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男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?  作者: 赤石アクタ
第二章 コラボ配信編

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第七話 【コラボ配信】特別企画!ダンジョン攻略組×クーちゃん!!【クーちゃんねる】

「──はーい、見えてるかな?どうも、ヒマワリですっ!今回は『クーちゃんねる』のクーちゃんとコラボ配信!!よっろしくー!!」


「⋯⋯おお」



⋯⋯すげぇ、手馴れてるな。


 周りを飛び回るドローンの画角に対して上手にポーズを決めながら、ヒマワリさんは配信開始の挨拶をしていた。



「コラボ配信ってことで、あたしの『魔法』も冴え渡っちゃうかも?あっはは!それは嘘か!あたしの『魔法』は『加護』の消費が激しいから、そんな簡単にお見せできないのです⋯⋯!」



⋯⋯初対面の時にも思ったが、ヒマワリさんは一度話し始めると基本止まらない。配信業が天職とも思えるような人だった。



「⋯⋯あっ!これ毎回言ってるけど、サボりの言い訳じゃないからね?あたしには、皆のコメントを読むっていう役目がちゃんとあるんだから!!」



 現在、俺達はダンジョン内部で配信をしている。危険性の観点からヒナは同行していない。


『ダンジョン攻略組』と『クーちゃんねる』のコラボ配信は、俺の想像以上に盛り上がっていた。


 正直俺はもう配信者は引退するつもりだったのだが、これも『総理大臣』に俺の身体に起きた変化のことを聞くため⋯⋯耐えろ、心を殺すのはもう慣れたはずだ⋯⋯



「じゃあまずは恒例!マッピングからしよっか!おーい、ねこまたちゃーん!」


「そんな叫ばなくても聞こえてるよ⋯⋯うぅ、寝起きなのに⋯⋯」



 ダンジョン内でも元気なヒマワリさんに呼ばれ、欠伸を噛み殺しながらねこまたさんが画面に映る。



 ちなみに、『ダンジョン攻略組』の配信には基本的に五つの撮影ドローンが存在する。


 それぞれメンバー個人を撮影するものが一台ずつの計四台と、俯瞰して全体を映すものが一台。


 国が運営していることもあってか、大盤振る舞いというやつだった。


⋯⋯これって、ファンは五窓⋯⋯つまり五つの配信を同時に再生するのだろうか⋯⋯今回は俺の画面もあるから六窓⋯⋯?え、すご。



「ほら、ねこまたちゃん!マッピング!マッピングして!!」


「あぁもうマジでうるさい⋯⋯っ」



 ねこまたさんの周囲をぴょんぴょんと飛び跳ねるヒマワリさんは魔道士というコンセプトゆえシスターのような服を着ており、元気溌剌なヒマワリさんとは少しアンバランスだったが、それが逆にギャップとなって彼女を魅力的に見せていた。


 執拗に『マッピング』とやらを求められているねこまたさんはシーフのような踊り子のような、とにかく露出の多い軽装。これまたアンバランスだが、それゆえヒマワリさんと同様魅力的でもあった。



「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯『加護』の存在があるため別に鎧とかを着込む意味は薄いのだが、流石にあのミニスカートはどうなのだろう?


 そこまで考えて、『俺も以前ミニスカで配信をしたことがある』という最悪の事実を思い出して叫びたくなったあぁヤバいヘラりそう。



「はぁ⋯⋯じゃあ、マッピングするから。ちゃんと映しとけよ」



 ねこまたさんは身体を伸ばしてから、手を前に掲げた。


 すると、ねこまたさんの手元にホログラムのようなものが現れる。



「はい、これがここの地図。リスナーはスクショ撮っとけ〜?」


「すごい⋯⋯」



 一応俺も配信を確認した際に見たことはあったが、実際に見るとやはり壮観だった。



──ねこまたさんの扱える『魔法』


 自分のいる場所から一定距離を立体的な地図に起こせるのだ。しかもその時点でのモンスターの位置まで大まかに分かるという有能っぷり。



「はい、これでボクの役目は終わり⋯⋯は?戦い?する訳ないでしょ⋯⋯サボりじゃない。ボクはそういう条件で契約してるの。そもそもこの『魔法』は『加護』の消費が激しいんだよ。今のボクは死ぬほど脆いんだからな」



 カメラに向かって言い訳していたねこまたさんは急に俺達の方に顔を向け「だからお前らがちゃんとボクを守れよ」と圧をかけてきた。



「その分、ボクはコメントを見てるからな。あんまつまんないこと書くなよ?ひひっ」



 ねこまたさんは気怠げな雰囲気はそのままにコメント欄とじゃれている。



──これが『ダンジョン攻略組』の基本スタイルだった。


『ダンジョン攻略組』で前に出て積極的に戦うのは基本的にオリヴィアさんとアレスさん。


 ヒマワリさんとねこまたさんはサポートを行いながらもコメントを確認し、双方向的なエンタメとして配信を盛り上げる役割を担っているのだ。


 これこそ、『ダンジョン攻略組』が『配信者』として人気を博している理由だった。


⋯⋯そもそも、命をかけた戦いの最中に余所見をしてコメントを拾うなど普通不可能である。複数人でチームを組み、役割を分担したとしてもその危険性や恐怖はさして変わらないだろう。



「⋯⋯」



 何となく、思う。


 それができる配信者というのは、技術や才能以前に──



「⋯⋯⋯⋯」



──どこか、狂っているのではないだろうか。



 少なくとも俺には、できる気がしなかった。




「⋯⋯⋯⋯あっ、えへっ♡」



⋯⋯とりあえず定期的にカメラに向かってスマイル。




──────────────────




 そこからの配信は実に順調だった。



「──ふっ」



 以前彼らの配信アーカイブを確認した時から思っていたが、やはり戦闘において、アレスさんとオリヴィアさんは両者天才的な才能を持っている。


 特にオリヴィアさんの強さは圧倒的だった。


 レイピアのような細い剣を用いてモンスターの魔石を的確に砕くその腕前は実に見事で、俺が元の身体であっても勝てるか分からないほどに彼女は強かった。


⋯⋯たまに物理法則を無視したように動くのが、彼女の『魔法』なのだろうか。


⋯⋯たしか『風魔法』とか言っていたか⋯⋯いやそれはRPGのコンセプトになぞらえたものなんだっけ⋯⋯?


 疑問は尽きないが、しかし彼女が強いことは確かである。



「──はあっ⋯⋯!」



 アレスさんの用いる武器は俺と同じ通常の剣だが、戦闘スタイルは俺と真逆だった。


 俺は基本的に、力任せに剣を振るって相手を防御ごと叩き折るような戦い方をするのだが、アレスさんはモンスターの動きに合わせてカウンターの形で攻撃を入れるという戦い方だった。


⋯⋯見ていて思ったけど、あっちの方が戦い方として映えるしかっこいいな⋯⋯今からでもカウンタータイプを目指そうかな⋯⋯



「──よっ⋯⋯!」



⋯⋯いや、俺はこっちの方が向いてそうだな⋯⋯今の身体じゃちょっと疲れるけど。



 ちなみに、『ダンジョン攻略組』とコラボ配信をすることによる恩恵の一つに『武器の持ち込みが可能』というものがある。


 ダンジョン内では武器を生成できるが、それはすなわち『加護』の消費を意味する。つまり理論上は、武器を持ち込めるならその分『加護』を節約できるという訳だ。


 とはいえ、ダンジョン内はともかくダンジョン外の日本には銃刀法というものが存在するためバカでかい剣なんて基本持ち歩けない。銃なんてなおさらである。


 しかし、『ダンジョン攻略組』は国が運営していることもあり、特例として武器を持ち込むことができるらしかった。


 オリヴィアさん曰く、『総理大臣』が積極的にそういった恩恵を取り決めてくれたらしい。


⋯⋯『総理』はダンジョン攻略を推奨している⋯⋯ということだろうか。



「──それで部屋に虫が出ちゃって!もうモンスターより怖かったよー!!」


「ん?おい今『最終面クリアした』ってコメント流れなかったか!?あのゲームボクもまだクリアしてないのに⋯⋯やべぇ流れた!さっきのやつ、もう一回コメントしてくれ!!パーティ編成も書き込んで!!」


「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯あの二人は、ずっとあんな感じだな。




──────────────────




「──それじゃあ、今日の配信はここまで!!みんなありがとー!!あっ!クーちゃんとはこれからも末永くお付き合いしていくからね!もしかしたら、近いうちに良い発表ができるかも?あっはは!それじゃ、お疲れ様でしたー!!」



 ヒマワリさんが最後まで一切勢いを緩めずに挨拶をして配信を切った⋯⋯マジで息切れしなかったなあの人⋯⋯



「ふぅ⋯⋯お疲れ様でした」


「⋯⋯?あぁ」



 コラボ配信は大好評のままに終了したと言っていいだろう。


 配信が終わる頃には、ダンジョンの深層と言える部分まで進んでおり、結果として構造は複雑に、そしてこの辺は特に高低差が激しく足場も少なかった。それこそ、落下したらただではすまないことが分かる高さである。



「⋯⋯」



──『ダンジョン内部の空間は外から見た際の大きさと合致せず、環境にも整合性が取れない』


 これも、ダンジョンの特徴と呼べるものの一つであり、ダンジョンが『異界』と揶揄される所以でもあった。


 本来の地形で考えれば、この場所にここまでの高低差があるなんてありえない。その異常性ゆえか、ダンジョン内の神秘的な光景もどこか不気味に思えてしまう。


 不安を誤魔化すように、俺はメンバーの方へ向き直った。



「⋯⋯結構深いところまで潜っちゃいましたね。元の道を引き返すんですか?」


「は?ふざけてんのか新入り?」



 なんでだよ。


 ねこまたさんが呆れたようにこちらを見つめるのは珍しいことではないが⋯⋯しかし、それ以外のメンバーも不思議そうにこちらを見ていることに気づいた。


⋯⋯?俺何か変なこと言ったか?



「もー!クーちゃん何言ってんの?ここからが本番じゃん?」


「え?」



 ヒマワリさんが笑いながら肩を叩いてくるが、俺にはやはり言葉の意味が分からない。



「──あの、皆さんさっきからなんの話をしてるんですか?」


「⋯⋯え?」



 疑問を解消するため、気持ち大きめの声で放った俺の言葉に、ダンジョン攻略組の面々は顔を引き攣らせて固まってしまった。



「⋯⋯おい、誰もこいつに説明してないのか?」


「え?それあたしらの役目だったん?」


「待て、クーちゃんさんは本当になにも聞いていないのか?」



「え、えっと⋯⋯?」



 時が止まったような沈黙の後、全員が口々に不穏な言葉を吐き出す。


⋯⋯え、何?なんか蚊帳の外⋯⋯



「クーちゃん、もしかして⋯⋯」



 アレスさんは額に汗を浮かべたまま俺に近づき⋯⋯



「──我々の目的について、教えられていないんですか?」



 神妙に、そう告げた。



「⋯⋯目的⋯⋯?」



 彼の言う目的というのは、コラボ配信とは別のことなのだろうか?


 ヒマワリさんは『ここからが本番』とも言っていた。つまり配信は主目的では無かった⋯⋯?


 必死に記憶を思い返してみるも、やはり一切聞いた覚えがないため、アレスさんに対してこちらも神妙に頷いてみる。



「ま、マジかぁ⋯⋯」


「私達は、なんて事を⋯⋯」


「え⋯⋯もしかしてこれ詐欺罪とかに引っかかる?」


「いやいや!本来はメールの時点で説明しとくべきっしょ!?あたしら悪くないもん!!」



 ダンジョン攻略組は完全にパニックに陥っていた。俺自身も状況を飲み込めないが、なんとなくいたたまれない。



「⋯⋯クーちゃん、落ち着いて聞いてください」



 いちばん早くにパニックから立ち直ったのはアレスさんだった。


 彼は俺の肩を掴み──



「──うわぁすみません勝手に触ってしまって無意識だったんです許してください!?!?」



⋯⋯肩から手を離して深呼吸と咳払いをしてから、真剣な表情でこちらを見つめる。



「こ、こほん⋯⋯!クーちゃん、よく聞いてください」


「⋯⋯いいですよ?もう一度肩を掴んでも♡」


「──っ!?!?あのっ、えっとっ!?よっ、よく聞いてください!!」



 はは、からかいすぎたか。


 顔を赤く染めてしまったアレスさんに、美少女スマイルで続きを促す。



「ふぅー⋯⋯クーちゃん⋯⋯我々は今回、このダンジョンのボスを──」


「──ふッ⋯⋯」



──アレスさんの言葉を遮り、俺の剣がモンスターを斬り裂く音が響いた。


 空中から飛来したデカいコウモリのようなモンスターは、ねこまたさんに襲いかかる寸前で身体と魔石が真っ二つになり、その動きを止める。



「──新、入り⋯⋯」



 ねこまたさんも含めて全員が『驚くほど情報共有がされていない事実』にパニックを起こしていたため、俺以外の反応が遅れたのだろう。


 ねこまたさんは驚愕したように俺を見ていた。



⋯⋯うん、今のはだいぶかっこよかったのでは?


 今の俺は美少女だし、こちらをかなり敵視していたねこまたさんの好感度もこれで──



「──おい新入り!しっかりしろっ!!」


「──え?」



 浮かれていた思考がねこまたさんの焦った声で引き戻される。


 そして、俺はモンスターを斬り裂いた際、完全にバランスを崩していた事を自覚した。


⋯⋯この身体では、やはり剣を振る時体幹がブレるな⋯⋯


 以前の身体ではありえなかった事態に現実逃避じみた思考が渦巻きながらも、俺の身体は重力に従ってダンジョンの下層へと投げ出される。



「──新入り!掴まれ!!」



 必死に手を伸ばしてくれるねこまたさんに対して、俺も咄嗟に手を伸ばすが──



「──くっ⋯⋯」



 それらは交わることなく空を切った。



⋯⋯やってしまった。



「──ッ、俺は大丈夫だ!すぐ合流する!!」



⋯⋯高低差のあるところで足を踏み外したのが運の尽きか。


 そんな薄っぺらい状況分析を嘲笑うかのように、俺の視界と身体はぐるんと回転し、深い闇へと落ちていくのだった。

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