30.暴食の魔剣を、最強剣士に持たせたら、とんでもない威力を発揮した
死滅海の海岸にて、難破船をリペアし、暴食の魔剣グーラを仲間にした。
グーラは人間の姿になれるらしい。
どうやら、伝説の刀鍛冶、七福塵が造った、最高の魔剣だからこそできる技とのこと。
その姿は、一言でいえば「暴力的なまでの妖艶さ」だった。
リペアで蘇った艶やかなアメジスト色の髪。透き通るような白磁の肌。
そして何より目を引くのは、着崩した着物の隙間から溢れんばかりに主張する、豊満な双丘だ。
背も高いし、出るべきところが出すぎている。
「エッチな視線じゃ♡」
「あ、ごめん……」
思わず目が吸い寄せられてしまい、わたしは反射的に謝る。
「くふふ♡ 照れてるのぅ……主♡」
「照れてませんっ。てゆーか、そんな裸同然の格好で、外を出歩かないで」
「なんじゃ? 主リオンはこの姿の時も、全裸でいてほしいのか♡ 可愛い奴め♡」
「きょ、教育に悪いからやめろー!」
キリカが堪らず、グーラを後ろから羽交い締めにした。
「剣は剣らしく、剣の姿であればいいんだよっ。元の姿に戻れ!」
「やれやれ……うるさい小娘じゃ」
シュルン、と黒い霧に包まれ、グーラは刀の姿に戻った。
禍々しくも美しい、紫色の鞘に収まった長刀。
わたしの手の中に、すとんと収まる。
「おも……」
『8歳の体に、鉄の塊はさぞ重かろう。矢張り、女の姿でいたほうがよいの♡』
確かに……。
ずっしりとした重量感が、わたしの細腕には辛い。
あ、そうだ。
「キリカ。今回のご褒美なんだけど……」
「ふ、二人きりで夜の海を、全裸で過ごすだって!?」
「そんなこと、一言も言ってないよ……」
何頓珍漢なこと言い出したんだろう……。
『おい性欲娘』
「だ、誰が性欲つよつよ娘だっ!」
『そこまで言っておらんが……』
「で、なんだよっ」
『主リオンに変なことをしてみろ? 貴様の無駄肉を切り刻んでやるからの!』
「なんだとー! それはボクのセリフだよっ。主の体に無断でペタペタ触りやがってー! 主が治したものじゃあなかったら、ボクがポッキリ折ってたところだからな!」
二人は顔を突き合わせて威嚇し合っている。
猫と犬、あるいは蛇とマングースか。
仲悪そうに見えるけど、でも喧嘩するほど仲が良いというし。
それに、やっぱり剣は、相応しい剣士に使われてこそ幸せだと、わたしは思う。
「この魔剣、キリカが使って」
「『なにぃい!?』」
キィーン……。
絶叫二重奏だったので、耳が痛い……そんなに驚くことだったかな……?
「わたしは剣士じゃないから。グーラを持て余しちゃうもん。それより、剣の扱いに長けるキリカが、グーラを持ってるのが良いと思うんだ」
「理屈で言えば確かにそうだけど……でもでもっ。こいつはボクの主を誘惑する、悪い魔剣なんだぞっ。いわば敵なんだぞー!」
『妾もこんな、主へのいやらしい気持ちを隠しきれてない、童貞騎士なんかに使われたくないわ』
「ボクは女だ……! 誰が童貞だ!」
『女のくせに童貞並みに性欲が強いんじゃ。童貞騎士で十分じゃろうが』
「なんだとぉ!」
二人がまたギャアギャアと言ってる。
あーあ。
「わたしじゃ腕力ないから、グーラを扱えないよ。グーラだって、そのチカラを使ってもらいたいでしょ?」
『それは……まあ……でも……妾は、やっぱりこんな、実力もわからぬ女の剣なんぞになりたくないぞ』
と、その時だった。
ドゴォォォン!
突然、船全体が大きく揺れた。
ただの揺れじゃない。何かにぶつかったような、いや、下から突き上げられたような衝撃だ。
ミシミシ、と船体が悲鳴を上げる音が聞こえる。
まるで、巨大な力で船を握り潰そうとしているかのような。
「な、なんだっ?」
「敵!」
ダッ、とキリカが誰よりも早く駆けていく。
その手には、しっかりグーラが握られていた。
「アナ、いくよ!」
「はいっ!」
アナを連れて、わたしたちは甲板へと向かう。
長い廊下を抜け、階段を駆け上がり、重い扉を押し開ける。
潮風が、わたしの髪を揺らす。
鼻孔を突く、腐敗臭にも似た、強烈な磯の香り。
そして目の前に広がっていたのは――。
「な……!」
絶望的な光景だった。
海面から、天を突くほどの巨大な「触手」が何本も伸びていたのだ。
ヌラヌラと光る赤黒い皮膚。吸盤の一つ一つが、わたしの頭よりも大きい。
それらが、わたしの乗るガレオン船に絡みつき、締め上げている。
ザバァアアアアン!
水しぶきと共に、海面から本体が姿を現す。
巨大なイカ――クラーケンだ。
その瞳は、まるで満月のように黄色く光り、わたしたちを餌として見定めていた。
「嘘でしょう……こんな大きな魔物……!」
アナが腰を抜かしそうになる。
『ふん、死滅海名物、大王烏賊か。活きが良いのぅ』
キリカの手の中で、グーラが愉快そうに笑う。
『おい童貞騎士。妾の実力を見せてやる。構えよ』
「誰が童貞だ! ……くっ、やるしかないか!」
キリカはグーラを抜き放つ。
鞘から抜かれた漆黒の刀身が、闇夜の中で怪しく輝いた。
ヒュオッ!
クラーケンの触手の一本が、鞭のようにしなり、キリカめがけて振り下ろされる。
直撃すれば、人間などトマトのように潰れるだろう。
「ガイアス流剣術――【空牙】!」
キリカが迎え撃つ。
グーラと触手が交錯した、その瞬間。
ガブッ。
斬撃音ではなく、何かが「噛み砕かれる」ような音が響いた。
「……は?」
わたしは目を疑った。
キリカが剣を振るった軌道上の空間が、ごっそりと「消えて」いたのだ。
触手は切断されたのではない。
抉り取られ、消失していた。
『んん~♡ 美味♡ なかなか濃厚な魔力じゃの!』
グーラが恍惚とした声を上げる。
システムウィンドウが、わたしの視界にポップアップした。
『素材【大王烏賊のゲソ】を捕食しました。3000RPを獲得』
「食べた……!?」
驚愕するわたしを他所に、キリカとグーラの乱舞は止まらない。
触手が触れた端から、グーラの刀身に吸い込まれ、RPへと変換されていくのだ。
『もっとじゃ! もっと食わせろぉ!』
「も、もっとって何を……!?」
『体を貸せ! わらわが“食う”!』
瞬間、キリカの瞳が、アメジスト色に染まる。
キリカの意思とは無関係に、その細腕が大きく振りかぶられた。
背後に、漆黒の魔力が渦を巻き、巨大な「顎」を形成する。
それは、剣技ではない。
捕食行為だ。
『スキル解放――【暴虐なる暴食】!』
振り下ろされた魔剣に合わせて、虚空の顎がクラーケンに喰らいついた。
ガブァアアアアアアアアアアッ!
咀嚼音が、海に響き渡る。
クラーケンの巨体が、空間ごとねじ切られ、闇の中へと吸い込まれていく。
断末魔すら上げる暇もない。
圧倒的な暴食の前に、海の怪物はただの餌として消化された。
『魔物【大王烏賊】を完全捕食しました。50000RPを獲得』
『ドロップアイテム【海王の墨袋】を獲得』
……静寂が戻る。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
キリカがその場に膝をつく。
魔力を根こそぎ持っていかれたのか、汗だくだ。
『……ふん。今の負荷に耐えるか。ただの童貞騎士かと思うたが、器だけは丈夫なようじゃな』
手の中のグーラが、呆れたように、しかしどこか満足げに言う。
「……誰が、童貞だ……」
キリカは肩で息をしながら、魔剣を見つめる。
「だが……凄まじい切れ味だ。ボクの魔力を勝手に使いやがって……とんでもない悪食娘だよ」
『お主こそ、わらわをあそこまで振り回すとは。無駄に体力のある筋肉娘じゃ』
キリカがふっ、と笑う。
グーラもまた、刀身をキラリと光らせた。
「悪くない。主を守る剣として……背中を預けるくらいはしてやる」
『生意気を言うな。……まあよい、わらわの鞘として、少しは認めてやろう』
憎まれ口を叩き合いながらも、二人の間には確かに奇妙な連帯感が生まれていた。
最高の剣士と、最強の魔剣。
凸凹コンビの誕生だ。
「魔剣で斬った部分を、ポイントに変えるチカラがある。また、アイテムの貯蔵もできる……すごい……」
戦いを見届けていたアナが、震える声で呟いた。
その瞳は、グーラの性能に釘付けになっている。
「リオン様……とんでもないレアアイテムを手に入れましたね……!」
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