33.残された奴隷達を、船乗りとして雇った
商人たちをアナの氷魔法で拘束。
ガラには餓狼団を呼んできてもらい、商人およびゴロツキどもを、領主の館まで運んでもらった。
奴隷商人を文字通り「排除」し、一件落着。
……とはいかなかった。
「あ、あの……」
「ひぃ、殺さないで……」
テントの中には、商人が残していった在庫――奴隷たちが取り残されていたからだ。
その数、およそ30人くらいかな。
少ない? しょうがない。他にもいたけど、健康な奴隷たちは、わたしたちが騒ぎを起こしてるときに逃げてしまった。
残された奴隷たちは、自力で逃げることのできない人たち。
すなわち、怪我や病気をしてて、元気のない人たちだ。
種族は人間。
セイレーンのような亜人は居ない……っていうか、多分逃げたんだろう。獣人とか、体が特別に頑強な種族は。
残された奴隷たちは、男も女もいるけれど、みんな痩せ細り、目には絶望の色が浮かんでいる。
劣悪な環境で酷使され、心も体もボロボロなんだろう。
「どうしますか、主。解放しますか?」
アナが淡々と尋ねてくる。
あくまで、判断はリーダーであるわたしに委ねるというスタンスみたいだ。
……この人たちを解放するのは簡単だ。
でも、ここは廃棄都市。着るものも食べるものもない彼らを放り出せば、待っているのは野垂れ死にか、別の悪党に捕まる未来だけだろう。
彼らをこのまま放っておくわけにはいかない。
それに、奴隷商人を捕まえたのはわたし。
だから、彼らの生活の面倒を見る責任が、わたしにはある。
「うんっ」
わたしは【リサイクルショップ】スキルを発動。
現在のRPを確認だ。
クラーケン討伐でガツンと50000RP入ったけれど、さっき真魚美に【商品修繕】を使った。
彼女には強力な呪いがかかっていたため、その解呪コストも込みで10000RPも消費してしまった。
やっぱり、高度な修復はそれなりにお金がかかる。
でも、トニーたち「餓狼団」が真面目にゴミ拾いをしてくれているおかげで、チリツモで少し増えている。
現在の残高は、約45000RP。
「……よし、いける」
わたしは顔を上げ、奴隷たちを見渡した。
「みんな、仕事はある? 行く当ては?」
わたしの問いかけに、彼らは力なく首を振る。
「なら、わたしが雇うよ」
「「「え……?」」」
「ちょうど人手が欲しかったんだ。衣食住は保証する。お給料も弾むよ。その代わり、わたしの船のクルーとして働いてほしい」
そう、あの巨大なガレオン船だ。
動かすには、航海士の真魚美だけじゃ足りない。
帆を張る人、甲板を掃除する人、荷物を運ぶ人、調理をする人……最低でも2、30人のクルーが必要になる。
彼らは、まさにうってつけの人材だ。
「で、でも……俺たちはこんなボロボロで……」
「病気だってあるし、とても働けるなんて……」
奴隷の一人が、自分の痩せこけた腕を見て呟く。
「大丈夫。わたしにかかれば、新品同様になるから」
わたしはニカっと笑い、スキルを発動する。
対象は、ここにいる奴隷全員。
まとめて一括処理だ。
「【商品修繕】!」
カッ!
テントの中が、眩い光に包まれる。
RPが勢いよく減っていくけれど、気にしない。
彼らの傷や病気は、真魚美の呪いに比べれば軽微な「破損」だ。
一人あたり数百RP程度。30人合わせても、大した出費じゃない。
「あ、あれ……?」
「体が……軽い?」
「傷が消えてる……!」
光が収まると、そこには肌ツヤの良くなった、健康体な男女が立っていた。
頬には赤みが差し、瞳には光が戻っている。
「す、すげぇ……魔法かよ……」
「あの方はいったい……」
驚愕する彼らに、アナが一歩前に出て告げる。
「お前達を救ったのは、この地の新たな領主、リオン・サイハーデン様です。さあ、どうしますか? 去るも自由、付いてくるも自由ですが」
その言葉を聞いた瞬間。
ザッ、と音を立てて、30人が一斉に跪いた。
「一生ついていきます! 領主様!」
「俺たちの命、あんたに預けるよ!」
うんうん、交渉成立だね。
ゴミ捨て場で拾ったのは、ガラクタなんかじゃない。
磨けば光る、宝の原石たちだ。
◇
元奴隷たちを連れて、わたしたちは海岸へと戻ってきた。
『げぷぅ……。やっと出せるのか……』
グーラが苦しそうに唸る。
ずっとお腹(刀身)に船を抱えていたから、限界だったみたいだ。
『出るぞ……! オロロロロロロ!』
「擬音が汚いよ!」
ズドォォォォォォォォン!
グーラの口から(正確には刀身から吹き出す霧から)、巨大なガレオン船が吐き出された。
海面に着水し、大きな水しぶきを上げる。
「で、でけぇ……!」
「俺たち、これに乗るのか!?」
元奴隷たちが歓声を上げる。
さあ、いよいよ出航だ。
わたしたちはタラップを登り、甲板に立つ。
やはり広い。
本来なら数十人で動かすこの船を、これまでは風魔法で無理やり動かしていたなんて、無茶苦茶だったなと思う。
「真魚美、お願いできる?」
「……うん、まかせて」
舵輪の前に立った真魚美の表情が、キリッと引き締まる。
さっきまでの儚げな少女の顔じゃない。
海のプロフェッショナル、航海士の顔だ。
真魚美が目を閉じて、両手を耳に添える。
ピクピクっ、と耳が少し動くと……目を開けた。
「……風、くるよ。面舵いっぱい」
「お、おう! 面舵だ!」
「帆を張れぇ!」
真魚美の静かな、しかしよく通る指示に従って、クルーたちが動き出す。
初めての連携なのに、不思議とスムーズだ。
真魚美の声には、人を落ち着かせ、従わせる不思議な響きがあるのかもしれない。
ギィィィ……バサァッ!
帆が風を孕み、巨大な船体がゆっくりと動き出す。
死滅海は、海流が複雑で、海中には鋭い岩礁が隠れている難所だ。
普通なら座礁してもおかしくない海域。
けれど。
「……次、右へ30度。……そこ、岩があるから気をつけて」
真魚美はまるで、海の中が透けて見えているかのように、的確な進路を指示していく。
船はまるで生き物のように、スイスイと岩場を抜け、波に乗って進んでいく。
「すごいですわ……。彼女は風と水を、完全に読んでいます」
アナも感嘆の声を漏らす。
これが、セイレーンのチカラ。
本物の航海士の実力だ。
潮風が、わたしの髪を揺らす。
最高だ。
最高の船に、最高の航海士、そして忠実なクルーたち。
これなら、この死の海だって、世界の果てだって行ける。
「よし! 目指すは領地の港だ! 全速前進!」
「「「アイアイサー!」」」
クルーたちの野太い声が、青空に響き渡ったのだった。
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