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35.船を置くドックを作ります!


 わたし、リオン・サイハーデンは、奴隷市場で新しい人材を確保した。

 奴隷商人たちは、ガラが身柄を拘束し、屋敷に置いてある。

 そっちはガラたち餓狼団のみんなに任せて……わたしは、こないだ死滅海の海岸で手に入れた、ガレオン船に乗っていた。


 セイレーンの真魚美まなみが、とても優秀な航海士だったことが判明したからだ。

 彼女は海風や潮の流れを、わたしたちが呼吸するのと同じくらい自然に読むことができる。


 そのため、不思議なことに、荒れ狂う死滅海の上であっても、船はほとんど揺れないのだ。

 同じ馬車でも、御者の腕次第で乗り心地は天と地ほど変わるというけれど、まさにそれだ。


 優秀な航海士、そして操縦士である真魚美を仲間にしたことで、この海での活動ができるようになった。

 船を動かすのに必要なクルーも、雇うことができたし。


 まさに文字通り順風満帆! ……とはいかなかった。


 わたしたちは、最初にガレオン船を見つけた場所まで帰ってきたんだけど……。


「リオン様。進言いたします。船を置いておく場所を、確保する必要があるかと」

「うん……だよね……」


 せっかくリサイクルして、手に入れた新品の船。

 しかしこれを停泊させておくための、ドックが必要だった。


 甲板に立つ、わたしたち。

 潮風がゴォゴォオと吹いている。


 セイレーンの真魚美が風を読んでいるおかげで、船がそこまで揺れることはない。

 でも……この強風だ。


「リオンちゃん。私も……アナちゃんの言う通りだと思う。このままだと風化するし、それに漂流物が船体にぶつかって壊れちゃうかも」


「リオン……ちゃん?」


 アナがぎろり、と真魚美を睨みつける。


「……貴女? 家臣の分際で、主たるリオン様に対し、少々……無礼が過ぎませんか?」

「ひっ! ご、ごめんなさいぃ~……」


 真魚美がわたしの後ろに隠れてしまう。

 子犬のようにぷるぷると震えている。

 アナは美人な分、怒るとほんとに怖いのだ。


「まあまあ、いいよ。好きなように呼べば」

「リオン様……しかしそれでは……ずるいです」

「ずる?」


 下の者に示しが付かない! とかそういう理由かと思っていたけど……。


「え、アナももしかして、わたしのことリオンちゃんとか呼びたいの?」

「そんなことは断じてありません!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 声、でっか……。

 否定するまでの反応速度が速すぎる。

 多分もうちょっと仲良くしたいとか思ってる……のかなぁ。


「好きに呼べばいいから。真魚美まなみも、アナも……ね?」

「……はぁ♡ すぅうううう~……♡ はぁ~…………♡」

真魚美まなみさん?」


「……駄目よ、まなみ。リオンちゃんを海の底に引きずり込んでは、駄目」

「うん、やめてね」


 いきなり何を言い出すんだろう……怖すぎでしょ……。

 人魚の性質なの? 人間を海に引きずり込んで、いたずらしちゃうの?


「で、話を戻そっか」

「あ、うん。リオンちゃん、ドックを作るべきだという意見には、賛成だよ。でも作るとしても、結構立派なものを作らないと」


 ガレオン船もおっきいし、死滅海は思った以上に大時化オオシケだ。

 船体を守るための大きな、それでいて頑丈な建物を建築する必要がある。


「しかし主よ……そんなもの作るとなると、かなり金と手間と時間がかかるのではないか? やろうとしてるのが、難しいことくらい、ボクですらわかるぞ」


『わらわの【捕食プレデター】で、胃袋に入れておくことも可能じゃが……そうするとわらわが能力を使えなくなるしの』


 暴食の魔剣、グーラの【捕食プレデター】スキルはかなり有用なスキルだ。


 わたしの【リサイクルショップ】スキルでは、ゴミしか買取ができない。

 しかしグーラであれば、斬った相手をゴミと認識→RP(リサイクル・ポイント)に還元可能なのだ。


 正直、グーラが能力を使えなくなる状態には、あんましておきたくない。

 わたしのスキルによる貯蔵も八畳スペース分しかないし、ガレオン船をポイントに変換するのは論外。

 やっぱり、早急に、この船を置いておく建物を建築するしかない。


「やはりどう考えても、一から建築するとなると、資材をよそから運搬してくるだけで、数ヶ月は時間を要するでしょうね」

「ううん、資材ならここにあるよ」

「?????」


 わたしが、船の外を指さす。

 かつて海賊たちが乗っていた船の残骸や、各地から漂着した無数の難破船が、墓標のように突き刺さっている。

 陸側には、彼らが雨風をしのぐために建てた、ボロボロの掘っ立て小屋。

 そして、小型ボートしか係留できない、腐りかけた木の桟橋。


「……いや、主よ。さすがにこんなボロボロの小屋と桟橋では、船は停められないでしょ?」

「! なるほど……」


 キリカはまだピンと来てない様子。

 一方で、アナはわたしのやろうとしてることに、気づいたようだ。


「海岸のゴミを、リサイクルするのですね」

「その通り!」


 うーん、とキリカがまだ理解できてない様子。


「海岸に、たくさんゴミが落ちてるでしょ?」


 ここの海は潮の流れが速すぎる影響で、ゴミがたくさん流れ着いている。

 その中には、壊れた船がいくつもあった。

 船に使われる木材や、よそから流れてくる、不法投棄された鉄クズなどもある。


「これらゴミを……【仕様変更リメイク】して、ドックを作るってこと」

「なるほど! わざわざ、資材をよそから運搬せずとも、この場にあるものを再利用するんだね!」

「そゆこと」

「はぁ~……主は、すごいな。そんなアイディア、考えも付かなかったよ」

「えへへ、ありがと」


 さて、リサイクル元は、揃ってる。

 あとは、スキルを使うためのポイント集めだ。


「【仕様変更リメイク】のためのポイントに、海のゴミを使ってしまっては、リメイク元がなくなってしまうのでは?」


 とアナ。


「大丈夫。ね、グーラ?」

『くふ♡ 任せておけ、主リオン。おい童貞騎士、出番だぞ』


 カタカタ、と暴食の魔剣が震え、空中に浮く。

 キリカがふんっ、と不愉快そうに鼻を鳴らす。


「だから、童貞じゃないし。ボクは女だし。いつでも卒業できるし」


 童貞じゃないのに卒業って……何を言ってるんだろう……キリカ……。

 キリカは魔剣を掴む。


真魚美まなみ、きみの歌で、海の魔物を引き寄せることはできる?」

「う、うん……できるよ、リオンちゃん。で、でも……この辺りの魔物、結構強いよ……? そんなの呼んで大丈夫?」


「大丈夫。うちのキリカとグーラ、強いから。……って、わー! なになにー!」


 キリカが急に後ろから羽交い締めにしてきたっ。

 そして、パンツの中に手を伸ばそうとしてくるっ。

 それに、腰をカクカクって……もー!


「何してるの!?」

「は! す、すまない……なんかこう……つい……」

「『つい』でいたずらしないでくださいっ」


 もう、みんなわたしにいたずらしようってするんだから……。


「……【真魚美お姉ちゃんに、いたずらされたいな、いっぱいいぢめてほしいな……】」


 ぽそぽそ……。

 真魚美お姉ちゃんに、いたずらされたいな、いっぱいいぢめてほしいな……。


「リオン様! 目を覚ましてください! 真魚美に催眠術をかけられてます!」


 はっ! あ、危なぁ~……!

 危うく、「お姉ちゃん、いぢめて♡」って言っちゃうところだった!


「真魚美、なんで催眠術なんてかけたの?」

「う、ううん。してないよっ。な、なんかね……つい……人魚の性、かなぁ」


 性ならしょうがないかぁ。


「……うふ♡ リオンちゃん……かわいい♡」

「真面目にやりなさい、言霊を使って自決させますよ?」


「ひ! すみませんぅ~!」


 アナ……冗談だよね?

 冗談にしては、目がマジなのは、なんなの……?


 さて。

 真魚美が船首バウに立って、胸の前で手を組む。


「……【集いて泳げ、深淵の眷属たちよ……豊漁の歌(ルアー・ソング)】」


 真魚美の唇から、美しくも妖しい旋律が紡がれる。

 その歌声は、風に乗って海面を滑り、遥か深海まで染み渡っていくようだった。


 ズズズズズズ……。


 海面が大きく盛り上がる。

 ザパァアアアアアアアアアアアアアン!


 現れたのは、巨大なウミヘビだ。

 それが、5匹。


海魔蛇(シー・サーペント)ですね」


 とアナ。

 海魔蛇シー・サーペント

 全長20メートルを超える海の暴れん坊だ。

 その顎は船底を一撃で噛み砕き、その力は地上の竜にも匹敵すると言われているAランクモンスター。


『ふんっ! ウミヘビどもめ! 我が主の糧となれ!』


 キリカがグーラを構える。

 魔剣に、剣の達人が揃っているのだ。

 どんな敵も、負ける気がしない。

 キリカは魔剣を振る。


「ガイアス流剣術奥義、【竜破特攻弾】!」

『プラス! 暴虐なる暴食(グラトニー・バイト)!』


 キリカが剣を振り抜くと同時に、刀身から溢れ出した漆黒の魔力が、巨大な黒竜のあぎととなって具現化した。

 黒竜のエネルギー波が海面を駆け抜け、5匹の海魔蛇シー・サーペントを丸ごと飲み込む。


 断末魔すら上げさせず、一瞬で。


『【捕食プレデター】が発動しました。50000RPを獲得しました』


 1匹1万RPってところか。

 うん、順調!


「その調子で、ガンガンポイント稼いでって。あ、生態系が崩れるかもしれないから、やり過ぎ注意で」

「「御意!」」

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リオンにも言霊相当のスキル必要なのでは?ボブは訝しんだ。
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