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候補者

結論から申し上げると、【TT】(ラブ)の正体は母親ではなかった。


電話口でゲラゲラ笑われたが、母親が推しじゃなかったという事実があればその程度のことは許容できる。実家に笑い話を提供したのだから親孝行できてよかったよかった。


「そもそも声が全然ちげぇじゃん……」


天を仰いで心を心を落ち着かせる。【TT】(ラブ)の投稿を遡っていくと、『高校生』という明確な記述があった。俺の早とちりだったわけだ。


まぁ、それでも高校生だと偽って母親が覆面アーティストの可能性も捨てきれなかったわけだが……これ以上考えるのはやめておこうか。


とりあえず、母親を除いた人間で俺の生活サイクルを知っている人間……正直、心当たりが全くない。大学でも挨拶するだけの『よっ友』は何人かいるが、それだけだ。家に上げたりはしていない。基本的に一匹狼としてフラフラしている。


こんなんで就活できるのかという不安は尽きないが、一旦脇においておく。


手掛かりになるのは、『高校生』というキーワードだ。


バイトの関係上、俺は高校生と接することが多い。


塾の個別指導は時給がいいからという理由で働いている。そうでもなければ、俺みたいなコミュ障が他人の人生を預かる仕事なんてやるわけがない。


「俺の生徒が……?いやいや、それこそ全くないだろ……」


自分で言うのも何だが、俺は基本的に手を抜いている。いかにコマの間に手を抜くかを考えている人間だ。そのせいで保護者からの苦情が滅茶苦茶来るらしいが、そんなの知ったこっちゃない。


まぁ、そんなわけで、俺みたいないい加減な人間に惚れる人間がいるはずがない…というのが自己評価だったのだが━━━


「実際にストーカーされてるわけだしな……」


ストーカーどころか家にまで侵入を許してしまっているわけだから、俺の価値観を疑うべきか。とりあえず、俺の生徒だと仮定して、推論を考えてみるか。


「仮に高校生だとしたら、多分、受験生だよな……」


その根拠は【TT】(ラブ)が投稿した写真にある。


高校三年生は自宅研修期間というのがある。大体センター試験……じゃなくて、共通テスト前になると、一斉に学校に登校しないで自宅で勉強する期間がある。


一般的には冬休み後から自宅研修期間になることが多いが、超進学校だと十一月から入るところもあるらしい。まぁ、この辺りにそこまでエリート高校はないから、十二月の初旬から中旬くらいが目安だろう。


そして、俺の家に侵入し始めたのは丁度そのくらいの時期になる。


俺の部屋の窓は南東に向いていて、10時から12時くらいにかけて日光が入ってくる。部屋の明るさから、午前中に侵入したと考えられる。昼頃は通常、学生は学校に行っている。それなのに、この頻度で俺の家に来ているということはおそらく合法的に学校に行かなくてもいい……つまり、受験生の自宅研修期間なのではないかという推理ができる。


で、冬休みの時期に、ぱたんと俺の家に侵入しなくなっていた。この期間に来なくなった理由も一応推測できる。塾に通っている受験生は冬期講習の間、塾に拘束されることが多いはずだ。


特にうちの塾は受験生に午前中から自習室で勉強することを強制している。だから、その時間に塾に行っていたことが考えられる。


「なんか、どんどん筋が通ってきたな。マジで俺の生徒の誰かが【TT】(ラブ)なのか……?」


ある意味で、新進気鋭の歌手を教えていたという特別感のようなものが沸いてきた。


そして、冬期講習が終わった後くらい時期からまた、再び俺の家の写真が投稿されている。


『久しぶり~!会いたかったよ~』『洗い物してない!もぅ……仕方ないんだから』『う~ん、好きな人の匂い~』


という投稿と共に嬉しさが俺の部屋に来れた嬉しさでいつもより写真が多かった。


俺は全く認知していないんだが……


色々考えてみたが、母親以外に俺のルーティンを把握しているような女性には皆目見当がつかないので、一旦そっちはおいて置く。


別の切り口。『高校生』で『受験生』を軸に考えてみる。俺に女子高生の生徒がいるのかという問題だが、片手で数えられるくらいにはいる。ただ、その中に受験生は一人だけだ。


容疑者は『受験生』の時点でほとんど絞られていた。


「もし、アイツだったら俺はどういう顔をすればいいんだよ……」


『なぜ俺のストーカーをしたのか』と怒りたい反面、『いつもいい曲ありがとうございます』という気持ちが混在している。


なんという複雑な感情だ……


「おっと、そんなことをしてたら、もう時間か」


スマホで時刻を確認すると、丁度バイトの時間だった。


慌ただしさが心の中に広がり、身体が自然と動き出す。ベッドの上に投げていた服を手早く掴み、慣れた手つきでシャツのボタンを閉める。


洗面台に行って、ワックスを手に取る。前髪を上げて、何度か手櫛で整える。70点の出来栄えの自分を見て及第点を出す。


慣れた手つきでスーツに袖を通し、クローゼットからコートを引っ張り出した。


リビングに置いたチャリの鍵を手に取り、玄関の扉を開けると、ひんやりとした夜の空気が肌を刺した。バイト先までは冬の冷たい風を耐えなければならないから辛い。


「よし、行くか」


頭を仕事モードに切り替える。


【TT】(ラブ)の正体については気になるところだが、未だに合格が一つもない問題児をなんとかせにゃな。

『重要なお願い』

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