ストーカーの正体は━━━
「━━━やっぱり……」
昼下がりの静かな時間、部屋でカップラーメンを啜りながら、俺はスマホの画面に映った写真と、自分の部屋を見比べて確信した。
信じられないかもしれないが、俺はストーカー被害に遭っている。
最初は、塾講師のバイトをしているので、受験生を指導する立場としての疲れや思い込みかと思った。受験シーズンになると、精神的にも肉体的にも消耗する。丁度、先週頃に試験が終わり始めたとはいえ、今度は合否のストレスが俺の胃を襲う。だから、ストレスによる被害妄想かもしれないと考えたのだが、違った。
もし、俺が俳優やアイドル、モデルのような有名人であったり、それに匹敵するイケメンなら、ストーカー被害に遭うこともあるかもしれない。しかし、俺━━━坂本進はそのどれにも当てはまらない。
金目当てとも考えられない。大学生になると同時に、家賃三万のボロアパートに暮らし、バイトで生活費をやっとのことで捻出している。一人暮らしも無理に言って許してもらったので、仕送りなんてものはない。
金もなければ特別目を引く容姿でもない。
自分で言ってて悲しくなるな……
「それにしても、なんで俺なんだ?」
唯一の趣味は読書で、部屋は本で溢れかえっている。最近は電子書籍が普及しているが、どうも肌に合わない。もう一つの趣味は小説をネットにあげていることだ。できれば作家として、書籍化して印税で喰いたいと思うのは、これから大学四年生で就活が始まるからだろう。
働きたくないでござる。
俺は再び、Twitter……じゃなくて、Xを開いた。そして、俺の部屋の写真を投稿した犯人のアカウントをタッチした。
【TT】━━━これで『ラブ』と読むらしい。理由はよくわからん。
顔出ししていない、いわゆる『覆面アーティスト』と言われる歌手で読書以外に初めて、ハマったものだった。秋頃にバズってきた新進気鋭の女性シンガーだった。作業中は【TT】の音楽をBGMにして、ずっと聞いている。
透明感があって、静かな水面をそっと撫でる波の音が聞こえてくるような歌声。聞いた者の心の奥の憂をそっと優しく洗い流してくれるようなそんな気分にさせられた。
三月になったら、初ライブをやるらしく、俺自身、初めてライブのチケットに応募しようと思った。ついでだからと、俺は【TT】のSNSのアカウントをフォローして、冒頭に戻る。
最初は小さな違和感だったが、馴染みのある部屋のインテリアに俺は百度見くらいして俺は確信せざるを得なかった。
スマホを操作して【TT】の投稿を見直す。
『彼が皿を洗ってないので、私が洗ってあ~げよ!好感度upのために頑張るぞ~』
部屋に上げる許可を出した覚えはないんだが?
無粋なツッコミは一旦脇に置いていおいて、彼女には好きな人がいて、家にお呼ばれするほどの仲なのだが、相手は全く鈍感で異性として見てくれないらしい。そして、そのもどかしさ、想いを歌にしてからバズったらしい。
そして、【TT】の想い人は鈍感クズ野郎とファンからは言われている。
「誰が鈍感クズ野郎だ」
まぁ、その想い人が俺なわけだ。
正直、警察に通報するのが一番良いのだろうが、この音楽が聴けなくなるのは困るくらいにはのめり込んでいる。
家に侵入されて、恐怖感はないのかと言われたら、あるのだが、それ以上に俺の中にあるのは好奇心だった。推しに重めの愛を抱かれているのは光栄?なことだし、何より俺がその正体を突き止めたい。
「それにしても、俺も何で気付かないんだよ」
スープを飲み干し、シンクで洗ってから、ゴミ箱に捨てる。俺はベッドに倒れて【TT】の投稿を遡っていく。
特に物が盗まれるという実害?はなかった。ただ、物が畳まれていたり、部屋がいつもより綺麗だなと感じたことがあった。
そのたびに自画自賛したのだが━━━
「気付けよ馬鹿」
この時点で俺がいかにだらしがないか分かるだろう。今も読み終わった本が棚に戻されることなく、机の上に乱雑に積まれている。
【TT】が俺の部屋をXに載せ始めたのは一月ほど前から。
俺自身、アウトドアというわけではないが、家を留守にすることが多い。バイトと本屋巡り、そして、執筆作業や勉強を行きつけののカフェでする。
特に最近は午前中から、俺自身の試験勉強とレポートのためにカフェに入り浸っている。
ただ、俺が家を留守にすることが多いとはいえ、ここまでバッティングしないことなどあるだろうか。普通はない。
俺の趣味嗜好を理解していて、生活サイクルを知っている人間。そんな存在は━━━
「多分、知り合いだよな。鍵とかどこで調達したんだ?いや、まさか━━━」
ベッドから飛び起きる。冬だというのに、嫌な冷や汗がブワッと噴き出した。
鼓動がドクンドクンとうるさい。頭の多くで警鐘が鳴り響く。
ふと、すべての線が繋がった。いや、もしかしたら、これまで無意識に目を背けていたのかもしれない。考えないようにしていたのかもしれない。それが、一瞬にして、崩れ去ったのだ。
もし、この説が立証されてしまったら━━━
俺の人生、いや、すべての価値観が音を立てて崩壊する。
頭が真っ白になりそうな感覚を必死に押しとどめながら、震える手でスマホを掴む。指先が汗でしっとりと濡れていた。
震える手で知り合いの一人をタップし、通話ボタンを押した。
━━━頼む、違うと言ってくれ!
「あ、お袋。もしかして、歌手の【TT】だったりする……?」
『重要なお願い』
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