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02.廃棄都市は、わたしにとって宝の山でした


 数日後。

 ガタガタと揺れるボロ馬車から降り立ったわたしを待っていたのは、想像を絶する光景だった。


「……わぁ、ひどいなぁ、こりゃ」


 場所は、デッドエンド。白骨樹海の中に建てられた領主の館。

 とは名ばかりで、その建物は屋根が抜け落ちた完全な廃墟だった。

 鼻を突くのは、強烈な潮の香りと、何かが腐ったような饐えた臭い。

 庭は背丈ほどの雑草が生い茂り、そこかしこに錆びた剣や、壊れた鎧、腐った家具が不法投棄されている。


 わたしの到着を聞きつけ集まってきた、近隣の村人たちは痩せ細り、遠巻きにわたしを見ながらヒソヒソと噂していた。


「また新しい領主様か……」

「あんな子供じゃないか。口減らしで捨てられたんだな、可哀想に」

「どうせすぐ死ぬさ。こんなゴミだらけの土地、住めるはずがねえ」


 確かに、普通なら絶望するだろう。

 でも、わたしの目にはまったく別の景色が映っていた。


「すっごーい……全部『資源』じゃない!」


 わたしは誰にも見られないよう、館の裏手へと回った。

 足元には、錆びだらけで刃こぼれしたショートソードが転がっている。

 わたしは小さな手でそれを拾い上げた。ずしり、と鉄の重みが手に伝わる。

 念じると、視界に半透明のウィンドウが浮かび上がる。


~~~~~~~

【ユニークスキル:リサイクルショップ】

▼現在の状態

 店長:リオン・サイハーデン(8歳)

 所持RP:0 RP

▼対象物を検出しました。処理を選択してください。

 ①【買取(売る)】:対象物を消滅させ、ポイントに変える。

 ②【在庫(収納)】:倉庫に収納する。(現在容量:レベル1/四畳半)

~~~~~~~


「なるほど、選べるんだ」


 わたしは顎に手を当てて考えた。

 【在庫】に入れれば、後で取り出して直して使うことができる。

 でも、今の倉庫レベルは1。容量は「四畳半」しかないらしい。なんでもかんでも拾ってたら、すぐにパンパンになっちゃうな。


「この剣は完全に錆びてるし、まずはポイントかな」


 わたしは錆びた剣を握りしめ、心の中で選択した。

 ――①の【買取(売る)】。


 シュンッ!

 手の中にあった鉄屑が、光の粒子となって吸い込まれるように消滅した。

 同時に、頭の中で小気味よいレジスターの音が響く。


『チャリン♪ 15RPリサイクル・ポイントを獲得しました』


 ウィンドウの所持ポイントが『0』から『15』に増えた。


「あはっ、本当に売れた! ゴミ処理もできておポイントも貰えるなんて、最高じゃない!」


 興奮したわたしは、目の前にある巨大な粗大ゴミ、半壊した馬車の残骸に手を触れた。

 撤去するだけで大人数が必要な厄介物だ。

 こんな巨大なもの、四畳半の倉庫には入らない。だから選択肢は一つだ。


「【買取】!」


 シュバババッ!!

 一瞬にして馬車の残骸が消え失せ、更地になった地面が現れる。


『大型粗大ゴミを買取。350RPを獲得しました』


「すごーい! お掃除も運搬もいらないよ。ただ触れて『売る』だけで、環境美化完了!」


 そこからのわたしは、キャッキャと庭中を走り回った。

 朽ちた柵を売り、割れたツボを売り、雑草すらも根こそぎ「売却」していく。

 みんなが嫌がるゴミの山が、わたしにとっては宝の山、オモチャ箱にしか見えない。


 一時間後。

 あれだけ荒れ放題だった屋敷の前は、まるで新築予定地のようにピカピカになっていた。

 そして、わたしの所持ポイントは【5800RP】まで膨れ上がっていた。


「ふぅ、いい汗かいたぁ。……さて、次はこの貯まったポイントで『買い物』だね」


 わたしは額の汗をぬぐい、拾っておいた一本の短剣を取り出す。

 これだけは売らずに、手元に残しておいたのだ。

 錆びついて鞘から抜けない、完全なガラクタ。

 でも、わたしには分かってる。これは磨けば光る。


 わたしはウィンドウの【販売(買う)】タブを開く。

 そこには、稼いだポイントで交換できる「サービス一覧」が並んでいた。


 ①【市場調査リサーチ

 ②【商品修繕リペア

 ③【仕様変更リメイク


「選ぶのは当然、②の『商品修繕リペア』!」


 短剣を選択すると、見積もりが表示された。


【修繕費用:300RP】

【実行しますか? YES/NO】


 わたしは迷わずYESをポチッ。

 直後、短剣が淡い緑色の光に包まれた。

 ――ヴィィィィン……ピカーッ!

 光が収まると、そこにあったのは赤錆だらけの鉄屑ではない。


 曇りひとつない銀色の刀身。研ぎ澄まされた刃。柄の革も新品のように張りがある。

 まるで、今さっき王都の工房から出荷されたばかりの「新品」だ。


「……うん、完璧。新品同様どころか、完全に直ってる」


 わたしは蘇った短剣を振り、ヒュンと風を切る音を楽しんだ。

 8歳の子供の腕力でも、これなら戦えるかも。


 ゴミを拾って(売って)、ポイントを稼ぐ。

 そのポイントで、ガラクタを宝物に再生(修繕)する。

 元手はゼロ。リスクもゼロ。

 あるのは、無限の資源ゴミと、わたしの好きなようにできる領地だけ。


「これ、追放刑じゃなくて……ただの『ボーナスステージ(楽園行き)』じゃない?」


 わたしはニシシッと悪戯っぽく笑うと、次のメニューに指を伸ばした。

 拠点の掃除と武器の確保は終わった。

 次は①の【市場調査リサーチ】だ。


 わたしは期待を込めて、ウィンドウに表示された①の【市場調査リサーチ】をタップした。

 検索条件は、『この近くに落ちている有望な廃棄物(人材)』だ。


 ピロンッ!

 軽快な通知音と共に、目の前の空間に周辺の3Dマップがホログラムのように展開される。

 すると、館の裏手に広がる『死滅海』の波打ち際に、一つだけ強烈な赤色の光点シグナルが点滅していた。


『検出完了。レアリティ【SSR】の廃棄物を発見しました』


「えっ、SSR!? いきなり大当たりじゃない!」


 わたしは思わずその場でぴょんぴょんと小躍りした。

 SSRスーパースペシャルレアなんて、前世のソシャゲでも滅多にお目にかかれない代物だ。


「待っててね、わたしのSSR!」


 わたしは逸る気持ちを抑えきれず、海の方角へと小さな足を走らせた。


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