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男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?  作者: 赤石アクタ
第三章 因習村編

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第十七話 調査初日

「──『ダンジョン攻略組』の皆さんですね。遠路はるばるようこそお越しくださいました⋯⋯わざわざこんな田舎に来てくださっただけでもありがたいのに、先程私の孫娘の怪我を手当してくれたとも聞いています。改めて、感謝と祝福を伝えさせていただきたい」



 フタバちゃんに案内され無事村へと辿り着いた俺達を出迎えてくれたのは、物腰の穏やかな老人だった。



「私は一応、この村の村長という立場をやらせていただいております。皆様も何かあれば、私になんなりと仰ってください」



 村長である彼がフタバちゃんの祖父⋯⋯つまり彼女は村長の血縁だったらしい。



「ほらフタバ。もう一度ちゃんとお礼を言いなさい」


「⋯⋯本当に、ありがとうございました」



 フタバちゃんが丁寧に頭を下げる⋯⋯先程のどこかぼんやりとした様子は消え失せ、その所作は丁寧でそつがないと感じた。



「皆様の暮らす都会とは比べ物になりませんが、この村で一番の旅館を宿泊場所として使ってください」


「ご厚意、感謝します。事前に通達されていると思いますが、我々の目的はダンジョンの調査です⋯⋯構いませんね?」



 オリヴィアさんははっきりとした言葉ながらも、どこか探るように問いかける。恐らくは『因習村』という言葉を気にしているのだろう。


⋯⋯ヒマワリさんの話によれば、『この村の住人はダンジョンを神聖視している』⋯⋯みたいな話だっただろうか。



「えぇ、もちろんです。ここは人の少ない集落ですから、あのダンジョンを調査できるような人間もいなくて⋯⋯ありがたい限りです」


「⋯⋯そう、ですか」



⋯⋯あれ?


 思っていたよりもずっとスムーズに、調査の許可を得ることができてしまった⋯⋯もしかしてヒマワリさん、話を盛っていたのでは⋯⋯?


 なんにせよ、こうして俺達は正式に『因習村』のダンジョンを調査することとなった。




──────────────────




「⋯⋯村の人達、ダンジョンに入るのも問題なく許可してくれましたね」


「どうせヒマワリが話盛ってたんだろ」



 早速ダンジョン内の調査を始めたいと伝えても、特に拒否されるようなことはなかった。一応村長には具体的な調査方法などを聞かれたが、言ってしまえばそれくらいである。



「目的はあくまで調査だから、何か電子機器を起動しておこう」


「配信はしちゃダメなのー?」


「軽い調査だからな。今回に関しては配信のために来たわけでもないし」


「ぶー、あたしら配信者なのにー」



 オリヴィアさんとヒマワリさんの会話を聞きながら、ダンジョンへと続く道を歩く。村長の話によれば、ダンジョンは山の中にあるらしく、つまり現在は本日二度目の登山中である。


 やはりこの身体での登山はなかなかに堪えるが、しかし『配信をしなくていい』というのは俺にとってありがたいことだった⋯⋯いやほんとに。



「そういえば、電子機器を起動しているとダンジョンコアは出てこないんですね?」


「あぁ。ダンジョンコアが未だ世間に知れ渡っていないのは『ダンジョンに入る時は配信を行う』というのが一般化しているからだ⋯⋯まぁそれに、偶然遭遇したとしてもほぼ死ぬしな」



⋯⋯たしかに、配信者でなくとも、自らの生存記録としてリアルタイムの配信を行うことは今や当然のことだった。


 そして⋯⋯



「⋯⋯」



──ダンジョンに入る際の配信は、総理が積極的に提唱していた安全策でもある。



「⋯⋯⋯⋯」



 この疑念は、流石に考えすぎだろうか⋯⋯?



「ところでクーちゃん、今日の衣装は配信でも見たことがないやつですね⋯⋯!」


「え?」



 沈み込んでいた俺の思考は、浮かれたようなアレスさんの声に引き上げられた。


 たしかに今の俺は地味めな服装、何よりズボンを履いている。普段の配信は基本ワンピース、そうでなくともスカートであることをヒナに強いられているので、アレスさんには新鮮に映るのかもしれない。


⋯⋯いや、というか。



「⋯⋯どうして皆さんは配信時の格好なんですか?」



⋯⋯何故か俺以外はいつものコスプレ姿だった。ヒマワリさんがコスプレ姿だったのはずっと疑問に思っていたが、どうやら彼女だけでなく、全員衣装自体は持ってきていたらしい。



「や、やめてくれクーちゃんさん⋯⋯!そんな目で私を見ないでくれ⋯⋯っ」



 アレスさんとオリヴィアさんは騎士のような格好。といっても、アレスさんが甲冑のような鎧なのに対して、オリヴィアさんは動きやすさを重視した軽装とそれぞれ方向性が違う。


⋯⋯コスプレ衣装に着替えたからか、オリヴィアさんのテンションが若干下がっていた。



「あははは!!この服可愛いからね!!家とかでもたまに着てるんだよ?」


「部屋着にしてんのやば」



 ヒマワリさんはシスターのような修道服。天真爛漫な彼女自身とのギャップは相変わらずである⋯⋯そして、何故朝からその服装だったのかについては結局説明されなかった。マジで可愛いってだけなのかな⋯⋯?


 最後に⋯⋯



「あ?何か文句あんのかよ?」


「⋯⋯いえ」



 ねこまたさんは踊り子と盗賊をミックスしたようなとにかく露出の多い服装。


 このように、俺以外は全員勇者パーティみたいな格好をしているので、こともあろうに俺だけが浮いていた⋯⋯なんで普段着の俺が少数派なんだよ。



「この衣装は特注のものでな。高い耐久性能に加えて、それぞれが扱う魔法との相性も考慮して作られているんだよ」


「あぁ、なるほど⋯⋯」



 配信をせずともダンジョン探索において最も効率的な服装という訳か。


 オリヴィアさんの簡潔な説明に合点がいく。



「⋯⋯だから、これは決して私の趣味という訳ではないんだ⋯⋯うぅ、私はもう三十を超えているのにぃ⋯⋯」


「オリヴィアさん⋯⋯」



⋯⋯彼女自身には複雑な葛藤があるらしい。



「あたしらが普段使ってる武器も当然特注なんだけど、流石に今回は持って来れなかったね⋯⋯てか、あたしら一応インフルエンサーなのに、移動手段が公共交通機関って⋯⋯」



 ヒマワリさんが不貞腐れたようにぼやく⋯⋯まぁ、流石に大剣やレイピアを携帯して電車に乗る訳にはいかないだろう。



「あっ!てかさ、クーちゃんももううちらの仲間な訳だし、言えば作ってくれるんじゃない?せっかくなら、めちゃ可愛いのデザインしてもらおうよ!!」


「見たい!!!」


「うわ声デカ」



 ヒマワリさんの言葉にアレスさんが大音量で同意する。この人マジで俺のファンなんだな⋯⋯



「──着いたぞ、ここだ」



 わちゃわちゃとした話し声を引き裂くようにして、オリヴィアさんの声が響く。



「⋯⋯洞窟、ですね」



 山を切り分けるように進み続けた先に現れたのは、暗く静かな洞窟の入口だった。



「⋯⋯っ」



 緊張、恐怖、そして僅かな高揚感。


 ダンジョンに入る前特有の感覚が全身を包む。



「よーっし!それじゃあ──」



 何はともあれ、こうして『因習村』における初めてのダンジョン攻略が幕を開けた。



「──ダンジョン攻略組〜っ⋯⋯くわーっ!!」


「毎回新しい掛け声作るのやめろ」




──数時間後──




「──あんまり、強くなかったですね⋯⋯」


「うん!めっちゃ楽だったね!⋯⋯ってあれ?クーちゃん元気ない?」


「い、いえそんなことは⋯⋯!」



 しまった、顔に出ていたか。いけないいけない⋯⋯美少女は戦闘に張り合いがないことを嘆いたりしない⋯⋯よし。


 慌てて気持ちを切り替える⋯⋯というのも、美少女エミュの心配だけでなく、それ以外にも気にすべきことがあると感じていたのだ。



「このダンジョン⋯⋯」



 顎に手を当て考え込んでいるのはオリヴィアさん。


 オリヴィアさんだけでなく彼女以外にも、俺以外の面々は何やら神妙な表情をしていた。明るく笑っているヒマワリさんですら、なんとなくダンジョンについての言及を避けているように感じてしまう。


 総理から話を聞いたとはいえ、それでも俺は未だダンジョンの『仕組み』については半端な理解しかしていない。


 彼らは何か、俺に気付けない事実に気がついたのだろうか⋯⋯?



「⋯⋯あ、村が見えてきましたね」



 そんなことを考えているうちに、村へと帰って来られたらしい。最初にフタバちゃんの案内で来た時にも見た厳かな門が、目印のように存在感を示している。



「⋯⋯村の周囲は、柵で囲われているんだよな」


「ね。それに単純な仕切りってよりかは、ちゃんと外敵からの防御を目的としたものだよね?」


「⋯⋯だが、この村の住人に外を警戒する様子はそこまで見られないし、何より柵にも最近使われた形跡がない」


「もの自体は結構新しく作られてそうだけどね。すぐ使わなくなっちゃったとか?」



 オリヴィアさんとヒマワリさんがなんか色々考察している。俺には何が何だか分からないが、先程の調査で何か進展があったと思っていいのだろうか⋯⋯?



「く、クーちゃん⋯⋯っ」


「ん、アレスさん?」



 困惑していると、アレスさんがおずおずと話しかけてくれた。もしかして、俺が困っているのを察してくれたのだろうか。流石好青年。


 アレスさんから簡単な説明を聞ければ、俺も少しは理解が──



「──その小首を傾げている角度⋯⋯っ!マジで『良い』です⋯⋯っ!!うぅっ⋯⋯配信で見るより、マジで可愛い⋯⋯っ!」


「⋯⋯」



⋯⋯ロリコン。



「⋯⋯あの、アレスさん──」


「──おかえりなさい」



──幼く、そして無機質な声。


 呆れながらもアレスさんに説明をお願いしようとしていた俺の言葉は、唐突に発せられた声に被せられてしまった。


 彼女、そう──



「──フタバちゃん⋯⋯?」



 村長の孫娘、フタバちゃんが門に背中を預けるようにしてしゃがみ込み、こちらを見上げていた。



「⋯⋯何、してるの?」



 気まずそうに質問したのはヒマワリさん。


 今の俺達はダンジョンに潜ったばかり。モンスターの体液などが服に思いっきり付着しまくっており、正直子供に見せるにはちょっとグロい絵面だったのだ。


 そんな俺達の憂慮を知ってか知らずか、フタバちゃんはぼんやりとした表情のまま立ち上がり、こちらに向き直る。



「⋯⋯一緒に、遊びたくて」



 しばしの沈黙を挟んで発せられたその声は、やはり無機質に感じられるものだった。



「⋯⋯それは、もちろんいいんだけど⋯⋯あっ、あたしのスマホでパズルゲームやる?」


「ヒマワリはそればっかりだな」



 ヒマワリさんが自らのスマホを取り出しフタバちゃんに笑いかけるも、彼女は特に興味を示した様子は無く⋯⋯



「外で遊びたい」



 そう、短く告げた。



「外⋯⋯?でも、もう遅い時間だよ?だいぶ暗くなってきてるし⋯⋯」



 ヒマワリさんはやんわりと断ろうとするが、フタバちゃんの纏う雰囲気はそれを許さない。


 彼女は一歩ずつこちらに距離を詰めながら、こちらの声が聞こえていないかのように言葉を続ける。



「ねぇ。私、『かくれんぼ』がした──」


「──ふざけんなよガキ」



──敵意に満ちた声。


 それを発したのは、ダンジョンを出てからほとんど口を開いていない少女だった。



「僕達は仕事で来てんだ。暇なガキと遊んでる暇はねぇんだよ」



 彼女、ねこまたさんは苛立ちを隠す様子もなく、年端もいかない目の前の少女へ拒絶を吐き捨てる。



「田舎のガキは『業務妨害』って言葉も知らねぇのか?チッ、これだから嫌いなんだよッ⋯⋯田舎の人間は自らの無知に神聖さを見出す⋯⋯ッ」


「⋯⋯」


「いいか?よく聞けクソガキ」



 ねこまたさんはそこで言葉を区切り、わざとらしい動作でフタバちゃんと目線を合わせた。露出の多いヒラヒラとした衣装がふわりと舞う。


 彼女は憎しみを込めた表情でフタバちゃんを睨みつけ──



「──二度と『一緒に遊ぼう』なんて言うな」



──冷たく、言い放った。



「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯⋯⋯いや、言い過ぎでは?相手はロリだぞ⋯⋯?ねこまたさんってそういう忖度一切しないよね、俺に対しても⋯⋯



「⋯⋯あなた」


「えっ⋯⋯!?お、俺⋯⋯?」



 結構ガチで凄まれたフタバちゃんだったが、しかしそのぼんやりとした表情はやはり崩れず、彼女は視線をねこまたさんからアレスさんへと移した。



「あなたは、どう⋯⋯?遊んでくれる?」


「お、俺は⋯⋯っ」


「⋯⋯?アレスさん⋯⋯?」



⋯⋯意外にも、目の前の少女に対してアレスさんの好青年っぷりは発揮されなかった。彼は基本、誰に対しても明るく爽やかに接する陽キャ寄りの人間なのだが、この時彼はフタバちゃんを前にして明らかに動揺していたのだ。



⋯⋯⋯⋯ロリコンだからかな?逆に⋯⋯みたいな。



「っ⋯⋯わ、悪いけど、今日はもう遅い。遊びたいなら、明日にでも──」


「──ダンジョン、どうだった?」


「っ⋯⋯!?」



 急な話題転換。依然意図は掴めないが、聞かれたアレスさんはやはり動揺している様子だった。


⋯⋯まぁ、ダンジョンの調査については守秘義務があるし、無かったとしてもダンジョンの話を子供にしたいとは思わない。



「⋯⋯そっか、おやすみなさい」


「え?ちょ、ちょっとフタバちゃん!?」



 フタバちゃんは狼狽するアレスさんを数秒見つめ、それから急に踵を返して走り去ってしまった。



「帰っちゃった⋯⋯?」



⋯⋯マジでなんだったんだ?



「すっごー⋯⋯最近のちっちゃい子ってテンポ早いね〜」


「テンポ⋯⋯?」



⋯⋯大丈夫だろうか。


 フタバちゃんのこと⋯⋯だけではない。


 普段よりも明らかに苛立ちを募らせているねこまたさん。何故かフタバちゃん相手に動揺していたアレスさん。


 俺達ダンジョン攻略組に関しても、今回やはり普段通りとは言えないのだ。



「⋯⋯」



⋯⋯前回のダンジョンコアの精神攻撃は、やはり根深く彼ら彼女らにダメージを与えているのだろうか⋯⋯



「⋯⋯⋯⋯」



 言い表せない不安を感じながらも俺達の調査初日は幕を下ろし、そして因習村での滞在生活が始まるのだった。

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