第六話 美少女になったら一度はシたいこと
「──ファンですっ!初配信リアタイしてました!!お願いします!どうかサインを⋯⋯!!」
「⋯⋯え、えっと⋯⋯」
初対面でいきなり土下座まがいのことをされて思わずドン引きしてしまう。
「すみません、うちのクーちゃんに過度な接触はちょっと⋯⋯」
「いや別にアイドルの剥がしみたいなことはしなくていいよ」
『ダンジョン攻略組』の一人、いかにも好青年といった雰囲気のイケメンである『アレス』さんが、まさか俺のファンだったなんて⋯⋯
背丈は高いが若く、年は俺より少し上くらいだろうか。
なんだか不思議な気分だが、しかし考えてみればそれほどおかしな事でもない。
ヒナの『ありがたい』プロデュースによって作られた『クーちゃん』というコンテンツが、どういったファン層を狙ったものであるかは一目瞭然である。
少なくとも、男性向けであることは確かだろう。美少女を全面に出し、不本意とはいえエロ売りまでしているのだから⋯⋯いやほんとに不本意とはいえね。
「⋯⋯」
⋯⋯目の前で必死にサインを頼み込んでくるアレスさんを見ていると⋯⋯なんだか悪戯げな感情が湧き上がってきてしまう。
⋯⋯⋯⋯少しだけ、試してみるか。
「──えー!アレスさん、私の配信見てくれてたんですか〜!?」
「はっ、はい!もちろんです!!俺めっちゃファンで⋯⋯!」
「嬉しいです〜!!えへっ♡」
「うあぁ可愛い!?!?」
⋯⋯おお。
「私のどんなところが好きなんですか?」
「え!?そ、それは⋯⋯っ」
⋯⋯これ、やばい。
「あ!逃げちゃダメですよ!!」
「ひゃあぁ!?くっ、クーちゃん!?手が⋯⋯っ!?」
「えへへ♡教えてくれるまで離しませんっ♡♡」
「──う、ぁ⋯⋯っ」
──これ、めっちゃくちゃたのし〜〜〜!!!!
俺が少し距離を詰めるだけで、アレスさんは面白いくらいに面白い反応をしてくれる。
それを感じる度に身体の奥底がバチバチと爆ぜるように痺れ、まるで体内で未知の快楽物質が分泌されている気分だった。
⋯⋯美少女って、普通に生きてるだけでこんな常時ドラッグ状態なのか⋯⋯
頭の中で美少女についての認知が歪みながらも、今はこの病みつきになりそうな快楽を享受することにした。
──────────────────
散々遊んでしまった罪悪感もあり、とりあえずアレスさんにはサインをしてあげた(といっても、サインなんて考えたこともなかったので、即興でヒナが考案した簡単なもの)。
そして改めて、俺と『ダンジョン攻略組』は邂逅することとなった。
「──メールをいただき、ありがとうございました。私はクーちゃんのアシスタント、神里ヒナです」
基本的に会話はヒナが行うと事前に取り決めている。アシスタントという立場ならばそこまで不自然でもないだろう。
「いやこちらこそ、わざわざ御足労いただき、ありがたい限りだ」
答えてくれたのはオリヴィアさん。配信中と同じように毅然とした態度で礼を示してくれるその姿は、凛々しく美しかった。
「⋯⋯」
⋯⋯うん、何故か一人だけ配信中と同じ格好だし、マジでなんでなんだ⋯⋯?
「⋯⋯オリヴィアさんは、普段からその⋯⋯配信中と同じ服装なんですか⋯⋯?」
「ひ、ヒナ⋯⋯!」
ヒナは躊躇いながらも俺達が気になりまくっていた疑問を口にした。すごい、流石は俺の幼馴染だ⋯⋯!
「む?あぁ⋯⋯気になるよな、すまない。実は、私は未だにこの⋯⋯コスプレ?に慣れていなくてな。なので普段からこうして身につけ、身体に慣らしているんだ」
疑問を受けたオリヴィアさんは少し恥ずかしそうに頬を掻きながらも、特に不快そうにはしていないように見える。
⋯⋯⋯⋯良かったぁ、地雷じゃなくて。
「真面目だよねぇ〜。マジ常在戦場かっての!」
「からかうなヒマワリ」
元気なギャル、ヒマワリさんが身体を大きく揺らしてツッコミを入れる。
「クーちゃんも言ってあげて!あたしらが何度『似合ってる』って言っても、全然信じてくれないんだよぉ!」
「はぁ⋯⋯勘弁してくれ。私はもう三十を超えてるんだぞ⋯⋯こんな格好が似合う歳じゃないのは自分で分かっている⋯⋯」
どうやら、オリヴィアさんは自らの衣装について思うところがあるらしく、ぶつぶつと不満を口にしていた。
しかし実際、俺の目から見てもオリヴィアさんはコスチュームを見事に着こなしているように見えた。
それは、細くも筋肉のついた彼女の身体つきゆえだろう。やはり『何を着るか』ではなく、『誰が着るか』なのではないだろうか。
お洒落に疎い俺ですらそう思う程、オリヴィアさんは美しかった。エルフという大言壮語なコンセプトにも、一切名前負けしていない。
「──はぁ⋯⋯話脱線しすぎでしょ。関係ない話するヤツばっか声でかいのって、この世の摂理なわけ?」
気怠げな声が場を引き裂く。
見ると、ずっとソファに寝転がっていた『ねこまた』さんが身体を起こし、ゲーム機を置いて代わりにロリポップを咥えていた。
「あっ、ねこまたちゃんが起きた」
「ずっと起きてたよ。ゲームやってただけ」
「あー分かった!負けたんでしょ!?機嫌悪そうだもん!あっはは!!」
「ちょ、ちょっとヒマワリさん⋯⋯!それ言うと余計に⋯⋯」
「なんか言ったかアレス?」
「えぇ!?俺!?」
仲裁に入ろうとしたアレスさんに対して理不尽にも矛先が向かい、彼は先程あげた俺のサインを抱きしめながらおろおろしていた。
⋯⋯たしか、アレスさんは四人の中で一番加入時期が遅かったのだったか。
年齢で見れば、制服を着ているねこまたさんが最も若く見えるが、どうやら『ダンジョン攻略組』はキャリアの長さで上下関係が定められているらしい。
「──おい新入り。やめるなら今のうちだよ?どうせちょっとチヤホヤされて調子乗っちゃってるんでしょ?ボクは優しいから教えてあげるけど、ダンジョンはそんな甘くないんだよ」
「⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯そして、キャリアの長さが重要ということは、俺が加入すれば俺が最も下っ端ということだ⋯⋯年功序列だったとしても、今の身体では一番下だろうが。
「ねこまたちゃんきびしー。クーちゃんはこんなにちっちゃくて可愛いんだから、もっと優しくしてあげようよー。ね?」
「はっ⋯⋯正にそれが最悪だね。『加護』による身体能力向上は、元の身体能力が高い程強く発揮される。新入りでもそのくらい知ってるよね?」
ねこまたさんはロリポップでこちらを指す。
「そいつの身体じゃ身体能力には期待できない。そのくせ『魔法』も使えないんだろ?何の役に立つって言うんだ?」
ねこまたさんは感情を見せずに淡々と続ける⋯⋯彼女の指摘は真っ当で、正直反論のしようがなかった。
「そもそもボクは人数を増やすのは反対なんだよ。実力の無いヤツならなおさら──」
「──あなたの意見は、あまり関係ありません」
「⋯⋯あ?」
遮るように言葉を発したのはヒナだった。
「⋯⋯あんた、アシスタントだっけ?関係ないヤツは黙っててくれる?」
「関係ない?私達は招待を受け取った立場ですよ。あなた方を集めた『総理大臣』から直接にね」
「⋯⋯」
「──見定める立場にあるのは、あなた方ではなく私達の方です。どうかそれをお忘れなく」
「⋯⋯ちっ⋯⋯」
⋯⋯おお。
俺は思わず感動してしまった。
何せ、ヒナの狂犬っぷりを見るのは久しぶりだったのだ。
⋯⋯うん、やはりヒナは誰かと対立してる時が一番輝いているな。
「⋯⋯ふん、勝手にしろ」
「あー!ねこまたちゃん、レスバ負けて拗ねちゃったー!さっき負けたゲームに逆戻りー!!」
「──ふんっ⋯⋯!」
「ぐあっ!?何故俺にローキックを⋯⋯!?」
またしてもアレスさんがとばっちりを食らっていた⋯⋯後で慰めてあげよう。
「その⋯⋯それで、できれば『総理』に直接お会いしたいんですけど⋯⋯」
レスバ勝利の流れに乗じて、ヒナが最も重要なことを切り出した。
そう、俺達はメールの差出人である総理大臣に、直接メールの内容について聞かなければならないのだ。
──恐らく総理は、俺の身体に起きた変化を知っている。
「⋯⋯?すまない、今総理はこの建物にはいないんだ。同様に、連絡を取ることもできない」
「え?そうなんですか?」
オリヴィアさんは俺達の真剣な様子に疑問符を浮かべながらも、申し訳なさそうに質問に答えてくれた。
「あの人忙しいんだよね〜。いや、総理大臣サマが忙しくないわけないか!あっはは!!」
ヒマワリさんは自分の発言で勝手に爆笑している⋯⋯あの人、それここに来るまでに教えてくれても良かったんじゃ⋯⋯
「クーちゃん、ですが伝言を預かっています。総理からあなたに向けて」
「え、本当ですか!?」
アレスさんがわざわざ目線を合わせるようにしゃがんで教えてくれる。
こちらが目を合わせると慌てたように逸らし、数秒後にゆっくりとまた目が合う⋯⋯こいつ可愛いな、ロリコンだけど。
「一体、どんな?」
「はい⋯⋯『質問には、ダンジョンの攻略を終えてから答える』とだけ」
「⋯⋯ふむ」
俺もヒナも、考え込む。
⋯⋯一体、総理の目的は何なのだろう?
しかし、こうして条件を提示されてしまえば、俺達に選択肢が無いのは自明だった。
「よーっし!それじゃああたしらの初配信、ぶちかま〜そうっ!!」
──何はともあれ、まずは『コラボ配信』と言った形で、『ダンジョン攻略組』とのダンジョン攻略が決定するのだった。




