16.スラムの女番長と決闘したら、なぜかペット増えた
「主。大丈夫なのか?」
キリカが不安げにわたしを見て尋ねてくる。
「大丈夫って?」
「相手は、かなりやるよ。ボクには、わかるんだ。相手の、武人としての力量が」
「へー」
そういったスキルなのかな?
敵の強さが見えるみたいな。
「ボクには及ばないものの、なかなか強い。あれなら白狼をひとりで倒せるかもね」
前にキリカが瞬殺していた白狼を、ガラも倒せると。しかも一人で、かー。
「大丈夫」
「いやでも、主はまだ8歳だし。それに、きったはったは得意ではないだろう?」
「そーだね」
「そーだねって、どうしてそう余裕なのだ?」
「しいていえば相手の土俵で戦わないから、かな」
困惑するキリカ。
アナにちらっと視線を送る。
「……リオン様。RPが現在、ほぼゼロですよ」
たぶんアナは、わたしのやろうとしてることに、気づいてる様子。
そう、今回の屋敷大改造によって、RPはゼロに近い数値になっている。
残り2000弱だ。
アナはそんなので、スキルを使って、相手を倒せるのかと聞いてるらしい。
「大丈夫! 心配してくれてありがとねっ」
わたしは前に出る。
対峙するガラ。
わたしは彼女をじっと見つめ、こっそりと【商品鑑定】を発動していた。
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【品名:女頭領ガラ】
【レア度:SSR】
【状態:片目片腕欠損(仕込み銃義手)】
【買取価格:0 RP(部位欠損のため買取不可)】
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なるほどね。
レア度SSRか。かなり優秀な人材(商品)だ。
でも、部位欠損があるから買取不可、か。
そして何より重要な情報。『仕込み銃義手』。
「わかりました。信じましょう。それでは――始め!」
アナの合図と同時だった。
ズガン!
轟音が響き、ガラの右腕――鉄塊だと思っていた義手の先端から、マズルフラッシュが迸った。
「な!? 暗器だと!? 義手に銃弾を仕込んでいるのか!」
「ああそうさ! 悪いね、こちとらお行儀の良くない悪ガキだもんでね」
「卑怯だぞ!」
「勝ちゃあいいのさ。悪いね、ガキンチョ!」
ガラが勝利を確信して笑う。
「ううん、違うよ」
「「な!?」」
わたしは、どっこいしょと立ち上がる。
「ガラは卑怯者じゃあないし。それに、勝ってもない」
「ど、どうなってるのだっ。主は、銃撃を受けたはずでは!?」
「うん、受けたよ。肩のところにね。しっかりと」
暗器での、暗殺をするならば、急所を狙うはずだ。
眉間や心臓。
でも、ガラはそれをしなかった。
肩に銃弾を当ててきたんだ。
口では悪ぶっていても、殺す気まではなかったってこと。
「し、信じられねえ! なんであんた無傷なんだい!」
「さぁ、もう一回試してみれば?」
「く! もう一発!」
ズガン!
シュンッ。
着弾の瞬間、乾いた音がして、弾丸が消滅した。
わたしは無傷で立っていた。
ガラの動きが止まる。
わたしは軽く首をかしげて見せた。
「き、効いてない……!? な、何をした!?」
「何って……『買い取った』んだよ」
「はぁ!?」
訳がわからないという顔で、ガラが再び義手を構える。
「ふざけやがって! なら、これならどうだぁぁぁッ!」
ズガガガガガガッ!!
マシンガンのような連射。
雨あられと降り注ぐ弾丸の嵐が、わたしを襲う。
硝煙の匂いと、空気を切り裂く音。
だが、わたしは一歩も動かない。
ただ、迫りくる弾丸に意識を向けるだけ。
放たれた弾丸の所有者は、だれだろう。
答えは、いない。手を離れた時点で、ゴミ判定なのだ。
ならば、わたしのスキル、リサイクルショップの機能、【買取】が使える。
わたしの身体(衣服含む)に触れた瞬間、弾丸は「商品」とみなされる。
弾丸がわたしの体を傷つけるその刹那の瞬間に【買取】。
こうすれば、弾丸はわたしを傷つけることはない。
ステータス画面で『仕込み銃』だとわかっていたからこそ、初撃から対応できたのだ。
シュンッ、シュンッ、シュンッ、シュンッ!
弾丸がわたしに当たるたび、光の粒子となって消えていく。
痛みも衝撃もない。あるのは、チャリン、チャリンというRPが貯まる音だけ。
「ば、馬鹿な……! アタイの弾が、消えていく……!?」
全弾撃ち尽くし、肩で息をするガラ。
足元には薬莢が転がっているが、わたしの体には傷一つない。
「さて、なんででしょう?」
「テメェ……魔法か!? ええい、なら直接ぶっ飛ばしてやるよ!」
ガラが痺れを切らして突っ込んでくる。
弾切れの義手をハンマーのように振り上げ、殴りかかってきた。
「死ねぇぇぇッ!」
剛腕が迫る。
わたしはそれを避けず、逆に自分からステップインした。
そして、振り下ろされる義手の装甲に、そっと手を触れる。
「――【仕様変更】」
ボロボロ……ッ!
ガシャァァァ……ッ!
「な、にぃ!?」
ガラの目が見開かれる。
わたしの手が触れた箇所から、彼女の自慢の鋼鉄製義手が、まるで砂の城のように崩れ落ちていく。
一瞬で赤茶色に錆びつき、ボロボロの鉄屑となって地面に散らばったのだ。
「そうか、リメイク! 【仕様変更】は何も、プラスの改良だけを加えるんじゃあない。マイナス、すなわち、劣化させることも可能なのか!」
キリカの言う通りだ。
わたしは義手を「強固な武器」から「風化した鉄屑」へと仕様変更したのだ。
「う、わッ!?」
武器が消滅したことで、ガラがつんのめるように体勢を崩した。
わたしはその隙を見逃さず、彼女の懐に潜り込み、崩れ落ちたパーツの中にあった予備の拳銃をもぎ取った。
「チェックメイトだ」
カチャリ。
わたしは奪った銃の銃口を、無防備なガラの顔面に突きつけた。
「…………」
ガラが息を呑み、へたり込む。
自分の最強の武器がゴミ屑にされ、命を握られた。
「……まけた」
ガラが悔しそうに唇を噛み、潔く両手を上げる。
「くっ、好きにしろ! 約束だ……煮るなり焼くなり好きにしな!」
彼女はギュッと目を閉じ、屈辱に耐えるように身を震わせた。
どんな酷いことをされるのか、何を強要されるのかと怯えているようだ。
覚悟を決めたガラに、わたしは言った。
「じゃあ、ゴミ拾い手伝って」
「……は?」
ガラが片目を開けた。
予想外すぎる言葉に、キョトンとしている。
「ご、ゴミ拾い……?」
「うん。今、人手が足りないんだ。君たち餓狼団の機動力があれば、もっと効率よく街の資源回収ができると思って」
わたしは突きつけていた銃を下ろし、手を差し伸べた。
「君らが欲しがってた『住む場所』と『ご飯』は保証する。その代わり、ウチの従業員として働いてほしい」
ガラが、信じられないものを見る目で、わたしを見てきた。
「まじなのか?」
「うん、本気だよ。おおまじ」
「は、はん! どうせ、あんたも、他の連中と同じ、アタイら不良品のことをボロ雑巾のように使うんだろ? そんで、使いすてるんだろ!」
「そんなことしないよ」
わたしは、義手がなくなって露わになったガラの右肩――その切断面に、そっと手を触れた。
「【部分修繕】」
カッ……!
淡い光が、彼女の右肩を包み込む。
「な、なんだ!? 熱い……いや、暖かい!?」
光の中で、骨が、筋肉が、神経が、血管が、急速に再生されていく。
そして光が収まった時。
そこには――失われたはずの、本物の右腕があった。
「う、腕が! 失った腕が、は、生えてきた!?」
ガラが自分の右手を呆然と見つめ、指を動かす。
グーパー、グーパー。
義手特有の機械音はしない。滑らかに動く、温かい血の通った自分の手だ。
「部分でのリペアだから、そこまでポイントかからなかったや」
わたしはにっこりと笑う。
直って良かった良かった。
「……なんでだ」
「え?」
「なんでアタイの腕を直したんだって聞いたんだよ。アタイを使い捨てるつもりのくせに」
「だから、使い捨てるつもりなんてないよ。君と、君の仲間たち全員に……わたしの仕事を手伝ってほしいの」
「だからって、直す必要ないだろ……」
「あるよ。だって、一緒に働く仲間なんだから。君も、君の仲間のことも、わたしの仲間として大事にするよ」
しばらくの沈黙。やがて、彼女が口を開く。
「……アタイだけでなく、アタイの、仲間も、大事に、してくれるのかい?」
「うん!」
ガラは、差し出されたわたしの手と、わたしの顔を交互に見た。
今まで散々、汚い大人たちに騙され、利用されてきたのだろう。
かわいそうに。
呆気に取られていた彼女の表情が、次第に変化していく。
みるみるうちに耳まで真っ赤になり、瞳が潤んでいく。
……ん? なんで赤くなるの?
彼女は震える手で、再生したばかりの自分の右手で、わたしの手を握り返した。
その手は温かく、少しだけ震えていた。
「……すき♡」
「え?」
「あ、いや! なんでもねえ! やるよ! やればいいんだろゴミ拾い! アタイはアンタのペットだからな!」
「あ、いやペットっていうのは言葉のあやっていうか」
「ペットになるって、約束だったからよ。そこは、守るぜ」
「守らなくていいんだけどー」
ガラは慌てて立ち上がると、再生したばかりの手を隠すように背中に回し、モジモジと身体をくねらせた。
「そのあの、これからアタイらのことよろしくな……ご主人様……♡」
上目遣いで媚びてくるその瞳は、完全に「メス」の色をしていた。
どうやら、銃弾だけでなく、彼女のハートもガッチリと掴んで(買取して)しまったようである。
「チッ……。また増えましたわね、泥棒猫が」
「主のフェロモンは、留まるところを知らないな」
背後から、恐ろしいほどの殺気が突き刺さっている気がするけれど、わたしは気づかないフリをした。
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