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ノビシロファミリーと禁酒法の町  作者: 鳳凰取 真
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のびしろ24 お茶会

ノビシロが玄関の前に出ると、止まっていたのは一台の馬車。

ノビシロは緊張というよりも、解放されるという気持ちで乗り込んでいく…。

お茶会当日。玄関を開けると豪華な馬車が一台止まっていた。コチラは朝の六時からフォーリンに叩き起こされ、準備に余念はない。


「ノビシロ、ちゃんとお土産持った? 」


「持った」


右手に持った袋を上げる。ジャムにスコーンにクロテッドクリーム。全て僕がココに来てから手に入れた材料で作った自家製だ。練習の合間に作ったにしては中々の出来になった自信作である。


「お財布も大丈夫ね? 」


「うん」と言って、左のポケットを叩いた。


「私のお昼ご飯は? 」


「ちゃんと作り置きしてある。おやつはお土産の余りで、リカーと分けて食べて」


「分かったわ。ご武運を」


フォーリンはそう言ってパタパタと飛びながら敬礼した。


「うん。出陣だ」


そういって一人玄関を出た。


思い返せば手紙が来てからというもの、学生時代のテスト期間のような面持ちでずっと訓練ばかりさせられていたけど、それも今日を乗り切れば終わる。


「やっと自由の身だ…」


まだお茶会も終わっていないのに、僕は既に終わったような気持ちだった。後は練習通りに事を進めて行けばいいだけのこと。


そんな状態の僕の顔をみてか、馬車から降りてきた頭がツルツルのおじさん御者が「緊張なさいますか」と声をかけてきた。


「いや、この日を待ち遠しにしていたので。緊張は別に」


「それはよかった。私は仕事柄彼方のような人を乗せることが多くて。そういう方達は決まって緊張なさるんです。飴、いりませんか? 」


おじさんはポケットから小さい布袋を取り出すと、そこから白い飴をくれた。舐めるとスースーする。ハッカの飴だ。貴族の御者はこういう心配りも必要らしい。


「ありがとうございます……。到着はどのくらいになりそうですか」


「なぁに飴玉舐め終わった頃には突きますよ。あ! 嚙み砕いちゃ駄目ですよ」


僕がガリッと音を立てた瞬間に御者はわざとらしく言った。しかしもう遅い。僕は長い時間飴玉を舐めていることが出来ない人間だ。数秒舐めればすぐにかみ砕いてしまう。


「もう一個上げます」


「どうも」


それから御者に言われた通りに、飴玉を舐めていると馬車はコハギアの町中央へ、貴族たちの住む貴族地区へと硬い石作りの道を進み入った。


貴族地区までやってくると皇帝の住む城が目と鼻の先にまで近づく。城から皇帝が見下ろすためか、貴族地区の景観は僕達の住む中流階級地区やさらにその外側の労働者階級の住む地区よりも清潔で美しい。


そして何より僕が目を奪われたのは、長い棒のようなものに跨って空中を滑るように進む貴族たちの姿だった。


馬車の中から彼らが跨っている棒は一体何かと聞くと、『魔法の箒』だと御者のおじさんは教えてくれた。


貴族たちはお呪いの力を使って移動には箒で空を飛ぶらしい。なぜ僕達の地域では箒を見ることが出来なかったのかと聞くと「そりゃそうでしょう。貴族はそんなに一人で遠出するなんてありえませんから」と笑う。


「でも危なくないの? 」


「強盗も空を飛んでる貴族を狙うことはありません。貴族への強盗行為は間違いなく無期懲役か死刑に当たりますから」


そんな話をしているとすぐに馬車は目的地である≪クラブ41≫へと到着した。


ココは前世で言うところの公民館に近い場所だ。劇や町のコミュニティセンターとしての役割を果たす一方で、何もない時は貸し切って今回のようなお茶会を開いて貴族同士で情報共有をする場にもなる。大きな違いは個人運営かそうでないかというところだ。


そしてそんなクラブ41の扉の前で、御者はベルを鳴らした。すると中から三人のスタッフがやってきて、客をおもてなしするための笑顔で会釈した。


「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、主催が中でお待ちしております」


三人とも系統の違う美人揃いだ。


そんな人たちに囲まれるとどうにもソワソワしてしまって僕は安心できる御者のおじさんを探したけど、おじさんは僕を荷物のようにクラブのスタッフに渡すと何処かへと走り去ってしまっていた。

そしてそれはおじさんのくれたハッカ飴が丁度なくなった頃のことだった。






クラブに通されしばらく経った後、上質な黒のスーツに魔物の毛皮を首からかけた仮面の男が女性と共に扉から入ってきた。


髪はブロンド、中肉中背。肌は少し焼けているのか小麦色。貴金属が好きなのか指輪にはメリケンサックの代わりに付けているのかと思われるほど、全ての指に指輪が嵌められている。温和な顔立ちでパッチリとしたたれ目はどんな格好をしていても人に好かれる雰囲気を漂わせていた。


付き添いの女はその男とは対照的に、長い黒髪が特徴という以外にはパッとしない服装も地味な女で、ただその男が肩に持たれるだけに存在しているようにも見えた。


「初めまして」


「はぁーい、初めまして。君が例のカスカ激押しの子ね。確か奇妙な力を持ってるって言うドン・ノビシロ…さん? 」


若干合っているかどうか微妙というような雰囲気でコチラに投げかけてくる男に、僕は「貴方がサルートですか」と聞くタイミングを逃す。


「あまりその呼び方は好きじゃないんです。ノビシロと呼んでください」


「ええやん、ドン・ノビシロ。まーでも、嫌なんやったらしゃあないな。ノビシロはさあ、例えばコイツとかにも力使えたりすんの」


そういって男は肩を組んでいる女を指さした。カスカは当然僕の【のびしろ】についても報告していたようで、口ぶりからして事実確認も取れているようだった。


「それもいいんですけど自己紹介とかってもう終わりですか」


「終わりでええやん。俺あんまり自己紹介とか好きなタイプじゃないのよ。ノビシロはそういう形式的なのがお好きなん? 」


「いえ、ですけどせめて名前の確認ぐらいは…と。サルートさんで間違いないですか」


「いんや? 違うけど」


「アンタはじゃあ一体誰なんだ(すいません。お名前を聞いても? )」


しまった思考と口で言うべきことが逆になってしまった。


「俺の正体聞いてどうすんねん。本物のサルート探すんか」


「ソレは…そうでしょう。招待されたのはサルートさんのお茶会ですから」


「やって、サルート。ええ加減喋ったら? 」


男はそういって肩を外すと、女の方が喋り始めた。


「ようこそいらっしゃいました。私がサルートです。彼は兄のオラシオン」


そう言って照れ臭そうに顔を隠しながらお辞儀をした。


「俺の自己紹介はいらんねん。せっかくもうちょい謎の男ムーブしてたかったのに。察しの悪いやっちゃなぁ」


オラシオンはサルートの頭の上に顎を乗せると、そのまま空いた片手で入ってきた扉を開けた。


「ほなする予定もなかった自己紹介もすんだし移動しよか。あ、それと敬って貰わんでもええから。カスカの友達は俺達にとっても友達やと思ってるし」


「それじゃあ…お言葉に甘える」


「兄さん…顎痛いです」


「サルートはしばらく顎の下で大人しゅうしときなさい」


それから三人でお茶会会場だというクラブハウスの中にある、ガラス張りの庭へと移動すると、中は見たことも無い植物が多数見られるように作られた、小さな植物園のようになっていた。


その中を歩いて行くとミニ植物園の中に大きい丸いテーブルが一つと席が三つ用意されており、今回のために特別に用意された空間がそこにはあった。


「帝都の周り砂漠やん? お茶する時ぐらい緑みたいよな。まぁ俺は植物の名前とか知らんけど。…サルートがこういうの好きやねん。なぁ? 」


サルートはオラシオンの言葉に頷くだけで、あまり言葉を話そうとはしない。顔も赤いし、どうやら緊張しているのは僕だけではないようだとその時分かった。


「コイツ滅多にお茶会とか出席せんから、俺もついてきたけどやっぱり正解やったな。男前が目の前におるせいでユデダコみたいになってもうとる。これでカスカも後からくるんやろ。会話続かんくなって地獄なってたんちゃう? よかったなぁー俺おって。今もだって俺しか喋ってないもんな。―――ノビシロとかは普段何してんの」


このお茶会の司会進行役は任せろという感じで、オラシオンは僕に話を振ってくれた。気さくな兄さんだ。おかげでかなりコチラも話しやすい。


これでこの国の騎士団長って言うんだから凄い人だ。


「人を紹介する仕事をちょっとね。不思議な力を使うのは趣味みたいなものかな」


「どえらい趣味持ってんなお前…カスカの友達言うから変人なのは覚悟しとったけど、普通に変人やんけ。えっ? ほんまに趣味で下町のヒーローしてるん? 」


五十年後に現れる勇者のための修行が趣味かと言われたら、使命だと誇りをもって答えたい気分ではあるけれど、ここは趣味というしかない。


「趣味だね」


「変やな~」


「変? 」


「当たり前やん。だってなんの得があんのお前に。なんもないでしょ? 下町なんか人間族の言葉喋れん獣人族(ナザリス)もおるし。怖くないの? 」


貴族からの認識がここで初めて分かった。下町に貴族の姿がないのは言葉の通じない相手がウロチョロしているのが怖いからなのだ。確かによくよく考えたら恐ろしい。言葉の通じない相手が日常的に金品目的で襲い掛かって来るかも知れないのだから。


あまりにも馴染み過ぎたせいでつい忘れていた。


「怖くないよ。言葉は通じないかも知れないけど、相手が何をして欲しいかは何となく分かるし」


「ほな俺が今なにして欲しいか当ててみてや」


「早く僕の力を見てみたいんじゃないの? 」


「正解や!? え、こわっ!? 」


わざとらしくオラシオンは驚いて見せた。


「いや、オラシオンはわかりやすい方だと思うけどね」


「じゃあコイツが何考えてるか分かるか? 」


オラシオンはサルートの頭を撫でる。サルートは突然話を振られたせいで、口にあったお菓子を飲み込むのに必死になっていた。彼女は彼女でこのお茶会を兄に任せて一人むしゃむしゃとお菓子ばかり食っている。


「このフワフワのお菓子美味しい。じゃない? それスコーンって言うんだ。ジャムとクロテッドクリームも一緒に付けたらもっと美味しく食べられるよ」


そう言うと、サルートはジャムをつけてまたスコーンにかぶりついた。しかしどれだけ夢中になっていても貴族令嬢、スコーンにかぶりついているのに美しさがある。


「答えはちょっとこの子がコレ食べ終わるまで待てる? たぶんおうてるけど」


「待つよ。オラシオンも食べてみて」


そう言うとオラシオンは首を振った。


「いやゴメン、俺甘いの無理やねん」


サルートとオラシオンの兄妹とのお茶会は続く。

遅れてきたカスカも到着しお茶会は本題へと移り始める。


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