36.傷ついたドワーフ再生計画
死滅海上にて。
グーラとキリカのコンビによる、遠洋漁業(もとい、遠隔RP回収)が行われた。
海魔蛇、20匹くらい。
これで20万RP確保。
さらに、小さい魚の群れに向かって適当に【暴虐なる暴食】を放って一網打尽にし……。
しめて、50万RP、ゲット。
50万って……。
「ポイント……インフレしてきたなぁ~……」
ついこないだ、みんなで頑張って鋼鉄蟻を苦労して倒した時は、10万ポイントとかそんなだったのに。
もうこんなに簡単に、ポイントが50万も取れるようになった。
いや、あの時と今とじゃ状況が違うか。
鋼鉄蟻のときは、まだ仲間が少なかった。
今は、暴食の魔剣グーラ、セイレーン真魚美もいる。
ガレオン船も手に入ったし、わたしのスキルのレベルも上がっている。
あの時よりも仲間が増えて、ポイント獲得効率が上がったのだ。
確かに結果だけ見れば、簡単に50万を取れたように見えるけど。
それを達成するのに、いろんなことを積み上げてきたからね。
「これくらいでいいか、ポイント?」
「うん、キリカ。そんくらいでいいよ。お疲れ。グーラも!」
「ふっ……。ボクはちょっと疲れちゃったな。さ……主。一緒に船室で休もうか」
「え? なんでわたしも……?」
「大丈夫、狭い船室、ぎしぎし……息遣いが聞こえる……バレてはいけない……それが興奮のスパイスになって……あいたっ!」
人間姿になったグーラが、キリカの頭をはたく。
「まったく、童貞はすぐ発情する。主リオン、駄目だぞ、こやつと一緒に狭い部屋に行こうとしては」
「うん、わかった」
「ということで……わらわと一緒に倉庫へと向かおう♡ 大丈夫、主はただ、力を抜いてわらわに身を委ねていればよい……♡ 主を食らって……きもちよぉくして……あいたー!」
キリカが今度はグーラの頭を叩く。
「おまえだってボクと同じじゃあないかー!」
「一緒にするな童貞!」
「だからボクは女だ!」
やれやれ。
あとでご褒美はあげよう……頑張ってくれたことは確かだしね。
「ポイントと素材も集まりましたね。では、いよいよ建築ですか」
「うーん……」
「どうしたのです、リオン様?」
アナが小首を傾げる。
「船のドックって……どう作れば良いかな?」
「? 今まで通り、【仕様変更】で一発で作り変えれば良いのではないでしょうか?」
「うん、そうだね」
わたしはウィンドウを開く。
画面には、【ドック作成:消費40万RP】の文字。
「ポイントを使えば、確かにドックは作れるんだ。でも……この船が入るように、ぴったりの建物が、果たして出力されるかなぁって」
【商品修繕】は、元の形に自動で戻る。
そこに考える余地はほぼない。だって元通りにするだけだからね。
でも、【仕様変更】は違う。
全く別のものに、作り変えるのだ。
確かに自動でできなくはない。
でも自動で作ったものには、思考がない。
例えるならAIと一緒なのだ。
ある程度、こっちで条件を入力すれば、【それっぽく】自動で作ることは可能だ。
でもそれは、自分の想定する100%のものにはならない。
微妙にズレが生じる。
「確かに、ご注文通りの『船着き場』は作れても、今回我らが持っているこのガレオン船をちゃんと収納でき、また利用しやすい形になるかどうかは……わからないということですね」
「そういうこと」
さすが、アナ。理解が早い。
「【仕様変更】って、レベルが上がったからか、ある程度こっちがイメージすれば、その通りにはできるようになったみたい。ただ……わたし別に建築士じゃあないから」
「狙い通りのものを作るためには、それこそ……製図のできる人間が必要ですね」
そう。誰かにちゃんとした設計図を作ってもらって、それをもとに【仕様変更】すれば、狙った通りのものがポイントで作れるのだ。
「そう都合良く、欲しい人材が転がってくるとは限らないからねー」
「そうでしょうか。リオン様は、持っていらっしゃるので」
「持ってる……?」
「ええ」
にこっと、アナが笑う。
「何を?」
「色々と、ですわ。チャンスが転がっている場所へ赴く『運』とか。手元に来たチャンスを逃さない『握力』とか」
「ふぅん……」
なんか微妙に言いたいことが分かりにくいなぁ。
その時である。
「リオンちゃん、なんか……こっちに向かって、叫んでいる人いるよ?」
「? 誰だろ……」
耳の良い真魚美が指を向ける。
海岸に、誰かが立って……こっちに向かって叫んでいる?
当然だけど、荒波と強風のせいで、何を言ってるのか分からない。
「真魚美。あの人なんて言ってる?」
「『待てええい! わしのお宝に、何さらしてくれてるんじゃー!』だってさ」
「お宝……?」
一体あの人何言ってるんだろう……。
「リオン様、こちらを」
「わ、双眼鏡じゃん。なんでもってるの?」
「船室にありました。必要になるかと思って」
用意周到~。
わたしは双眼鏡を覗き、海岸を見る。
そこにいたのは、薄汚い作業着を着た小男……いや、毛玉?
ボサボサの赤髪に、顔を覆うほどの髭。
服もボロボロで、もはや歩くモップだ。
彼はものすごい形相で、その場でぴょんぴょんと跳ねている。
「わ、危ないって!」
彼は海に……というか、わたしたちに向かって走ってくる!
馬鹿なの!?
その時、大波が押し寄せ……彼はあっさりと飲まれてしまった。
ああやっぱり!
「真魚美、助けてあげて」
「はぁい……リオンちゃんのためなら」
真魚美がため息交じりに海へ飛び込む。
さすがは人魚、あっという間に毛玉の襟首を掴んで、船へと放り投げた。
「げふっ! ごふっ! ……し、死ぬかと思ったわい……」
船に上がり、海水を吐き出す毛玉さん。
わたしは彼に近づき、声をかける。
「大丈夫? おじいちゃん」
「うっさいわ! ……だいたい貴様のせいじゃ!」
助けたのに逆ギレされた。理不尽だ。
「貴様じゃろ! この難破船をピカピカに直したのは! これはな、わしが目をつけてた『古代金属の鉱脈』じゃったのに! なんで新品にしとるんじゃ! これじゃ解体して素材が取れんじゃろが!」
「えっと……おじいさん何者?」
「この身長……それに地の魔力……。リオン様、こやつはドワーフです」
とアナ。
ドワーフ!
ドワーフって言うと、手先が器用な亜人種だ。
もしかしたら……設計ができる人かも。
おじいさんは胸を張って言う。
「わしはこの辺りを取り仕切る最強のスカベンジャー(ゴミあさり)にして、伝説の鍛冶師! その名も八宝斎様じゃぞ!」
八宝斎……?
なんかすごい名前だ。
どうやら彼は、この廃棄都市でゴミを拾い、そこから金属を取り出して生計を立てているらしい。
わたしが善意で直した船は、彼にとっては「解体予定の資源」だったわけだ。
「直したのに文句言われるなんて……」
「当たり前じゃ! わしの今日の飯代を返しやがれ!」
「はいはい、わかったよ。お魚あげるから」
わたしは貯蔵庫から、さっき獲れたての魚を取り出す。
キリカが獲った魚の一部を、魚の燻製へと【商品修繕】しておいたのだ。保存食になるかなって作ったのである。
「む……? こ、これは……極上の脂が乗った魚……!?」
自称・八宝斎の目が輝く。チョロい。
とりあえず話は通じそうだ。
「わたしはここにドックを作りたいの。八宝斎さん、この辺に詳しいなら手伝ってよ」
「ドックじゃと?」
八宝斎は鼻で笑い、海岸を見渡した。
「ハンッ! 素人が。そんなデカブツを停めるドックなんぞ、潮の流れと地盤を計算せんと、一発で崩壊するわ! 水圧計算は? 排水機構は? 竜骨を支える盤木の配置はどうするつもりじゃ?」
「う……」
専門用語を並べ立てられ、わたしは言葉に詰まる。
そう。さっき言った通り、わたしの【仕様変更】は便利だけど、万能じゃないのだ。
わたしがイメージできない部分は、作れないのである。
「やっぱり、専門家が必要かぁ……。ねえ八宝斎さん、詳しいの?」
「当たり前じゃ! わしは元宮廷建築士じゃぞ! ……昔の話じゃがな」
八宝斎は、自嘲気味に笑った。
「じゃあ、設計図書いてよ。その通りにわたしが作るから」
「……無理じゃ」
「え?」
「設計図は引けん。……見ろ」
八宝斎が、ボロボロの手袋を外して、右手を突き出す。
わたしは息を飲んだ。
ない。
彼の右手には、親指と小指しか残っていなかった。
中指、薬指、人差し指が、根元から無残に欠損している。
「見ての通りじゃ。昔、王族の依頼で剣を打った時にな……些細なミスをして、その見せしめに『指詰め』をさせられたんじゃ」
職人の命である指を奪われ、国を追放され、このゴミ捨て場に流れ着いた。
だから彼は、もう金槌を握ることも、繊細な図面を引くこともできない。
ただのゴミ拾いとして生きるしかなかったのだ。
「わしはもう、終わった人間なんじゃ……。ほっといてくれ」
八宝斎が背を向け、去ろうとする。
その背中は、あまりに小さく、寂しげだった。
「……ふーん。指がないと、設計図書けないの?」
わたしは冷たく言い放つ。
「当たり前じゃ! 筆も握れんわ!」
「じゃあ、直せばいいだけだね。ついでに、その汚いのも直してあげる」
ガシッ。
わたしは八宝斎の右手を掴んだ。
「な、なにをする……!」
「対象、破損したドワーフの手。および、全身の汚れと劣化。――【商品修繕】!」
カッ!
わたしの手から、強烈な光が溢れ出す。
RPが一気に減っていく感覚。
人体の一部、それも古傷の欠損を治すのは、かなりのコストがかかる。
でも、今のわたしには50万ポイントがある!
「う、うおおおぉぉ!? あ、熱い、手が、熱いぃぃぃ! それに全身がぁぁぁ!?」
光の中で、ドワーフの肉体が再構成されていく。
骨が伸び、神経が繋がり、筋肉が盛り上がり、皮膚が覆う。
そして、こびりついた垢や伸び放題の髭が、光の粒子となって浄化されていく。
スゥ……と光が収まると。
そこにいたのは、さっきまでの毛玉ジジイではなかった。
「……え?」
燃えるような赤髪のツインテール。
健康的でつるつるの肌。
背は低いけれど、出るところは出ている、むっちりとした肢体。
そこには、一人の美少女が座り込んでいた。
「な……な、な……」
少女は目を見開き、自分の手を見つめる。
恐る恐る、グーパーと動かす。
動く。完璧に。5本の指が揃っている。
「う、嘘じゃ……ありえん……。欠損した指が……生えた……?」
鈴を転がすような、可愛らしい声。
さっきまでの「しわがれ声」は、喉が荒れていただけだったのか。
「……誰?」
「わ、わしじゃよ! 八宝斎じゃ!」
少女が顔を赤くして叫ぶ。
「えぇ……その見た目で八宝斎は無理があるよ。……本当の名前は?」
「う……」
「教えて。これから仲間になるんだから」
わたしが覗き込むと、少女は観念したように俯いた。
「…………トール」
「え?」
「トールじゃ! 本名はトール! この見た目で舐められんように、わざと汚くして、いかつい名前を名乗っとったんじゃい! 文句あるか!」
トールちゃんは、真っ赤になって怒鳴った。
なるほど。女所帯で、しかもこんな無法地帯で生きていくための、彼女なりの処世術だったわけだ。
「トールちゃんか。うん、いい名前だね!」
「ふ、ふんっ! ……勘違いするなよ! 指を直してもらった借りを返すだけじゃからな!」
彼女はツンとそっぽを向きながらも、その目には涙が浮かんでいた。
そして、小声でボソッと呟く。
「……ありがとう、旦那様」
【作者からお願いがあります】
少しでも、
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新がんばれ、応援してる!」
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