、堅牢な防波堤。
入り口には、鉄製の巨大な水門ゲート。
そして横には、巨大な濾過タンクが設置され、ブゥゥゥン……と静かに重低音の稼働音を立てている。
「リオンがいれば、世界中の職人は不要となるじゃろうな……」
「まさか! わたしはずるしてるだけ。本当の意味で作っちゃいないよ」
落ち込んでいるトールの肩を、わたしはポンと叩く。
「ゼロから、凄い物を作る職人には勝てないよ。大丈夫! トールはすごいよ! 自信持って!」
「う、うむぅ~……♡ まあ……うむぅ……♡」
うん、元気になってくれたようだ。
あとなんでだろう、モジモジとしていた。
トールらしからぬ所作な気がした。
「よし、じゃあ船を入れよう!」
「うむ。水門、開放!」
トールが叫ぶと、ギギギ……とゲートが開き、海水が流れ込む。
あらかじめ組み込んでおいた、音声認識の魔道具が作動したのだ。
「わ、すご……音声認識だ! よぉし、真魚美! 車庫入れお願い!」
「はぁい♡ まかせて」
真魚美がガレオン船を動かす。
巨大な船体が、吸い込まれるようにドックへと入っていく。
左右の幅は完璧だ。まるで測ったように、ぴったりと収まった。
「……入った。本当に入りおった」
「「「おー!」」」
「さ、みんな降りるよー!」
わたしたちは縄梯子を下ろし、ドックへと降りる。
トールは震える手でドックの壁を撫でる。
つなぎ目のない、魔法のような石造り。ひんやりとした感触が、現実であることを伝えてくる。
「居住区はどう?」
恐る恐る、トールが宿舎の扉を開ける。
そこには、彼女が「ダメ元」で描いたはずの、最高級の家具たちが並んでいた。
ふかふかのベッド、個人ロッカー、そして蛇口をひねれば迸る清涼な水。
「すげぇぇ!」「なんだここ、王都の貴族の家か!?」「水が出るぞー!」
クルーたちが歓声を上げて駆け回っている。
「なんということじゃ……とんでもない……! わしが描いた『最強のドック』が……そのまま、ここに……!」
自分の理想が100%……いや120%で具現化したことに、職人として驚きつつも、喜んでいるんだろう。
「わたしたち、いいコンビになれそうでしょ?」
「……ふん! そうじゃな、この天才に釣り合うほどの……化け物め!」
トールは悪態をつきながらも、その口元は嬉しそうに緩んでいた。
こうしてわたしたちは、最強の船と、最高の隠れ家。
そしてそれを支える、頼もしい天才建築士を手に入れたのだった。
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