29.折れた刀身(こころ)が、甘い愛で満たされるまで【Side:グーラ】
【Side:グーラ】
わらわは、暴食の魔剣グーラ。
伝説の刀鍛冶、七福塵が造りし、七つの大罪の名を冠する魔剣の一柱。
神すら食らう「暴食」の力を宿した刀。
敵を食らい、魔を食らう。
そうすることで、使い手に勝利と栄光をもたらす。
誰もがわらわを求めた。
「この力が欲しい!」
「この剣があれば、天下が取れる!」
皆、ギラついた目をわらわに向けてくる。
わらわは……そんな目が、嫌いじゃった。
皆……わらわを見ていない。
わらわに内包する、暴食の力しか見ていない。
わらわの……心を、誰も見てはいない。
欲しいのは暴食の魔剣であって、わらわ自身ではない。
それが……たまらなく、寂しかった。
でも、いつか。
いつか、わらわを「個」として求めてくれる、本当のわらわを必要としてくれる使い手が現れてくれる。
そう信じて、わらわは力を、使い手に与え続けた……。
だが、終わりは唐突に訪れた。
ある迷宮の最深部。
当時の持ち主は、愚かにもわらわを限界まで酷使した。
相手は、深淵竜。
その鱗は、オリハルコン並に硬い。
そんな竜の鱗を、斬って、斬って、斬りまくった。
いたぶるのが好きな使い手じゃった。
だから、深淵竜の体をズタズタに切り刻むことを楽しんでいた。
オリハルコンの鱗を、何度も、何度も、無理やりに斬らされた。
その結果……わらわの刀身は……耐えきれず、折れてしまったのじゃ。
パキンッ……。
乾いた音が、静寂に響いた。
「あーあ、折れちまったかぁ~……」
……使い手の、あの目が今も忘れられない。
わらわを見るその目は……路傍の石ころと同じ。
否……捨てられた、ゴミに向けられるものじゃった。
「もー……いらねー」
なんだ、それは。
「こんなゴミ、いーらね」
……ついさっきまで、わらわのことを最強だ、最高だと褒めていた男が……。
一転して、わらわをゴミと罵り、そして……捨てたのだ。
わらわの心は……深く、傷つけられることになった。
◇
それからわらわは、転落の人生を送った。
折れた魔剣など、誰も欲しがろうとはしない。
戦場から古物商へ。古物商から、物好きの収集家へ。そして最後は、薄汚い海賊船の倉庫へ。
誰も、わらわを直そうとはしなかった。
直す技術がないのではない。「直す価値がない」と判断されたのじゃ。
新しい剣を買ったほうが安い。
折れた剣など、不吉だ。
暗い木箱の中。
潮風が、傷口に沁みる。
赤錆が病のように全身を蝕んでいく。
寒い。痛い。ひもじい。
誰か、わらわを見ておくれ。わらわはここにいる。まだ、戦える……。
しかし、箱の蓋が開くことはない。
数十年、数百年。
意識は泥のように濁り、やがてわらわは考えることをやめた。
そうじゃ、わらわはゴミじゃ。
ただの、折れた鉄屑じゃ……。
◇
……ギギィ。
久しぶりに、光が差し込んだ。
箱の蓋が開けられたのじゃ。
「なんだこれは……? こんなごみが、なんで宝箱の中に、大切に保管されてるんだ……?」
聞き慣れた言葉が降ってくる。
ああ、またか。
また、わらわを嘲笑いに来たのか。
目の前には、人間たちがいた。女騎士と、メイドと、そして……小さな子供。
どうせ貴様らも、金目のものだけ奪って、わらわを捨てるのじゃろう?
早く行け。放っておいてくれ。
だが。
その子供は、違った。
「ごみなんて言っちゃ駄目だよ」
凛とした声じゃった。
「ごみなんて名前の、者(物)は、この世にはないんだよ?」
「物をそうやって、ごみってひとくくりにして、捨てるの……よくないよ」
……何を言っておる?
わらわは、折れているぞ? 錆びているぞ?
誰が見ても、無価値なゴミじゃろう?
子供の手が、わらわに触れる。
温かい。
まるで、壊れ物をいたわるように、優しく撫でられた。
「嫌だって、捨てないでって……そう言ってるように、思える」
「この子も連れて帰ろう。綺麗にしてね」
ドクン、と。
止まっていたはずのわらわの核が、跳ねた。
この子は、わらわの「声」を聞いたのか?
道具としてではなく、一人の「個」として、わらわを見たのか?
そして、奇跡は起きた。
「レベル2【機能再生】!」
まばゆい光と共に、奔流のような魔力が流れ込んでくる。
ああ、なんと甘美な力じゃ。
周りにあった財宝が消えていくのがわかる。
この子は、山のような金銀財宝を犠牲にして、わらわ一振りをあがなったのじゃ。
錆が落ちる。
傷が癒える。
折れた刃が繋がり、力が満ちていく。
――あたたかい。
今まで、血と油の匂いしか知らなんだ。
破壊と略奪のためにしか、振るわれなんだ。
じゃが、この光は違う。
これは「修繕」。
誰かのために直すという、純粋な慈しみ。
『わらわを、なぜ助けたのじゃ……?』
「わたし、傷ついてる人を放っておくことなんて、できないんだ」
ああ、駄目じゃ。
我慢できぬ。
この魂は、誰にも渡さん。
歴代の英雄など、足元にも及ばぬ。
この無垢で、優しくて、愚かなほどにお人好しな子供こそが、わらわの主。
愛おしい。
その小さな手を、柔らかな頬を、美味しそうな魂を。
すべて、わらわが守ってやらねば。
そしていつか、骨の髄までしゃぶり尽くしたいほどに……愛してやろう。
「よろしくな……♡」
わらわは、舌なめずりをして微笑んだ。
もう二度と、この手を離しはせぬぞ?
覚悟するがよい、愛しき坊や。
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