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男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?  作者: 赤石アクタ
第二章 コラボ配信編

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第十五話 オリヴィア

 総理に色々と話を聞いたのが数日前。


 そして⋯⋯



『みんなで旅行に行こー!!!』



⋯⋯ヒマワリさんにそう宣言されたのが、昨日のこと。


 俺は大急ぎで荷物を準備し、今日も今日とてダンジョン攻略組の事務所へとやって来ていた。



「はぁ⋯⋯」



 先日の総理の話は、俺の現状に対して説得力のある仮説を打ち立てた。


──実は俺には女体化願望があり、ダンジョンコアはその願いを叶えてくれただけだと。


⋯⋯当然、俺は未だに断固として信じていないが、呪いなどと比べたら説得力があるのもまた事実。


 そこで、『一旦これを事実とした場合』を考えることにした。



 総理曰く、俺に起きた変化の原因が『願い』だった場合、ダンジョンコアを殺しても元に戻る確率は低いらしい。


 そして、最も現実的な手段として『元に戻りたいと願うこと』を提示された。


 これはつまり、俺の願いを叶えたダンジョンコアともう一度対峙し、討伐どころか『お願い』をしなければなし得ないことだ。


 元の身体でも一目散に逃げるしか無かった相手⋯⋯当然今の身体では瞬殺されるだけだ。


 そこで、俺は正式にダンジョン攻略組へと入り、ダンジョンコアの討伐という役目を担うことにした。


 単純に戦闘能力を向上させるというのも目的のひとつだが、もうひとつの理由として『俺を元に戻せる力を持ったダンジョンコア』が見つかればその時点で俺の目的は達成となるのだ。


『なんかガチャみたいね』とヒナは言っていたがまさにその通りだろう。


──つまり、当たりが出るまで『ダンジョンコア』を殺し続ければいいのだ。


 これこそ、暗中模索の末に辿り着いたプランだった。


 それに⋯⋯



『ダンジョンコアを討伐するあの感覚を、もう一度味わってみたいと思わないか?』




──────────────────




「⋯⋯まぁ、アイツがあのダンジョンから逃げないって分かっただけでも収穫かな」



 何とかポジティブに捉えようとするも、やはりどこか憂鬱になってしまう事実の数々だった。


⋯⋯まぁ、せっかくの旅行だし、ここは思いっきり楽しんで──



「──あぁ、分かっているよ」


「ん?」



 事務所内の廊下、曲がり角の先から声が聞こえてくる。


 かなり早く来てしまったと思っていたのだが、どうやら俺よりも早い人間がいたらしい。



「本当に大丈夫だってば⋯⋯」



 しかし、聞こえてくるのはあまり和やかな声ではない⋯⋯ビビった俺は、とりあえず静かに覗いてみることにした。



「自分の役目は理解しているよ、お母さん」


「オリヴィアさん⋯⋯?」



 いたのはオリヴィアさんだった。どうやら電話をしているらしい⋯⋯相手は母親か。


 しかし、オリヴィアさんはどこか微妙な表情を浮かべていた。



「⋯⋯」



⋯⋯まぁ、人にはそれぞれ事情が──



「──ん?クーちゃんさん?」


「あ゛っ⋯⋯」



 やべバレた。




──────────────────




「──恥ずかしいところを見られてしまったな⋯⋯」



 廊下の壁に背中を預けながら、オリヴィアさんはぽつりと呟いた。



「⋯⋯恥ずかしい?電話をしていただけですよね⋯⋯?」


「いや、それは⋯⋯そうなんだが⋯⋯」



 歯切れ悪く答えるその様子に、俺は心当たりがあった。



「⋯⋯この前討伐したダンジョンコアのことですか?」


「っ⋯⋯」



 小さくではあるが、オリヴィアさんが反応する⋯⋯どうやら当たりのようだった。



「アイツの攻撃、ですよね?」



──先日討伐したダンジョンコアは、特殊な攻撃を仕掛けてきた。


 相対する者のトラウマや思い出したくない記憶をフラッシュバックさせ、また言葉を発してそれを刺激してくるといった⋯⋯有り体にいえば精神攻撃。


 どうやっていたのかは知らないが、なんにせよ最悪だったことに変わりはない。


──そして、それはダンジョン攻略組にたしかなダメージを残している様子だった。


 オリヴィアさんだけでなく、最近は他のメンバーも元気がないと感じる⋯⋯ねこまたさんとかも『経費の申請が厳しくなった⋯⋯』みたいなことをぼやいていたし。だからこそヒマワリさんは、今回旅行といったリフレッシュ手段を提案してくれたのかもしれない。


⋯⋯そう感じてしまうくらいには、アレの影響は大きかったのだ。



「その⋯⋯私に何か協力できることはありませんか?といっても、話を聞くくらいしかできませんけど⋯⋯」


「クーちゃんさん⋯⋯」



 今の俺は美少女なので、元の身体と比べたら話をするハードルも低いはず。その思いから、俺はオリヴィアさんに気持ち柔らかく告げた。



「⋯⋯」



⋯⋯いや、思い出したくもないことを変に聞き出すのは良くないだろうか⋯⋯やば急に不安になってきた⋯⋯


 美少女スマイルが緊張で固まり出した頃、オリヴィアさんがちらりとこちらに視線を向けた。



「⋯⋯クーちゃんさんは、大丈夫なのか?」


「え?」



 曖昧な問いに疑問符を浮かべる俺に対して、オリヴィアさんは言葉を選ぶようにして続ける。



「⋯⋯クーちゃんさんも、その⋯⋯記憶を⋯⋯」


「⋯⋯たしかに、私も攻撃を受けました」


「っ⋯⋯そう、だよな⋯⋯」



──血に塗れた両手に、荒い息遣い。


 泣き顔の少女と、俺は⋯⋯あの時、俺は⋯⋯



「⋯⋯っ」



 思い出したくも無い記憶。あらためてヤツの攻撃は本当に最悪だったと言わざるを得ない。


 それでも⋯⋯



「⋯⋯私には、そんな記憶でも肯定してくれる人がいるので」


「⋯⋯肯定⋯⋯」



⋯⋯本心から出た言葉のはずだったが、しかし自分がどんな表情でそれを口にしているのかは分からなかった。



「⋯⋯それに私の場合、最悪な記憶ではあっても別に後悔はしていませんでしたから」


「⋯⋯強いな、クーちゃんさんは」


「私は全然ですよ。今でも頼りっぱなしですから⋯⋯はは⋯⋯」


「頼る⋯⋯もしかして、前に会った神里さんのことか?幼馴染だと聞いているが」


「そうです!ヒナは本当にすごいんですよ!本気で泣きつくとカウンセラーみたいな話の聞き方をしてくれたりとか!」


「ふふっ、それはすごいな」


「⋯⋯あっ⋯⋯」



 オリヴィアさんが爽やかに笑うのを見て、俺は話が少し脱線していることに気がついた。



「とっ、とにかく私が言いたいのは、自分のメンタルを安定させるために他者を頼るのは、全然悪いことでは無いってことです!」


「⋯⋯そう、だろうか⋯⋯」


「それに、私達は仲間同士じゃないですか。仲間を心配して助け合うのも、悪いことじゃないし当然のことです」


「⋯⋯クーちゃんさん⋯⋯」



──あと一押しだ。



「オリヴィアさん⋯⋯っ」



 中々の手応えを感じた俺はそこで美少女パワーを全開にし、上目遣いでオリヴィアさんを覗き込んだ。



「──私じゃ、お力になれないですか?」


「っ──」



──決まった⋯⋯!


 瞳をうるうるとさせ不安げな表情を見せる俺に、オリヴィアさんは明らかに心動かされた様子だった。さすが美少女。


 彼女は数秒考えてから大きく息を吐き出し、恥ずかしそうにこちらに笑いかける。



「クーちゃんさんの言う通りだな⋯⋯仲間に、しかも私よりずっと年下の少女に励まされてしまうなんて、大人として立つ瀬がないよ」



 その表情は、ある程度自分を信頼してくれているのが分かるもので、俺は嬉しかった。


 そして、彼女は意を決したように⋯⋯しかしながら、俺から目を逸らして呟いた。



「──で、ではその⋯⋯話を聞いてもらっても⋯⋯構わないだろうか⋯⋯?」


「っ⋯⋯もっ、もちろんです⋯⋯!」



 オリヴィアさんは誰かを頼るという経験があまりないのかもしれない⋯⋯俺も誰かに頼りにされる経験があまりない人間なので、お互いに緊張しまくっているのがバレバレだった。



「⋯⋯っ」


「⋯⋯ゆっくりで大丈夫ですから」



 俺はオリヴィアさんの真似をするように廊下の壁に背中を預け、二人の間の微妙な距離には沈黙が訪れる。


 オリヴィアさんは数回深呼吸をしたあと、ぽつりぽつりと話してくれた。



「私の母は議員なんだ」


「え、そうなんですか?」



 驚きの声を上げる俺に、オリヴィアさんは微妙な表情で頷く。



「昔から仕事熱心な人でな。そして今では、現総理を強く支持している」


「あの人を⋯⋯」



⋯⋯まぁたしかにあの人ならば、熱狂的な支持者がいても不思議ではない。



「そして母は、私も母と同じような道を歩むことを望んでいた⋯⋯特に断る理由もなかったから、私はその通りに生きた」



 オリヴィアさんはそこで言葉を切り、やはり微妙な表情でこちらを振り向く。



「散々もったいぶっておいて悪いが、私の悩みはこの程度なんだ。『今日までずっと親に敷いてもらったレール通りに生きてきたこと』が若干の⋯⋯いや、自分としてはかなりのコンプレックスなんだよ」



「しょうもない悩みだろう?」とオリヴィアさんは自嘲気味に笑う。



「あのダンジョンコアに見せられた記憶というのも、母との地味で平凡な記憶だった⋯⋯本当にそだけだったんだ」


「⋯⋯」



──しかし、それでオリヴィアさんは動揺した。


 最も重要なのはその事実だろう。



「あの、もしかして今ダンジョン攻略組にいるのも⋯⋯?」


「⋯⋯あぁ。偶然『魔法』の才能があった私を、母が総理に直接推薦したんだ」


「⋯⋯オリヴィアさん──」


「──『操り人形』というのは、中々に的を射ていたな」



──操り人形。


 あのダンジョンコアが生み出した人型に、オリヴィアさんが言われたセリフ。


 自らのコンプレックスを揶揄されるというのは、たしかに辛いことだろう。



「⋯⋯ははっ、すまない。反応に困る話だっただろう?あなたが気にする必要は無いよ。聞いてもらえただけで、どこかスッキリとした気がする」


「⋯⋯」



──俺は何と言うべきだろう?


 大前提として、人のコンプレックスを他者が理解するなんてことは不可能だ。関係の深さに関わらずこの事実は変わらない。


 だとするならば⋯⋯



「──後悔してるんですか?」


「っ⋯⋯」



 俺の問いに、オリヴィアさんは数秒考えると──



「──後悔はしていない⋯⋯しかしそれが、最も恥ずかしいよ」



 そう、答えた。


⋯⋯彼女は辛そうに身体を震わせるが、しかしその言葉になら、俺は安心と共感を覚えることができる。



「⋯⋯私とヒナは、昔からずっと一緒だったんです」


「⋯⋯え?」



 唐突に始まった俺の自分語りに、オリヴィアさんは不思議そうな表情を見せる⋯⋯必要な話だから少し我慢してもらおう。



「でも、小学生の頃とかはそれでからかわれることも少なくありませんでした」



 男女だったから、余計に。



「ヒナは昔から狂犬だったのでそういうのは徹底的に論破してましたけど、私自身はずっと不思議に思っていたんです」


「⋯⋯何を?」


「──『どうしてそんな事を言うんだろう?』って」


「⋯⋯?」



 今思えば、あの頃の俺は感情の機微というものに疎すぎた。



「だって、からかってくる人の大半はヒナより優秀でもなければ私より強くもなくて、何より私達より幸せには見えなかったんです」



 それでもやはり、今も俺の感情は変わらない。



「オリヴィアさんはダンジョン攻略組のメンバーとして、大抵の人より地位も名声も持っている立場です。違いますか?」


「それ、は⋯⋯」


「──たとえ他者に敷かれたレールであっても、あなた自身の才能が輝かしいことに変わりはありませんよ」


「──」



オリヴィアさんが目を見開く。



「⋯⋯私の、才能⋯⋯」


「⋯⋯」



⋯⋯心を動かせたのは確かっぽいけれど⋯⋯人を励まし慣れていない俺には、今この時、それが『どっちの方向に』なのか全く分からなかった。



「クーちゃん⋯⋯」


「そっ、そもそも⋯⋯!あのダンジョンコアは私達が討伐したんです!だから、私達より弱いアイツの言葉に惑わされる必要は無いと⋯⋯私は思います⋯⋯っ!」



 慌てて無難な励ましを付け足す⋯⋯美少女と言えどダサすぎるかもしれない⋯⋯っ



「⋯⋯ふふっ」



 オリヴィアさんは数秒俺の方を見つめてから、顔を逸らして吹き出すように大笑いしだした。



「お、オリヴィアさん⋯⋯?」



 え、爆笑⋯⋯?『どっち方向』だこれ⋯⋯!?



「ははっ⋯⋯あはははっ⋯⋯確かにクーちゃんの言う通りだよ」


「オリヴィアさん⋯⋯!」



 どうやら『良い方向』だったらしい⋯⋯安心から、俺は薄い胸を撫で下ろす。



「親に従っただけの人生だとしても、私はそれで結果を出してきたんだ⋯⋯それを無視するのは、不誠実と言うやつだよな」


「おお⋯⋯!」



 しかもめっちゃ良い解釈をしてくれている⋯⋯!


 メンタルを持ち直すまでの流れからも、やはりオリヴィアさんは優秀な人間だと感じた。



「クーちゃんさんに相談してよかったよ。心が軽くなった気分だ」


「そう言っていただけて嬉しいです!」



 やはり美少女パワーか。


 この見た目ゆえの成果なのかもしれないが、それでもオリヴィアさんとの距離が縮まったように感じて俺は嬉しかった。



「せっかくの旅行なのに気持ちが沈んでいてはもったいないしな。そういう意味でもありがとう」


「はい!旅行楽しみましょう!」



──旅行。


 リフレッシュももちろんだが、メンバーとの仲を深めることも、新参者の俺にとっては重要なことである。


 この旅行はチャンス⋯⋯!


 俺はより強く決意を固め、美少女パワー全開で旅行を楽しむと決めたのだった。




──────────────────




「──全員揃ったね!それじゃ出発しよっか!!」


「ヒマワリさん、ところでどこに行くんですか?」


「ふっふーん!それはね〜⋯⋯」


「ご、ごくり⋯⋯」



「──『因習村』だよ!!!」


「⋯⋯⋯⋯え?」



⋯⋯いくら美少女と言えど、楽しめるだろうか⋯⋯?

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