プロローグ2
ここはある食品製造工場。
そこでは、ベルトコンベアに乗った食品が様々な過程を経て加工され、一つ一つがすべて同じ重さになるように袋詰めにされ、商品としてスーパーやデパートに運ばれていく。
その工場では、白い服を着て、工場内の機械を管理する人が何人かいる。
彼らはベルトコンベアで流されていく食品の中から商品として扱えないようなまがい物を取り出したりするなど、地道な作業に追われることが多かった。
そんな彼らの中で、一人、流れていく加工済みの食品に、何かをしている男が一人いた。
もちろん、加工済みが商品として扱えるかどうかの最終確認をする人は他にもたくさんいるのだが、彼らはその男がすることに気付くことはなく、通常通りの職務を果たしている。
誰もその男の行動を止めることなく、男はそのまま、加工済みの食品に対して何かをし続けていた。
*
とあるアパートの一室。
そこには一人の男が住んでいた。
歳は見た所二十代前半といったところだろうか。
部屋の広さ・衣類の少なさ・食器棚の中に入っている皿の枚数等から察するに、この男は一人暮らしをしているようだった。
「……ハァ」
一つ、溜め息をつく。
彼は今、ある一つの、ささやかながら、しかしとても重大な問題に直面していた。
それは一人暮らしをしている人なら多くの人が経験したことのあるような問題ではないだろうか。
「これは……なかなかにマズイ状況だな」
男は先ほどから棚の中や棚の中を調べ回っていた。
しかし、本来ならそこに置いてあって当たり前なものが、そこにはない。
生きていく上で重要なもの、それは……。
「……食料が、ない」
時刻は午後11時半。
この日彼は、以前に買いだめしておいたインスタント食品に冷凍食品を……見事なまでに切らしてしまっていた。
「このままじゃ……ヤバいよな」
別にこの男にとってこんな状況はとりわけ珍しいことでもなんでもなかった。
一人暮らしをしているので食品管理等を怠っているのは事実で、こんな感じに食料がなくなってしまうことも珍しくはない。
「けど……まさか料理でも失敗するとはなぁ。とことん今日はついてないぜ……」
流しには、焦げた何かが捨てられている。
先ほど捨てられたばかりのようで、それからは煙がほんのり立ち昇っていた。
「……買ってくるか」
男は床から立ち上がり、ハンガーにかかっていた上着を羽織り、そしてその上着のポケットにいくらかのお金を無理矢理ネジ込む。
鍵をしっかりと持ち、ないとは思っていても、泥棒に入られるかの心配をした男は、窓の鍵がしまっているかをきちんと確認し、その後で。
「……行くか」
そして男は、アパートの部屋を出た。
*
流石に時間が時間なだけに、開いている店は少なかった。
ほとんどの店がすでにシャッターを閉めていて、中に入ることが出来なかった。
「どこかしらの店が開いてればいいんだけどなぁ」
男は一言、そう呟く。
そして男のそんな願いを叶えるかのように、とある一軒の店の電気がまだ光っているのを発見した。
「おお……」
そこは何のへんてつもないスーパーマーケットだった。
何処にでもあるような、そんな感じの店だった。
「これで今日の晩飯はどうにかなりそうだ……」
男は呟くと、そのスーパーの中に入る。
……さすがに時間が時間なだけあって、見た感じ並んでいる商品の数は少なかった。
インスタント食品も、冷凍食品も、すでにその在庫を切らしているようにも見える。
ここも駄目かと思った男は……そこでとある一つの商品を見つけた。
「……唐揚げ、か」
冷凍食品の唐揚げ。
結構有名なメーカーのものであり、味もそこそこ評判のいいやつであった。
しかも、この男の好きな食べ物が唐揚げであったということもあり、男はせっかくだからと、その唐揚げを試してみようと考えたのだ。
そして、男は唐揚げを購入した。
*
家に帰ってきた男は、早速その唐揚げを五・六個皿の上に乗せてレンジの中に入れる。
それと同時進行で、男は炊飯器の中からご飯をすくい、それを茶碗の中に放り込む。
コップの中に水を注ぎ、それと茶碗を持ってテーブルの上に置く。
そうしているうちに、解凍も終わったので、レンジの中から唐揚げの乗っかった皿を引き出し、それもテーブルの上に置く。
「旨そうだな……」
男は呟くと、割りばしを取り出して二つに割り、そして唐揚げを一つ掴み、口の中に入れた。
「……ふむふむ」
ゆっくりと咀嚼して、その味を確かめる。
……味の方は悪くはなかった。
「ご飯には合うかな」
そしてその男が唐揚げを食べ進めていき、五個目に差し掛かろうとしたその時だった。
―――そろそろ私の出番か。
誰かがそう呟く。
しかし、男は気付くことなく唐揚げを食べようとする。
やがてその誰かは、男の耳元で、こう呟いたのだった。
「……こんばんは」
*
『続いてのニュースです。昨日午後八時四十分頃、都内在住の男子大学生が、二階のアパートから飛び降り、意識不明の重体となっております。男子大学生の住むアパートの周辺住民からの証言によりますと、その日彼の部屋から妙な叫び声が聞こえたことが確認されており、警察では何らかの薬物の使用を疑っている模様です。また、昨今頻発している発狂事件との関連性も調べており……』
こんにちは、rnasu521です。
さて、予告もなしに唐突に始まりました『HACCP』ですが、この作品は私のオリジナル作品……というと、ちょっと厳密には違うことになります。
作者名としては私の名前を使用しておりますが、実はこの小説、私の友人が考えた作品なんですよね。
タイトルにある『HACCP』は……ええ、恐らくみなさんが考えている通りだと思われます。
そんなわけで、その友人とまわして書いているところもありますので、若干ずれが生じてしまう可能性もありますが、そこらへんはご了承ください。
ちなみに、『プロローグ1』は私が、『プロローグ2』は私の友人が書いた文章となります。
私は、それらを打ち込む係ということで、この連載を始めたというわけです。
……正直、終わるかどうかは不明です。
終わらなかった場合でも、大学受験が終わった後で書き続ける予定です。
ですので、どうか最後まで応援よろしくお願いいたします。
それでは。