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ノビシロファミリーと禁酒法の町  作者: 鳳凰取 真
19/27

のびしろ19 カスカの手紙が来るまでの三か月間に起きたこと。

ノビシロが異世界にやってきて四カ月の時が経った…。

カスカの提示した期日になるまでに僕の周りでは多くのことが起きた。


一つ目は悲しい出来事だ。シジュウが短い間ではあったものの、馬車泥棒で捕まってしまったのだ。彼曰く友人に誘われてやったらしいけど、彼が口を割らなかったせいでシジュウ一人が罪を被ることになった。


本来三か月牢屋にぶち込まれるところ、保釈金を払うことで彼は五日間の拘留で済んだけど、家に帰って来るころには衛兵にしこたま絞られたようで、数日だったろうに顔がゲッソリとしていた。


「お帰りシジュウ」


「相棒…わりぃ」


署の前で待っているとシジュウが門から出てきたので、連れて帰った。その帰り道でシジュウの顔が露骨に暗かったので声を掛けた。


「元気だせ―――闇雑炊食いに行く? 」


「いや…焼肉食いてぇ。肉屋寄って帰ろうぜ」


檻の中では肉を食べられなかったらしく、シジュウはまず肉だと言った。


「何で仲間のこと言わなかった? 」


「言わねえだろ普通…仲間だぞ? 」


「でも、仲間なら同じ罰を受けてくれるんじゃないか。僕なら一緒に牢屋に入るぞ」


「んな必要ねぇよ…」


「次は仲間を守るんじゃなくて、止められるようにしろよ」


「うるせぇよ! ほっといてくれ! 」


シジュウはそう言って僕を突き飛ばした。しかし僕も彼と毎朝訓練という名の殴り合いをしたから、よろめきながらも踏ん張って耐えて見せた。


「言うに決まってるだろ。同じ種族の仲間だからって保釈金も払ってくれないような奴らだぞ。本当にそんな奴らが仲間かよ」


「俺が分け前多く貰う手はずなんだよ。余計なことしやがって…」


「なんだと? 」


その後僕とシジュウは楽しい焼肉パーティをした、わけもなく当然街中で殴り合いに発展した。武力で言えばシジュウの方が上だったけど、彼は泥棒仲間を庇ってしまうような甘い性格だから当然僕にも手加減をしてくれた。


僕はそれも十分承知で彼をコテンパンにぶちのめした。


殴打中、僕は殴っている拳が痛くて泣いたし、シジュウは殴られて泣いていた。


人を説得するというのは難しい。説得が必要な人間ほど正論だけではどうにもならない相手がほとんどなのだから。





そして二つ目の大きな変化は良い変化…としておこう。


僕の周りに人が多くうろつくようになった。金持ちも貧乏人も、役人も犯罪者だって僕の前にやって来る。それは僕が始めた新しい仕事が原因だった。


僕は炊き出しで得た人脈を使って労働者同士を引き合わせる仲介者としての顔を持つようになっていたのだ。


始めはお金を取ることはなかったけど、これまたフォーリンの提案でお金を取ることにした結果、僕とフォーリンの懐には湯水のような金銭が流れこんできて、それを僕はさらに炊き出しに使って下町の人間に殆どを還元したため、倍々ゲームのように僕の周囲には人が溢れていった。


「ぜーんぶ私のおかげ! 」


こと金策においてはフォーリンの右に出るものはいないと思いつつ、彼女はその反動か服や美容に殆どのお金をつぎ込んでいるようだった。


彼女曰く、ヤギの乳で満たされた風呂に薔薇を浮かべて入らなければ、ソレは畜生の風呂らしく、僕が普段入っているのは畜生の風呂らしかった。


たまに彼女はそんな過激なことを言うけど、僕はそんな彼女が好きだった。


「ノビシロは仕事ばっかりしないでもっと贅沢を覚えるべきね」


「贅沢はしてるよ。見えないところでね」


そうフォーリンにカッコつけて言ったけど、僕は実際にお金を手に入れてより積極的に自分のステータスを上げるためにお金をつぎ込むようになっていた。


炊き出しでは人を雇うようになったし、セラルミナ教会への献金も額の桁が二つ以上増えていた。


そんな金銭的に余裕の出来た僕達の家には毎日五人から十人の人が、人を紹介してほしいとお願いにやってきていた。


そしてその対応をはじめは家のリビングでしていたけれど、なんだか人が帰った後も仕事が終わっていないような気がして、僕は向かいの家もさらに購入して、そこにオフィスを構えるようになった。


新しい仕事場となった家は元々空き家で、例の酒飲みの不動産屋に頼んで安く売って貰ったのだ。


以前は虫けら扱いでカリスマも低かったけど、今はそのカリスマも50を超えて平均の20を大きく上回る値を叩きだしているため、交渉事もコチラが有利に進めることが出来たのが幸いだった。


そして最後に3つ目、僕の中で一番大きな変化が、人間族の文字をほとんど読めるようになったことだ。おかげで毎日僕は新聞から情報を心地よく摂取することが出来た。コレが以前の生活を思い出させて、僕の習慣の一つになった。


この世界にはタブレットもスマホもないため、情報発信をしている媒体が限られている。その限られた媒体の一つが新聞だ。


彼らは主観で様々な地域で起きた問題を取り上げて新聞に載せていた。情報の信憑性の度合いで言えば匿名掲示板レベルで殆どあてにはできない。けど、見ている分には面白い娯楽になった。


そしてその日はちょうど、朝食を取りながらコハギア・ジャーナルを読んでいた時のことだった。


「あら、これノビシロのことじゃないの? 」


向かいに座っていたフォーリンが僕の見ている新聞の裏面を指していった。大きな罪も犯していないのになんで僕が見出しに載るんだ、そんなワケあるか、と思って見てみると、確かに僕の名前がデカデカと裏面に乗っていた。


「『下町に舞い降りた市民のヒーローその名はドン・ノビシロ』…………〇ァック」


失礼汚い言葉が漏れてしまいました。


個人情報保護法について司法とは話し合いをする必要があると思いながら、新聞の中身をより深く見ていると、悪くは書かれていないことが分かった。


というよりむしろとても好印象に書かれている。まるで印象操作をしたい第三者が無理やり介入しているみたいだ。


新聞の内容にはセラルミナ教会の監査が入ると聞く。もしもこれがカスカのしたことなら即刻辞めさせたいけど、彼からは定期連絡は来るものの具体的に何をしているかの情報は入ってきていなかった。


「カスカ君は一体何をしているんだ…」


「教会であったって言う例の人? 」


「うん。なんだか教会と貴族の間で何かしているようなんだけど、コソコソやっているようでね、僕の耳に情報が入ってこないんだ」


「コッチから連絡してあげた方がいいんじゃない? 」


「いや…待つさ。それが約束だ。それに僕の目的は自己研鑽ただ一つだし」


「そうは言ってももう殆ど伸びなくなったんじゃない? 」


フォーリンはそう言ってステータスの魔法を使った。


【野比 白】

≪武力≫:30 +9アップ

≪見識≫:40 +15アップ

≪優しさ≫:50 +20アップ

≪ビジョン≫:40 +20アップ

≪カリスマ≫:60 +20アップ


「今のステータスなら誰もがアナタに一目を置くでしょうね。もう十分に勇者様を導く素養があるように思えるわ。…まさかこんなに早くステータスを上げるなんて思ってもいなかったから……私も正直驚いてる」


「伝記とか何かしらの記録で前例はないの? 」


「ないわよ。というか毎日規則正しく全てのステータスを上げてそのまま眠るなんて考えてなかったもの。人外よ、人外。普通人って言うのは休みながら少しずつ力を育んでいくものなの。それをアンタ、無理やり効率のいい方法で詰め込んで上げたでしょ? 勤勉というか、何というか。この世界をもっと楽しんでみたら? 」


確かに僕は能力を早く伸ばすために神が定めた最も効率のいいステータスの上げ方で、毎日生活をした。でもだからと言ってそれが苦痛かと言われればそんなことはなかった。


「フォーリンは僕とこの家で暮らすのは退屈? 」


「私のことは別にいいのよ。しいて言うなら、最近アンタの思惑通りに動いているような気がして嫌なだけ」


「思惑? 」


「なにかは分からないけれど、アンタが何か私に呪いでもかけているような気がして…」


フォーリンはそう言ってため息をつく。


僕はそんな彼女をみて笑みを浮かべた。呪いではないけれど確かにこの三か月間、お金が多く入るようになってから僕はフォーリンを使ってとある楽しいことをしていた。


ソレは彼女の価値観を塗りつぶすという楽しみだ。


彼女が気づかないように、徐々に彼女の周りにあるものの値段を上げていって、金銭感覚が壊れる様を楽しみにしていた。


おかげで彼女は前では考えられない、お風呂はヤギの乳で入れられたものに入るようになったし、食べるものも高級な果物ばかりになった。


だけど残念ながらこの話を聞くに結局彼女は自分でおかしいことに気づいてしまったらしい。


「大丈夫だよ。もうしないから」


「なに? あんた私でいやらしい呪いでもかけてたわけ? 」


フォーリンの少し低い声に、僕は笑って否定した。


性欲はまだ体の年齢的に湧いてこないし、食欲睡眠欲ともに完璧だ。元々僕はかなり性欲も強い方だったからその時期になったら大変かも知れないけど、今はフォーリンと話をすることでその少しの性欲も十分に満たされていた。


というかコレは性欲というより、『女の子とイチャコラしたい欲』と名付けた方が良い気がした。それも巧くコントロール出来ているし、問題があるとすれば少し忙しいぐらいだった。


そんなコハギアの春真っ盛りという季節に、カスカの手紙は届いた。





異世界にやってきて四カ月余りでステータスに十分な磨きをかけたのびしろ。

そんな彼の前にカスカの手紙が届いた。


どうやら、お茶会への招待状のようだ。

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