第四話 弟子の有能さ。もしくは師匠の無能さ。
「──『俺の身体に起きた変化が呪いじゃない』ってどういう意味だスズメ!?」
「ふぇっ⋯⋯!?く、クーちゃんさん⋯⋯?」
──大前提に対する疑問。
予想だにしていなかったスズメの言葉に、思わず立ち上がって大声を上げてしまう。
「ん⋯⋯?お、俺⋯⋯?」
しかしスズメの方は、急に口調と一人称が変わった俺にぱちくりと面食らっていた。
「ちょっとカモメ⋯⋯!」
「はっ⋯⋯」
ヒナの耳打ちで我に返る。
──しまった、誤魔化さなくては⋯⋯!
「あ、あの⋯⋯?今のは──」
「──ごめんあそばせ〜!(ビブラート)はしたないお言葉をお口からお零してしまいあそばせてしまったわ。おゆっくりで構わないから、お説明してくださるかしら。おほほほほほほほほほごきげんよう?」
「え⋯⋯うぇぇ⋯⋯っ?」
なんとか清楚さを取り戻して誤魔化すが、何故かスズメは余計に困惑していた⋯⋯ちょっぴり怖がってもいた。
隣のヒナもどうしてか頭を抱えている⋯⋯どうやら未だ危機を脱してはいないらしい。
⋯⋯⋯⋯仕方がない、か。
「──鈴咲さん、大丈夫ですか?」
「え?え、えっと──」
「──にこっ♡」
「あっ、可愛い⋯⋯す、すみません。ちょっと驚いてしまっただけなので」
「よし⋯⋯っ!」
「今のでいいのね⋯⋯」
──結局、美少女の笑顔は大抵のことを解決してしまうということ⋯⋯今の身体での立ち回りに慣れてきて気づいた、悲しき最終手段だった。
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「──それで、鈴咲さん。聞いてもいいかしら?」
「は、はいっ⋯⋯!」
美少女パワーで場とスズメを落ち着け、ようやく話が聞ける状態になった。
「この子が受けたものは『呪い』じゃないって言ってたわよね?」
「は、はい⋯⋯そもそも『呪い』というのは『ダンジョン内部』のものなんです」
「⋯⋯どういうこと?」
「つ、つまり『加護』と同じです」
「『加護』と⋯⋯?あっ⋯⋯」
俺とヒナはほぼ同時に言葉の意味を理解し、二人で顔を見合せた。
「──『呪い』をダンジョンの外に持ち出すのは不可能なんです」
スズメはその意味をはっきりと告げ、さらに続ける。
「ダンジョン内のもので外へと持ち出せるのは、モンスターの核である『魔石』のみです。実体がある無いに関わらず、それ以外を持ち出すことはできません」
「⋯⋯待って。少し話がズレるけど、ダンジョン内のモンスターは増えすぎると外へ出てくるって聞いたことがあるわ。それは?」
「それは厳密に言うと『ダンジョンが拡大』しているんです。ダンジョンの内部でしか存在できないというルールは、モンスターにも適用されます」
即座に提示される答えに、ヒナは考え込むように沈黙する。
「なので、クーちゃんさんが受けた『呪い』の影響に関しても、本来はダンジョンを出た時点で消滅するはずなんです」
「待て、それなら『解呪』なんて必要ないんじゃないか?前に調べたあのバカ高い料金表って普通に詐欺だったのかよ?」
「そうとも言いきれません。『解呪』が必要な程強力な『呪い』というのは、そのほとんどが『ダンジョンから出られなくなる』といった類のものなんです」
「⋯⋯なるほど」
確かに、それならば納得がいく。
あれ程高額なのは『呪いを振りまくモンスターが存在するダンジョンに自らも入る』というリスクゆえなのだ。
「加えて言うならば、『解呪』ができる人というのはそういった『魔法』を扱える人間ですから、どちらにせよダンジョン内でしか『解呪』は行えないんです」
「あぁ、確かにな!」
スズメはこちらの疑問に先回りして答えを提示してくれる。有能。
⋯⋯スズメは本当にダンジョンについて詳しいな。ふっ、流石は俺の弟子──
「──というか、なんであんたはそんなことも知らないわけ?」
「──ひぐぇっ⋯⋯!?」
脳内で弟子を褒めていた俺は、ヒナに頬っぺたを思いっきりつねられたことで変な声を上げてしまった。
「私達がここ数日してきたことは、まるっきり見当外れだった訳だけれど?」
ヒナは両手で俺の頬っぺたを思いっきり引き伸ばす。
「ねぇ聞いてる?」
「ご、ごべんっ⋯⋯!無駄なことさせたのは謝る⋯⋯っ!!」
「いえ、無駄とは思っていないわ。必死にビジネススマイルを浮かべるあんたが見れただけでも、その『価値』があるもの」
「なんだこいつ!?」
⋯⋯やはりヒナはちょっぴりおかしい。
「ひ、ひえぇ⋯⋯け、喧嘩はやめましょうよぉ⋯⋯」
控えめに声を上げるスズメにヒナの鋭い視線が向かう⋯⋯俺の頬っぺたを抓ったまま。
「ねぇ鈴咲さん?今の知識って、もしかしてカモメは知らなかったりする?」
「え?さ、流石にそんなことは──」
「──いえあいつは知らないわ。ダンジョンに入り浸っているくせして、そんなことってあるの?」
「う、うーん⋯⋯?」
俺はいたたまれまくて何も言えなかった⋯⋯今は幼馴染に頬っぺたが支配されているので余計に。
「⋯⋯あっ⋯⋯もしかしたら、知らない可能性もあるかもしれません」
考え込んでいたスズメが唐突に手をぽんと叩いた。
「本当に?」
「は、はい⋯⋯その、師匠はお強いので、そもそも『呪い』を受けたことが今まで無かったのかもしれません」
「あぁ、そういえば確かに⋯⋯」
スズメの言う通り、俺は今まで一度も『呪い』を受けたことが無かった。
身体に現れた変化を即座に『呪い』だと断定したのも、言ってしまえば現状証拠からの推測でしかない。
⋯⋯それに、あの化け物はなんか『呪い』とか全然かけてきそうだったし⋯⋯
「そもそも『呪い』というのは、『魔法』と違って冒険者の間でも未だマイナーな単語です。私がある程度知っているのも、以前実際に『呪い』を受けたことがあるからなんですよ」
「⋯⋯カモメは入り浸っていると言っていいくらいダンジョンに通っていたんでしょう?本当に一度も『呪い』を受けたことがないのかしら?」
「全然有り得ますよ!師匠はお強いですから!!基本、モンスターがなにかする前に瞬殺でした!」
「で、でへへ〜、それ程でもぉ〜⋯⋯?」
「⋯⋯?どうしてクーちゃんさんが嬉しそうなんですか⋯⋯?」
スズメはめっちゃ俺を褒めてくれていた。ものすごく気分が良い。
「⋯⋯あんた、そんなに強かったの?」
「⋯⋯まぁ強くはあったと思う」
ヒナの耳打ちにこちらも小さく答える。
⋯⋯実際には、以前の恵まれた体格ゆえでもあるのだが、『ヒナが俺の実力に驚いてくれている』というのは単純に嬉しかった。
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「──はぁ、でもどうしよう⋯⋯結局謎が増えただけじゃない⋯⋯」
「まぁ、やっぱあのモンスターを殺すのが確実なんじゃないか?」
「なんでちょっと嬉しそうなのよ⋯⋯!」
今の状態が『呪い』でないのなら、もう『解呪』のための資金集めは必要ない。
つまりは、もうダンジョン配信をする理由は無いということだ。カメラの前で引き攣った笑みを浮かべる必要もない!やったー!!
謎こそ増えたが、目的はよりシンプルになったと言っていいだろう。
「はぁ⋯⋯とりあえず、今できそうなのは情報収集ね」
「情報収集?」
「他の配信者から情報を集めるの」
言いながらも、ヒナは既にスマホで検索をかけていた。
「ダンジョン配信で生計を立てているような人達なら、ダンジョンについても詳しいはずでしょ?あんたと似たような症状を見たことあるかも」
「配信者なぁ⋯⋯」
ダンジョン配信を嫌悪している俺にしてみれば、当然良いイメージがあるはずもない。
あからさまに嫌という顔をしてみるが、ヒナは軽く俺の髪を撫でるだけで検索を止めてはくれなかった。
「ダンジョン配信者って、正直もうレッドオーシャンだと思ってたのだけれど、実はそうでもないのよね。記録としての配信は山ほどあるけど、明確に『配信者』として活動しているのは意外と少数──」
「──ま、待ってください!!」
「⋯⋯スズメ?」
事前にある程度アタリをつけていたのだろう。淀みの無い動作でいくつかのチャンネルをピックアップするヒナに対して、今まで静かだったスズメが唐突に叫びを上げた。
「鈴咲さん?どうしたの?」
「うっ⋯⋯そ、そのぉ⋯⋯配信者について調べるのは、どうなんでしょう⋯⋯みたいな⋯⋯?」
「⋯⋯?どういうこと?」
先程『呪い』について説明してくれた時とはうってかわり、歯切れの悪い様子にヒナは首を傾げる。
「⋯⋯ふふふ」
「は?なんであんたが笑ってんの?」
しかし、スズメの師匠である俺は、彼女の心境に当然見当がついていた。
「──分かるぞスズメ!!ダンジョン配信者に頼るなんて『恥』!!そう言いたいんだろう!?」
「うえぇ!?う、うぅ⋯⋯」
「なんか違いそうだけど」
スズメは申し訳なさそうに身体を縮こまらせるだけだった。
「⋯⋯鈴咲さん、できればあなたにも意見を聞きたかったけど、配信者が苦手なら無理して見なくてもいいわ」
ヒナは事情が分からないながらも、スズメを落ち着けるように柔らかく告げる。
「う、うぅ⋯⋯い、いえ!私もっ、私も見ます⋯⋯!」
「⋯⋯そう?無理そうだったら言ってね?」
しかし、スズメは決意を固めたように力強く顔を上げた。
嫌いなダンジョン配信を見るという苦行を耐え切る覚悟。彼女の心境を思うと俺は涙が出そうだった。
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「──じゃあまずは最初。恐らく一番チャンネル登録者が多いわ」
ヒナが動画を再生し、画面を見せてくれる。
「⋯⋯なんか、ずっと英語でなんか言ってるな」
「あぁ、そういえば。あんたは英語がからっきしだったわね。ふふ」
「お前それ言いたかっただけだろ」
チャンネル名は『kuwagata卍samurai』
恐らく外国人だろう。大型のモンスターを解体しながらずっと興奮したように喋りっぱなしの男性が、そこには映っていた。
服装もなんか原始人っぽいし、正直ちょっと怖い。話が通じなさそうな雰囲気がある。
「⋯⋯いや、てか待て。外国人?ダンジョンがあるのって日本だけだよな?」
「えぇ。撮影場所も日本よ。この人、ダンジョンのために日本に来たみたい」
「えぇ⋯⋯」
「一時期多かったですよね⋯⋯ダンジョン目的の観光⋯⋯」
このチャンネルでは、どうやら基本的にダンジョン内でのサバイバル生活を配信しているらしかった。
「できんの?ダンジョンでサバイバルとか?」
「普通は無理ですね」
「⋯⋯」
「⋯⋯次のチャンネルを見てみましょう」
割と早い段階でヒナが画面を切り替える。
今度のチャンネル名は『とび☆きゅる!リリちゃんの魔法少女チャンネル!!』
「まっ、魔法少女です!?」
「すげぇ!?ビーム撃ってるぞビーム!!」
派手なコスチュームを身にまとい、ステッキを振ってモンスターと戦う少女の姿がそこにはあった。
戦いながらも器用にコメントを読み上げ、ファンサも忘れない。なんなら『スパチャ読み』までしている。
そのため、先程のチャンネルと比べても『ダンジョン配信者らしい』と感じる内容だった。
「す、すごい⋯⋯!ちゃんと変身もしてます⋯⋯!」
「かっけぇ⋯⋯」
──『魔法』が使えるのなら『魔法少女』もいる⋯⋯なるほど、当然の摂理か。
「ちょっとあんたと似てるわね」
「え、どこが?」
「見た目が」
「⋯⋯あぁ、そっか⋯⋯」
素で聞き返してしまったが、考えてみれば今の俺は銀髪金眼の美少女だった。
画面に移る魔法少女は白髪にピンク色の眼ながらも、背丈などは確かに今の俺と近いかもしれない。
「次に行きましょう」
魔法少女のビームでモンスターが弾け飛んだ辺りで、またしてもヒナが画面を切り替える。
⋯⋯正直、もう少し見ていたい気持ちもあったが、とりあえず今は広く浅く配信者について知るべきか。
「次は⋯⋯うわ、なんか派手だな」
「チャンネル名は『きのうろチャンネル』」
「──あ゛っ⋯⋯!!?」
画面に映るのはウサギの仮面を被った大男。しかし、話し方は和やかで落ち着いており、今までのチャンネルとは違い動画もショッキングなものでは無かった。
「⋯⋯というか、ダンジョンだとは思えないくらい平和だな」
「そうね、それがここの特徴かも。このチャンネルは、過剰なくらいにグロを避けてるの」
「⋯⋯うぅ⋯⋯っ」
軽くチャンネルを流し見てみると、『ダンジョンについての簡易解説』や、『ダンジョン内の神秘的な景色』など、ヒナの言葉通りの平和な内容が大半を占めていた。
加えて、先程見た二つのチャンネルと比べてサムネイルが凝っていたりと、何だか努力を感じる部分も多かった。
「補足として、このチャンネルだけは配信を行わず、活動は全て『動画』の形式になっているわ」
「そういえば、派手なエフェクトとか字幕もついてるな」
すなわち、動画の編集を行っているということだ。全体的に子供向けかってくらいの雰囲気だが⋯⋯
「見た感じ、この人はダンジョンについて中々に詳しそうだし、直接連絡を取る選択肢もありだと思ってるの」
「⋯⋯まぁ、今までの二人と比べたらな」
今までのチャンネルは、正直どこか浮世離れした印象を抱かざるを得なかったが、このチャンネルはエンタメに寄っているからか、何だか安心感を感じる部分さえあった。
「うん、いいんじゃないか?今のところこの人が一番──」
「──それはダメですっ!!」
「っ⋯⋯鈴咲さん⋯⋯?」
ずっと黙っていたスズメが唐突に叫びを発した。
「こ、このチャンネルはやめた方がいいです⋯⋯!」
「どうして?なにか理由があるの?」
「うぇ⋯⋯っ!?そ、それはぁ⋯⋯」
「⋯⋯?」
しかし、詰められると直ぐにしどろもどろになってしまう。
「うぅ⋯⋯と、とにかくっ!ここはやめた方がいいんです!!師匠の弟子である私を信じてください!!」
「おお、意志が強い」
「根拠は弱いけどね」
⋯⋯確かに少々過剰な反応にも思えるが、優秀な弟子の言葉である。
不思議には思いながらも、ひとまず一意見として心に留めておくことにした。
「──それじゃあ次。ここで最後よ」
ヒナが画面を切り替える。
「あっ、このチャンネルは⋯⋯」
「ん?あー⋯⋯なんか、知ってるかも⋯⋯?なんだっけ⋯⋯?」
画面には男女四人の冒険者が映っていた。
四人ともRPGゲームに出てくるキャラクターのようなコスプレをしており、上手く連携を取ってモンスターを制圧していた。
⋯⋯多分知っているのだが、出てこない⋯⋯なんだっけな⋯⋯?
「チャンネル名は『ダンジョン攻略組』。国が設立し、運営している冒険者チームよ」
「あぁそれ!!」
ヒナの言葉でようやく思い出した。
一時期ニュースでよく取り上げられていたのだ。いや、今でもダンジョンに関するニュースはほとんどがこのチームについてのものかもしれない。
「わ、私も知ってます。有名ですよね⋯⋯」
「チャンネル登録者も『kuwagata卍samurai』を除けば一番多いわ」
「国が運営する配信者がちゃんと伸びてるのってすごいな」
海外のチャンネルは文字通り数字の桁が違うので除外するとして、そうなると『攻略組』は、日本で最も知名度のあるダンジョン配信者かもしれない。
「私達も負けてられないわね⋯⋯!」
「いや俺はもう二度と配信とかしないがー??」
わざとらしくガッツポーズを見せるヒナに抑揚の無い返事を返しながら、チャンネルを確認する。
「⋯⋯おっ⋯⋯この『攻略組』、SNSで質問とか受け付けてるって書いてあるぞ」
「そう、そこが大事⋯⋯四つのチャンネルを見せたけど、結局のところ直接相談することまで考え出したら、現実的なのは後半の二つだけね⋯⋯はぁ⋯⋯」
「ヒナ⋯⋯」
『解呪』という方法に期待できなくなったがゆえか、ヒナはため息をついてこめかみを揉む。
俺としては、目的が明確になってむしろスッキリとした気分だったが、ヒナのそんな様子を見るのはやはり申し訳なかった。
⋯⋯何か、励ましの言葉を──
「──今度からは、何を言い訳にして可愛い服を着せようかしら⋯⋯」
「おい」
──────────────────
「──あっ、もうこんな時間⋯⋯すみません長居してしまって⋯⋯私はそろそろ──」
「──あ、待って鈴咲さん。最後にもうひとつ聞きたいことが」
「ふぇ⋯⋯?」
時間に気づいていそいそと荷物をまとめ出したスズメを、何か思い出した様子のヒナが引き止めた。
「──『魔石』の換金方法について教えてくれない?」
「⋯⋯?構いませんが⋯⋯」
不思議そうにするスズメに対して、ヒナはこちらをじとりと見つめながら口を開く。
「──どうやら『カモメは』魔石の換金方法を知らないみたいだったから」
「げっ⋯⋯」
「あぁ、なるほど。確かに師匠は魔石を集めたりはしていませんでしたね」
ヒナの言葉は事実だった。
──モンスターの核である『魔石』
『魔石』は、基本モンスターの体内に埋まっており、抉り出すか砕くことでモンスターは活動を停止する。
そして、その『魔石』を回収し市役所などへ持っていけば、金銭と交換できるのだ。
──これが、いわゆる『冒険者制度』である。
本格的に『冒険者』として生活するのなら、配信による収入に加えてこの『魔石』による収入も重要となってくる。
実際、俺も一度だけ『魔石』を回収し、市役所へと持って行ったことがあった⋯⋯あったのだが⋯⋯
「不思議には思っていましたが⋯⋯しかしきっと!師匠には崇高な理念があるんです!!」
「いえ、たぶん手続きが面倒だっただけだと思うわよ」
「うげっ⋯⋯」
⋯⋯ヒナの言葉は真実だった。
──『魔石』の換金は、マジで面倒くさいのだ。
なんか書類とかも用意しなきゃいけないっぽかったし⋯⋯本当によく分からなかった。
結果として、俺は換金を諦めて『魔石』を回収することも辞めてしまった。ダンジョン攻略は完全に『趣味』として割り切ることにしたのだ。
「一応、私が一緒にいた時のは回収してあるから、明日にでも私が手続きをしてきてあげる」
「ありがとうございます⋯⋯!!」
⋯⋯そういえば、俺は修学旅行の準備とかもヒナに任せっぱなしの人間だったな⋯⋯
改めて幼馴染に感謝の念が湧き上がってくる。
「複雑ではありますけど、覚えてしまえば大したことはありませんよ。簡単にお教えしますね」
「ありがとう鈴咲さん。一応自分でも調べはしたんだけど⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
スズメが丁寧に説明をし、時折ヒナが質問を投げかける。そんな様子をぼんやり眺めていると、なんとなく既視感を感じることに気がついた。
なんだろう⋯⋯こういう光景、どこかで見たことが⋯⋯
「⋯⋯あっ⋯⋯」
あっ、これ『勉強ができるやつだけでグループワークが進んでいくあの感じ』だ。
「⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯一応、俺も近くで聞き耳を立ててみたのだが、やはりマジで全く理解できなかった。
──────────────────
換金についての話が終わる頃には、既に辺りは暗くなっていた。
「本当に大丈夫?もう夜遅いし、よかったら送るけど⋯⋯」
「いえいえ、大丈夫です!この背丈ですから、襲われたりしませんよ」
心配そうなヒナに対して、スズメは手をぶんぶんと振る。
⋯⋯まぁ、俺が戦い方を教えたスズメである。ダンジョンの外で『加護』が無くとも、並大抵の人間には負けないだろう⋯⋯背高くて普通に怖いし。
──自分の姿が変わることで他者への見方も変わる。
既に分かっていたはずの事実だが、今日のスズメに対してはそれが如実に現れ、どこか新鮮な体験だった。
「今日はありがとうね、鈴咲さん。また」
「ありがとうございましたっ!」
「⋯⋯っ」
全体的にだいぶボロを出してしまった気もするため、今更ではあるが美少女ぢからを取り戻そうと、とりあえず大仰にぺこりと頭を下げてみる。
「⋯⋯ぁ、あのっ!クーちゃんさん⋯⋯っ」
「⋯⋯?はい⋯⋯?」
しかし、スズメの緊張したような声が名前を呼んだ。
「⋯⋯あなたは、もしかして⋯⋯その、えっと⋯⋯」
「っ⋯⋯!?すっ、鈴咲⋯⋯さん⋯⋯?」
──『もしかして』
その言葉に冷や汗が流れ、身体が強ばる。
心臓がバクバクと跳ね、無意識で服の裾をぎゅと握ったまま、続きを待つ。
スズメは何度か躊躇うように口を開いたり閉じたりしてから⋯⋯
「──いえ。やっぱり、何でもありません」
──儚げに、笑った。




