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男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?  作者: 赤石アクタ
第三章 因習村編

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第十八話 ダンジョン嫌いと人間嫌い

──調査初日から数日後──




 この村で調査を開始してから数日が経ち、俺達は改めて情報を精査することとなった。村の厚意で貸し切りとなっている旅館の大部屋に全員が集まる。



「──うん、警察に通報しよう」



 まず口火を切ったのはヒマワリさんだった。


 普段の弾けるような明るさは影を潜め、その声は冷たく淡々としている。



「この村は明らかに異常だよ。ダンジョン云々よりも先に、この村について考えるべきだと思う」


「⋯⋯?あの、どういうことですか?」



 ダンジョンの調査自体は全員で行っていたものの、正直俺はずっとモンスターを殺し続けることしかしていなかったので、ヒマワリさんの言葉を聞いてもピンとは来なかった。


 調査や推理みたいなことは苦手だし、そもそも情報が足りなくて考えようがないし、戦ってるモンスターはたいして強くないし⋯⋯なんか最近の俺は虚無を感じている⋯⋯



「この村は恐らく犯罪行為を行っている」


「え⋯⋯?」


「まずさ、子供の数が少なすぎると思わない?」


「子供⋯⋯ですか?」



 それは、たしかに感じていた。しかしそれは⋯⋯



「過疎ってる田舎なんだから、別に変なことじゃない」



反論したのはねこまたさん。ゲーム機で顔を隠しながらぶっきらぼうに告げるが、先程からボタンを押したりする様子は見られなかった。



「子供が少ないだけじゃない。子供の人数に対して、子供用の遊び道具や生活用品はかなりの数があるんだよ」


「⋯⋯言いがかりの域を出ない」


「それについて子供に尋ねてみたけど、彼らは大人に口止めをされているみたいだった」


「⋯⋯」



 沈黙するねこまたさんに視線を向けながら、ヒマワリさんは淡々と続ける。



「結構強めに口止めされてたっぽいけど、まぁ反応からして、少し前まではもっと子供がいたと考えて良さそう。今はいない子供の名前も、もういくつか分かってるよ。まぁ、今いる子も含めてちゃんと戸籍が登録されてるかは微妙なとこだけど」


「子供⋯⋯犯罪行為⋯⋯」



⋯⋯二つの言葉を結びつけるのは、かなり不快感の強いことだった。



「だから、これはもうあたしらの管轄じゃない。人間の相手は警察に任せよう」



『話は終わり』と言わんばかりに、ヒマワリさんがぱんと手を叩いた。



「──待て、ボクは反対だ」



 しかし、それを引き裂く声がひとつ。



「⋯⋯はぁ、ねこまたちゃん⋯⋯」



「この村が問題を抱えていたとして、それにダンジョンが無関係な訳がない」


「⋯⋯つまり?」


「ダンジョンを攻略さえすれば、この現状に対しても進展があるはずだ」


「証拠が消えるかもしれないでしょ?」


「⋯⋯」


「ダンジョン内での犯罪行為なんてありふれてる。コアを破壊したらダンジョンはその証拠ごと消滅するんだから、先に討伐する意味はない。ねこまたちゃん、それくらい分かってるよね?」


「⋯⋯だが──」


「──ねこまたちゃん」



 ヒマワリさんは封殺するように言葉を被せる。ねこまたさんはヒマワリさんを睨みつけ数秒沈黙してから、今度は絞り出すように言葉を続けた。



「⋯⋯⋯⋯もしそれで村が崩壊したら、フタバはどうなる?」


「え⋯⋯」



⋯⋯意外だった。


 ねこまたさんが、村の子供達のことをそこまで考えていたなんて。呟く彼女の表情は、明らかにフタバちゃんを案じているものだった。



「フタバちゃん⋯⋯」



 初日に会って以来、彼女とは未だ顔を合わせていない⋯⋯ねこまたさんの言葉に、こちらも不安と心配が募る。



「知らないよ。私達の管轄じゃないんだから」



 しかし、ヒマワリさんは冷徹にそれを切り捨てた。



「ヒマワリ⋯⋯っ!お前マジで⋯⋯ッ」


「ねぇ、思い出して?この仕事の内容はダンジョンコアの討伐だけじゃない。この村の調査も含まれてるんだよ?今ある情報から考えて、優先すべきは明らかにこっちでしょ」



「⋯⋯あの、俺達はそれ初日にヒマワリさんから聞いただけなんですけど⋯⋯」


「う゛っ」



 俺の苦言に呻いたヒマワリさんは、その後何故かこっちを向き、めっちゃ上手いウィンクを決めてきた。なんだそれ。



「こほんっ⋯⋯あのさ、勘弁してよねこまたちゃん。この村、村長が結構やり手っぽいし、早く片付けちゃいたいの」


「村長が?そうなんですか?」



 初耳の情報に思わず間抜けな声を上げてしまう。



「ああ。彼はここ数日、調査内容や我々の持つ権限などについて何度か確認してきた。口ぶりからして、恐らく彼には法律関連の知識がある」



 俺の質問に答えてくれたのはオリヴィアさん。彼女はこの場の誰よりも冷静さを保っているが、その声には緊張が滲んでいた。



「分かる?ねこまたちゃん?ダラダラやってたらあたし達の方が足元すくわれるかもしれないの。変に訴訟とか起こされたらどうすんの?ダンジョン関係の裁判はただでさえ面倒なのに⋯⋯」



⋯⋯そのヒマワリさんの声には、珍しく多少の苛立ちが含まれているように感じられた。



「──ホント、そういうの勘弁してよ」


「っ⋯⋯」



 ねこまたさんはヒマワリさんを正面から睨みつけ、そして忌々しげに口を開いた。



「──お前はただ、ダンジョンよりも人間を糾弾したいだけだろ⋯⋯ッ」


「⋯⋯ねこまたちゃんこそ、結局ダンジョンを潰したいだけだよね?」



 二人の視線が鋭く交錯する。


 そのまま嫌な沈黙が場を支配し、しばらく俺たちの間には静寂が漂った。



「⋯⋯⋯⋯チッ」



 沈黙を破ったのはねこまたさんの舌打ち。それを合図に彼女は立ち上がり、足早に歩き出す。



「ね、ねこまたさん⋯⋯っ」


「風呂行ってくる」



 ねこまたさんは振り返ることなく、部屋を後にした。



「⋯⋯わっ、私追いかけてきます⋯⋯!」


「あっ⋯⋯じゃ、じゃあ俺も⋯⋯っ!」



⋯⋯話し合いの間、おろおろするだけでほぼ口を挟めなかった俺とアレスさんは、その気まずさを誤魔化すように、ねこまたさんを追いかけるのだった。




──────────────────




「⋯⋯はぁ」


「──ヒマワリ」



 ねこまたに続いてカモメとアレスも部屋を後にし、部屋にはヒマワリとオリヴィアの二人が残った。


 面倒そうにため息を吐いたヒマワリに対して、オリヴィアの凛とした声が降りかかる。



「あまり、感心するやり方ではなかったな」


「⋯⋯何?オリヴィアもねこまたちゃんと同じ考えなの?」



 そう言ってオリヴィアを振り返るヒマワリの瞳は、普段の彼女からは考えられないほどに冷えきっていた。



「いや、ヒマワリの意見は至極真っ当だと思う」



 軽蔑を隠そうともしないヒマワリの視線を、オリヴィアは真正面から受け止め、それでもさらに言葉を続ける。



「しかし、自分の意見を押し通すために与える情報を操作するのは、不公平だ」


「⋯⋯なんの事?」


「とぼけるなヒマワリ」



 言葉を受けたヒマワリは一瞬で笑顔を張りつけ、普段よりもあざとく小首を傾げるが、オリヴィアは一切の誤魔化しを許さない。


 そして彼女は、現状一番の懸念点を口にした。



「──あのダンジョンは既にかなり拡大している」


「⋯⋯」


「村長から『この村にはダンジョンを調査できる人間がいない』と聞いた時点で想定はしていた。しかし実際は想像以上⋯⋯恐らく、村を囲う柵の付近はもうダンジョンの一部となっている可能性が高い」


「⋯⋯気づいてたんだ」



 オリヴィアの考察を、ヒマワリは驚くでも否定するでもなく、あっさり肯定した。



「このままでは、村にまでダンジョンが侵食し出すのも時間の問題だ。悠長に警察を頼っている暇があるかは怪しい」


「⋯⋯かもね」



──人命を最優先とするならば、今すぐにでもダンジョンを攻略せねばならない。


 ヒマワリの意見が真っ当であるのと同様、ねこまたの意見もまた、理にかなっているのだ。


 加えて言うならねこまたの魔法は『マッピング』⋯⋯彼女もダンジョンの拡大に気づいている可能性が高い。



「だったら、さっきそれを意見として言えば良かったでしょ」


「ヒマワリ、それについても分かっているはずだ」



 オリヴィアは依然、凛とした声で告げる。



「『拡大しているはずなのに、モンスターは洞窟内にしか存在しなかった』⋯⋯これは普通じゃない。ねこまたもそれが引っかかっていたからこそ、安易に意見を言えなかったんだろう」



 確実に領域を広げているはずなのに、モンスターは洞窟内から出てこない。本来であれば、モンスターはダンジョンの領域内を自由に動き回るはずなのだ。


 この特異性により、恐らくクーちゃんさんとアレスはダンジョンの拡大に気づいていない⋯⋯せいぜい違和感を覚える程度だろう。



「ヒマワリ、聞いてくれ」



 オリヴィアは冷静に、言い聞かせるようにゆっくりと話す。



「──この村とダンジョンは、我々の想像以上に密接な結び付きがあるのかもしれない」



 ダンジョンを先に攻略すれば、ダンジョン内にあるかもしれない犯罪の証拠はダンジョンの消滅とともに消える⋯⋯ここ数日の調査では特にこれといったものは見つかっていないが、しかしそれでも、ダンジョン内での犯罪行為は充分に『有り得る』ことなのだ。


 しかし、今回気にするべきは本当にその『一方向』だけなのだろうか?



「⋯⋯」



──もしこの村とダンジョンが、双方向的な繋がりを持っているとしたら。


⋯⋯そんな例は今まで聞いたことがないが、しかしオリヴィアは嫌な予感を抱いていた。



「⋯⋯ヒマワリ、やはりもう一度全員で集まり、これらの情報を共有──」


「──最近のオリヴィアって、調子良さそうだよね」



 冷たく響いた声に、オリヴィアは言葉を止めざるを得なかった。



「⋯⋯」


「『自分はもう吹っ切れました』なんて態度しちゃってさ。他人を気遣う余裕まであるんだ?」



 ヒマワリの声は、酷く無機質にオリヴィアへと突き刺さる。



「──今のあんた見てると、自分が惨めに感じるよ」



⋯⋯そう告げるヒマワリの瞳と声色はたしかな苛立ちを孕んでいたが、しかしその感情が視線の先⋯⋯つまりオリヴィアに向けられたものでないことは明白だった。



「私は⋯⋯」



 突き刺さった言葉を確かめるようにオリヴィアは数秒考え、そしてヒマワリと目線を合わせる。



「⋯⋯たしかに、今の私は以前よりも自らの生き方を肯定できているように思う」


「⋯⋯何で?」



 主語のない、曖昧な問い⋯⋯それはどこか、救いを求めるようなものにも感じられた。



「たいしたことじゃない。ただ、少し⋯⋯」



 再度数秒、考えるように沈黙したオリヴィアは珍しく微笑みを見せると、ヒマワリに向かって慣れていないであろうウィンクを見せるのだった。



「──美少女の笑顔に、絆されただけだよ」

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