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男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?  作者: 赤石アクタ
第一章 プロローグ

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第三話 デカい後輩が来る!!

「──正直、限りなく理想的な形だと言わざるを得ないわ」


「⋯⋯⋯⋯どこがだよぉ⋯⋯」



 ソファに寝転がって頭を抱えている俺に、ヒナは淡々と告げた。



 俺がこうして絶望しているのには、正当で真っ当でどうしようもない理由がある。


 というのも以前、三人組の冒険者を助けた際の映像がインターネットで軽くバズっているのだ。


 俺達はその時配信を行っていなかったため、三人組の方のカメラに映り込んでしまったのだろう。


 バズっている理由は単純明快。モンスターを倒す際に『下着』が見えているからだった。本当に最悪すぎる。



「あ゛〜〜〜⋯⋯っ」



──死亡を含めたあらゆるトラブルへの備えとして、ダンジョンへ潜る際は配信を行うことが推奨されている。


 だから、あの三人組が悪い訳では決してない。


 ないのだけれど⋯⋯



「あいつらの撮影ドローン⋯⋯ぶっ壊しとけばよかったぁ⋯⋯」


「それやると賠償責任が発生するわよ。それに生配信だったっぽいから、その時点で手遅れね」



 ヒナは無表情でこそあるが、その声は少し弾んでいる気がした。



「⋯⋯なんか、嬉しそうだな?」


「えぇ。こういう『意図していない部分でバズってしまい、本人もそれに困惑している構図』はエンタメ的にものすごくウケが良いの。さすがカモメね」


「狙ってねぇよぉ⋯⋯!」


「そう、それが『良い』の」



 あくまでバズったのは俺のチャンネルではないのだが、着実に知名度が伸びてきていることにヒナは満足気だった。



「まぁ可愛い下着だったし、良かったじゃない」


「⋯⋯あいにく、そういう感性は持ち合わせていない」



 いや、もしかしたらというか十中八九、俺の絶望を面白がっているだけだこれ。



「⋯⋯配信者って、ストレスすごいんだな⋯⋯」



 俺の身体が女に変わってから、もう一週間が経とうとしていた。


 初配信以外にも、既に何度かの配信を行っているのだが、その度に神経と何か大事なものが磨り減っていくのをふつふつと感じる。


 また、この身体では学校へ通うことができないというのも、確かな不安として俺を苦しめていた。


『ダンジョン行ったら女になっちゃいました』なんて信じてもらえるわけがないし、周知されたくもない。



「⋯⋯このままじゃ俺、卒業できないかもな」


「大丈夫、もしそうなっても私が一生養ってあげるわ」


「⋯⋯」



⋯⋯ヒナは割と軽率にこういうことを言う。そして、それができてしまうほどに優秀なのだった。



「⋯⋯いやいや」



⋯⋯うん。これを『悪くない』なんて思い始めたらそれこそ終わりだ。


 俺はまだ元の姿に戻ることを諦めていないのだ。次の配信も頑張ろう。



「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯もしくはそろそろ、俺に呪いをかけたあいつの手がかりを探して──



──ぴんぽーん。



 唐突に響いたインターホンの音で、沈んでいた思考が引き上げられる。



「ん、何か来たみたいよ?」


「なんか宅配頼んだりしてたっけな⋯⋯?」


「私が出てくるから、待ってて」



 玄関へと歩いていくヒナ。気になった俺も、少し離れた位置から覗くことにした。


⋯⋯この身体は隠れやすいな。



──ぴんぽーん。


二度目のインターホンが鳴る。



「はいはい」



 ヒナが扉を開けると──



「──あ、あのぉ⋯⋯ししょ、じゃなくて⋯⋯け、剣崎(けんざき)カモメさんはいらっしゃいますか⋯⋯?」



──巨体。


 恵まれた体格の割におずおずと申し訳なさそうに身体を縮こめる少女が、そこに立っていた。



「⋯⋯えっ、と」



 ヒナの身長は百五十五センチ。目の前の少女との身長差はかなりのもので、それゆえ一瞬圧倒されたようだった。



「⋯⋯どちら様?」


「あっ⋯⋯は、はい!私は、鈴咲雀(すずさきすずめ)って言います⋯⋯!」


「鈴咲さんね。私達と同じ制服だけど、カモメとはどういう関係?」


「ひぇっ⋯⋯え、えっとぉ⋯⋯」



⋯⋯本人に悪気は無いのだろうが、問い詰めるような口調のヒナにスズメはどんどんと身体を縮こまらせてしまう。


 なんか圧迫面接みたいになっていた。



「⋯⋯ほ、本人に会わせていただけませんか?」


「私の質問には答えられないってこと?」


「っ⋯⋯そ、そういう訳ではぁ⋯⋯」



 明らかに挙動不審なスズメに対して、ヒナはどんどんと警戒心を隠さなくなっていく。


 ヒナとは違い、俺はスズメのことを知っているため割って入ってあげたかったが、この姿を彼女に見られたくないという思いが僅差で勝利してしまっていた。


 スズメは恐怖でぶるぶると身体を震わせ泣きそうになりながらも、なんとか言葉を絞り出す。



「う、うぅ⋯⋯はっ⋯⋯!?と、というか⋯⋯っ!そういうあなたはどちら様なんですか⋯⋯!?」


「は?」


「ど、どうしてししょ⋯⋯剣崎さんの家に女の人が?あ、あなたこそどういう関係なんですか?」



⋯⋯おお、あのいつも弱気なスズメが反論を⋯⋯しかもあのヒナに。


 思わず感動してしまう。



「⋯⋯ふふ」


「な、何がおかしいですか!?」


「どういう関係だと思う?」


「え⋯⋯?」



⋯⋯不味い、ヒナの良くない癖が⋯⋯



「どっ、どどどどういう意味ですかそれ!?」


「私は今彼の家の中にいて、あなたはそこに未だ入れない。それをヒントに考えてみれば?」


「か、彼ぇ!?も、もしかしてあなた⋯⋯!?」


「ふふ⋯⋯ん?」



 流石に止めようと、陰から少し身を乗り出してヒナにタイムのハンドサインを送る。


 幸いヒナもすぐに気づいてくれて──



「──え?女の子が⋯⋯二人⋯⋯?」



 やべバレた。




──────────────────




「──つ、つまり⋯⋯」



 パニックに陥ってしまったスズメをなんとか落ち着け、テーブルを挟んで座る。



「つまりあなたは、師匠の従姉妹の親戚の友人の弟の兄の娘さん⋯⋯ということですか?」


「は、はい!そうです⋯⋯!!」


「それは他人では?」


「な、なるほど⋯⋯!」


「納得するのね」



 なんとか俺の正体を誤魔化すことには成功した。


 今の見た目も相まってか、スズメは直ぐに俺に対する警戒を解いてくれた。



「そ、それにしても、可愛い方ですねぇ。ちっちゃくて⋯⋯えへへ」


「ど、どうも⋯⋯?」



⋯⋯それにしても、スズメは本当に背が高い。身長は恐らく優に百七十センチを超えているだろう。


 元々の俺は身長が百八十九センチあったためあまり感じなかったが、しかし今の姿は百四十あるかないかといったところ。


 そのため、この身体で見上げるスズメは中々に威圧感があった。



「そして、こちらの方は⋯⋯」


「私は神里(かみさと)ヒナ。カモメの幼馴染よ。さっきはからかってごめんなさい」


「い、いえそんな⋯⋯ってえぇ!?神里ヒナさん!?」


「⋯⋯?なにその反応?」



 唐突に驚きの叫びを上げるスズメに対して、ヒナはちょっと引いていた。



「が、学校で集会がある度に何かしらで表彰されてるあの!?」


「はっはっは!!そう!ヒナは凄いやつなんだよ!!」


「はぁ⋯⋯嫌な覚えられ方ね」



 学校の有名人と会えたことに、スズメは目を輝かせる。


 俺は誇らしかったが、ヒナは面倒そうにひらひらと手を振るだけだった。



「す、素手で剣道部の部長に勝ったって本当ですか!?」


「本当なわけないでしょ。どう考えても素手じゃ無理だっての」



 まぁ⋯⋯賞賛も尾ひれのつきまくった噂も、ヒナにとっては珍しいことではないのだろう。



「⋯⋯ていうか、結局あなたはカモメとどんな関係なの?さっき師匠って呼んでなかった?」


「うっ⋯⋯それはぁ⋯⋯秘密、というかぁ⋯⋯」


「はぁ?」


「ぴぃっ⋯⋯!?」



 スズメはなおもいい渋る。義理堅い良い子なのだ。


 この姿も見られてしまった今、やはり俺が助け舟を出すべきだろう。



「スズメ⋯⋯さん」


「⋯⋯?えぇっと⋯⋯そういえば、あなたの事はなんとお呼びすれば⋯⋯?」


「え?あー⋯⋯えっ、とぉ⋯⋯」


「『クーちゃん』って呼んであげて」


「おい」



 ヒナが笑顔のまま俺の尊厳を破壊しようとしてくる。



「分かりました!よろしくお願いします、クーちゃんさん!!」



 しかもアニメキャラみたいな呼び方をされてしまった。やはり名前に『ちゃん』が付くとこういう弊害が⋯⋯



「ん⋯⋯?クーちゃんって⋯⋯」


「ん?どうした?⋯⋯じゃなくて、どうしました?」



『クーちゃん』という名前を聞き、考え込むスズメ。



「あっ!もしかして、最近ダンジョン配信を始めたあの子ですか!?」


「げっ⋯⋯」


「あら、知ってるの?」



 俺とヒナの表情は面白いくらいに対照的だった。


 加えて言うなら、俺の胸中は全然面白くなかった。ヒエッヒエだった。



「はい!最近切り抜きがよく流れてきます!!」


「うわぁまじかぁ⋯⋯」



 最悪だ。



「⋯⋯」



⋯⋯いや、しかしこれは考えようによっては都合がいい。


 深呼吸をして、心を殺す。



「そう⋯⋯なんです。カモメ⋯⋯さんには、その事で相談に乗ってもらったりもしてて。ですから、私達もカモメさんがダンジョンに行っている事は知ってるんですよ!」


「な、なるほど⋯⋯私以外にも知っている方がいたんですね」



 無理やり笑顔を作って説明すると、スズメも納得してくれたようだった。



「⋯⋯待って、『私以外にも』って、もしかしてあなたも⋯⋯?」



 しかしヒナは目を見開き、驚いたように尋ねる。



「はい!私はカモメさん⋯⋯いえ、師匠の弟子なんです!!」



 そう、俺がダンジョンに入り浸っていることを唯一知っていた人間。それが、目の前に座る鈴咲スズメだった。



「⋯⋯へぇ〜?」


「う゛⋯⋯」



 瞬間、ぎょろりとヒナの目がこっちを向く。怒っているのは一目瞭然だった。



「へぇ、何?私には言ってなかった秘密をこの子には言ってたわけ?へぇ〜?」


「⋯⋯いや、これには深い訳が──」


「──この子への信頼も随分深そうね?」


「⋯⋯⋯⋯すみませんでした」



 ヒナがものすごく怖い。生存本能に従い、身体を縮こめて謝る。



「ぴ、ぴぃ⋯⋯」



⋯⋯対面のスズメは俺以上に身体を縮こめていた。もう泣きそうな程である。



「はぁ、まあいいわ。それで、鈴咲さんもダンジョン冒険者なの?」


「は、はいぃ!その通りでございます⋯⋯!!」


「⋯⋯怖がらせてごめんなさい、もう大丈夫だから、ね?」


「ひぃっ⋯⋯!?うぅ、はいぃ⋯⋯」



⋯⋯軽くトラウマになってそうだった。




──────────────────




「──師匠にはダンジョンでの戦い方を教わっていました。でも、最近は学校を休んでいるようだったので、いても立ってもいられず⋯⋯」


「⋯⋯良い子ね」


「そうなんだよ」



 心根の優しい子なのだ。



「師匠は、ご無事なんでしょうか⋯⋯?」


「⋯⋯」



⋯⋯この場合、ただ休んでいることだけを心配していた訳では無いだろう。


 俺がダンジョンに潜っていることを知るスズメにとって、『安否が分からないこと』は相当の恐怖と不安を伴うものだったはずだ。


 申し訳ない限りである。



「⋯⋯大丈夫ですよ。カモメさんは⋯⋯遠くのダンジョンに行っているだけなので」


「そ、そうだったんですね⋯⋯」



 スズメの表情には、安堵と何故それを自分には言ってくれなかったのかという多少の悲しみが見て取れた。



「き、きっと大丈夫ですよ!カモメさんは強いですから!!」


「はっ⋯⋯!そ、そうですよね!!」



 自画自賛だが事実なのでセーフ。



「そういえば、クーちゃんさんは配信者なんですよね?その、師匠は配信について⋯⋯」


「⋯⋯?あぁ。確かにカモメさんは配信という行為が大嫌いですね。憎悪していると言ってもいいでしょう」


「で、ですよね⋯⋯?大丈夫なんですか⋯⋯?その、関係とか⋯⋯?」


「⋯⋯まぁ、俺⋯⋯私にも事情があって⋯⋯はは⋯⋯」


「そ、そうなんですね⋯⋯?」



 俺の引き攣った笑みを見てか、スズメはそれ以上の詮索をやめたみたいだった。


 そして、しばらく考え込む。



「⋯⋯⋯⋯私、も──」


「でもスズメさんは、カモメさんと同じ考えの持ち主なんですよね!カモメさんから聞いてます!!」


「え゛⋯⋯っ!?」


「⋯⋯?」



 今の俺はやむを得ず配信者なるものを名乗っているが、しかし万が一、それがスズメの考え方を変えてしまうなんてことは避けねばならない。



「あ、全然私に気を遣わなくていいんですよ?その考え方、めっちゃクールだと思います!!」


「え、えぇっとぉ⋯⋯わ、私はぁ⋯⋯」


「やっぱり、カモメさんの考え方は真理を突いてますよね!!」


「ふ、ふえぇ⋯⋯!?」



 事実なのでセーフ。



「──ねぇ、それよりもいいかしら?実は、ダンジョン関係で鈴咲さんに聞きたいことがあるの」



 ヒナが頭痛を抑えるようにして、俺達の間に割って入った。


⋯⋯もう少しダンジョン配信という行為の愚かさについて語りたかったが、まぁ仕方ない。



「ふぇ?な、なんでしょう?」


「少し込み入った話になるんだけど⋯⋯」



 ヒナは俺が受けた呪いについて、女体化の部分を上手くぼかして説明をした。



「身体に影響する『呪い』⋯⋯クーちゃんさんの配信は解呪にかかる資金集めのためだったんですね⋯⋯なるほど⋯⋯?」


「えぇ、何か知らない?」


「う〜ん、なんと言いますか⋯⋯」



 スズメは微妙な表情で首を傾げる。



「どんな些細なことでもいいんです。知っていたら教えてくれませんか?」


「え、えっとぉ⋯⋯」



 俺程では無くとも、スズメもかなりダンジョンに潜っているはずだ。何か知っていてもおかしくはない。


 スズメは少し間を置いて、微妙な表情と自信なさげな声はそのままに⋯⋯



「──そもそも、それって本当に『呪い』なんでしょうか?」



 大前提に対する疑問を口にするのだった。

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