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男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?  作者: 赤石アクタ
第三章 因習村編

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第十六話 因習村

『──お前が生きてて良かった』



⋯⋯どうして。



『生きててくれて、ありがとうございます』



 どうして、そんな。



『いいのよ、あなたさえ生きていれば──』



──どうしてそんな、酷いことを言うの?




──────────────────




「──うわぁぁッ!?」



 静かで暗い部屋。悪夢で絶叫しながら目を覚ましたねこまたは、数秒ぼーっとしたように部屋の隅を見つめてから、苛立った様子で髪を掻き毟った。



「チッ、最悪⋯⋯ッ」



 乾いた喉から掠れた悪態が零れる。


 前回のダンジョンコアによる攻撃を受けてから、悪夢を見る回数は確実に増えていた。



「はぁ⋯⋯頭、痛い⋯⋯」



 ただでさえ低血圧で朝に弱いねこまたは布団に包まったまま、スマホでエゴサを始めた。


 ねこまたは普段の配信中もテンションが低く毒舌である。そんな彼女のキャラクター性と露出の高い衣装はそのギャップも相まってそこそこの人気を博しているが、しかしやる気の無い態度に苦言を呈するアンチも少なくなかった。


 ねこまたはどこか機械的に画面をスクロールし、自分に対する賛否の分かれる評価を、特に感情を動かさずに捉え続ける。



「⋯⋯」



──まるで、自分という存在をそこだけに求めるように。



「⋯⋯旅行、ぶっちしようかな⋯⋯」




──────────────────




「──全くねこまたちゃんには困ったものだよ!まさか二十分も遅刻するなんて⋯⋯」


「⋯⋯二十分?」


「ねこまたちゃんには一時間早く集合時間を伝えてました」


「⋯⋯クソ女」



 新幹線の中、ねこまたさんが吐くようなジェスチャーを見せる。


⋯⋯まぁ、遅刻に苦言を呈するのは分からなくもないのだが⋯⋯


 しかしそれを言うなら⋯⋯



「──そもそも『旅行』が嘘でしたよね?」


「う゛っ⋯⋯」



 咎めるようにじと目を向ける俺に、ヒマワリさんは分かりやすく肩を跳ねさせた。



「う〜⋯⋯だってぇ⋯⋯」



──結論から言えば、旅行に行くというのは完全なる虚偽だった。


 ダンジョンコアの討伐のため遠出することを、ヒマワリさんが旅行と偽って全員に伝達したのである。



「なぜこのようなことを⋯⋯?」


「⋯⋯だって、皆ちょっと真面目すぎるからぁ〜⋯⋯旅行って言えば水着とか持ってきてくれるかもって⋯⋯」


「いらねぇだろ」


「いやいやいや!今回の目的地って海にめっちゃ近いんだよ!?行くでしょ!打ち上げで!!」


「行かない」



 ねこまたさんとオリヴィアさんがそれぞれ短く否定し、ヒマワリさんは崩れ落ちてしまった。



「⋯⋯でも皆、疑ってなかったよね⋯⋯?なのになんで何も持ってきてないの⋯⋯?」


「ボクはゲーム機さえあればどこでも楽しめる」


「現代っ子!」


「旅行とは離れた土地で身を休めるものだとばかり⋯⋯そうか、皆で遊ぶのも旅行か⋯⋯」


「旅行慣れしてなさすぎ!」


「わ、私は色々持ってきてますよ。携帯食料とコンパスにサバイバルナイフ⋯⋯」


「登山でも行くつもり!?」



 ねこまたさん、オリヴィアさん、俺の順番に持ち物を見せると、ヒマワリさんは全て律儀にツッコミを入れてくれた。


 ヒマワリさんは半ば絶望しながらも、最後のメンバーであるアレスさんを振り返る。



「アレス君は、どう⋯⋯!?」


「お、俺は⋯⋯」



 アレスさんはヒマワリさんの迫力にビビりながらもリュックサックを開き⋯⋯



「一応、トランプを⋯⋯」


「⋯⋯え、マジ⋯⋯?」



 本人も諦めていたのだろう。ヒマワリさんは信じられないと言わんばかりに身体を起こした。



「アレス君ー!!君がナンバーワンだよー!!」


「あ、ありがとうございます⋯⋯?」



 ヒマワリさんはアレスさんの背中をばしばしと叩く。



「おいアレス、気抜けてんじゃねぇのか?」


「えぇ⋯⋯!?」


「トランプなら夜とかに皆でできますね。流石アレスさんです⋯⋯!」


「クーちゃん⋯⋯!!」



 貶されたり褒められたりで、アレスさんは面白くころころと表情を変えていた⋯⋯褒めたのは俺だけど。



「ぐすっ⋯⋯でも、海がさぁ⋯⋯!」


「うるさいなぁ⋯⋯」


「うぅ⋯⋯」


「⋯⋯まぁ、見るくらいなら付き合ってやってもいいけど⋯⋯?」


「やった!実は全員分の水着も用意してあるんだ!!ねこまたちゃんのは特に可愛いの選んだよ!」


「コイツ狂ってる」



⋯⋯ねこまたさんが珍しく慈悲をかけるも、ヒマワリさんは狂気でそれをぶち破ってしまった。




──────────────────




「⋯⋯ところで、因習村って具体的にどういうことなんですか?」


「あーそれね」



 旅行談義が一段落ついたことで、俺達はようやく説明を求めることができた。


⋯⋯そもそも、ヒマワリさん以外は未だに何が何だか分かっていないのが現状である。



「普通にダンジョン攻略のお仕事だよ。拡大の危険性があるダンジョンのボスを討伐しちゃおうってやつ」


「因習村というのは?」


「実は、ダンジョンの近くにある村がなんかそのダンジョンを神聖視してるらしいんだよね」


「現代日本で『村』って⋯⋯」



 ねこまたさんが本気で嫌そうなため息を吐く⋯⋯ヒマワリさんの話を聞く限り、向かっているのはかなりの田舎らしい。



「だから、今回はその集落の調査と交渉もお仕事に含まれます」


「⋯⋯で?なんでそれがボク達に伝達されてないんだよ?」


「まずあたしが総理に話を聞いて、『あたしから皆に伝達します』って言った」


「伝達してねぇじゃん」


「強めに言い切った」


「最悪だコイツ」



⋯⋯何はともあれ、ヒマワリさんの狂気により俺達は事前情報ほぼ無しで今回のダンジョン攻略に臨むこととなった。




──────────────────




 新幹線を降り、そこそこの時間バスを乗り継いで俺達はようやく今回のダンジョンへと⋯⋯



「はぁ、はぁ⋯⋯まだ、か⋯⋯?」


「やばいー、ねこまたちゃんが死にそー」



⋯⋯未だ辿り着いてはいなかった。


 何せ目的地は田舎も田舎。最寄りのバス停からでもかなりの距離を歩かなくてはならない。もう既に、舗装もされていない森の中を三十分以上歩き続けている。



「う゛ぷっ⋯⋯おぇ⋯⋯っ」



 そして、ねこまたさんの顔色を見るに彼女はもうかなり限界⋯⋯というのも、ねこまたさんの格好は初対面の時にも見た制服のままなのだ。


 つまり、彼女は今『スカートで森の中を歩き続ける』という、中々にガッツのある状況となってしまっていた⋯⋯一応、靴だけはお洒落ながらも運動靴らしきものへと変わっているのがなんとも涙ぐましい。



「⋯⋯ふぅ」



 加えて、俺自身も少し疲労を感じてきてしまっている。


⋯⋯以前の身体ならばこのくらいの距離で音を上げたりなど考えられないのだが、あいにく今はか弱き美少女なのだ。



「クーちゃん、大丈夫ですか?よければ水をどうぞ」


「っ、アレスさん⋯⋯ありがとうございます」



 心配した様子のアレスさんが差し出してくれた水を一息に飲み干す⋯⋯私服の彼はそのラフな服装も相まってまさに好青年といった印象。こんな状況でもやっぱりアレスさんは良い人──



「──っ、クーちゃんの、喉が⋯⋯っ」


「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯いや、良い人ではあるのだ。ロリコンだけど。



「⋯⋯あとどのくらいだろうか?一度休憩を挟むべきか⋯⋯?」



 オリヴィアさんは息も絶え絶えの俺やねこまたさんを心配してくれてこそいるが、彼女自身は特に息も上がっておらず、そのスペックの高さに感心するばかりだった。


 今の彼女は運動用らしきラフな軽装⋯⋯配信用のコスプレ衣装を纏っていない時のオリヴィアさんは、少し機嫌が良いように感じる。



「──ねぇ見て!キノコあったキノコ!!食べられるかな!?」


「⋯⋯森のキノコは全部毒だと思った方がいいですよ」



⋯⋯ヒマワリさんからも疲労は感じられないが⋯⋯しかしそれは狂気で上塗りされているだけなのかもしれない。俺にはもう彼女がよく分からない。なんで配信用の修道服着てるんだあの人⋯⋯


 案の定というか、ここに来るまで何度かファンらしき人に声もかけられている⋯⋯目的地に近づくにつれ、その頻度は減っていったが。



「──っ、前方に誰かいます⋯⋯!」



 先頭を歩いていたアレスさんが立ち止まり、警戒を促す。


 いや、しかし⋯⋯



「⋯⋯そんな警戒する必要はないだろう。ここはダンジョンではないんだぞ」


「っ⋯⋯あぁ、確かに⋯⋯すみません、『因習村』という言葉を意識しすぎてしまって⋯⋯」


「ヒマワリのせいじゃん」


「え、なに?キノコ食べたいって言った?」



 賑やかな言い合いを聞きながらも、俺はアレスさんの示した前方へと意識を向ける。



「⋯⋯女の子ですかね?」



 そこにいるのは少女だった。おかっぱの髪に質素な服を着た女の子が道端にしゃがみこんでいる。



「⋯⋯」



⋯⋯まぁ、『因習村』の言葉を前提として見ると警戒してしまう程にはいかにもな見た目かもしれない。アレスさんの反応も分からなくはなかった。


 だがしかし、よく見れば彼女は特におかしなところもない普通の⋯⋯



「⋯⋯いや、あの子怪我をしてます⋯⋯!」



 少女が蹲っているのは恐らく足を痛めているからだった。少なくとも膝を擦りむき出血している。


 それに気づいた瞬間、俺は躊躇なく彼女に近づいていた。



「──ねぇ君、大丈夫?」



 初手出し得の美少女スマイルで話しかけてみるも、少女は警戒した様子で顔を上げる。



「⋯⋯誰?村の子じゃないよね⋯⋯?」


「怪我してるでしょ?私包帯持ってるから、処置してあげる」



 美少女スマイルが効かないことを察した俺は直ぐに次のプランに移った。背負っていたリュックサックから消毒液と包帯を取り出し、敵意が無いことをアピールする。



「⋯⋯」


「⋯⋯ちょっと沁みるかもだけど、我慢してね」



 少女は依然警戒した様子だったが、俺の行動を拒否したりはしてこなかった。


⋯⋯元の身体だったら、流石に拒まれていたかもしれないな。


 そんなことをぼんやりと考えながらも、俺は的確に彼女の傷を処置していく。



「すっごーい!クーちゃん器用だね!」


「本当に手慣れているな⋯⋯準備していた荷物も本格的だったし、クーちゃんさんはこういった旅行に慣れているのか?」



 手伝いを申し出てくれたヒマワリさんとオリヴィアさんが口々に俺の手際を称賛してくれる。



「あはは、小さい頃はよくヒナと冒険ごっこみたいなのをしてたので⋯⋯」


「神里さんと?ははっ、少し意外だな」


「実は、昔のヒナは私よりずっと好奇心旺盛で危なっかしかったんですよ⋯⋯本当に、かなりの大怪我をしたこともあったくらいで⋯⋯私の準備が過剰気味なのも、傷の処置に慣れてるのもその影響だと思います」



 言いながらも、俺は幼馴染へと思いを巡らせる。


⋯⋯実は、前日『旅行』の話を聞いた段階では『なんとかヒナと一緒に行けないか』なんて考えていたのだが⋯⋯まぁ実際には『因習村』だったので結果的にヒナがいなくて良かった⋯⋯いやほんとに。



「っ⋯⋯知らない人が、たくさん⋯⋯っ」


「動かないで、もうすぐ終わるから」


「⋯⋯っ」



 そんなことを考えている間に、少女の処置が完了した。彼女に軽く足を動かしてもらい問題がないことを確認してから、俺は再度美少女スマイルを決めてみる。



「どう?痛くない?」


「⋯⋯うん、ありがとう⋯⋯」



 どうやら少しは心を開いてくれたらしい。さす美少女。


 これ幸いと俺は笑顔のまま少女に質問をしてみる。



「実は私達、この先にある村を目指してるんだけど⋯⋯知ってるかな?」


「⋯⋯あなた達、都会から来たの?」



 少女は俺の質問には答えず、興味と憧れを秘めた視線で『あるもの』を凝視していた。



「⋯⋯あ?なんだよガキ」



──ねこまたさんの『ゲーム機』を。



「⋯⋯それ──」


「ダメだ」


「⋯⋯何も言ってない」


「ガキに精密機械を触らせるとろくな事にならない。都会のガキはリテラシーが低いが、田舎のガキにはそもそもリテラシーが存在しないんだ。ついでに、デリカシーもな」


「⋯⋯⋯⋯私、何も言ってない」


「ねこまたちゃんめっちゃ喋るね」



 冷たく言い放つねこまたさんに対して、少女は不満げに頬を膨らませる。



「というか、ねこまたちゃんも未成年でしょ」


「⋯⋯ふん」



⋯⋯ねこまたさんは少女に一瞥もくれなかった。茶々を入れるヒマワリさんにも何故かいつものように言い返さない。


⋯⋯理由は分からないが、ねこまたさんは本気で少女を拒絶している様子だった。



「あー⋯⋯ねこまたちゃんのことは気にしないで!あたしのスマホでよければ全然貸すよ?ゲームやる?あたしパズルゲームくらいしか入れてないけど⋯⋯」


「ヒマワリは何故かずっと同じパズルゲームしかやらないんだ」


「いますよねそういう人⋯⋯」



 ヒマワリさんが慌ててフォローを入れるが、しかし少女はそこまで感情を動かされたようには見えなかった。


⋯⋯ヒマワリさんにも、ねこまたさんにも。



「⋯⋯ねぇ、あなた達がここに来たのって⋯⋯」



 そんな少女は、俺達を一人ずつ見定めるように眺めてから──



「──ダンジョンに関係ある?」



 無感情に、そう訊いてきた。



「っ⋯⋯!?君、ダンジョンについて知ってるの⋯⋯!?」



 驚きから思わず声が上擦ってしまう。


 ダンジョンという言葉に、俺達は反応せざるを得なかった。


 少女はそんな俺達を見つめ、少し考えてから⋯⋯



「⋯⋯村に行きたいなら、案内してあげる」



 そう、告げた。



「⋯⋯え?あ、ありがとう⋯⋯!えっと、君のことはなんて呼べばいいかな?」


「⋯⋯フタバ」


「フタバちゃんね!これからよろしく!」


「⋯⋯これから⋯⋯」



 少女はヒマワリさんが差し出した手を取ることはなく、先導するように数歩歩いてから思い出したように振り返る。



「あっ、そうだ」



 木々の影が彼女の表情を暗く染め、どこか神秘的なその姿は『因習村』という言葉を強く意識させるようだった。



「──ようこそ、私達の村へ」

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