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男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?  作者: 赤石アクタ
第三章 因習村編

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第二十六話 因習村の終わり

『——冒険者、辞めるよ』



 結局、その言葉について詳しく聞くことはできなかった。


 ねこまたさんとフタバちゃんの二人と合流した時点で既にダンジョンの崩壊は始まっていたし、オリヴィアさんの負傷も未だ一刻を争う状態。そのため、俺達はそのまま崩れゆくダンジョンを駆け抜け、山を下りた。


 そうして、なんとか村へと戻った俺達がまず目にした光景は⋯⋯



「——なっ、なんなんだお前達は!?急に来て勝手なことを⋯⋯!所属と名前を言え!責任者に話をつける!!」



 声を荒らげる村長⋯⋯つまりはフタバの祖父と——



「——オイオイ勘弁してくれよぉ!恐怖から来る攻撃性って、見てたら興奮してきちまうだろーが⋯⋯ッ」


「——おいお前⋯⋯もしかして今、お姉様に口答えしましたぁ?ウチ、そういうのマジ無理なタイプなんですけどぉ?」



——二人のコスプレ巨女だった。



「えぇ⋯⋯」



 それは、田舎の村にはあまりにも似つかわしくない存在。目が痛くなる程にカラフルな色彩に、男だった頃の俺以上⋯⋯つまりは優に二メートルを超える身長。その場にいるだけで圧倒的な存在感を放つ、異質という言葉がなんとも似合う二人組だった。



「えー、テメェらの村はァ?なんかスゲェ悪い事をしてる可能性罪に問われている可能性ありけり。ァそこで!ワタクシちゃん達がその調査を行うことになりましたァ。ほらあれだよ⋯⋯えーっと、専門家として?」



 まず一人目。村長の右半身に身体を密着させ、ギラついた瞳と態度で圧をかけ続けている褐色肌の女性。明らかにコスプレ用であり、尚且つどう見てもサイズがあっていないペラッペラのナース服をギチギチ言わせながら身に纏い、ふわふわとしたくせっ毛の白髪を揺らす。その姿はまさに苛烈だった。



「⋯⋯おいお前、お姉様を無視してんじゃあねぇですよ?それってぇ、お姉様を軽視していることに他なりませんよねぇ??本気?それ本気ですか??ウチ、そういうのマジ無理なタイプなんですけどぉ?」



 そして二人目。村長の左半身に身体を密着させ、ジメジメとした瞳と態度で圧をかけ続けている病的なまでに色白の女性。纏っているのは上等な質感の着物なのだが、その色はやたらめったらにカラフル。そんなゲーミング着物をはためかせ、ストレートの綺麗な黒髪を揺らす。その姿はまさに陰湿だった。



「なんだあの二人⋯⋯」


「『黒白(コクハク)』だ」


「マジかぁ⋯⋯」



 聞かなきゃよかった。



——黒白(コクハク)


 総理直属の特殊部隊であり、前回のダンジョン攻略の後、俺を治療してくれた医療班でもある。


 一応、先程ダンジョン内で少し説明を受けたのだが⋯⋯正直、やたら長ったらしい役職名と、彼女達について話すオリヴィアさん達の微妙な表情しか記憶に無かった。出会ってみれば納得の表情である。こんな濃いやつらだったのかよ。



「ちなみにナース服の方が『クロ』で、着物の方が『シロ』ね。『髪色と逆の色が名前』で覚えよう!」


「なんか、もう記憶から抹消したいくらいなんですけど⋯⋯」



⋯⋯ずっと見てると視力が落ちそうな二人組だった。



「くっ⋯⋯貴様らにどんな権限があろうと、事前の説明がなければそれは越権と何ら変わりない!」


「弱者ほど正論に拘る」


「出たァ!お姉様の名言ンッ!!」



 詰められている村長は必死に彼女達を糾弾しているし、言ってることも全然まともなのだが、しかし可哀想なくらい相手にされていなかった。



「はぁ、まったく。カリカリすんなよなァ。仲良くしようぜ?ワタクシちゃん、悪いヤツはだいたい友達なんだよ。ほら見えるか?ここ、お前の手相。友情の線が引かれてる感あるだろ?ほら、自白しろって。この友情線に、自分が何したか言うんだよ」


「話を聞け貴様⋯⋯ッ」


「おっとぉ調子に乗んじゃあねぇですよ?お姉様のお友達様になったからといって、お前様という人間の不潔さが消え去るワケではございません。他者の威を借る獣は往々にして、すぐにそれが借りモノであることを失念します。ウチ、そういう身の程知らずはマジ無理なタイプなんでぇ」


「⋯⋯ん?あれ、銃か⋯⋯?」



 いつの間にか、ゲーミング和服黒髪の方⋯⋯えっと、つまりシロ?シロか。シロの手には拳銃が握られていた。普通に村長に銃口向けてるしトリガーに指をかけてるしで危なすぎる。



「なっ⋯⋯!?こ、この横暴は決して消えないぞ!正当な権利を持っているんだろうな!?無ければ貴様らのやっているのは明確な犯罪行為だ!!」



 正論。



「はッ、ワタクシちゃん達を人間の法律で裁けるといいなァ?えぇ?」


「さっきから犯罪がどうとか法律がどうとか言ってますけどぉ⋯⋯具体的にナニ罪になるかは、当然分かって言ってるんですよねぇ?」


「少なくとも貴様は銃刀法違反だ!!」



 うーん正論。



「おーけーオーケーこうしよう。ワタクシちゃん達がナニ罪だろうがテメェらを調べるのは変わらねぇ。ダンジョンは消えちまったからともかく、村の方は徹底的に入れるからな、調査の両手を。戸籍とかも常識的に照会するから覚悟の決意を準備しとけや子ビーバー共」


「終わったら飴をあげますからねぇ。あ、でも一人一つですよぉ?」



 なんなんだよこいつらマジで。



「ん?」


「うわっ」



 しまった目が合ってしまった⋯⋯ッ


 俺達を視界に捉えたコクハクは、目をガン開いてこちらに猛ダッシュしてきた本当に怖いよなんだコイツら。



「オイオイオイオイオイ!!そこにいんのはオリヴィアちゃんかァ!?どしたボロボロで!?めっずらしー!笑えるな正直。甘えんなドーパミン」


「あのぉ、素人質問で恐縮なのですが、そんな汚ったない姿をお姉様の前に晒す思考回路ってマジどういうコト??」



 開口一番見知らぬ言語で威嚇してくるが、ここで引く訳にはいかない。先程聞いた話ではこの巨女達こそダンジョン攻略組お抱えの医療班。今一番優先すべきはオリヴィアさんだ。



「あの、医療班の方々なんですよね?オリヴィアさんの怪我が酷くて⋯⋯っ!」



 とりあえず美少女らしく瞳を潤ませ懇願してみる。コイツらに効くかは分からないが。



「そうだな。確かに死にかけてるわ。オリヴィアちゃん」


「これはすーぐに処置しないとですねぇ?」


「⋯⋯え?い、いいんですか?」



⋯⋯思いのほか、素直に応じてくれた。言語野を犯される覚悟を決めていた俺は半ば拍子抜けしてしまう。



「オイオイ当たり前だろ?あのつよつよオリヴィアちゃんを治療できる機会なんてそうそうないんだから、逃すワケねーだろうが。あぁやべぇ、興奮してきた⋯⋯ッ」


「興奮⋯⋯?」


「えへへ。楽しみですねぇお姉様ぁ⋯⋯?」


「楽しみ⋯⋯?」



 治療にはあまり似つかわしくない言葉が聞こえてくるが、しかし彼女達の発言がおかしいのは別におかしくないのだろうか⋯⋯?


 なんにせよ、これでオリヴィアさんは——



「——やだ」


「⋯⋯え?」



——凛⋯⋯とはしていない声。


 発したのは、息も絶え絶えのオリヴィアさんだった。



「お、オリヴィアさん⋯⋯?」


「⋯⋯別に、コクハクに治療してもらうほどの怪我ではない。普通に病院で治療を——」


「——なっ、ここまで来て何言ってるんですか!?オリヴィアさん、今死にかけてるんですよ!?治してもらいましょうよ!!」



 コクハクは『回復魔法』を扱うと聞いている。魔法ということは『加護』を扱えるダンジョン内で行うのだろう。今から急いで近場のダンジョンへ向かうのかそれ以外の手段があるのかは知らないが、少なくとも彼女達は前回のダンジョン攻略で死にかけた俺を治療した実績がある。彼女達の治療を渋る理由など無いはずなのだが⋯⋯



「し、しかしだなクーちゃんさん⋯⋯」


「⋯⋯?」



 オリヴィアさんは珍しく言い淀み、割と本気で嫌そうにしていた。



「さぁ行くかオリヴィアちゃん。大丈夫、優しくするからよぉ?」


「太陽のシミを数えてたら終わりますからねぇ〜」


「ま、待ってくれ!!」



 そうこうしているうちに、コクハクがひょいとオリヴィアさんを担いでしまった。ニヤニヤと獰猛な笑みを湛えるコクハクの二人に反して、オリヴィアさんの表情はサーっと青ざめていく。



「た、助けてくれヒマワリ!クーちゃんさん!!」


「え?え?助け⋯⋯?」


「⋯⋯オリヴィア。流石に今回は治療を受けるべきだよ⋯⋯」


「だ、だがっ⋯⋯!私はもう三十を超えているんだぞ⋯⋯!?あんなっ、あんな痴態を⋯⋯っ」


「⋯⋯痴態??」



 痴態???



「⋯⋯あの、ヒマワリさん?あの人達の治療って⋯⋯」



⋯⋯いや待て。コクハクの治療が、『痴態』を晒すことと同義なのだとしたら⋯⋯



「⋯⋯クーちゃん。とりあえず、耳を塞いであげよう」


「耳?」



 それは前回、俺もその痴態とやらを——



「——んお゛ぉ゛っ♡♡」



——嬌声。



「え?」



 ヒマワリさんの言葉の意味が分からず、耳を塞ぐのが遅れた俺は、その声をモロに聞いた。



「今のって——」


「——か、はっ⋯⋯♡ぴぎゅっ⋯⋯♡♡」


「うわオリヴィアさんがめっちゃ痙攣してる!?!?」



 白髪ナース服⋯⋯つまりクロがオリヴィアさんの首筋に噛み付いた瞬間、彼女の身体は激しく痙攣しだし、その口からは甘やかな嬌声だけが飛び出すようになってしまった。



「ちょっ⋯⋯!?お前何してんだ!?治療してくれるんじゃ——」


「——治療ですよぉ?お姉様の治療はちょっと『強すぎる』のでぇ⋯⋯こうして同時に快楽物質を増幅させる必要があるんですねぇ。感度○○○○倍ってやつですよぉ」


「いや増幅させすぎでは!?痙攣ヤバいですよ!?!?」



 オリヴィアさんの身体は激しくのたうち回っていた。シロが身体を押さえつけてこそいるが、それでも変な方向に腕が跳ねたりしている⋯⋯勢いからして折れてもおかしくないだろう⋯⋯


 見方によっては倒錯的⋯⋯と言えなくもないのかもしれないが、正直心配と恐怖が勝つ光景だった⋯⋯



「大丈夫ですよぉ⋯⋯痙攣による怪我も、最終的には治るんでぇ」


「ほ、本当ですか⋯⋯?」


「え何です?もしかして今お姉様のコト疑いました??ウチ、そういうのマジで——」


「あぁこっち向かないでくださいオリヴィアさんの固定が甘くなってますッ!!」




————————————————————————




 オリヴィアさんの痙攣が収まり正気に戻ったのは、三十分後のことだった。



「⋯⋯は、ははっ⋯⋯私は、今年で⋯⋯ははは」


「で、でも早かったよね。『戻って』くるの⋯⋯えっと、やっぱすごいよオリヴィアは⋯⋯」



⋯⋯精神面はともかく、オリヴィアさんの身体の傷はその全てが完璧に治療されていた。もう身体を動かすのにも問題なさそうである。


⋯⋯いや、しかし⋯⋯



「⋯⋯あの、ヒマワリさん」


「ん?」


「もしかして、なんですけど⋯⋯」



 これは、つまり⋯⋯



「⋯⋯私の時も『失禁』ってしてました?」


「⋯⋯⋯⋯」


「うぐぁわあぁぁぁぁッ!!!!」



——俺も前回痴態を晒したってコト!?!?



「頼むクーちゃんさん、言語化しないでくれ⋯⋯っ」


「あっ⋯⋯すみませんマジですみません⋯⋯っ!!」



 気が動転して、ついさっき痴態を晒したオリヴィアさんを刺してしまった⋯⋯気まずさからか、俺の視線は遠くで伸びをしている二人組へと移る。



「いやーいい仕事したなァ⋯⋯!これは明日の星座占いも期待できるぞ〜っと」


「あァ!?星座占いを根本的に理解できていないお姉様も素敵ですッ!!」


「⋯⋯」



 コイツらはなんなのだろうか?⋯⋯いや、今回に関しては今までと違い、行動がおかしいとか、言動がおかしいとか、頭がおかしいとかそういうことではない。



「ワタクシちゃんの能力は今日も絶好調日和〜略してアカンパニ〜⋯⋯お?なんだよちびっ子。ワタクシちゃんのこと見つめちゃって。惚れたか?もしくは決闘か」


「⋯⋯いえ」



——コイツらは、『ダンジョンの外』で治療を行ったのだ。


 ダンジョンの外では『加護』は得られない。それはつまり『加護』を消費して発動する『魔法』も扱えないということだ。



「おいロリ。気安くお姉様を見つめてんじゃあねぇですよぉ?社会経験の無いロリ、略してしゃかリロは知らないかもしれませんが、人間関係は好感度が大事なんです。お姉様を見つめたいならぁ、まずはお姉様とウチの好感度を上げて特殊スチルを解放してくださいねぇ?」


「⋯⋯」



 しかし、コイツらは『魔法』としか思えない力を行使してオリヴィアさんを治療した。正確には魔法を扱ったのはクロだけだが、しかしそれだけでも当然異常だ。


 コイツらは、いったい——



「——へぇ?」


「ッ⋯⋯!?」



 至近距離で響いた声に対して、半ば反射的に飛び退く。見れば、いつの間にかクロが至近距離にまで迫っていたらしい⋯⋯素早く、そして気配を感じられなかった。



「な、なんですか⋯⋯?」


「いやぁ?別にぃ??」


「っ⋯⋯」



 クロは俺のことを舐め回すように見つめ、それから挑発的な笑みでこちらを射抜く。



「ただ、『そーいう感じかァ』ってだけ」


「⋯⋯?あの、何が言いたいのか——」


「——へいへーい、ねこまたちゃーん?」



 俺が言葉の意味を問いただそうとした時には、既にクロは俺への興味を失い、今もフタバちゃんと手を繋いで沈黙しているねこまたさんの方に近づいた。



「ワタクシちゃん達に何かお願いがあるって面と脈拍だなァ?⋯⋯言ってみ。今なら五十パーセントオフだ」


「⋯⋯ボクは、この子供と——」


「——あァみなまで言うなッ!!全部分かってるぜワタクシちゃんはよぉ?」


「⋯⋯」



 お前が言えっつったんだろ。


 クロはねこまたさんの隣で怯えているフタバちゃんに視線を合わせ、それから多少獰猛さを抑えた笑みで笑いかける。



「どのみち、このキッズのジジイはしばらくワタクシちゃん達が預かる。ソイツ以外のガキも含めて、めんどくせぇ手続きはワタクシちゃん達が代わりにバックレといてやるよ」


「『職務怠慢の代行』⋯⋯!昨今の何でも代行業者に頼む風潮へ皮肉的に切り込むそんなお姉様も素敵ですッ!!SNSで緩い絵柄の一ページ漫画にしたらウケるのではって感じですねぇ???」


「⋯⋯」



 コイツらのセリフから会話の核心を抜き出すのって、なんか国語のテストみたいでめんどくせ。


 正直セリフにノイズが多すぎてよく分からないが、フタバちゃんを含めた村の子供達のことは、このコクハクがどうにかしてくれる⋯⋯ということでいいのだろうか?そういえば、コイツらの持つ長ったらしい役職の中には、『事後処理班』なんてのがあったっけ。



「⋯⋯」



⋯⋯うん。もうそういうことにしよう。なんにせよダンジョンは攻略できたのだ。



「⋯⋯はぁ。配信こそしなかったけど、やっぱり旅行とは程遠かったかもな」



 何はともあれこうして、俺達ダンジョン攻略組の『旅行』は幕を閉じた。



「——因習村、これにて完ッ!!」


「さっすがお姉様ァ!こまめに編集点を作るそのせせこましさが素敵ですッ!!」




——村近くの海——




「——よっと⋯⋯アレス!」


「なんて完璧な軌道⋯⋯クーちゃん!パスです!」


「はいっ!よいしょっ⋯⋯!ぁやべ水着ズレたかも⋯⋯っ」


「う、ぁっ⋯⋯はしゃぐクーちゃんマジで可愛い⋯⋯っ」


「手で顔を覆うなアレス!そっちにボール行ったぞ!」



 波のさざめきと仲間のはしゃぐ声が、ぼんやりとしたねこまたの鼓膜を揺らす。村の近くに存在するこの海水浴場は、田舎ということもあって人も少なく、ファンに声をかけられる心配もしなくてよさそうだった。



「⋯⋯」



 出発前にヒマワリが駄々をこねた時には一蹴したが、なんだかんだで来てみれば全員楽しそうな様子である。海にこそ入っていないが、実際ねこまたも悪くない気分だった。



「⋯⋯海って、綺麗なんだな」



 自分の地元にも、このように美しい景色が存在していたのだろうか。思い返せど、ねこまたの記憶に蘇るのは、無駄に広く豪華な実家に、味気ない通学路⋯⋯そしてずっと見て見ぬふりを決め込んでいたダンジョンだけだった。



「⋯⋯」


「——あんなにはしゃいでるオリヴィア。初めてじゃない?」



 沈みかけた思考が引き上げられる。



「⋯⋯ヒマワリ」



 声の方向に振り向けば、笑みを浮かべたヒマワリが目に入った⋯⋯しかし、その笑みは普段と比べて貼り付けたような印象を受けるもの。



「⋯⋯オリヴィアは、ずっとあんな感じだよ」


「へぇ?」


「前にゲーム誘った時も、めちゃくちゃ真剣にやってたし⋯⋯はしゃぐっていうか、何事も全力で取り組まなきゃ気が済まないんだろ」


「あぁ、そう言われると確かに納得かもねぇ〜⋯⋯ねこまたちゃん、案外仲間のこと分かってるんだ?」


「⋯⋯」


「⋯⋯」



 ヒマワリはいつものように無遠慮で空気を読まず、それでいて楽しげな態度を繕っていたが、それが緊張と焦りを孕んだものであるとねこまたは分かっていた。



「⋯⋯」


「⋯⋯」


「⋯⋯ほんとに辞めるの?」



 そう聞くヒマワリの声は、無機質で冷たかった。



「⋯⋯ああ」


「これからどうするつもり?」


「フタバと暮らすことになる。二人なら、生きていけるかもしれないから⋯⋯」


「ふーん?さっきコクハクと話してたのってそれ?」


「ああ。面倒くさい部分はコクハク⋯⋯っていうか、総理がどうにかしてくれるらしい」


「⋯⋯あはは。職権乱用だーっ」



 ヒマワリの声にはやはり無機質さが混じり、その視線は海で遊ぶ三人に固定されていた。



「⋯⋯⋯⋯悪いな」


「は?」



 ヒマワリの目が見開かれ、ほんの一瞬だけねこまたへと向けられる。



「ボクは、自分のことで精一杯なんだ。今までも、きっとこれからも」


「⋯⋯何が言いたいの?」


「⋯⋯お前のことを気にしてやれなくて、ごめん」


「っ⋯⋯はぁ?別に、あたしそんなこと頼んでないけど」



 苛立ちを纏った声。


 ねこまたはそれには答えず、立ち上がって海で遊ぶ三人の方へと歩いていく。



「⋯⋯これから、どうするの?」



 ねこまたの様子をどこか呆然と眺めていたヒマワリは、無意識に先程と同じ質問を零していた。



「⋯⋯とりあえず、妹の墓参りに行くよ。今まで、一度も行ってなかったんだ」



 緊張しながらも柔らかな笑み。その緊張が自らのものよりも軽く清らかで、それでいて前向きなものであるという事実が、ヒマワリの貼り付けた笑みを溶かそうとする。



「⋯⋯はは。真っ当」



 目的があって、前を向いていて、何より生きようとしている。



「⋯⋯」



 それに比べて、自分は?



「はっ⋯⋯いや別に、何も変わんないでしょ。あたしは、不幸なんかじゃない⋯⋯っ」



 ヒマワリは燦々と輝く太陽から顔を背け、無感情に呟いた。



「——あたしにだって、生きる理由くらいあるんだから」




——因習村編 完——

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