第五話 ダンジョン攻略組
『肉体が女になってしまった』という変化が恐らく『呪い』によるものではないと判明し、『解呪』という手段を取れなくなった今、改めて情報を集め直さなくてはならないのは明らかだった。
そして、ダンジョンについて情報を集めるのならば、やはりダンジョン配信者という存在は避けては通れない。
結論として、今の俺はヒナの提示してくれた四つのチャンネルの中から、なんとか解決の糸口を探さなくてはならないのだった。
『kuwagata卍samurai』
『とび☆きゅる!リリちゃんの魔法少女チャンネル!!』
『きのうろチャンネル』
『ダンジョン攻略組』
⋯⋯⋯⋯この四択から。
「⋯⋯⋯⋯」
──あ゛ぁっマジで気が進まない⋯⋯!!そもそも配信者なんかに頼るのが嫌なんだけどぉ⋯⋯!
⋯⋯駄々を捏ねても仕方がないはずだったのだがしかしこの日、まるで俺の叫びに応えるようにして選択肢が狭まる転機が訪れることとなった。
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「──招待?」
「えぇ。『コラボ及びスカウトについてのご相談』という件名で、『ダンジョン攻略組』からチャンネルにDMが届いたの」
学校終わりにそのままうちに来てくれたヒナは、制服のリボンを緩めながらそう告げた。
──『ダンジョン攻略組』
国が直接運営している唯一の冒険者チーム。
RPGっぽさをコンセプトにしていて、コスプレのような衣装と派手な『魔法』でモンスターを圧倒する様子が人気を博している。
ダンジョン配信者という括りで見れば、チャンネル登録者は一番多い(『kuwagata卍samurai』を除外した場合)。俺も少し配信を見てみたが、実際実力のあるチームだった。
そんなチームから俺⋯⋯というか『クーちゃん』に招待⋯⋯?
いまいち釈然としない気持ちのまま、ヒナの見せてくれたメールの文面をぼんやりと眺める。
画面にはヒナの言った通り、丁寧な文面で招待の旨が記されていた。
「コラボだけじゃなくてスカウトって、あからさまに怪しいよな⋯⋯ん⋯⋯?『配信者様、及びアシスタントの方も』⋯⋯?」
不意に、そのうちの一文に目が止まる。
「なぁヒナ、このアシスタントって?」
「あぁ。それ、私のことだと思う」
「⋯⋯え?何でお前のことが知られてるの⋯⋯?」
「あぁ、それね」
ヒナはあっさりと告げるが、俺は気が気でなかった。
アシスタントなんて、配信で触れた記憶は無いし、当然ヒナが配信に出たこともなかったはず。
──身バレ。
最悪の想像が背中を駆け抜ける。
しかし、ヒナは特に疑問に思った様子を見せずに答えた。
「私、あんたの配信中に何度か、ハプニングを装って映り込んでたから」
「⋯⋯は?」
理解できない説明に口をぽかんと開けて固まってしまう。
「⋯⋯どうしてそんなことを?」
「ウケが良いから。『たまに映るアシスタントの見た目が良い』っていうのは」
「自分で言うのな⋯⋯」
いや、可愛いけどさ。
「組み合わせが男女だったら少し危ないやり方だけど、女同士の場合は急に『カップリング的な盛り上がり』も期待できるようになるから一石二鳥なの。実際、その方面でも少しウケてるし」
「お前ほんとすごいな」
やっぱりヒナは少しおかしいな、と俺は思った。
「⋯⋯でも、結局怪しくね?」
「⋯⋯」
身バレの心配が杞憂だったとしても、このメールの胡散臭さは変わらない。率直な意見を述べる俺に、しかしヒナは微妙な表情で何かを言い淀んでいた。
「実は⋯⋯」
「ヒナ?」
「私達には、この招待を無視できない理由があるの」
「え?」
ヒナはメールをスクロールし、礼儀正しく長ったらしい文章の末尾を指でなぞった。
『あなたに起きた変化についても、ご協力できるかもしれません』
文章の最後は、そう締めくくられていた。
「これっ、て⋯⋯」
驚きから言葉が途切れる。
──俺に起きた変化を、知っているのか⋯⋯?
「⋯⋯ハッタリの可能性は⋯⋯?」
「そんなことをする意味が分からないわ」
ヒナの言う通りだ。
「⋯⋯」
「⋯⋯一応言っておくけど、私はあんたの意見を尊重する」
「⋯⋯⋯⋯まじかぁ⋯⋯」
⋯⋯結局今分かるのは、俺達には大して選択肢が無いということだけだった。
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「──ここね」
「普通のオフィスビルなんだな」
国が運営してるなんて言うから、もっと大仰な場所に呼び出されると思っていたのだが、指定された場所は普通のビルだった。
「──あっ!おーい!!そこの銀髪美少女ちゃーん!!」
「お?」
拍子抜けする間もなく、ビルの入口付近から軽快な声が飛んでくる。
見れば、ギャルのような雰囲気の女性がこちらにぶんぶんと手を振っていた。
こちらが近づくより早くこちらに走ってきたギャルは、色んな角度から俺達を楽しそうに観察する。
「『クーちゃん』でしょ?クーちゃんだよね?やばっ!本物は更に可愛いんですけどー!!」
「はは⋯⋯」
髪色はオレンジがかった明るい色で、素人目にも良く手入れされている。細くしなやかな指にはカラフルなネイルが施され、服装も派手だった。
今までの人生でギャルという存在に一切縁が無かった俺はビビった愛想笑いしかできない⋯⋯美少女ゆえに愛想笑いも中々様になっているであろうことが救いか。
「こんにちは、向日葵さんですよね?」
「そっ!君はアシスタントの子だよね?たまにちらっと映ってた。あたし、君のことも可愛いなーって目付けてたんだよ?」
圧倒されている俺をフォローするようにヒナが前に出てくれる。そしてヒマワリさんがヒナのことを褒めてくれて俺は鼻が高い。
突然の邂逅にびっくりしてしまったがしかし、ヒナが言ったように、俺も目の前の彼女のことは知っていた。
──向日葵。
『ダンジョン攻略組』のメンバーの一人である。
RPGっぽさという『ダンジョン攻略組』のコンセプト上、配信中の彼女は魔道士みたいなコスプレをしているのだが、どうやらプライベートではかなりお洒落な人らしい。
「入って入って!!みんな待ってるから!あ、でもあたし以外はちょっとクセ強いかもだから注意ね!!」
「⋯⋯お気遣い、ありがとうございます」
この人以上のクセとか俺大丈夫だろうか⋯⋯
何はともあれ、ヒマワリさんに導かれるように俺達はビルの中へと入っていった。
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「二人ともここまで電車で来たの?迷わなかった?」
「⋯⋯はい」
ヒマワリさんは歩きながらもずっと喋りっぱなしで、そのトークにはほとんど隙間が存在しなかった。
⋯⋯しかし、こちらとしてはどうしても切り出したい話題がある。
「そっかそっか!あっ!それで言うと──」
「──あの、ヒマワリさん」
「ん?」
一瞬の隙間を突き、ヒナが流れを遮った。流石は俺の幼馴染である。
「どったの?ヒナちゃん⋯⋯でいいんだよね?」
「はい。実は、いただいたメールの内容で聞きたいことが」
ヒナは歩きながらも、はっきりと告げる。
俺もヒナも、緊張していた。
「──あーごめん!それなんだけど、メール送ったのはあたしらじゃないんだ!」
「⋯⋯え?」
⋯⋯しかし、その緊張はすぐに断ち切られてしまった。
まぁ、考えてみればメンバーが直接送るというのはいくらか不自然だろうか?国が運営している以上、携わる人数も多いだろうし──
「──いや⋯⋯それは、おかしいわ⋯⋯」
「え?」
小さな声で、ヒマワリさんには聞こえないほどの大きさで呟かれたヒナの言葉を数秒考え、そして俺は彼女の意図を読み取った。
「あ⋯⋯っ」
──そうだ、確かにおかしい。
メールを送ったのが彼女達でないとしたら、あの意味深な文面は誰が?俺の事情を知っていると仄めかしたのは誰なんだ?
──この場合、メールの差出人というのは俺達にとって最も重要な手がかりなのだ。
「あの、では招待のメールは誰が⋯⋯?」
「あーそれね」
ヒナが多少の警戒と緊張を滲ませながらも、最も重要な事柄を尋ねる。
「──『総理』が直接送ったんだって。だから、メールについてはあの人に直接聞いてよ」
「「⋯⋯は?」」
──『内閣総理大臣』
実に軽い調子で告げられたその言葉に、俺とヒナは固まらざるを得なかった。
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「──着いたーっ!さぁクーちゃん、扉を開けて!!」
楽しげな様子のヒマワリさんに促され、扉を開ける。
「──失礼します」
部屋の中には、三人の男女。つまり、俺達を出迎えてくれたヒマワリさんを合わせれば『ダンジョン攻略組』の全メンバーが揃っていた。
配信で見た顔が実際に並んでいるというのは、なんだか感慨深い。
「──初めまして、クーちゃんさん。御足労いただき感謝する」
まず挨拶してくれたのは長身の女性、配信での名前は『オリヴィア』さん。配信中はエルフの剣士をコンセプトにした女騎士のようなコスプレを⋯⋯
「⋯⋯ん?」
⋯⋯他のメンバーは当然、配信中とは違い私服なのだが、何故かオリヴィアさんだけは今もコスプレ姿だった⋯⋯なぜ?
「──うわちっさ⋯⋯ねぇ、ほんとにこの子大丈夫なの?」
今度は別のメンバーが声をかけてくる。
ソファに寝転がり、ヘッドフォンを付けてゲームをしている少女が『ねこまた』さん。配信中は踊り子のようなシーフのような、色々ごっちゃにした割に布面積の小さいコスプレをしている。
今の格好は、短いスカートに着崩したワイシャツ。そしてお洒落なチョーカーを着けていた。
⋯⋯制服なのだろうが、配信中と同様露出が多い服装である。その割に本人はあまり気にする様子がないし⋯⋯
⋯⋯あと、煽るような物言いはとりあえず美少女ぢからでスルーしてやることにした。
そして、最後の一人──
「──あぁ⋯⋯」
「⋯⋯え?」
──近くない⋯⋯?
他のメンバーに気を取られて気づかなかったが、いつの間にか至近距離まで近づかれまじまじと見つめられていた。
目の前に映る長身の男性。最後のメンバーである顔立ちの整った好青年『アレス』さんは俺の顔を見つめたまま頬を染め⋯⋯
「──ふぁっ、ファンです⋯⋯!!サインください⋯⋯っ!」
「⋯⋯は⋯⋯?」
⋯⋯思いっきり、頭を下げるのだった。




