22.魔物の大群を撃退する
そして、日が暮れる。
農業をする前は、そこまで夜に怯えなくてよかった。
でも、今は畑でたくさんの食料を作れるようになり、人も集まってきた。
魔物にとって、餌が集中している状態だ。
しかも、今は夜。
書物によれば、魔物は夜になるとさらに凶暴性を増すらしい。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
地響きと共に、白骨樹海の中に不気味な赤い光が無数に増えていく。
わたしは外壁から少し離れた場所、屋敷の屋上に立っていた。
わたしも近くにいたかったんだけど、駄目だって言われたのだ。
『リーダー(王)が最前線にいるな』と。
「すぅ……ふぅ……」
魔物の大群。
しかも、どいつもこいつも強そうである。
魔物を一匹二匹、十匹と相手にするのと、目の前の「軍勢」を相手にするのとでは、重圧が違う。
正直、一人だったらさっさと逃げているかもしれない。
でも……今は逃げられない。
わたしは腐ってもここの、デッドエンドの領主だからね。
それに、わたしを慕ってついてきてくれる家臣たちがいる。
その人たちを置いては逃げられない。
ばーちゃんは、物を大事にしていた。
わたしも、ばーちゃんと同じように、物も、者も、大事にしていきたい。
じわり、と手のひらにかいた汗を、わたしは服でゴシゴシと拭った。
「よし、じゃあ……いくよぉ! 桜香!」
わたしが叫ぶ。
空にて待ち構えていた桜香が、呼応するように両手を掲げた。
彼女の頭上に、二つの巨大な火の玉が浮かび上がる。
彼女の異能で創り出される炎を、極限まで圧縮した「太陽」だ。
正直、これを連打すれば終わるかもしれない。
けれど、ここは森だ。そんなことをすれば大火事になって、せっかく作った畑まで燃えてしまう。
ただ勝てば良いわけじゃあない。
目指すのは、被害ゼロの完璧なる勝利!
「【鬼火・猛】!」
二つのうち一つの玉を、桜香が眼下に放り投げる。
ドォォォォォォォォォォォォン!!
着弾と同時に、夜の森が真昼のように明るく染まった。
爆風が木々をなぎ倒し、先頭集団の魔物たちが悲鳴を上げる間もなく炭化して吹き飛ぶ。
熱波が屋上まで届き、少し遅れて、焦げ付いた肉の匂いが鼻をついた。
「うひぃ~すごー……」
これで魔物たちが逃げてくれるといいんだけどね。
「ご主人様、炎を飛び越えてくる連中がいるぜ! 鋼鉄蟻だ!」
炎で逃げるやつらもいたみたいだけど、逃げなかった連中もいる。
鋼鉄蟻。
その名の通り、鋼鉄のような外殻が熱を遮断し、爆心地を突破してきたのだ。
「…………」
ここで都合良く、迎撃用のクロスボウとかあればいいんだけど、捜す時間はなかった。
対策を練るのと、RPを稼ぐのにリソースを全振りしちゃったからね。
弓を撃とうにも、こっちはみんな素人。
女子供、老婆の集まりだ。
戦えるのは、餓狼団、キリカ、そして……アナ。
「ギチチチチ!」
「ギギギー!」
桜香の鬼火を避けて、こちらに襲い来る蟻たち。
外壁の目前まで到着した……その時だ。
ズボォッ!!
蟻たちの足元が唐突に消滅した。
わたしが【仕様変更】で仕掛けておいた、巨大な落とし穴だ。
先頭を走っていた数十匹が、勢いを殺せず次々と穴の中へ吸い込まれていく。
ゴシャ、ガシャ、という硬い音が穴の底から響く。
穴の中には、白骨樹を【商品修繕】して作った、鋭利な杭がびっしりと植えてある。
ガキンッ! ギィィン!
しかし、硬い金属音が響くだけだ。
奴らの外殻が硬すぎて、杭が刺さっても内臓にまでは届いていない。
むしろ、杭を足場にして這い上がってこようとしている。
「そこで……アナ!」
「はい! ――氷雪嵐!」
アナが冷徹な声と共に、中級水魔法を展開する。
穴の上空に魔法陣が展開され、そこから絶対零度の猛吹雪が吹き荒れた。
ヒュオォォォォォォォッ!!
カチカチ、という凍結音が響き渡る。
桜香の炎で灼熱地獄と化していた穴の中が、一瞬で極寒の冷凍庫へと変貌した。
アナはSSR家臣の一人であり、魔法の使い手でもある。
元貴族令嬢として基礎教養の魔法を習っており、その才能は折り紙つきだ。
SSRの魔法。
それを、魔物を明確に殺す目的で使う。
初めてのことで、普通の女の子なら戸惑う場面だろう。
でも、彼女は躊躇なく魔法をぶっ放した。
「愛する人のため! 死んでもらいます!」
目が据わっている。
蟻たちの赤熱した外殻が、急激に冷却される。
熱せられた金属やガラスが、一気に冷やされるとどうなるか……?
パキィッ! バキバキバキッ!!
小気味よい破砕音が連続した。
熱膨張と収縮の差に耐えきれず、自慢の鋼鉄外殻に亀裂が走る。
そこへ、自身の重みと、底にある杭が食い込む。
グシャッ。
今度は弾かれることなく、杭が脆くなった甲殻を貫き、蟻たちを串刺しにした。
「よし! 『温度差攻撃(ヒート&クール)』成功だね!」
それでも、仲間の死骸を踏み台にして、這い出てくる蟻たちがいるんだけど……。
「オラァッ!!」
待ち構えていたガラたち餓狼団が吼える。
手にするのは、わたしが作った漆黒の武装――【黒殻装備】だ。
ドガァッ! ズバァッ!
ガラの振るう大盾が、凍りついて脆くなった蟻の頭部を粉砕する。
団員たちの剣が、脚を切り落とす。
以前なら傷一つつけられなかった相手が、今はガラス細工のように砕け散っていく。
「へっ! あの性悪メイドと、淫乱鬼、やるじゃあねえか! あいつらが数減らしてくれたおかげで、ちょー楽だぜ!」
ガラがニヤリと笑い、返り血を拭う。
戦況は圧倒的だ。
よし、このまま何事もなければ、いいんだけど……。
「! ご主人様! ヤベェのが来る!」
鋭い嗅覚を持つガラが、血相を変えて叫ぶ。
ズズズズズズズ……ッ!
地鳴りが一段と大きくなった。
燃え盛る森の木々をなぎ倒し、巨大な影が現れる。
月明かりを遮るほどの巨体。
全身が黒曜石のような漆黒の甲殻に覆われ、六本の脚は太い柱のようだ。
その頭部には、禍々しい王冠のような角が生えている。
「キシャァァァァァァァッ!!」
大気を震わす咆哮。
それだけで、餓狼団の数人が腰を抜かしてへたり込んだ。
「鋼鉄蟻女王……蟻どもの、親玉ですわ……!」
博識なアナが叫ぶ。
あれが……ボスか。
裏を返せば、あれをやっつければ、今回わたしたちの勝ちである。
「ヤベェ……アタイにはわかる。ありゃ……この場にいる誰もが、束になっても敵わねえ」
ガラが震える声で漏らす。
本能的な恐怖。生物としての格の違い。
女王がこちらにやってくるだけで、空気が重くなる。
そう、あの場にいる人たちが、束になっても敵わないかもしれない。
普通の武器ならね。
「キリカ、やれるね?」
「無論!」
わたしの傍らで護衛を務めてくれていたキリカが、短く応える。
彼女が、ダンッ! と屋上の床を蹴って虚空へ躍り出た。
彼女は剣の達人。
そこに、わたしが作ったSSR武器――【黒殻の魔剣】が加わる。
「これなら全力が出せるというもの!」
キリカは空中で身体を丸め、独楽のように高速回転を始めた。
魔剣に魔力が充填され、漆黒の刃が闇夜に蒼い軌跡を描く。
遠心力と落下の勢い、そしてスキルの【斬撃強化】を全て乗せた、必殺の一撃。
「ガイアス流剣術奥義・【割破廻天斬】!」
ヒュンッ――。
音はなかった。
ただ、黒い閃光が、女王蟻の脳天から尾部までを縦に奔っただけ。
着地したキリカが、ゆっくりと残心を解き、剣を納める。
その背後で。
パカァッ……。
巨大な女王蟻の身体が、左右に綺麗に分かれた。
遅れて、ドサァァァン! と左右の半身が倒れ込み、大量の体液がぶちまけられる。
静寂が……辺りを包む。
「……す、すげえ……一撃かよ……」
「ご主人様! 残りは逃げてくぜ! アタイらの勝ちだ!」
「ふぅ~」
あー、良かった。
みんな、無事で。
わたしは屋敷の屋上から、ピョンッと飛び出した。
「桜香、拾って~」
「わふっ♡ ナイスキャッチですぅ~!」
桜香が掲げていた炎の玉を消し(照明用に一つ残して)、空中でわたしをガシッと受け止める。
そのままふわりと地上へ着地。
尻尾をパタパタ振りながら、わたしの匂いを嗅いでくるのはご愛敬だ。
「みんなお疲れ様ー!」
ワッ! とみんなが歓声を上げる。
怪我人はなし。完璧な勝利だ。
そ し て!
わたしは真っ二つになった女王蟻の死骸のもとへ歩み寄る。
群れの長なんだから、さぞすごい素材だし、ポイントになるんだろうなぁ!
わたしは巨大な甲殻にペタリと触れた。
「【買取】!」
シュンッ!
巨大な死骸が一瞬で光の粒子となって消滅する。
『SSR:鋼鉄蟻女王の死骸を買取……100,000RP』
『条件を達成しました』
『スキルが、リサイクルショップ(レベル2)へと進化しました』
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