のびしろ21 茶会の準備1
茶会の用意を始めるようだ。
貴族のマナーについてリーンダート神父が教えてくれるということで、僕はその対価にいくら出すべきか聞いた。
しかしセラルミナ教会はバイトが禁止らしく、お金を正面から受け取って貰うことは出来なかった。
「子供達用に食べ物とか食器の現物支給だと大丈夫ですか」
そう言うと神父は笑顔で頷いた。
そうして、僕は貴族のレッスンを受けるごとにリーンダート神父は陶器の食器を服に隠して持って帰った。
隠して持って帰るのはリーンダート神父の教会が、食器を持って歩いていたら殴られて盗まれるような場所にあるからだ。
そしてレッスンは三日に一度、仕事終わりにリーンダート神父がやってきて行われた。
厳しいレッスンになるかと思われたけど、相手の気持ちになって立ち回るというのが基本なのはどちらの世界も変わらなかった。
「どこかでマナーについて勉強を? 」
「あー……こんな感じかなと」
「おぉ、これならすぐに覚えられそうだ! それじゃあ次は各食器の名称とその用途について解説していこう♪」
リーンダート神父は嬉しそうに親指を立てた。僕はどうやら誤ってフィンガーボールの水を飲んで相手に気を使わせるようなこともなさそうである。
そしてマナーのレッスンはどんどん進んでいき、最後のレッスンとその前のレッスンの二回分は分厚い本を渡され、それを読むだけとなった。
「コレは歴史書に神学、ソレにお呪いの本…ですか? 」
「齧る程度で大丈夫! でも彼らはその本とかに乗っていることを話題に出すから。話題に参加するためのネタだと思って読んでおいてくれ」
リーンダート神父は貴族たちが僕に知識マウントを取って来ると教えてくれた。勉強が出来る環境に身を置けていることをアピールするためらしいけど、貴族が揃ってお呪いの話をしている光景を想像すると少し微笑ましく思えた。
「分厚いですねぇ…」
リーンダート神父から譲り受けた本は六法全書なみの分厚さがあり、容易に人を殴殺する武器になりえた。
子供の内からこれだけの内容を勉強させられる貴族というのは大変だと普通の感想を頭に思い浮かべるとともに、司祭似の豚、いや豚似の司祭についても思い出していた。
アレも確か貴族だ。貴族は勉強ばかりしているというならなぜ彼はあんなに阿呆なんだろう。
僕はリーンダート神父の話を聞きながら全然別のことを考えて笑みを浮かべた。
「もちろん、貴族の学園10年分の授業がその三冊を使って行われるからね。ソレは私のお下がりだけど、内容はほとんど一緒だとおもう…大丈夫かい、笑っているけど」
「え? …あぁ、すいません。思い出し笑いを」
「いいね。どんな話か聞いてもいいかい」
「前にきた司祭も貴族だったなって」
考えていたことの断片をリーンダート神父にそう伝えると、しばらく彼は珍しく悩ましいという風に考え込んだ。
「どうされました? リーンダート神父」
「いや、セラヌス神の御意志を酌めていないのではと司祭様を見るたびに常々思っているんだよ。司祭様も好きであのように振る舞っておられるのではないと思うんだ。あの姿形なのも、あのような振る舞いも神の御意志なのだとしたら……君はどう思う」
そう言われて真っ先に思い浮かんだのは、阿保を生んだのが神だというならセラヌスもまた阿保なのだという意見だ。
だけどそれを神父の前で言うには勇気がなかった。僕の優しさのステータスがもっと低ければこんな時でも心置きなく言えたのだろうけど。
「セラヌスは他の人に試練を与える存在として生み出されたとか」
セラヌスは阿保という言葉を飲み込んで出た言葉の代わりとしては優秀な返答が出来た気がした。
しかし神父はその回答には納得しかねるようだった。司祭の存在は知らずして他の神父の悩みの種になっているようだった。
「思い出し笑いから随分深いテーマについて話をしてませんか僕達」
「そうだ、学んでおくべき知識の話だった。そうそう、そう言えば君は剣を学んだことはあるかい」
「いいえ、全く」
「なら嗜む程度でいい、少し外に出て練習をしよう」
殴り合いなら毎日やっているんだけど、と言ったら神父はどんな顔をするんだろう。きっと止めてくれるだろうし、なぜそんなことをするのかと相談にも乗ってくれるに違いない。リーンダート神父はそういう方だ。
「なぜ剣を? 」
「外に棲んでいるという魔物と戦うのは貴族の務めだからね。貴族はよく剣と宝根の練度を上げるために貴族同士で特訓するのさ」
魔物…あぁ、シジュウがよく倒しているとかっていうこの世界の狂暴化した動物の総称か。
思い出すまでに時間が経つぐらい無縁の存在だ。ブラックマーケットで皮や爪などの素材となって出回っていることは合っても生きた魔物はまだ見たことがないような気がした。そしてふと、疑問に思ったことを口にした。
「魔物を剣で倒すんですか」
鹿やイノシシを対峙するのだって銃や罠を使うのにこの人達はどんな考えがあって剣を握っているんだろう。宝根との相性の問題なのだろうか。
「ほとんど宝根の力で倒すと聞いているけど、魔物討伐に使われる宝根の力は強大なモノばかりでね。近接で使うとなるとコチラも怪我をすることが多い。だから近づいてきた魔物を斬り払うために剣が使われるんだ」
やはり宝根と関係しているらしい。そこまで宝根とは強力な力を持つのだろうか。
「振り払うなら剣でなくても、鈍器のようなモノでもよいのでは? 」
「そこは…あまり声を大にしていうことではないのだけれど、見た目の部分が大きい。昔は片手斧やトゲ付きメイスを振るった貴族も多かったと聞く。だけど、そういう貴族に誰も憧れなかったんだ。それで他に有効的な武器が見つかっても、剣ばかりが増えて言った………と私は考えている。あくまで私の仮説だけどね」
なんとも馬鹿らしい理由だった。でも、その馬鹿が許されるぐらいまだ魔物の脅威は低いということだろう。勇者が現れるのは五十年後のことだ。
それまでに魔王は頭角を現し、この帝国は勇者に頼らなければならない状況に陥る運命にある。
このどうにもならない現状に少し歯がゆい思いをさせられつつ、僕はそれでも少しでも希望を持ちたかったため、この国の国技ともいえる剣技の修練度合いについて聞いた。
「剣の訓練は貴族の間で頻繁にされているんですか? 」
「えあぁそうさ。お茶会でも剣の稽古はよく起きることでね。どんな紹介のされ方をしたのか知らないけれど、招待状を貰ったということなら正式なお誘いだろう。もしかすると狩りや剣の稽古に誘われることもあるかも知れない。そうなった時に全く出来ないより付き合い適度にできた方がイイだろう? 」
リーンダート神父の話方はまるで、上司との接待に付き合わされる部下のような口ぶりだった。
となると剣術はゴルフと似たようなモノだろうか。出来なくても良いけど出世したいなら心得ておくべきことなのだろう。なるほどソレは学んでおきたい。
ちなみに僕のゴルフの成績はよくてパーで、平均はダブルボギーだけどそんな僕にも出来るだろうか。
剣術も嗜んでおこうとリーンダート神父に言われたノビシロは、剣を受け取るために教会へと向かう。そこでノビシロは少女たちに絡まれることになる…。




