11.拾われた人食い鬼は、溢れ出す「好き」が止められず、主の匂いをスーハーしています【Side:桜香】
【Side:桜香】
あぁ、いい匂い。
ひんやりとして、甘くて、どこか懐かしい。
この小さなお方の身体に抱きついていると、頭の芯が痺れて、ドロドロに溶けてしまいそうです。
私は、ずっと「出来損ない」でした。
私の生まれ故郷である「鬼の里」では、「喰らうこと」こそが美徳とされていました。
力の強い男鬼は、人間を物理的に喰らい、血肉とする。
妖艶な女鬼は、男を性的に喰らい、精気を搾り取る。
そうやって他者の命を奪い、己の糧とすることこそが、鬼人族としての「正常」であり「誇り」だったのです。
けれど、私にはそれができませんでした。
人間を傷つけるのが怖かった。
男の人に触れ、その命を啜るなんて、汚らわしくて耐えられなかった。
『情けない。貴様のような臆病者は、鬼の面汚しだ』
族長である父にそう吐き捨てられ、私は里を追放されました。
行く当てなどありません。
角を隠し、人間のふりをして街に紛れ込んでも、私の巨体と溢れ出る妖気は隠しきれず、すぐに正体がバレてしまう。
『化け物だ!』
『人食い鬼だ、殺せ!』
石を投げられ、罵声を浴びせられ、逃げ惑う日々。
誰も私を見てくれない。誰も私を受け入れてくれない。
そうして流れ着いたのが、この世界の最果て――廃棄都市デッドエンドでした。
ここで私は、自分と同じ「捨てられた子供たち」に出会いました。
親のいない彼らを放っておけず、私は廃教会に住み着き、不器用ながらも「母親」の真似事を始めました。
貧しいけれど、子供たちの笑顔は温かかった。
初めて、自分が生きていてもいい場所を見つけた気がしました。
でも、血の運命は残酷です。
鬼としての本能――「喰らいたい」という欲求が、日増しに強くなっていったのです。私も所詮は鬼の女だったのでしょう……。
そしてそんな本能を無理やり抑え込んでいた私の身体は、行き場のないエネルギーで悲鳴を上げていました。
内側から灼熱の業火に焼かれるような激痛。
意識が飛び、視界が赤く染まる。
このままでは暴走して、愛する子供たちを喰い殺してしまうかもしれない。
だから私は、一人で死ぬために、この白骨樹海へと入ったのです。
誰にも迷惑をかけず、ひっそりと灰になろうと。
それなのに。
「あぁ……リオン様……♡」
貴方様は、現れました。
業火の中で焼ける私を恐れることもなく。
小さな手で、私の醜い角に触れて。
そして、【修繕】してくださった。
あの瞬間の衝撃を、どう言葉にすればいいでしょう。
私の中にわだかまっていたドロドロとした熱が、貴方様の手を通じて、綺麗な光へと変わっていく感覚。
それは、どんな食事よりも満たされる、極上の快楽でした。
(あぁ、駄目……。もう、離れられない)
私は貴方様の胸に顔を埋め、大きく息を吸い込みました。
スーッ、ハァーッ……♡
フルーツのような甘い香りと、お風呂上がりの石鹸の香りが混じり合って、脳髄をくすぐります。
リオン様。
貴方様は、男の子なのですか? それとも女の子?
いいえ、そんなことは些末な問題です。
貴方様が貴方様であるなら、性別なんて関係ありません。
私の熱を鎮められるのは、世界でただ一人、貴方様だけ。
私の角を触って許されるのも、貴方様だけ。
(好き……。好き、好き、大好き……ッ♡)
あぁ、どうしよう。
さっき熱を抜いてもらったばかりなのに、貴方様の匂いを嗅いでいるだけで、また身体の奥が熱くなってきました。
今度は苦しい熱じゃありません。
もっと触れてほしい、もっと撫でてほしいという、甘く疼くような熱。
パタパタパタパタパタッ!
自分の意思とは関係なく、お尻のあたりの尻尾が激しく振られています。
いっそこのまま、貴方様を教会に連れ込んで、閉じ込めてしまいたい。
誰にも渡さない。
朝も昼も夜も、ずっと抱きしめて、その精気を……。
「……おい。いつまで抱きついているんだ、この発情鬼」
「離れなさい! リオン様が窒息してしまいますわ!」
背後から、ギャーギャーと邪魔な声が聞こえます。
銀髪の女と、赤髪の小娘。
ふふん、負け犬の遠吠えですね。
今、リオン様の温もりを一番近くで独占しているのは、この私なのですから。
「……離しません。絶対に」
私はリオン様の細い腰に腕を回し、ギュッと抱きしめました。
この方は私の命の恩人であり、私の熱の支配者であり……私の、可愛いご主人様。
拾っていただいたこの命。
そして、このあふれんばかりの情欲と母性。
すべて、貴方様に捧げます――♡
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