01.「ゴミ拾い」スキルで実家を追放されましたが、わたしにとってはご褒美です
※本作は同タイトルの短編の連載版です。
短編が好評につき連載化しました。
王都にあるサイハーデン伯爵家の屋敷で、わたし――【リオン・サイハーデン】の運命が決まろうとしていた。
「……リ、リオン様のスキルは……【リサイクルショップ】、です」
教会から招かれた老神官が、困惑しきった声でそう告げた。
その瞬間、豪華なシャンデリアが輝く広間が、氷ついたような沈黙に包まれる。
この国には生まれた者が必ず受けなければならない「儀式」がある。
8歳を迎えた日に行われる、【洗礼の儀】だ。
この世界に生まれ落ちた人間は誰しも、創造の神により、固有のスキルを与えられる。
剣術スキルを与えられれば、一夜にして剣の達人となる。
魔法スキルなら、魔法を自在に操れるようになる。
スキルは一度与えられると一生変えられない。それゆえに、なんのスキルを授かるかが、今後の進路を決定づけるといえた。
「……なんだそれは? リサイクル、だと?」
玉座のような椅子に沈み込んでいた父、【クヅチチ・サイハーデン】伯爵が低い声で唸る。
無理もない。この世界に、リサイクルショップなんて言葉は存在しない。
だが、前世の記憶を持つ「転生者」であるわたしには、その意味が痛いほど分かってしまった。
(リサイクルショップ……不用品買取屋さんってこと? 剣と魔法の世界で?)
神官が冷や汗を拭いながら、水晶に浮かんだ詳細を読み上げる。
「ええと、効果は……『ゴミを拾い、あきんどのように売り買いする能力』……のようです」
その言葉が引き金だった。
クヅチチ父様の顔が、湯気を上げるほどの怒りで真っ赤に染まる。
「ゴミ拾いだとぉぉっ!?」
父様の怒声が広間の空気をビリビリと震わせた。
我がサイハーデン家は、代々「剣」と「魔法」で国に尽くしてきた武門の名門だ。一族からは騎士団長や宮廷魔導師を多数輩出している。
そんな名家に、商人でさえ下等とされるこの世界で、「ゴミ拾い」などという訳の分からないスキル持ちが生まれるなど、前代未聞の恥さらしだった。
「ぎゃはははは! 聞いたか兄貴! ゴミ拾いだってよ!」
「傑作だなリオン! 幼い頃は『神童』だの『天才』だのともてはやされていたが、化けの皮が剥がれたな!」
後ろで控えていた双子の兄様たち……【ゴッカニー】と【ミスニー】が、腹を抱えて品のない笑い声を上げた。
わたしは幼少期、前世の知識を使って少し大人びた発言をしていたせいで、周囲から勝手に期待されていたのだ。
ゴッカニー兄様とミスニー兄様はそれが面白くなかったらしく、わたしの転落を見て溜飲を下げている。
(やれやれ……。神童扱いも面倒だったけど、こっちはこっちで騒がしいなぁ)
わたしは内心で大きなため息をついた。
元々、わたしは争いごとや面倒な出世競争が大嫌いだ。
前世でも、休日にふらりとリサイクルショップを巡り、ジャンク品を購入・時に修理してはニヤニヤするような、地味で平穏な生活を愛していた。
だから、この堅苦しい実家の空気には、ずっと息が詰まる思いだったのだ。
「リオン! この恥さらしめ。貴様のような『ゴミ拾い』を置いておく場所など、この屋敷にはない!」
クヅチチ父様はわたしを汚物を見るような目で見下ろし、冷酷に告げた。
「リオン、貴様を本日付けで廃嫡とする! 今日中に荷物をまとめ、辺境にある我が都市『デッドエンド』へ向かえ」
「デッドエンド……あの、二つの魔境と接する不毛の地ですか?」
この国の東の果てにある廃棄都市……デッドエンド。
そこは、荒れ狂う『死滅海』と、塩害によって真っ白に染まる『白骨樹海』に挟まれた、最果ての地だ。
「そうだ。あそこは我が領地の『ゴミ捨て場』のような場所だ。貴様のスキルにはお似合いだろう?」
ゴッカニー、ミスニー兄様たちが「ざまぁねえな!」と囃し立てる。
要するに、厄介払いだ。8歳の子供に、死ぬまで辺境のゴミの中で這いつくばってろという宣告。
普通の子供なら、絶望して泣き崩れる場面だろう。
でも、わたしはこみ上げる笑いを必死に噛み殺していた。
(やった……! やったぁぁ! 面倒な貴族の義務から解放されるじゃあないっ。それに……わたしのもらったスキル……結構良い感じだよ?)
ゴミを拾って、直して、活用する。
それはまさに、わたしが前世で愛してやまなかった趣味そのものだ。
しかも、追放先の「デッドエンド」と言えば、荒海にのまれた船の残骸や、魔物の死体が転がる不毛の大地。
つまり――わたしにとっては『宝の山』だ。
「承知いたしました。お父様、兄様たちも、今までお世話になりました」
わたしは殊勝な態度でペコリと一礼し、心の中でガッツポーズを決めた。
実家という名の檻から脱出成功。
ここからは、誰にも邪魔されない、わたしの楽しいリサイクル・ライフの始まりだ。
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