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12.廃教会の孤児たちを「ウチで働かないか?」とスカウトしました



「……あぁ、リオン様。背中がおんぶをおねだりしています……」


 目に♡をうかべ、はあはあしながら、桜香おうかがわたしにしなだれかかる。

 体が、暑い。あったかいんじゃあなくて、あつい。まるで暖炉にあたってるかのようだ。


 そんで、柔らかい。なぜならほぼ全裸だからね、この鬼聖女さん。

 熱の力にほって、彼女の身につけてるものは、消し炭になった。


 全裸のままでいるのはよくないからと、わたしの上着を着せたんだけど。


 8歳の上着なので、当然、桜香のサイズに合わない。

 全裸プラスぴちぴち上着の、爆乳美女が爆誕したのである。こんな姿で、廃棄都市で歩けないよ。


「もー、自分で歩けるでしょ、桜香さん」


「ですが、病み上がりですので。ふらついて、うっかりリオン様に覆いかかってしまうかもしれません」


 白骨樹海からの帰り道。

 すっかり熱が引いて健康体に戻った桜香が、ねっとりとした視線でわたしにまとわりついてくる。

 その巨体と豊満な胸で押し潰されたら、8歳のわたしなど圧死しかねない……。ぐええ。


「チッ……。この発情女め、隙あらばボクの主に密着しおって」


「……リオン様、あとで消毒液をかけさせていただきますわね。この無駄にく雌豚に」


 背後でキリカが舌打ちし、アナが殺気立っている。


「やめてね仲良くしてねー。これから仲間になるんだから」

「「ちっ!」」


「はい……一生……よろしくおねがいします……はぁはぁ……♡好き……」


 そんな奇妙な行列を作りながら、わたし達は廃教会へと戻ってきた。

 入り口のバリケードを越えると、待っていた子供たちが一斉に駆け寄ってくる。


「あ! 桜香姉ちゃんだ!」


「姉ちゃん! よかった、生きてた……!」


 子供たちが桜香の足元に抱きつく。

 一番年上らしき少年――リーダー格の子が、涙目で桜香を見上げた。


「帰ってこないから、死んじゃったのかと……」


 桜香は子供をぎゅっと抱きしめる。

 さっきまでわたしに向けていた、熱っぽい視線は消えていた。そこにいたのは、子供たちを守る、お姉さんだった。


「ごめんなさいね。熱が出て動けなくなっていたの。でも、このリオン様が助けてくださったのよ」


 桜香がまたうっとりとした顔でわたしを紹介する。

 子供たちの視線が一斉にわたしに向いた。

 わたしは咳払いを一つして、本題を切り出した。


「こんにちは! さっそくだけど単刀直入に言うよ。君たち、ウチで働かないか?」


「……え?」


 少年が目を丸くする。


「仕事は『ゴミ拾い』だ。この街に落ちている資源を集めてほしい。その代わり、住む家と、温かいご飯と、お風呂を保証するよ」


 スラムの孤児にとって、これ以上の条件はないはずだ。

 しかし、少年の目には警戒の色が浮かんだ。彼はぐっと唇を噛み締め、わたしを睨みつけた。


「……嘘だ」


「嘘じゃないよ」


「嘘だ! 大人たちはいつもそうだ! 『いい仕事がある』って言って連れて行って、汚い仕事をさせたり、売り飛ばしたりするんだ! 僕たちは騙されないぞ!」


 少年が叫ぶと、他の子供たちも怯えたように後ろへ下がった。

 なるほど、もっともだ。

 この廃棄都市で「うまい話」を信じる奴は、真っ先に死ぬ。彼らの警戒心は正しい防衛本能だ。

 わたしは困ったように頭をかいた。


「わたし大人じゃあないんだけど……。まあ、信用がないのは仕方ないね。……でも、桜香さんのことは信じられるでしょう?」


「え……」


 リーダーが桜香を見やる。

 彼女は深く頷く。


「私は、この方についていくわ。この方は、私の命の恩人だから」


 桜香が穏やかだが、迷いのない声で言った。

 その表情は、子供たちが見たこともないほど幸せそうだ。


 そんな桜香の姿を見て、心が動いてるのが、見てとれた。ここだな。


「もし嘘だったら逃げればいい。とりあえず、ご飯だけでも食べにおいでよ。お腹、空いてるでしょ?」


 ぐぅぅぅ……。

 タイミングよく、子供たちの誰かのお腹が鳴った。

 少年は迷っていたが、背後の幼い妹たちの空腹顔を見て、しぶしぶ頷いた。


「……ご飯だけだぞ。変なことしたら、噛み付いてやるからな」


     ◇


 わたし達は総勢10名の孤児たちを引き連れて、領主の館へと移動した。

 スラムのボロ小屋しか知らない彼らは、巨大な屋敷を見て、ぽかんと口を開けている。


「ここが、僕たちの家……?」


「うん。まずはその汚れを落とそうか」


 わたしは彼らを、完成したばかりの『大浴場』へと案内した。

 脱衣所でボロボロの服を脱がせ、浴室へ放り込む。


「わぁぁっ!? お湯だ! たっぷりある!」


「あったかい……!」


 湯気が充満する広々とした浴槽。

 子供たちは恐る恐るお湯に足を入れ、その温かさに驚きの声を上げた。

 スラムでは水浴びすら贅沢だ。こんな清潔なお湯に浸かるなんて、王侯貴族のような体験だろう。


「ほら、耳の後ろまでしっかり洗うんだぞー」


 わたしも一緒に入り、彼らの垢を落としていく。

 黒ずんでいた肌から汚れが落ち、本来の子供らしい白い肌が現れる。

 骨と皮ばかりに痩せているのが痛々しいが、それでも彼らの表情は、ここに来た時とは別人のように明るくなっていた。


「気持ちいい……」


「泥が落ちてく……」


 少年――名前は【トニー】というらしい――が、お湯をすくいながら呟いた。

 その目から、警戒の色が薄れていくのが見えた。


     ◇


 お風呂から上がり、さっぱりした子供たちを待っていたのは、ダイニングテーブルに並べられた食事だった。

 メニューは、備蓄の缶詰と乾パンを【仕様変更リメイク】した『特製ホワイトシチュー』と『焼き立てパン』だ。


 桜香をリペアたのと、リメイクによって、結構RPが減ってきてはいる。

 けど、いいんだ。これは先行投資だ。


「さあ、召し上がれ」


 わたしが言うや否や、子供たちはスプーンを掴んだ。

 ガツガツとシチューを口に運び、パンを頬張る。


「んんっ!! おいひぃ……!」


「なんだこれ、柔らかい……! あったかい……!」


 一口食べた瞬間、彼らの動きが止まった。

 次々と、その目からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「うっ、うぅ……おいしいよぉ……」


「こんなご飯、初めて食べた……」


 スラムでは、腐りかけの残飯や、カビの生えたパンしか食べたことがなかっただろう。

 温かくて、柔らかくて、栄養のある食事。

 それは彼らにとって、奇跡そのものだったに違いない。

 トニーも、震える手でパンを握りしめ、涙を流しながら食べている。


「……信じるよ」


 彼は袖で涙を拭い、真っ直ぐにわたしを見た。


「こんなご飯を食べさせてくれる人が、悪い人なわけない。……おれたち、なんでもやるよ。だから……」


「うん。約束通り、衣食住は保証する」


 わたしはニッコリと笑った。


「これから忙しくなるよ。君たちには、この街の『お宝探し』をしてもらうからね」


 こうして、わたしのリサイクルショップ(領地)に、10人の小さな従業員たちが加わった。

 彼らの胃袋を掴んだ時点で、商談はわたしの圧勝だったのだ。


「あ、あのリオン様。私もリオン様を食べちゃいたいくらいお腹が空きましたわ……あーん♡」


 桜香がべったりくっついてきて、わたしのほっぺたをはむはむしてきた。やめて。


「桜香、どさくさに紛れて主を食べようとするな。表へ出ろ!」

「あーん、はわたくしの役目ですっ!」


 キリカ&アナがキレても、桜香はやめずわたしにくっついたまま。

 賑やかな食卓に、子供たちの笑い声が混じる。

 さあ、明日からはさらに忙しくなるぞー!


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― 新着の感想 ―
子供たちが泣きながら食事する姿を想像したら涙が溢れてしまったよ、私は飲食の仕事をしているので食べることで幸せになってもらえることが嬉しいので子供たちの幸せそうな表情を想像して堪えられなかった!良かった…
子供の前で何してんだwww
>「……ご飯だけだぞ。変なことしたら、噛み付いてやるからな」 噛みつかれるの決定では?w と思ってたけど、”変なこと”をするところはすでに終わってたから見られなくて済んだからセーフか。 >「あ、あ…
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